Track.3-17「抵抗するなら無慈悲に死ね」
んあー。……ふゎ、――ぁう。
あー、……あれ、また寝てた?最近疲れ気味なのかなー、気が付いたら眠っちゃう。
阿座月くーん。
阿座月くんやーい。
……あ、そっか。今絶賛仕事中だった。
えーっと……ああ、ちょうど今いい感じのところじゃん。
あれ?
でもこれ、なーんか筋書変わって無い?
何で王様が魔女と一緒にいるの?
「あはっ!わっけわかんないなぁ。やっぱ他人任せにしちゃダメだってことだよね」
わたしは眠りこけていたソファから立ち上がり、伸びをする。ああ、身体がばっきばきのぱっきぱきだ。一体今回はどれくらい眠っていたんだろう。
取り合えず寝巻を脱ぎ捨て、衣装棚からビッグシルエットのチュニックを取り出して着替える。どこかエスニック感の漂う白地に、臙脂色の革紐がアクセントになっているお気に入りの一着だ。わたしの身長だと膝丈に届かない絶妙な丈感が、得も言えぬエモい絶対領域を演出してくれる。
ぷぷっ。えもいえぬえもい、だって。笑っちゃうなー。
あ、ちなみに下衣は基本的には履かない性質です。
魔杖は――ま、いっか。別にバトりに行くわけじゃないんだし。この章の最終調整だけだから。
だから、逢いたいけど、顔を見たらそれで終わりにしよう。うん、それがいい。
「はぁ――でもやっぱり、逢いたいなぁ」
そうしてわたしは自分の座標を、遥か遠く彼方の異界へと書き換えた。
◆
「航、久しぶりだの」
「龍月叔父さん……そうですね、久しぶりです」
そそり立つ絶壁の手前に造られた荒野の街並みを見下ろす高台で合流した調査団。その中で、腰に刀を差す壮年の剣士・四方月龍月は、同じ苗字を持つ四方月航に声を掛けた。
航は少し戸惑いを見せたものの、またすぐに臨戦の顔つきを取り戻す。龍月の後ろに控えていた袴姿の若い女剣士は、龍月の背の影から顔を出すとはにかんで航に小さく手を振る。
「瑠璃ちゃんか?美人になった」
その言葉に照れた柊瑠璃は、少しだけ顔を背けながら「航さんも、男前ですよ」と小さく呟く。
航の周囲にだけ、張り詰めていた緊張が弛緩した空気が流れた。
「ヨモさん、知り合いっす?」
3チームが合流したクローマーク社、チーム"FOWL"の錫方弥都が航に訊ねる。
「ああ――紹介するよ。四方月龍月、俺の父親の兄で俺にとっては叔父にあたる。宗家の先代当主だ」
「えっ、宗家の先代当主って言ったら!?」
「あの"暦衆"の筆頭ってこと!?」
続けざまに驚声を上げたのはチーム"FOWL"の双子撃破役、海崎冴玖・澪冴兄妹だ。初めに訊ねた弥都と、その隣でチームを牽引するリーダー糸迫右京の二人は業界の超有名人を目の当たりにしてぽかんと口を開けてしまっている。
「叔父さん、こいつらは俺の前のチームメイトで、弦術士の糸迫と、流術士の海崎兄妹、そして鉱術士の錫方だ」
「おお、これはこれは。航が世話になってます」
丁寧に頭を下げるその姿に正しく"武人"の面影を抱いた四人は、ついぞ顔を見合わせ、しかし慌ててそれぞれが頭を龍月よりも深く下げた。
「で、こっちが、うちのもう一つのチーム"WOLF"だ」
FOWLの後ろに控えていた四人が前に進み、恭しく頭を下げて自己紹介をした。
「のう、航よ。お前の"今の"チームメイトは何処だ?」
「いや、それが……」
しかし説明をしようとした航の頭上で、黒々と勢力を拡げていた積乱雲から大粒の雨が降り出した。
無論、雨天での戦闘などもう何度も経験を重ねる調査団の面々はそれに驚き騒ぐことは無かったが、しかし雲の表面に大量の霊銀が圧縮された稲妻が迸ると、すぐに臨戦態勢を整えた。
「航、説明を聞いている暇は無さそうだの」
「ああ――」
そんな中、民間企業の魔術士の一人が街並みを指差し叫んだ。【千里眼】により視覚を拡張して見てみると、おのおので武装した多眼の巨人たちが軍を成してこちらへと向かっている。まるで――いや、まさに戦争だ。
そして――
「――っ!!」
盛大な轟音とともに、進軍する巨人の集団と迎撃陣形に散開しようとする調査団のちょうど真ん中に巨大な雷の柱が落ちた。
編まれた極太の霊銀の束は、激しい稲光を放った後で虹色の粒子となって霧散する。土煙が上がり、その中に体長10メートルを誇る"百眼の巨人"よりもさらに大きな一つの影が立ち上がり――
『あー、あー。侵略者に告ぐ、侵略者に告ぐ』
魔術で拡声された声が、土砂降りの雨音を割いて響き渡る。
『我々"PSY-CROPS"は殲滅を開始する。抵抗するなら無慈悲に死ね。投降するなら我々の同胞として迎え入れんことも無い』
「愚問だの――我々が行うのは侵略ではない。悪しき異端者を罰する聖戦よ!」
龍月が吼える。僅かに霊銀を揺るがすその響きは、調査団の全員に宿る闘志の火を焔へと昇華させる。
(ほう、言術も使うか、あの剣士――)
詠唱のため後方で待機していた言術士アンリ・クリストフ・ヴンサンは、その痩せた相貌を破顔させた。
『仔細、了解した。――ならば戦争だ』
そして相次ぐ雷光と雷鳴。迫り来る"単眼の大巨人"の手前の中空に雷とともに現れた、六人の"隻眼"たち。
流術を用いて空を浮遊しているのか、それとも方術などで足場を作っているのかは定かではない。しかしその六人ともが、強大な霊脈を体内に秘めている。特に、露出した"眼"に。
「航、"夜烏"は行けるか?」
チームWOLF牽引者・大神太雅が自身の武装――戦闘服型甲乙種兵装"天狼"を起動させながら訊ねる。
「ああ――漸く出番だな。"固有座標域、展開"」
取り出したのは、その全長が航の身長よりも長い斬馬刀型甲種兵装"夜烏"だ。柄だけでも航の手の長さ程があり、そして重厚な刀身は黒く輝いている。
「龍月さん、あの巨人どもの軍勢は我ら先発組に任されたい。小生意気な隻眼の幹部連中を引き受けて貰えるか?」
太雅の申し出に、いつの間にやら現場管理を押し付けられたような龍月は鼻で笑い、眼光の鋭さを増して答えた。
「ほう、あの六人を相手に我ら後発組二十人で立ち向かえと?些か低く見積もりすぎではないか?――彼奴らは暦衆八名で受け持とう。アンリ殿の祓魔士チーム四名と、四獣會チーム四名は巨人側に回ってくれい」
「ふン、全くつまらないネ。戦争ヲ楽しミにして来タと言うニ」
四獣會チーム四名を束ねる鳳が忌々しそうに龍月を睨んだ。しかし彼は言葉とは裏腹に協力的だ。中国に居を構える四獣會と暦衆には長い年月の果てに築き上げた深い絆があるからだ。
「こちらとしては渡りに船ですよ、ミスター・ヨモツキ。我々の神言術は範囲が広いですからね。しかし、詠唱に時間がかかりますが、“盾”はいますかな?」
「アンリさん、盾なら我々が引き受けましょう」
アンリ率いる聖歌の修道騎士の前に歩み出たのは、後発組の中で唯一の民間魔術企業、ロリカ社のチームだ。すでに兵装の展開を終え、四人ともが重厚な板金鎧を模した魔術防具に身を包んでいる。ロリカ社と言えば、その強靭さと屈強さ、継戦能力の高さに定評があり、日本においてはこと防御力に絞れば比肩する調査団はいないとも言われるほどだ。
「有難う。せめて五分は持ってくれよ」
「ああ、任せろ」
進撃する巨人の軍勢に、先発調査団と四獣會の四十名が陣形を展開させながら対向する。
2チーム分、八名の暦衆は龍月を先頭に二列の横隊を作った。その後ろにロリカ社の四名が、早くも術式の詠唱に入った聖歌の修道騎士の四名を庇うように陣を構える。
そして中空を駆け抜ける、六人の“隻眼”の幹部たち。彼らが龍月たちが待ち受ける高台に着地したのと、先陣を切ったクローマーク社“FOWL”の海崎冴玖が巨人の軍勢に向けて局地的な大津波を発生させたのはほぼ同時だった。
今回戦闘シーンめっちゃ長い気がします。
→次話、6/4 0:00公開です。
宜候。




