第二十六頁「真夏の海が呼んでいる!?」
―――目が開くと、知らない天井が広がっていた。
真っ白い……多分、病院みたいな場所。
起き上がろうとしても、体が動いてくれない。
指先一本すらコントロールできないとか、どうなってるのやら。
……もしかして、いつぞや見た変な夢の類か?
でも、夢にしては意識がはっきりしすぎている。
―――周りの様子が妙にリアルで気持ち悪い。
それでいて、やたらと視界はぼんやりしてて、詳しい状況は分からない。
とりあえず、体は横になっているみたいだけど。
そもそも、この状況は夢なのか?
実は、急に倒れて病院に運ばれたとか……?
―――いや、ありえないか。
昨日は確かにちゃんとベッドに入って寝たはずだ。
病院のベッドみたいな場所で起きるわけがない。
多分、夢でいいはずだ。
この現実感と非現実感の同居が、なんとも気持ちが悪い。
頭がおかしくなりそうだ。
「―――……」
何か聞こえる……?
これは……誰かが泣いてる?
「―――……………」
多分、女の子だ。
すすり泣くみたいな声がかすかに聞こえる。
ただ、何やら膜に包まれたみたいに、何を言っているかまでは分からない。。
視覚だけじゃなく、聴覚まで制限がかかっているらしい。
―――どうせ夢で制限をかけるなら、思考に制限をかけてほしかった。
そしたら、こんな気持ち悪い思いもしなくてすむだろうに。
もし、誰かが意図的にこの夢を見させているのだったら……その人物をちょっと恨む。
『―――ら。―――のよ―――たは』
……どこかで聞いたことがあるような声だな。
相変わらずフィルタがかかったみたいに、はっきりとは聞きとれないから、何とも言えないけど。
顔を見ようにも、体は動いてくれそうにない。
実にストレスが溜まる夢だ。
まあ、夢ってそんなもんだろうけど。
―――そう結論づけてあきらめモードに入った時だ。
今度は、視界のモヤが広がるみたいに、さらにひどくなってきた。
女の子の声も、だんだんと聞こえなくなってくる。
やがて、目の前は真っ白になって、何も聞こえなくなった。
直感的に、これで夢が終わりなのだと分かった。
前触れもなく始まったかと思えば、今度は突然終わってみたりとか。
……何とも自分勝手な夢だ。
夢ってそんなもんだと言えば、それまでだけど。
とにかく、こんな夢はもうノーサンキューだ―――。
………
………………
『おはよう、章くん。
朝だよ、起きて〜! はっ、早くしないと、また遅刻しちゃうよ〜』
―――カチッ
……つばさちゃん、緊張してたんだろうなぁ。
あの娘らしいって言えばそうなんだけど。
声を聞くだけで、硬くなってるのが伝わってくる。
時刻は現在8時ちょうど。
つばさちゃんには悪いが、起きたところで、学校があれば既に遅刻の時間だ。
……が、こうして悠々と起きられるのは、今日が夏休みだからである。
そうは言っても、あやのとの約束で、あいつが部活に行く前に起きなきゃダメなんだけど。
まあ、この時間はほぼギリギリなわけだが。
天井その他、部屋の様子はいつも通り……やっぱり、さっきのは夢だったか。
つばさちゃんの目覚ましで起きて、爽やかな朝としては申し分ないはずだが……今日は何とも言えないな。
これは目覚まし以前の問題だが。
―――今日の夢……一体、何なんだ?
悪夢とまでは言わないが、ひたすら気持ち悪い。
しかも、情景とかは結構詳細だったはずなのに、思い出そうにもイマイチ思い出せない。
さらにタチが悪いことには、忘れようとしてもどうしても頭に引っかかってくる。
……これでつばさちゃんの目覚ましじゃなかったら、一体どうなっていたやら。
とりあえずは“気にしない”ことにして、さっさと朝食をすませるとするか。
精神衛生上、今はそれが一番よさそうだ。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おはよ、あやの」
「どうしたの? あんまり元気ないみたいけど……もしかして、寝不足?」
「……まあ、そんなところかな」
いっそ、そっちの方が平和でいいんだが。
あやのはどうも納得していないような表情だが、
真相を話したところで、似たような顔しかしてくれないだろう。
「ダメだよ、夏休みだからって不規則な生活してちゃ。
そんなんじゃ、2学期になってから大変なんだから」
「へいへい……せいぜい、肝に銘じておくよ」
「も〜、ホントに知らないんだからね」
そんなに怒らんでも。
「それよりあやの、そのカッコでいいのか?」
「えっ、なんで?」
「いや、今日も部活だろ?」
いつもなら、部活があるので制服に着替えているはずだ。
だが、今のあやのは半袖のTシャツに短パンと、バリバリの部屋着である。
「ああ、そういうことか。
それなら、今日は休みだよ」
「ふ〜ん……珍しいこともあるもんだな」
練習がキツイことで有名な志木高女子ソフト部が、夏休みに部活がないとは。
明先輩か華先生の考えだろうか?
「明日から合宿だからね〜。
その関係とか色々あって、今日は部活なしなんだ。
もう準備は終わったから、私は1日フリーだよ♪」
……そういうことか。
今日は休みとは言え、合宿は合宿でキツイんだろうから、やっぱりソフト部は大変だな。
「お兄ちゃんはもう準備できたの? 明日の朝じゃ、間に合わないんだからね」
「準備……って、何の?」
「何のって……やだなぁ、お兄ちゃんってば」
「そう言われても、全然分かんないんだけど」
はて、知らないうちに旅行の計画でも立っていたのだろうか?
「たった今、話してたじゃない。合宿だよ、がっ・しゅ・く」
「いや、だってソフト部の合宿だろ? 僕には関係ないし」
いくら僕とソフト部の関係が深いとは言え、合宿とは関係ないはずだ。
「……お兄ちゃん、実はとぼけてる?」
「身に覚えがないんだから、とぼけようがないだろ?
大体、何で僕とソフト部の合宿が関係あるんだよ」
「だってお兄ちゃん、この合宿にマネージャーとしてついて来るんでしょ?」
「……はっ?」
ちょっと待てあやの、今、しれっとメガトン級のセリフを言わなかったか?
「わっ、ワンモアプリーズ」
「何でそこで英語になるかな……。しかもインチキくさいし。
だから、お兄ちゃんもソフト部の合宿に、マネージャーとして参加するんだって」
「えっと……初耳なんだけど?」
「本当に? でも、明先輩が前から言ってたもん、間違いないよ。
それに、しおりにも書いてあったし」
そう言ってあやのは、テーブルの上においてあった冊子を手に取った。
表紙には『合宿のしおり』とある。
読んで字のごとく、合宿のことについて書いてあるものなんだろう。
あやのはそれをパラパラっとめくると、あるページを開いてこちらに示してきた。
「ほら、ここに」
「……マジで?」
あやのが開いたのは、合宿参加者の名簿らしきページだった。
そこには各学年ごとに、部員の名前が書かれている。
他には、引率者である華先生と崎山先生の名前もあった。
―――そして、問題の“マネージャー”の欄には、確かに“桜井章”と、僕の名前が記してある。
と、言うよりは僕の名前しか載っていない。
前々から思っていたのだが、結構な名門部活なのに、
正式なマネージャーがいないのは、たまたまなのか、はたまたそういうものなのか……。
どっちにせよ、僕にお鉢が回ってくるのは勘弁してほしい。
「もしかして、本当に何も聞いてないの?」
「さっきからそう言ってるだろ。
ただ、こんなのがあるって事は、ホントに頭数にいれられてるみたいだ……」
「でしょ?
それにしても……おかしいなあ、連絡ミスかな?」
あやのは頭をひねっているが、こっちとしてはそれどころの問題ではない。
予告なしで夏休みを削り取られてたまるものか。
……予告があれば良いという問題でもないが。
とにかく、明先輩に事実確認をしよう。
Seasonにでも行けば捕まえられるだろう。
貴重な夏休み、何としても死守してみせる―――!
………
………………
そういう訳で、くそ暑い中やってきました、明先輩のバイト先ことSeason。
さあ、いざ入店! 我が夏休みを守らんがために!
―――チリンチリン
おなじみ、入り口のベルは夏だからか風鈴になっていた。
伊達で“季節”を店名に謳っている訳ではないらしい。
店内をぐるっと見回してみるが……明先輩の姿はない。
まだ来ていないのか、あるいは奥に控えているのか。
「いらっしゃいませ」
そう言ったのはマスターだった。
どうやら、今、表に出ているのはマスターだけらしい。
「あのっ! 明先輩……じゃなかった、福谷明さんは?」
カウンターから身を乗り出し、半分問い詰めるみたいな格好でマスターに迫る。
穏やかではないが、何となく気が焦っていた。
「明ちゃんなら、今日は休みだよ。
部活の合宿が明日から始まるんで、その準備で忙しいみたいでね」
なんてこったい!
……無駄足だったか。
しょうがない、どうにか家を調べて、直接乗り込むしか―――
「ところで君は……そうそう。確か、志木高の新聞部で、取材に来てたよね?」
「えっ? ああ、はい」
結構前のことだと思うが……よく覚えてたな、この人。
「そうかそうか……。じゃあ、君が桜井くんだね?」
「はぁ……まあ、そうですけど。
どうして僕のことを知ってるんですか?」
ここには確かによく来るが、顔を覚えられるほどではない。
まして、一度も話したことがないマスターが、普通に考えて僕の名前を知ってるはずがない。
もし、知っているとしたら、理由は一つしか思いつかない。
「ああ、明ちゃんに聞いてね。
変わってておもしろい後輩がいるんだって、いつも言ってるよ。
―――なるほど、確かに、汗だくの上、血相を変えてカウンターに飛び込んでくるお客さんなんて、君が初めてだね。
そういう意味では、変わってると言えるかもしれないね」
「あっ、いやその……すみません」
よく考えれば、かなり礼儀知らずな行動だったかもしれない。
……夏休みのためとは言え、やっぱり冷静にいかないと。
「いやいや、気にすることはない。君ぐらいの歳なら、それぐらい元気なのがちょうどいいよ」
「はあ……」
―――この人、話しづらいわけではないが、つかみどころの無さは光以上だな。
「フム、一度話をしてみたいと思っていたが……なるほど。
明ちゃんが見込んだだけのことはあるよ」
マスターは僕をじっくり見た後、何か納得したかのように言った。
明先輩がどんな話をしたのかは定かではないが、
マスターの反応からいって、悪い評判ではないらしい。
色々と聞きたいことはあるが、とりあえずこの場ではいいだろう。
それよりも、今は―――
「さて、それはともかくとして、だ。
そんなに慌てて、明ちゃんに何か用だったのかい?」
「ああ、はい。実は―――」
こちらから切り出すまでもなかったようだ。
このマスター。空気を読むというか、会話の流れを作り出すのがやたらに上手いな。
ともかく、知らない内にマネージャーにさせられてしまっていた話をした。
「―――なるほど、それは中々災難だったね。
それじゃあ、ちょっと待っていてくれよ」
メモとペンを取りだし、マスターはその場で何か図のようなものを書き出した。
「ここから明ちゃんの家までの地図だよ。
そんなに離れていないし、迷うことはないと思うが……。
まあ、気をつけなさい」
「わざわざありがとうございます。それじゃあ」
「あっ、ちょっと待って」
いざ行かん、とドアに手がかかった所で呼び止められた。
「今度は、友達とゆっくり来てくれよ。
君たちはにぎやかで、見ていて楽しいからね。
今の季節、冷房がきいた店内でのアイスコーヒーは格別だよ」
「機会があったら! じゃあ、また!」
マスターの言っていた友達が、一緒に取材に行った二人なのか、
あるいは、いつもの五人組をさしているかは定かではないが―――。
とりあえず、近いうちにもう一回来よう。
なんだか、そんな気分だ。
店を出て、今度は一路、明先輩の家を目指す。
季節は夏。太陽は容赦なくむき出しの肌を照りつけてくる。
Season店内は快適だったが……外は地獄の酷暑だな。
少し動いただけで、全身から汗が吹き出てるのが分かる。
……だが、これも夏休みを守るためだ。
ここはいっちょ、もう一踏ん張りしてみますか―――!
………
………………
果たしてたどり着いた、明先輩の家の前。
そこは、住宅街に佇む、どこにでもありそうな普通の安アパートだった。
こんな所に住んでるってことは、やっぱり一人暮らしのウワサは本当だったらしい。
思えば、、明先輩との付き合いは結構長いはずだが、家に来るのは初めてだな。
と、言うかさっきまでどこに住んでるかすら知らなかったわけだし。
……こうして家の前で立っていても、汗が吹き出る以外は何の変化も無い。
多少の緊張はあるけど、とりあえず呼び鈴を鳴らしてみよう。
―――ピンポーーン
「は〜い。どちらさま……って、桜井?
これはまた珍客だねぇ。
どうしたのさ、そんなに汗かいて」
出てきた明先輩は、上はタンクトップに下はベリーショートのパンツと、かなりラフな格好だった。
……目のやり場に困るな。
―――いやいや、今はそうじゃないだろ。
「どうしたもこうしたもありませんよ。
明先輩、今日はちょっと聞きたいことがあって来たんですけど」
「聞きたいこと? ……まあいいや。
こんな所で立ち話もナンだし、上がんなよ」
先輩の手招きに、無言でうなずいた。
ここは、素直にお邪魔させてもらうとしよう。
「ここが、先輩の家……」
「そう。見たとおりの、何もないトコだけど、とりあえずゆっくりしてってよ」
何もない……確かに、この部屋にはその言葉が合ってるな。
間取りは6畳ぐらいのよくある間取りなのだが、とにかく物が少ない。
こざっぱりとかそういうレベルじゃない。
生活に必要な、最低限の物しか置いていないのだ。
明先輩らしいと言えばそうだが……女の子にしては、なかなか珍しい部屋だな。
何だか、物が少ない辺りとかが、ちょっと僕の部屋に似ていて、親近感がわいてくる。
「こんなんしか無いけど……とりあえず、ホラ」
「あっ、どうもです」
差し出されたるは、キンキンに冷えた麦茶。
暑い夏には、やっぱりこれでしょ。
「ゴクゴクゴクッ―――ぷはぁ! あ〜、生き返ったぁ……」
そういうわけで、ありがたくイッキでいただいてしまった。
「おおげさだねえ、桜井は」
「いやあ、家を出てから、何も飲んでなかったもので」
「そうかい。まあ、そうなんじゃないかとは思ってたけどね」
言いながら、先輩はグラスにおかわりを注いでくれた。
……失礼ながら、意外とよく気がつくんだな、先輩って。
「で、桜井。出不精のアンタが、この暑い中わざわざ来たんだ。
話ってのは、よっぽどのもんなのかい?」
こうやって、いざソフト部のトップを目の前にすると、何だかちょっとためらうな。
……が、これも夏休みのためだ、いくしかない。
「その事なんですけど……先輩、僕が合宿のマネージャーって話、本当なんですか?」
「ああ、そうだけど?」
あまりにもアッサリとした反応。
アッサリというか、当然だと言わんばかりの勢いである。
「何を言うかと思えば、今さらそんなこと……」
「今さらじゃないですよ!
だって、今日になって知ったんですよ、僕がマネージャーとして参加することになってるって」
「あれ? おかしいねぇ……茜かあやのに、しおりをもらわなかったかい?」
「あやのが1部だけ持ってましたけど、僕の分はなかったですよ。
茜ちゃんからも、特に何もなかったですし」
―――何やら嫌な予感がする。
「あ〜、そう言えば二人に連絡頼むの、すっかり忘れてたわ。
ゴメンゴメン」
やっぱりか!?
いや、それもそれで問題なんだが、重要なポイントはまだある。
「それ以前に、何で僕が、ソフト部の合宿についてかなきゃいけないんですか!?」
「いやあ、それはさ、あれだよ」
―――またもや嫌な予感がする。
「ほら、桜井は女子ソフト部の、非常勤マネージャーだろ?」
やっぱりそういうこと言いますか!?
「そんなのになった覚えはありませんって!」
「そうかい? まぁこの際、細かい話は置いておいて、だ」
全然細かくないが、反論したところで無駄なんだろうなあ……。
僕の立場とか、ホントにどうなってるんだろ。
「今回、人手が足りないんだよ。
せっかくの合宿だし、みんなには思い切り練習してもらいたいしさ」
「それは分かりますけど……正規のマネージャーはいないんですか?」
「いたら、お前さんにこんなに色々頼まないって」
そらそうだ。
「宿泊先は、島の西側にある、海が近くていい所だし、
ちゃんと部屋も用意してあるからさ」
……そこまで用意周到だったとは。
「頼む! 茜やあやのを助けると思って! なっ?」
「いや、そんな両手を合わせて頼まれても……」
「さくらい〜、ホントに頼むよ。
こんなこと頼めるの、アンタぐらいなんだからさ」
いつもは雰囲気で強引に手伝わせる明先輩が、こんなにも懇願しているんだ。
どうやら、今回は本当に困ってるらしい。
どうしたものやら……。
まあ、準備とかは問題ない。どうせ大した荷物はないだろうし。
今から用意すれば、余裕たっぷりだろう。
ただ、貴重な夏休みを4日間も削って参加するんだ。
日頃の蓄積もあるし、いくら明先輩の頼みでも、さすがに無償ってのはシャクだな。
「―――じゃあ先輩、僕の頼みを聞いてくれたら、行ってもいいですよ」
「頼み? ……まあ、桜井には日頃から世話になってるからね。
あんまりムチャな内容じゃなきゃ、大丈夫だけど。何さね?」
「合宿終了から1週間後ぐらいまでに、女性ギタリストを連れてきてもらえますか?
それも、かなり上手な人で」
……色々考えたが、このぐらいしか思いつかなかった。
もちろん、連れてきたギタリストには、小春ちゃん達のバンドに参加してもらうつもりである。
我ながら物欲が無いなあ、ホントに。
まあ、一人暮らしの人に金銭的な要求は酷だろうし、このぐらいが妥当だろう。
「ああ、それなら今すぐ連れてこれるよ」
「えっ?」
どういうことだろうか……近所に住んでるとか?
「なんせ、そのかなり腕の立つ女性ギタリストってのは、アンタの目の前にいるからねぇ……」
「へっ? 明先輩って、ギター弾けるんですか?」
言われてみれば、そういうイメージがなくもない。
よく見ると、部屋の隅にギターが2本もあるし。
「まあね。マスターに教えてもらったからね、アコースティックにエレキ、何でもこいだよ」
……あのマスター、一体何者なんだ?
「ベースはちょっと自信ないけど……でも、今の話からして、そうじゃないんだろ?」
「ええ、そうですけど」
「よしっ、じゃあ交渉成立だね!
よろしく、マネージャー♪」
……笑ってるし。
調子がいいと言うか、なんというか。
まあ、茜ちゃん、あやの、翔子ちゃん、それに明先輩と、四人も親しい知り合いがいて、縁が深い部活なんだ。
明先輩が言うとおり、みんなを助けると思って、ここは僕が一肌脱ごう。
「ところで、ギターで何すればいいんだい?
お前さんのことだ、まさか桜井個人のために演奏しろ、とかじゃないんだろ」
「それなんですけど……先輩は、あやのがバンドやってるのは、知ってます?」
「ああ、ちょっと聞いたことなら。
確か、一緒に部活見学に来てた娘たちと、後はお前さんの友達と、だろ?
それが?」
「実は、そこのバンドにギタリストがいなくて困ってるんですよ。
だから、バンドに入ってほしいとまでは言わないけど、
せめて学校祭までの間、ヘルプで参加してもらえないですか?」
「ギタリストはいないってのは……そりゃまた珍しい話だね。
事情は分かったよ。それぐらいなら、お安い御用さね。
でも、あたしの方は、桜井との約束だから構わないけど……先方はそれでいいのかい?」
「明先輩なら、きっと問題ないですよ」
先輩の性格なら、あのメンバーともすぐに打ち解けられるだろう。
受け入れ拒否って事態はないはずだ。
「練習とかは大丈夫なんですか?」
「まあ、そっちはあたしが何とかするよ。
言ったろ、あたしは腕が立つギタリストだって」
ギターを弾くマネをしながら、明先輩は明るく言い切った。
自信はあるみたいだし、これなら大丈夫だろう。
これで、肩の荷がまた一つおりたな。
明先輩なら、あやのに変な虫がつく心配もないし、万々歳だ。
「それじゃあ、話もまとまったところで……。
桜井、急な話になっちゃって悪いけど、改めて、明日から頼むよ」
「……分かりました。どのくらいお役に立てるか分からないですけど、頑張ります」
「うんうん、頼もしいねぇ、我らが非常勤マネージャー様は!」
何だか、結局は明先輩のペースに乗せられてしまった気がするけど―――もういいや。
一度やるとなった以上は、中途半端はしない。
こうして、いささか唐突ではあったが、
僕の夏休みに『3泊4日でいく、志木ノ島高校女子ソフトボール部マネージャーツアー』が組み込まれたのであった。
……僕だってお願いを聞いてもらったわけだし、納得はしているものの、
今年の夏休みは波乱の幕開けとしか言いようがないだろう。
こんなことは、これっきりであってほしいと、切にそう願う―――。
作者より……
ども〜作者です♪
Life第二十六頁、いかがでしたでしょうか?
ついに始まりました夏休み編&キャラクター個別エピソード!
トップバッターは明先輩、さあさあ真夏の海で、どんなドラマが章を待ち受けているやら!?(笑)
Lifeも、読者の皆様に支えられて、いよいよ第三部(っぽい感じ)!
今まで以上に頑張っていきますので、ますますの応援、よろしくお願いします_(._.)_
そして恒例の次回予告! 次回の舞台はもちろん海!
ソフト部の合宿1日目で、明先輩に焦点を当てた話となりますので、
彼女のファンの方は要チェックですよ♪
それでは次回、またお会いしましょう!
サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ




