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第二十五頁「終わりと始まりの交差点」

 『オラァ! 起きろぉ、さくらいぃーーー!!』


 ―――カチッ






 ……う〜む、かなり激しいメッセージだな、明先輩。

 男勝りのあの先輩らしいけど……ある意味では、茜ちゃんの布団引き剥がし術より強烈だ。


 それにしても、この誕生日にもらった目覚まし時計。

 ―――確かに効果ははバツグンだけど、ちょっと心臓には悪いかもしれないな。

 人の声で起こされてるってことは、遅刻確定コースってことだし、ちょっとドキッとする。


 まあ、おかげでちゃんとした時間に起きれたわけだし、みんなには感謝だな。

 ……今後のメッセージを思うと、ちょっと頭が痛いけど。


 とりあえず、とっとと支度するか。

 ……おっと、“アレ”を忘れないように、っと。




 ………




 ………………




 「オハヨ、あやの」 


 「おはようお兄ちゃん。今日はバッチリ起きられたね」


 1階に降りると、あやのが朝食を並べているところだった。

 ―――そう言えば、あやのは寝坊とかしないんだろうか?


 僕の記憶が正しければ、二人になってからの3年間、

 あやのが遅刻しそうだとか、そういう事態に陥った事はないはずだ。

 実際、あやのが先に家を出ていても、いつもテーブルに朝食は残ってたし。


 時間通りの起床率が50%前後の僕からしてみれば、これってすごいことなんだよな……。

 今さらだけど、この4年と少しの間、まともに生活できたのは、あやのがいてくれたおかげなのかも。



 「目覚まし時計、使ってくれてるみたいだね?」


 「うん。今日は明先輩のメッセージだった。

  ―――さすが、かなり強烈だったね」


 「明先輩だもんね〜、元気よさそう」


 正直、元気がいいで済ませられるレベルじゃないが。



 「せっかくなんだから、これからもちゃんと使ってよね。

  私のメッセージも入ってるんだから」


 「はいはい」


 まあ、茜ちゃんやあやのに迷惑をかけるぐらいなら、多少心臓に悪くても、目覚ましを使った方がいいだろう。


 ……それになにより、みんなからのプレゼントなんだ。

 使うってことが、どんな言葉よりも、みんなの気持ちに応えることにつながるはずだ。



 みんなと言えば、本日の目覚ましボイスを担当してくれた、その明先輩の姿がパーティーになかった。


 「なあ、あやの」


 「どうしたの?」


 「あのパーティーの日、明先輩は来れなかったのか?」


 「うん、声はかけたんだけどね。

  バイトで、どうしても外せない用事があったんだって」


 「……ふ〜ん」


 イベントが好きそうな明先輩のことだ、バイトを休んででも来そうなものだが……。


 Seasonのバイトって、そんなに忙しいんだろうか。

 あるいは、他のバイトかもしれないけど。


 一人暮らしっていうウワサもチラホラ聞くし、もしかしたら金銭的なことで、何か苦労があるのかもしれないな。

 ―――何にせよ、恨み言はいうまい。メッセージを入れてくれただけでも御の字だ。



 「もしかして、1,2年生ばっかりだったし、気まずかったのかな?」


 「う〜ん……明先輩にかぎって、それは無い気はするけどなぁ」


 なんたって“あの”明先輩だ。

 人なつっこいし、どんな人ともすぐ仲良くなるし。


 あの強引さ……もとい、あの勢いというかペースに人を巻き込むのが天才的に上手い。

 1,2年がどうのとかいうのは、問題にならないと思うんだけど……。



 「でも、本当に都合が悪かったのかもしれないし、あんまり気にしてもしょうがないんじゃない?」


 「ん……まあ、そうかな」


 真相は神と本人のみぞ知る、ってことか。



 「あっ、お兄ちゃん、そろそろ行かないと。

  せっかく早起きできたんだし。終業式までダッシュじゃ、カッコつかないよ」


 「りょーかい」


 何だか、色々と考えさせられた朝だったが、時間の流れは変わらないらしい。

 確かに、そろそろ出ないと遅刻しそうな時間だ。


 残りのトーストをコーヒーで流し込み、二人で家を出た。



 「お兄ちゃん、その食べ方は汚いって」


 「フガフガ―――気にするな」


 まあ、こういうセリフの1つもあった方が、僕たちらしいだろう。




 ………




 ………………




 「おはよう、あやのちゃん、章」


 「おはようございます」


 「おはよう、茜ちゃん」


 待ち合わせ場所には、既に茜ちゃんの姿があった。

 茜ちゃんも、ほとんど寝坊とかはなかったっけ。



 「目覚ましの効果、早速出てるみたいね」


 「ええ、そりゃもう存分に」


 「それに、その様子だと二度寝もなかったみたいだし」


 「もう17歳ですから」


 「よく言うわよ」


 苦笑まじりに茜ちゃんが言った。

 こうやって、徒歩で余裕のある登校ができるってのも嬉しい。


 限界ギリギリの自転車登校とはわけが違う。

 心なしか、茜ちゃんの苦笑も、余裕があるものに見えた。




 ………




 ………………




 それにしても―――。


 「暑い」


 「そりゃあ、もう7月も半ば過ぎだもん、寒かったらおかしいわよ」


 「……おっしゃる通りで」


 何かウィットに富んだ答えを期待していたわけではないが、

 こうも冷静に返されると、妙に寂しいものがある。



 「あ〜……こんなに暑い日は、クーラーをガンガンにきかせて、部屋でゴロゴロしてたい〜」


 「不健康だよ、お兄ちゃん。しかも経済的じゃないし」


 「アンタはいいわよ、明日から部活も何もないんだから。

  好きなだけ家にいれるじゃない。

  ソフト部なんか、休み入ったらすぐに合宿なのよ?」


 「ご苦労様〜、頑張ってね〜。

  僕はみんなの分まで、しっかり夏休みをエンジョイするからさ」


 「アンタね〜。

  ……って、アンタも生徒会の仕事があるじゃない」


 「あっ、そっか」


 「『あっ、そっか』じゃないわよ。

  8月に入ったら、本格的に学祭の準備があるんだから。

  どこの部活も入ってないんだし、サボったりしたら容赦ないわよ」


 「分かってるって」


 ―――生徒会か。ほんのちょっと前までは、縁もゆかりもなかったし、

 まして自分が副会長をやるなんて、思いもよらなかった。


 ここ最近、人間関係がやけに広がったなって感じるのは、

 執行部に入ったことが大きいのかもしれない。




 「まあでも、福谷さんが相手ならそんな心配は無いかな〜?

  福谷さんにはみょ〜に優しいもんね、あ・き・ら・くん」


 「なっ!? べっ、別につばさちゃんは関係ないし……じゃなくて!

  しょ、翔子ちゃん! 一体いつの間に!?」


 いつの間にやら、茜ちゃんと僕の間に翔子ちゃんが割って入っていた。



 「えっとね〜……生徒会の仕事が云々って辺りかな?

  それにしても、これだけ反応が大きいと、おどかしがいがあるわね〜」


 「勘弁してよ翔子ちゃん……」


 目覚ましといい今のといい、朝から寿命が縮みっぱなしだ。



 「それはともかく、章って最近、本当に福谷さんと仲良くなったわよね」


 「そう……かな? でも、1年の時から、委員長の仕事手伝ったりとかはしてたし」


 「それはそうだけど、今ほど親しげじゃなかったわよ」


 確かに、言われてみればそうだ。

 少なくとも、1年の時には名前で呼び合うようなことはなかった。



 「それにさっきも言ったけど、あなたの福谷さんに対する態度って、

  私達とはちょっと違うのよね。甘いっていうかなんて言うか」


 「……どうなんだろ。僕も意識してるわけじゃないから」


 付き合いの長さとか、あるいはつばさちゃんの性格の問題だろうか?

 茜ちゃんたちとは、全然タイプが違う娘だし。


 ……大体、当の本人の僕がいまいちピンと来ないんだから、分かるハズないか。



 「これは、幼なじみとして茜が黙ってないんじゃない?」


 「あたしは関係ないって!」


 ―――結局、翔子ちゃんはこういう流れに話を持っていきたいだけなのかも。

 もう見慣れた光景だし、今さら突っ込む気もないけど。


 ただ、この一学期は、今までよりも回数が多いかもしれない。

 いつの間にか、少しずつ僕の周りの状況が変わってるよな―――






 ………






 ………………






 「お……わったぁーー!!」


 「終業式が終わったくらいでおおげさなんだから」


 「いやいや茜ちゃん、そうは言いますけどね。

  校長のエンドレストークを乗り越え、冷や汗モノの成績表返しも無事に終わり、

  開放感で胸がいっぱいなわけですよ。補習もないことだし」


 「ハァ……お気楽なアンタがうらやましいわよ。

  だいたい、中間も期末もいろんな人にコーチしてもらってたんだから、

  赤点なんかつくわけないじゃない」


 「それもそっか」


 改めてみんなに感謝だ。

 中間はともかく、期末はみんなの作戦だったとはいえ、結果には結びついている。

 おかげで、夏休みの前半戦を棒に振らずにすんだし。



 「で、その開放感で胸がいっぱいの章は、これからどうするわけ?

  ちなみに、あたしは部活だけど」


 「っと……そうだった。

  実は、ちょっと新聞部室に用事があるんだ。

  それじゃ、また!」


 軽く茜ちゃんに手を振り、教室を後にした。

 足取りも軽く、クラブ棟の新聞部室を目指す。




 ………




 ………………




 「おじゃましま〜す」


 ノックだけして、返事も聞かずに中に入った。

 それじゃ意味がないような気もするが、そこは勝手知ったる新聞部室、問題ないだろう。



 「あっ、桜井くん、いらっしゃい」


 「やっほ〜♪」


 そう言って迎えてくれたのは優子ちゃんと未穂ちゃん。



 「やっほ、桜井くん。ゴメンね、わざわざ来てもらっちゃって」


 そして、怜奈ちゃん。

 文化部三人娘、そろいぶみである。



 「コーヒー飲む? 暑いからアイスがいいよね」


 「ありがとう、優子ちゃん。でも、今日はこれを渡しに来ただけだから。

  コーヒーは、また今度で」


 そう言うと、カバンから今朝つめた“アレ”を取り出す。



 「お待たせ、怜奈ちゃん。

  約束の、脚本集返却延滞料の利子、プラスα部分だよ」


 「ありがと、桜井くん。でも、昨日の夜まで全然連絡なかったし、

  本当に書いてきてくれるとは思わなかったよ」


 「こう見えて、約束は守る男だからね」


 とかなんとか言ってるが、実際はここ最近、色々バタバタしてたから、

 本格的に書き始めたのは結構最近なんだけど。

 ……言わぬが華だろうな、多分。



 「そっか。

  楽しみだな〜、桜井くんの台本」


 「初めてだから、上手くいってる保証はないけど……」


 「いやいや、巨匠桜井章先生の台本ですもん、期待させてもらいますよ♪」


 「巨匠って……参ったな」


 本当に初めてだから、正直言って過剰に期待されると困る。

 まあそれはともかく、とりあえずこれで一つ肩の荷が下りた。



 「ところで怜奈ちゃん、その台本、使うなら11月の公演って言ってたよね?

  学祭はどうするの?」


 「学祭用の台本はもう決まって、キャスティングも昨日決まったんだ。

  学祭は、文化部が活動を全校に見てもらえる唯一の機会だから、みんな気合が入ってるよ」


 「そっか」


 活動を全校に見てもらえる唯一の機会、か。

 確かに、定期公演とかがあっても、全校生徒が来るわけじゃないしな。

 入れ込み方が違うのも、当たり前か。



 「新聞部と漫研はどういうことするの?」


 「新聞部はSHIKIの特別拡大号。いつもの4,5倍ぐらいのやつかな。

  ちょっと人手が足りてないから、実はけっこうピンチなんだけど」


 「漫研は漫画を描くよ〜。24ページのヤツなんだけど、こっちもかなりヤバイかも。

  色々あって、まだほとんど手をつけてないから……。

  後、私しかいなくて人数も足りないから、ちょっと展示が寂しいんだよね」


 「……そっか」


 こう言うと二人に悪いが、どっちも規模が小さい部活だからな……。

 でも、学祭が終わって新入部員がいなかったら、廃部とか規模縮小なんだよな。


 ―――僕も何か手伝えればいいんだけど。

 もしそうなれば、生徒会の仕事との兼ね合いを見てってことになりそうだ。

 直接手伝えないまでも、友達として精一杯の声援は送りたい。



 「でも、確かに今はピンチだけど、学祭は絶好の宣伝機会だから、

  逆に言えばチャンスなんだよね」


 「そうそう。漫研も、上手くいけば漫画部に昇格だし!

  私たちも、怜奈に負けてられないよ」


 唯一の救いは、部長、あるいは会長である二人が前向きってことか。

 二人とも技術は高いんだし、見ていて頼もしいものがある。



 「さて……それじゃあ、僕はおいとまさせてもらおうかな」


 「もう行っちゃうの? ゆっくりしてけばいいのに」


 「ごめん、優子ちゃん。でも、今日は台本を渡しにきただけだし。

  この後、ちょっと約束もあるんだ。

  ……それにまあ、女の子三人のお茶会を邪魔するもんでもないし」


 邪魔するというか、こんな空間にいたら一体何が起こるかと、想像するだけでも恐ろしい。

 このメンバーでカラオケに行ったことなんかもあったけど、今思うと怖いもの知らずな行動だったな。



 「私たちに気をつかわなくても、桜井くんなら大歓迎なのに……。

  でも、約束があるなら仕方ないよね。

  じゃあ、バイバイ」


 「バイバイ」


 三人娘に送られ、今度は生徒玄関へと向かった。




 それにしても、優子ちゃんはともかくとして、三人娘とこんなに親しくなるとは思わなかった。

 優子ちゃんつながりっていう部分もあるけど……生徒会とかで、けっこう接点もあったしな。


 特に怜奈ちゃんに関して言えば、デートに連れて行かれたりもしたな。


 考えてみたら、未穂ちゃんや怜奈ちゃんと仲良くなったのも、1年の終わりからこの1学期にかけてか。

 ホント、ここしばらくで人間関係がひろがったよな―――。




 ………




 ………………




 「よっ、色男。用事はすんだのか?」


 「誰が色男だっての。

  新聞部室の方はもう行ってきたから」


 「うっし、じゃあ行くか」


 玄関で待ち合わせた人物―――それは光だった。



 「それにしても……急に話があるなんて、何かあった?」


 そう―――夕べ、いきなり光から電話があって、生徒玄関で待ち合わせることになったのだ。

 何でも、直接会って話したいことがあるとか。

 光にこんな風に誘われたのは、長い付き合いでも初めてだ。



 「ん、まあそれは店に着いてからな。ファーストフードでいいな?」


 「うん」


 ハンバーガーか。実は久しぶりだったりする。

 財布にも優しいから、うれしい提案ではあるけど。



 「ところで光、最近バンドの方はどう? あやのも結構がんばってるみたいだけど」


 「ああ、かなり調子いいぜ。あやのちゃんもだけど、小春ちゃんと愛美ちゃんもな。

  後はやっぱりギターだなぁ……。これがないことには、どうもにな」


 「ギターって、最初の方に決まっちゃうもんだと思ってたよ」


 「実際、俺もある程度は弾けるし、小春ちゃんもかなり上手いんだが……。

  そうするとドラムやベースが欠けるからな。

  学祭のステージに出るなら、そろそろ本気で探さないと」


 ここにも、学祭に向けて頑張ってる友達がいる。

 音楽に関してはズブの素人だから、できることは無いに等しいけど。

 せめてギタリストを紹介できたらなあ……。



 「まあ、何にせよ、章のおかげでいいバンドに入れたんだ、感謝してるよ」


 「感謝もなにも、あの場に光がいたのは偶然だったんだし」


 「とは言え、俺とあの娘たちを引き合わせてくれたのはお前だろ?」


 「それは、まあ」


 「だから、な。素直に受け取っとけって」


 光の言い方は、いささか大げさな気がしなくもないが、言ってることに間違いはない。

 ただ、引き合わせたらしい僕も、あやのを除く後輩トリオと知り合ったのは、まったくの偶然だったんだけど。


 小春ちゃんは、京香ちゃんのところに押しかけてきた時に、たまたま居合わせただけだった。

 とにかく、インパクトの強い娘だったよなあ。

 実際、めっちゃくちゃ元気のいい娘だし。


 ―――そうそう、その京香ちゃんだって、山小屋で雨宿りしてて、その時が初対面だっけ。

 もの凄いあいさつだったよな、あの日本刀は。

 ……もう一回見たいとかは、到底思えそうにないが。


 愛美ちゃんなんて、最初に会ったのは廊下でぶつかった時だったし。


 それにしても、どこかで見たことある気がするんだよな、あの顔。

 相変わらずの伊達メガネだから、よく分からないけど。


 ……偶然って恐ろしいよな。

 多分、ちょっとしたささいな“ズレ”で、今ほど仲良くならないままの娘だって、いくらでもいるだろうし。

 そういう意味では、偶然が重なってみんなと出会えたってことには、何か意味があるのかもしれない……なんて。






 ………






 ………………






 「なあ光、そろそろ話をしてくれてもいいんじゃないか?」


 既に食事の方も半分ほど終わっている。

 いい加減、頃合いのはずだ。



 「そうだな……」


 そう言って光は、手に持っていたハンバーガーを一気に食べ終わると、

 一呼吸置くかのように今度はドリンクを飲み干した。



 「章よ、お前さ、最近自分が変わったな〜とか思わないか?」


 「へっ?」


 いきなり何を言い出すかと思えば。



 「どうなんだよ?」


 だけど、目の前に座る光の表情は真剣そのものだ。



 「……少し。

  言われてみれば、ちょっと変わったかな〜って気がするかも」


 「だろ?」


 光の意図が読めない。

 元からちょっと超然としている部分はあったけど、今日は何を考えているのか見当もつかない。



 「ここ最近……そうだな、具体的には福谷さんの生徒会選挙を手伝った辺りからか。

  お前、ちょっとずつ変わってきたよな。主に、人間関係とか」


 「………」


 返す言葉が見つからない。

 何もやましい事なんかないはずなのに、言われた瞬間に、なぜかドキッとした。


 今日、朝から散々意識してきたことを、思わぬところで言われたからだろうか。

 なんだか、光に自分の心の中を見透かされているような気がする。



 「それまでのお前は、内向的とまでは言わないけど、俺達以外の連中とつるむことって、あんまりなかっただろう?」


 光の言葉に黙ってうなずく。もはや、今日の光に何らかの言葉を返すことはできそうもなかった。



 「それが今じゃあ、俺が知ってるだけでも福谷さんに空木、後は西園寺さん。それから小春ちゃんや愛美ちゃんとも仲いいよな。

  ここしばらくで、急に人間関係が広がって、それに合わせるみたいに、ちょっとずつ性格も外向きになってきた」


 ……自分ではまったく意識したことがなかったが、光の目から見ればそういうことらしい。



 「それはそれでいい変化だと思う……が、この際そんなことはどうでもいい」


 「じゃあ、この長い前置きはなんだったんだよ」


 「まあ、おとなしく聞けよ。まったく関係がないわけじゃないんだからな」


 やっぱり、光の考えてることは分からない。



 「さっき俺が言った、最近仲がいいっていうヤツにはある共通点がある。

  それは何だ?」


 「えっ? つばさちゃんに怜奈ちゃん、京香ちゃんに小春ちゃん、愛美ちゃん……五人の共通点?」


 あっ、ひとつ思いついた。

 ……ちょっと違う気がするけど。



 「もしかして、みんな女の子とか?」


 「そう、正解だ。お前にしてはカンがいいな」


 「『お前にしては』は余計だって。でも、それがどうかした?」


 そこで、光はまた一呼吸おいた。

 今日はやけに回りくどいな。



 「お前のことだ、意識して女の子をはべらせてるとは思わん。

  だがな……ひとつだけはっきりさせておきたいことがある」


 「何?」


 「お前、好きな娘とかいるのか?」


 予想だにしていなかった光の言葉。



 が、望まれている回答はある程度予想ができる。



 「……それってもしかして、茜ちゃんっていう答えを期待してる?」


 「バーカ、翔子と一緒にするな。

  別にからかってるワケじゃない。単に、どうなんだって話だ」


 ……またしても予想外な答え。

 光が望むのは、もっと別なものだ。






 ―――今まで考えたこともなかった。






 もしかしたら、無意識の内に考えるのを避けていたのかもしれない。






 心のどこか隅っこに、そういうことを押しやっていたのかもしれない。






 自分には関係ないと、どこかで一線を引いていたのかもしれない。






 ……何にせよ、僕の答えは決まっている。






 「僕が―――」






 「僕が好きな娘は―――」








 ………








 ………………








 「そっか。お前の気持ちはよ〜く分かった」


 「……納得した?」


 「ああ。お前らしいって言えば、一番お前らしい答えだしな」


 「そう、かな?」


 自分らしさって僕はよく分かってないから、本当にそうなのかは分からない。



 「そうだって。普通さ、ここで『よく分からない』はないと思うぞ」


 「そういうものかなあ?」


 何せ、こういう話を友達とするのは初めてだし。

 何が常識で、何が非常識なのやら。



 「まあいいさ。とりあえず、これで俺の目的は果たせたんだし。

  悪かったな章、急に呼び出したりして」


 「ああ……」


 「やれやれ……王子様がこれじゃあ、みんな大変だな」


 「えっ、何か言った?」


 確かに、光の呟き声が聞こえた気がしたが、全否定するかのように光はかぶりを振った。



 その後、何で急にこんな事を聞いたのか、理由を問いただしてみたが、



 「単なる興味本位だ。気にするな」


 と、お茶を濁すような答えしか返ってこなかった。






 ―――光にはああ言ったけど、本当のところはどうなんだろうな。

 正直、自分でも本当によく分かってないんだと思う。


 こういう問題の答えなんて、そうそう見つかるもんじゃないよな。

 だから、焦る必要はないんだ、きっと……。











 この1学期は、本当に色々な事があった。

 そんな1学期も今日で終わり、明日からは夏休みだ。


 その夏休みも、何やら色々な事がありそうな予感がする。

 何だか、胸騒ぎみたいなものを感じるのだ。




 出会いの季節と、志木ノ島で一番熱い季節が交差する、そんな日に。




 僕の中でも、ひとつの変化の終わりと、ひとつの新しい変化の始まりが交差していた―――


 作者より……


 ども〜作者です♪

 Life第二十五頁、いかがでしたでしょうか?


 これで『新学期編』完結です。第二部ってところでしょうか。

 長かったような短かったような……まあ、本編はまだまだ続きますけどね(笑)


 一学期も終わりということで、ちょっと総集編っぽい話になりました。

 さてさて、章の答えが出るのはいつの日やら……首を長くしてお待ちください(^^ゞ


 ここで恒例の次回予告です。

 次回からは夏休み編! 沈黙を破り、ついに“あの人”が動き始めます!

 いつものごとく、期待しすぎない程度に期待をば。


 それではまた次回お会いしましょう。

 その時まで……サラバ(^_-)-☆byユウイチ


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