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改めて始まる話

二か月で一話とかおそすぎぃ・・・。


いつも通り憂鬱な一日だった。


「うーさむ」


かったるい授業が終わって学校から出ると冷たい風が通りすぎた。近頃はうんと寒くなった。冬真っ盛りというやつだ。

こんなに寒いと学校に行くのがつらい。いや寒くなくてもつらい。できればお布団から出たくないと何時だって思っている。

そんな寒さの中、一人で道を歩いていると余計に寒さが身にしみる。

こんなとき一緒に歩く人が入れば違うんだろうなあと思うけどいないもんはしかたがない。もともと俺は交遊関係が広い方ではないのだから。別に泣いていない。

数少ない友人である桜井を誘う手もあったけどあいつはあいつで半年くらい前から部活を始めたからそっちで忙しいみたいだ。

今日はたしか部活がある日だったはずなので邪魔しちゃいかん。



それにしてもーーーなにか大切なことを忘れている気がする。

とても大切なことだったのに、忘れないと誓ったはずなのにそれは頭に霧がかかってしまったかのように思い出せない。


頭をひねりながらてれんこてれんこ歩いていると道の脇に一枚のチラシが落ちているのが目に入った。

なんとなく拾ってみるとそれはおもちゃ屋のチラシで新発売のおもちゃや新作のゲームがでかでかと宣伝されている。

ん?注目の新作ゲーム・・・ふむ、えーとなになに・・・平凡な学園生活を送っていた主人公はひょんなことから天使と悪魔の戦いに巻き込まれる・・・天使の悩みを解決したり悪魔からの頼まれ事をこなしたりして絆を深め、共に学園に隠された迷宮に挑むアドベンチャーRPG・・・?

なんだひょんなことって。そんな気軽にとんでもないことに巻き込まれてたまるか。あと迷宮ってなに?学園にあるの?出現が突然すぎる。学園建てるまえに調査しとけよとは言ってはいけないんだろうなあ。

・・・というか迷宮以外はどっかで聞いた話だなあおい。


ーーーーあ



そうだ・・・思い出した・・・






「明日発売するゲームの予約忘れてたあ!」


ちなみにこのよくわからんストーリーのゲームではない。

ちくしょー!どうして忘れてたんだ!あんなに楽しみにしてたのに!くそう、予約すればポイント2倍だったのにい!

・・・うう、悔しいが過ぎてしまったことを悔やんでもしかたない。ポジティブに考えよう。楽しみにしてたゲームが明日発売する。それでいいじゃないか、俺が欲しいのはポイントじゃなくてゲームそのものなんだから。

とはいえ、前ほどゲームを楽しめなくなってしまったのでポイント2倍を逃したという事実がボディブローのようにじわじわ効いてくる。ちくしょう。



「ね、ねえ。 ちょっとそこのあなた」


悲しみを力に変えて帰路に着こうとしたら後ろから声をかけられた。それは聞き覚えのある声で驚きと共に振り返る。


「えっと、わ、わたし道を聞きたいというかなんというかできればこれをきっかけに「タキラっ!」ひゃわ!?」


姿を見た瞬間もう我慢できなかった。今まで会えなかった分、彼女を抱きしめる。

一方抱きしめられてるタキラは突然のハグに混乱して目をぐるぐる回している。強く抱きしめるほど目の回転が加速するのでちょっとおもしろい。


「タキラ! タキラだ! よかった! 会いたかったあ!」

「な、なに!? なんで!? なんなの!? 聞いてた話と違うんだけど!? 覚えてるじゃないのよ! これってあ、愛の力が起こした奇跡とかそういうのなの!?」

「いや、そういうのではないねえ」

「あ、そうなの・・・」


残念ながら普通に覚えていただけである。ぶっちゃけあの事件のあと俺は記憶を失ったりしていない。

てか今度は世界レベルの改変だから影響は避けられないっていう話はなんだったんだろうか。

あのあと目を覚ましたら記憶消えてなくて逆にびっくりした。一緒に倒れていた桜井のファンタジー方面の記憶は消えてたから改変自体は行われたんだろうけど・・・夜の学校に倒れてたせいで誤魔化すのが大変だった。危うく補導されかけたわ。アフターケアしろし。


「まさか本当に記憶が残ってるとはな・・・」

「なんとなーく予想はできたけどねぇー」

「ま、和樹だからな。 またなんかやらかすんじゃねえかとは思ってたぜ」


続けて聞こえてきた声に目を向けるとそこにはサイコパスとショタ先輩、そした真の姿があった。


「もう! もう! まったく、みんな帰ってくるなら先に連絡とかちょうだいよね! 心配してたんだから!」

「いや連絡の手段ねえだろ」

「・・・矢文、とか?」

「事件になるだろうが」


だよね。俺もやられたら通報するわ。


「こっちは変わりねえか? いや、変わってるか」

「劇的ではないけどねえ」


この半年でなんやかんや世界は少しだけ変わった。

目覚ましたら全部戻ってるとかはなかった。でもじっくりじわじわ変化してきている。

例をあげるとこの前男女のカップルが仲睦まじそうに歩いているのを見かけた。世間でも男同士の恋愛が普通という空気は下火になってきている。

これから何年もかけてゆっくりと男と女のカップルが増えていくんだと思う。

でもそんな流れの中でも男同士がいいという人は少なからずいるらしい。

まあそっちはそっちで頑張ってほしい。たぶんそれ真実の愛とかいうやつだから。お幸せになれ。


「というかこのあと暇? なんも予定ないならうち来てよお。 積もる話もあるし外寒いし立ちっぱ嫌だし」

「あーいいけどよ、急に行って大丈夫なのかよ? ほら、おばさんさ俺のこと覚えてねえだろう?」

「私にいたっては紹介もされてないわよ?」

「うちのお母さんを嘗めないでもらいたいね。 俺が連れてくんだからお母さんが邪険にするわけないかんね。 あ、そっちの二人はどうする? うち来る? お茶くらいは出せるよお」

「いや、遠慮しておく。 邪魔したら悪いしな」

「そう? じゃあタキラ、真行こっか」


気にしないのに。まあ本人が言うならいいか。


「それじゃお二人さん、桜井なら学校にいるからねえ。 それじゃーね」

「はっ!? お、おい待て!」


どうしてか慌てたサイコパスの声を背に帰り道を歩き出すのだった。





「そういえばさぁ」


三人を見送った二人だったが不意に守部が口を開いた。


「なんで彼には影響がなかったのかなぁー?」

「ああ、それなら天辺が調べてたぞ。 たしかその辺の資料を渡されていたな」

「そんなのあったのぉー? なんで教えてくれなかったのさぁ」

「今の今まで忘れていた」


相澤はポケットから折り畳まれた紙を取り出すと中身をさっと読んだ。


「なるほど、どうやらこの世界に偶然、魂の洗浄が行われずに産まれ落ちた命があったみたいでな」

「魂の洗浄? それって・・・なんだっけぇ?」

「転生するにあたって前の人生での記憶だのをリセットするやつだろ。 」

「それがぁ和樹くん?」

「そういうことだろう。洗浄が行われていない魂が属するのはあくまでも前の世界。 だからこの世界がいくら変化しようがあいつに影響が及ぶことはなかったんだろうな」

「なるほどぉ・・・つまり僕たちはその偶然に救われたんだねぇー」

「ちっ・・・」


守部の言うことは正しい、だが気に入らないと相澤は小さく舌打ちをした。


「よかったあ、まだいた!」


そんな二人のもとに槇原が戻ってきた。


「なんだ戻ってきて? どうかしたか?」

「んー、ちょっとばかし迷える天使に今を生きる人間としてアドバイスをと思ってねえ」

「は?」


ポカンとした顔の相澤と守部に向かって槇原はーーー不思議な世界に産まれ落ちてしまった少年は笑って告げる。


「誰かを大切にする気持ちっていうのはさあ、常識が変わっても記憶がなくなったってきっと伝わるんだよ。 頑張ってね天使さん、種族の違いや性別がどうだとか関係なく、きっと芽生えた愛に嘘はないんだから。 その辺俺が保証してあげるかんね。 あ、でも周りに迷惑かけないでね? 前回世界巻き込んでるんだし」


それだけ言うと槇原はそれじゃ!、と二人の天使に最後にもう一度手を降って置いてきたらしいタキラと真の所に走っていく。


「だってさぁー、よかったねぇ彰ー。 あ、もちろん僕も負けないからねぇ」

「・・・ちっ、やっぱりあいつは気に入らん」


にやりと笑って守部は相澤を小突いた。

相澤は守部に忌々しそうに視線を向けるが結局二人並んで学校に向かって歩き出した。




そんなわけでこの俺と女性に厳しいちょっとおかしな世界はどこにでもあるような普通の世界に戻ったわけである。

ごめん嘘ついた。天使とか悪魔とかいる時点で普通じゃないわ。ファンタジーだ。

ともかく男同士の恋愛が普通という常識はなくなったから俺が異端視されることももうないだろう、たぶん。

でももし世界がそのままだったとしてもこの二人との関係は変わんないんじゃないかなと思う。あと桜井とか天使たちとも。

まあ、なんにせよ俺は俺らしく生きて、遊んで、恋をするだけである。


「ただいまー! お母さん、ちょっと親友と未来のお嫁さん紹介したいんだけどいいかなー?」

というわけでこれで完結です。

多めに見積もっても中編くらいなのにめっちゃ時間かかりましたわ。

やはり予定立てるのは大事。立てねばずるずると長引いてしまうと実感しましたとさ。

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