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38. 確定!

 ホテル前にてマリアベルの家族と合流した俺たちは、一路(いちろ)巣鴨(すがも)を目指していた。


 といっても、所用時間(しょようじかん)(わず)かに15分程である。


 お(ぼん)の都内は渋滞(じゅうたい)もなく、車はスイスイ進んでいく。


 俺の隣りにはキロが座り、今はスマホを持って、兄のフウガと定期連絡中(ていきれんらくちゅう)である。


 移動(いどう)する際は逐一(ちくいち)連絡を入れているのだ。(使ってるのはメアリーのスマホ)


 それを受けたフウガは事件や事故等がないか、前もってネットで調べているということだ。


 さすがは護衛(ごえい)諜報活動(ちょうほうかつどう)のプロといったところかな。


 だが、今回は別の情報も一緒に受けとったようである。


 キロが口元を手で(かく)しながら俺の耳元でささやく。


 ふんふん…………。


 なぁにぃ~? やっちまったな!! (クー○ポコ)


 キロの話によると、


 フウガがいろんな情報を元に分析して、ダンジョンの位置を割り出したそうだ。


 その確率も90%で、ほぼ間違いないということ。


 それは早急に現地へ行って確認してみないとな。


 ダンジョンに関わることは、今の俺たちには最優先事項(さいゆうせんじこう)にあたるからだ。


 ……しかし、フウガのやつ(すご)いな。


 こんな短期間にパソコン (ネット) を使いこなし、(しっか)情報源(じょうほうげん)として利用いるのだから。


 そして、その指定された場所とは、


 なんと、今向かっている巣鴨(すがも)駅から車でわずかに5分。隣町のにある神社ということであった。






 おっ、巣鴨駅に着いたな。


 かの有名な【とげぬき地蔵尊(じぞうそん)】がある高岩寺(こうがんじ)商店街(しょうてんがい)の中に位置する。というか、高岩寺を中心に商店街が出来ているような感じだね。


 人が多いため、車は駅前のパーキングに止め、歩いて商店街へ向うことにした。


 みんなが車を降りたあと、車内を確認してドアロックをする剛志(つよし)さん。


 「いやー、待たせちゃってごめん。じゃあ行こうか」


 俺と剛志さんは、先を歩いている女性たちのあとを追った。


 「こちらからお誘いして何なんですが、福岡行きの件は結構バタバタしたんじゃないですか? しかし、よく盆明けで休みが取れましたね」


 「ああ、それは妻が言ってただろう。うちの会社って盆明けは(ひま)なんだよ。企業によって休みもバラバラだからね」


 「そうなんですねぇ」


 「まっ、高い運賃だったけどな……」


 剛志さんはニカッと笑いながら痛くもない左頬(ひだりほほ)をなでている。


 「へっ!? それってスレッガー中尉の……」(ク○ルス・ドアンの島)


 オタ話に花をさかせながら、俺たちは『巣鴨地蔵通商店街』のアーチをくぐった。


 たまにはこうして、商店街の中を歩いてまわるのも楽しいものだ。


 お茶屋さんに、洋品店に、靴屋(くつや)さん。


 中には ”メリヤス屋” なる変わり種の店もあった。


 店先のワゴンに乗ってるシャツにパンツ、くつ下といった下着類がどれも赤一色。


 しかも、じーさん ばーさん達が、たかって買っているのだ。


 …………すごい光景だな。


 その他にも、面白そうな店が何軒かあったので、帰りにでも寄ってみましょうかね。






 お(まい)りを済ませたあとは、あれこれとお土産を買っていく。


 名物のどらやきに、お漬物(つけもの)に、お芋屋さんの大学芋(だいがくいも)


 元祖塩大福(しおだいふく)なんかもおすすめだね。


 赤いシャツとくつ下は慶子(けいこ)へのおみやげにしよう。


 「年寄あつかいするな!」と平手が飛んできそうだけど……ハハハッ。


 お土産もたんと買い込んで、俺たちは駐車場まで戻ってきた。


 「お昼はどうするー?」 


 剛志さんの声がけに、時計を見ればまもなく12時になるところ。


 どうしようかと少し迷ったが、


 「じつはもう一件行きたい所があるんですが……。昼食はその後でもいいですか?」


 「じゃあ、そっちを先にまわって、お昼は東京駅で食べることにしようか。みんなもそれでいいかい?」


 「「「「はーい!」」」」


 小腹(こばら)が空いたという者には、ダンジョン・サラが作った特製クレープや、さっき商店街で買ったどら焼きなどを車内で配っていった。


 次に俺たちが向かった先は、巣鴨のお隣、駒込(こまごめ)にある富士(ふじ)神社。


 この【富士神社】の富士はズバリ富士山(ふじさん)を差しているのだ。


 なんでも、江戸時代(えどじだい)の初期に起こった富士信仰(ふじしんこう)要因(よういん)だと言われている。


 元からあった古墳(こふん)を富士山に見立て、その上に神社を作ったんだね。






 そういえば(しげる)さんが、


 「この高台が古墳(こふん)になっていて、その上にこの老松神社(おいまつじんじゃ)が建てられているんだよ」


 なんてことを以前話していたが、ここ富士神社も建っているところは古墳の上なのだ。この二つの神社は非常に似たような条件のもとで建てられていることがわかる。


 古墳にはパワースポットと呼ばれているところが多いときいたことがある。


 それなら、エジプトのピラミッドの下なんかにもダンジョンが眠っていたりするのだろうか……。


 なんとなく、ありそうだよな。


 ピラミッドのダンジョンかぁ……。


 中は神殿(しんでん)エリアに砂漠エリア、モンスターには是非ともミイラ男をくわえたい、宝箱のかわりに黄金の(ひつぎ)を置いて、それからそれから…………。


 ああっ、こっそりプロデュースしたら楽しそうだよな。


 アキーラやカマルには怒られそうだけど。(笑)


 駐車場に車を止めた俺たちは、『富士社』と大きく書かれた鳥居(とりい)(くぐ)り参道を進んでいく。


 途中左手にある手水舎(てみずや)に寄ったが水がはいっておらず、横の水道で手を洗って富士塚(ふじづか)の階段へと向かった。


 登る階段の両脇には、わざわざ富士山から運んできたという溶岩(ようがん)が多数(はい)されている。


 これらを見ただけでも、当時の富士信仰の度合いが(うかが)えるよな。


 だって今みたいにトラックがある訳ではないし、荷車(にぐるま)を押して富士山から運んできていたはずだから。


 東京から見える富士山も、江戸時代ならもっとクッキリと大きく映っていたのかもしれないな~。


 石碑(せきひ)灯篭(とうろう)鳥居(とりい)に至るまで()り込まれた文字が赤いペンキで彩色(さいしょく)されており、とても(にぎ)やかしく感じる。


 ところ(せま)しと並んでいる石碑(せきひ)には――組と彫られたものが目につくが、これらは江戸の火消し達が奉納(ほうのう)したものだという。


 あの有名な『め組の辰五郎(たつごろう)』もここへ来てお参りしていたのかもしれない。


 30までない階段を上ると社殿(しゃでん)が見えてきた。


 お山の上にはコンクリートで建てられた拝殿(はいでん)と本殿があるのみ。


 社殿の表は黒い鉄扉(てっぴ)(おお)われており、人の姿はない。


 少し(さび)しいような気もしたが、これは時代の流れであり仕方のないこと。


 周りはマンションだらけになり、神社を支える氏子(うじこ)もいなくなってしまったのだろう。


 俺たちは鉄扉の穴に賽銭(さいせん)をほうると、


 ――パンパン!


 みんな並んで参拝(さんぱい)を済ませた。


 さてさて、調べてみるとしましょうかね。


 ダベっているみんなを社殿の前に残し、俺はシロを連れ建物の側面へとまわった。


 その場にしゃがみ込んで、地面に手をあてる。


 ――ダンジョンマップ!


 ……ほうほう、やはりここがダンジョンということで間違(まちが)いないようだ。


 入口はどこだ………………、 ダメだ見つからない。


 これから出来てくるのだろうか? 


 まあ、今日のところは場所が確定しただけでも良しとしておこう。


 フウガには今回おみやげの他に、何か褒美(ほうび)を用意してやろう。


 車に戻った俺たちは、そのまま東京駅へと向かった。






 すると、俺のスマホが車内で鳴りだした。


 うん、誰だろう?


 スマホを取り出すと液晶画面(えきしょうがめん)に[着信・アキーラ]と表示されている。


 昨日、一緒に行動した際、連絡先を交換(こうかん)していたのだ。


 俺はスマホをタップし電話に出た。


 「ハローハロー、ゲンにーちゃん! 今日は遊ばないの~」


 カマルだったか。


 「おう、カマルか。昨日は楽しかったなー。いまホテルからか?」


 「うん、そうだよ~。昨日のゲンにーちゃん、強くてかっこよかったー!」


 「そうかぁ、ありがとな。だけど今日は一緒に遊べないんだよ。今から家に帰るところだから。ごめんなー」 


 「え――――っ ! 帰っちゃうのー? カマルも行き…た…い…………」


 「まーたお姉ちゃんのスマホを勝手に使って――。すぐ返しなさい!」


 どうもアキーラのスマホをカマルが無断(むだん)で使っていたようだ。


 電話の向こうでカマルが(おこ)られている……。


 「ハロー。えっと、ゲンさんですか?」


 「おう、アキーラか? 昨日は一緒にまわれて楽しかったな。ちゃんとホテルまで帰れたようで安心したよ」


 「はい! 私も楽しかったです。……それに(ぞく)からも助けていただきき感謝しています。もう一度お会いして、ぜひお礼をさせてください!」


 なんでも、アキーラとカマルのお父さんは駐日エジプト大使館(たいしかん)(つと)める一等書記官(いっとうしょきかん)なんだそうだ。


 いわゆる外交官のお偉方(えらがた)だな。


 昨日(おそ)ってきた(やから)はイスラム系裏組織(うらそしき)に属する者のようで、母国(ぼこく) (エジプト) から遊びにきていたアキーラとカマルを誘拐(ゆうかい)する手はずだったようである。


 エジプトといえばアラブ圏でも盟主(めいしゅ)とされる国だ。


 そこの外交官ともなれば影響力(えいきょうりょく)も大きいのだろう。


 しかし、いくら平和な日本といえども外交官の娘に護衛(ごえい)の1人もなしか? 


 まあ、上手く誘導(ゆうどう)されたのだろうが……。


 まったくもって不用心(ぶようじん)な話である。


 「カマルによろしく言っておいてくれ。また、どこかで会おうな!」


 俺は今から福岡に帰ることをアキーラに伝え通話を終わらせるのだった。







8月15日 (土曜日)  

次の満月は8月28日

ダンジョン覚醒まで22日・82日



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