86. 第三王子
俺は執務室にこもり、もくもくと仕事に励んでいた。 脳の働きは良くなっているのだろうが、さすがに20日も間が空くと大変なのだ。
すると、執務室にシオンがやって来た。
「慶子様 久実様 サキ様はこれから町を回られるようです。 あと、楓様がこちらのダンジョンに入ってみたいとおっしゃっております。いかが致しましょうか」
楓を執務室に呼んで、話を聞いてみた。
「うち。暇だから、こっちのダンジョンに行って見たい」
暇だからって、ダンジョンはその辺のコンビニやドンキとは違うぞ。
う~ん。でも一人はダメだろ冒険者ギルドに行って手続きも有るしな。
……結局、冒険者ギルドにはタマと行ってもらい。 ダンジョンへは、ヤカンを同行させる事とし、攻略は10階層までとした。
途中、何か有ってもいけないので、家の紋章が刺繍されたワッペンを渡しておいた。この町での効果は絶大だからな。
▽
「ダンジョン・ディレク」 僕は ダリルバート・ジ・クルーガー 16歳。王都の魔法学校に通う、この国の第三王子だ。
今日は魔法学校の友人達6名でパーティーを組み、ダンジョン・ディレク に潜っていた。
7階層までは大きな問題も無く、順調に進んでいた。 しかし、パーティー内でちょっとした仲違いをして、僕は後先も考えずに飛び出してしまったのだ。
そして、後を追いかけて来てくれた、親友のモリスと共に窮地に立たされることになった。
そこでエンカウントしたのは、ホブゴブリン3 ホーンラビット3の混成だ。
モリスの攻撃魔法によりホブゴブリン1を倒したものの、数で押されてジリ貧であった。
だんだん狭くなる包囲網の中、僕はホブゴブリン1を相手するので手いっぱいなのだ。
ヤバい。 このままでは、二人共殺られてしまう。くっ、誰か来てくれ。
「だっ、誰か! 助けてくれー!」
そう叫んだと同時に、目の前で鍔迫り合いをしていたホブゴブリンは力なく崩れ落ちた。
見ると、側頭部にストーンアローが突き刺さっている。
僕は急ぎモリスを探した。壁の所で蹲っているようだが、何とか無事みたいだ。
そして、剣を構えたまま再び前方に目を向けると、そこにはもう動いているものは何も無く。
残心をとっている一人の戦士と、数個の魔石が転がっているだけであった。
そして、僕らの命を救ってくれた その戦士がこちらを振り向いた。
一本に束ねた髪がプルンと後ろで揺れ、ニコッと屈託のない笑顔を向けてくる。
――ドキッ! 若い女性だ。美しい! おまけにカッコイイ! 僕は頭がボーとなり、何も出来なくなってしまった。
そもそも仲違いの原因だが。
僕らのパーティーは、ゴブリン3 ホブゴブリン2のモンスターと遭遇していた。
それらを殲滅していく中で、最後に残ったホブゴブリンをどちらが葬ったかで揉めたのだ。
双方、ほぼ同時に剣を突き入れており、判断は難しかった。
相手に譲っておけば良いものを、そこは成人したばかりで、鼻息の荒い若者である。
結局、折り合いがつかずに、ダリルバートはパーティーから飛び出してしまったのだ。
助けてくれた女性の手元で、怪しく発光するロングナイフ。
その漆黒のブレードからは赤紫色のオーラが立ち昇っていた。
……すっ、凄い! あのナイフは何なのだ? それに見た事もないライトアーマーが印象的だった。
こんな強くて美しい冒険者が居るものなのか? 今だ、ぼーと立ち尽くしている僕に、
「あぶなかったね。 でもこれで大丈夫だよ。気を付けて帰ってね」 とだけ言い残して、彼女は風のように走り去って行った。
あっ! 何やっているんだよ。お礼も言ってないじゃないか。_| ̄|○
▽
昼食の後。 しばらくして仕事を終えた俺はシロを連れ、ハルが居る温泉施設に来ていた。
「パパきた。パパきた」 と喜ぶハルを目を細めながら抱きしめ、ナツとキスを交わす。
そして、一緒に温泉だ。 洗い場で身体を洗ってあげ、露天風呂に浸かる。
ハルが入る場所は露天風呂の一角ではあるが深さは30㎝もない。 お湯をバシャバシャやって、スフィンクス状態のシロにじゃれ掛かって遊んでいる。
その光景を眺めながら、
「8歳までか~。 メアリーは今でも一緒にお風呂入ってくれるんだがな~」 などと、一人ごちっていると。
「やっぱり、こっちに来てたのね。農村部も回って来たわよ」 と、慶子がはいってきた。
相変わらず色気はあるが胸は無い。―――うぉーい。 お湯をかけられた。
……げせん。 なぜバレた。
「こちらの温泉は露天風呂も有るのね~」 と、久実さん。 後ろにサキも居る。サキは少し恥ずかしそうだが、久実さんは堂々としたものだ。
そして、―――たわわだ。 まあ、ナツには敵わないがな。
”いろいろあって、みんな良い♪” ビバ温泉! 素晴らしい。
――ヒィィ、痛たたたっ! いつの間にかナツさんが横に居ましたわー。
俺は赤くなった太ももをさすりながら、
「久実さん。お城に上がるのでしょう? それだと服が必要ですから、明日にでも王都に行きましょう」
「あら。わたしは?」 と慶子。
「城に行くなら、用意しないと、だな。 サキも行くだろう」
「うん。でも、わたしは服はあるよ。皇帝に作ってもらったやつが」
「しかし、所変われば品変わる だぞ。 後で見せてくれ」
「うん、いいよー。エッチなのも有るけどね~」
……ナツちゃん睨まないでおくれー。(汗)




