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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅸ;眩耀 と 原風景
283/300

Track.9-18「何でだろうな、お前はそう言う気がしたよ」

   ◆



「残酷なことを言いますけど、この異世界侵攻はあなたと、そしてあなたの友達の二人を狙ったものです」

「は?」


 芽衣およびコーニィド同様に、白亜の砂地に立ち並ぶ廃墟と化したビル群を見据える広場に降り立った少女は、分断され同じ場所に転送された四月朔日咲に告げる。

 咲と言えば、理解し難いものに巻き込まれたのにも関わらず、どことなく飄々とした雰囲気を纏っている。そのことは、少女を少しばかり苛つかせていた。


 ――よりにもよって……このコと一緒になるなんて。


「わたしと芽衣ちゃんを?何で?」

「歩きながら説明します。合流が最優先事項ですから」

「いやそれはそうだけど、そもそも君、魔術士なの?君ってわたしのスマホ拾ってくれた人だよね?」

「あ、はい。そうです。それについては実は、あなた方のことを監視させてもらっていました」

「監視?それこそ何でって感じなんだけど。ストーカー?」

「だから、……あなた方が狙われるその瞬間に立ち会わないと、私だってこの異世界に介入するのはとても難しいんです」

「ふぅん……何で怒ってんの?」


 少女が苛ついているのは他でもない――彼女が本当に守りたい、いや守り()()()()親友と、彼女が同じ顔をしているからだ。しかし、同じでは無いことを、こうやってむざむざ思い知らされてしまうからだ。


 もう二度と、取り戻せないんだと、思い知ってしまうからだ。


「……ごめんなさい、八つ当たりです」

「そっか。御気の毒様」

「――そういうところも似てますよね」

「え?何か言った?」


 先を歩く少女は答えず、立ち止まって指先の感覚を確かめては進むべき方向を定める。


「ねぇ、待ってよ。わたし、君の名前もまだ知らないんだけど!?」

「……そうですね、そう言えばそうでした。私てっきり、知ってるものだって……ごめんなさい」


 少女の足取りはやや速く、周囲の光景を見渡しながら歩いていた咲は慌てて走り寄る。


弦術士(スピンマンサー)糸遊(イトユウ)愛詩(イトシ)と言います。私のことを、気軽に“いとちゃん”なんて呼ばないでください」


 きょとんとした表情を顔に点した咲は、眉を寄せて疑問を呈した。


「そりゃあ、会ったばかりの人にいきなり渾名なんてつけないけど……?」


 その返答に満足した愛詩は、踵を返して再び歩き出す。咲は首を傾げながらその背に追従した。



   ◆



(参ったな……分断されるにしても、こうも護る対象が多いとやりづらい……)


 砂地の上では無く、廃墟の開けた階層にひとまとめに転送された世尉は、魔術士だと名乗り出た自分を頼る8人の巻き込まれた一般人の様子を見て嘆息した。

 幸い、ビジネスパートナーは方術士だ。空間や座標を操る魔術を得意とする彼なら自分たちの居場所を割り出して合流を図ろうとするだろうが――しかし戦場に於いて“だろう”は禁句だ。

 彼はすでにやられている“かもしれない”――あらゆる可能性を吟味し、出来る限りの対策を整えておくのは必須だ。それが魔術士の鉄則であり、何度も異世界調査に赴き、また異世界攻略をも遂げてきた世尉の自負。


「あの」


 そうやって思案する世尉の前に、一人の女性が歩み出た。


 年齢は20代前半と思われる。長身で、すらりとした体つき。

 素直に美人だと頷ける顔貌には、他の者同様に理解不能な出来事に巻き込まれたことによる怯え・緊張が宿っているが、しかし冷静に状況を推し量ろうとする理知が垣間見える。


「……私も、魔術士です」

「君も?」

「はい。生業とはしていませんが、炎術、動術、療術なら多少」

「そうか――助かるよ。僕は森瀬世尉、君は?」

土師(ハゼ)、はららと言います」



 その二人の遣り取りを、自らは魔術士だと《《名乗り出なかった》》少女、鹿取(カトリ)(ココロ)は注視していた。



   ◆



「――どうして、あたしと咲が狙われなきゃいけないんですか?」


 自分と友人がこの異世界侵攻の狙いであると言われた芽衣は、コーニィドに捲し立てた。

 ぼりぼりと側頭部を掻きながら、コーニィドは接続の途切れた無線イヤホンに歯噛みする。


「あー、待て。ぶっちゃけ俺もな、ちゃんとその理由を聞いてるわけじゃないんだ」

「え?」

「協力者がいてな――お前の叔父さんとはまた別なんだが……とにかくそいつと合流しないことには始まらない」


 見渡す白亜の砂漠。遠く果てに、沈みかけた大きな建造物が見える。


「あそこまで行くぞ。俺に分かることは、歩きながら説明する」

「は、はい……」


 告げるとコーニィドは、しかし歩き出さず、“固有座標域展開”(ボックスオープン)と唱えた。

 彼の周囲に、まるで3Dモデリングに使われるようなワイヤーフレームで編まれたいくつもの輪郭が展開され、まるで衛星のように周囲を旋回する。

 その様子を、芽衣は何だか懐かしいような不思議な気持ちで眺める。


「ちなみにお前、異界入りは初めてか?」

「……初めてです」


 コーニィドはゆっくりと旋回するワイヤーフレームに触れそれを具現化させながら芽衣にどんどんと質問を重ねる。


「魔術士もしくは異術士との交戦経験は?」

「訓練程度なら」

異獣アダプテッドもしくは異骸リビングデッドとの交戦経験は?」

「……無いです」

「じゃあ、幻獣クリプティッドは?あー、あと……魔女との交戦経験は?」


 世尉から魔術を習う今、それらの言葉の意味は知っている。だから芽衣が戸惑ったのは、自らが告げたその言葉の是非だ。


「――あります。魔女だったら、たぶん、殺したことがあります」


 言って、自分の言葉にあわあわと慌てた芽衣の姿を見てコーニィドは吹き出してしまう。


「ははっ――何でだろうな、お前はそう言う気がしたよ」

「え……」

「俺は、どうだと思う?」

「……正直に言っていいですか?」

「勿論」

「殺せなかった、って答えると思います」

「正解だ」


 そして具現化した円筒状の機械装置を起動させながら地面に刺さった状態の二振りの機械的な刀の一本――長い方を抜くと、コーニィドは懐かしむように刀身の波紋に視線を落としながら言葉を吐く。


「俺は魔女を殺せなかった。いつだってそうだった、でも――今ではそれが正解だって思う」


 芽衣は思い出していた。いつか見た夢の中で、白い自分が眺める、黒い球体が映し出した光景を。

 その中で――芽衣とコーニィドは、何度だって共闘していた。覚えの無い、摩訶不思議な光景だったけれど。

 今ならば確かにこう言える。――あたしたちは、失われた物語で共に闘った仲間だった、と。

失われた物語をなぞる。


→次話 5/15 23:00公開です。


宜候。

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