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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅷ;幻滅 と 元凶
239/300

Track.8-19「耳かっぽじってよぉく聴いておかないと」

 スポットライトの下――佇むのは三つの人影だ。


 ひとつは言わずもがな白い少女――四月朔日夷。

 ひとつは黒装束に身を包み口を縫われた(ましら)の面で顔を覆った青年――阿座月真言だ。

 ひとつは顔以外の肌を黒く染め上げた、学生服に身を包む黒髪の少女――比奈村実果乃。

 三者は背中を合わせるように立ち、夷だけがメインステージに微笑みかけている。

 真言は面に隠れているためどのような表情をしているかは伺えないが、実果乃は頻りにあちこちをきょろきょろと見渡しながらまるで誰かを探す素振りを忙しなくしている。


「せぁっ!」


 方術【転移】(シフト)により夷の上空に跳んだ航は再び袈裟斬りの一閃を繰り出すが、即座に転身した真言が抜いた直刀に弾かれた。

 返す太刀も阻まれ、後方に跳躍して距離を取る。

 対峙する真言はゆらりと身体を揺らし、無造作にした前進により両者の隔たりを一瞬にして潰した。


「くっ!」


 ギィンッ――刀身と刀身がぶつかり合い、細かな火花が散る。


「――見つけた」


 同時に実果乃は満面で破顔すると、観客たちの上を()()()()()()()愛しい人の姿を見つけ、即座に跳躍する。


「茜くんっ!」

「実果乃っ!」


 黒く細い腕が振り払われ、茜はそれを【飛躍者】(ヴォールト)霊銀(ミスリル)固定の盾で防ごうとしたが――


 バギンッ――黒腕は空間に固定された霊銀(ミスリル)の薄い膜を打ち破って茜の顔に肉薄する。

 ビギッ――しかしその拳が茜の顔面を捉えることはなく、中段回し受けにより弾かれた腕は外側に大きく開き、逆に茜の正拳突きが胸骨に突き刺さる。


「いっ――!」


 躊躇――実果乃の攻略法なら知っている。その黒い肌は自らが有する【空の王】(アクロリクス)と似て、あらゆる干渉を無力化する。異なる点と言えば【空の王】(アクロリクス)霊銀(ミスリル)にしか効果を及ぼさないのに対し、実果乃の有する【非実在性傷念】(ファルスムファブラ)は物理的な干渉にも有効であり、かつ衝撃を霊銀(ミスリル)に変換して吸収するということだ。無論、霊銀(ミスリル)による直接的な干渉すらも無効化して吸収する。

 しかしその能力を打ち破るのが“蜷突き”――【簒奪者】(ランペイジ)による一撃だ。実果乃が今しがたその黒腕で【飛躍者】(ヴォールト)で創り上げた霊銀(ミスリル)の不干渉の盾を打ち払ったように、【簒奪者】(ランペイジ)の一撃は実果乃の能力をゼロにして仕留める。


 だからこそ茜は躊躇った。その一撃は実果乃の存在すら、消し飛ばしてしまうのではないかという不安に駆られてしまったからだ。そしてそれこそ、夷が実果乃を茜にぶつける理由だった。

 実果乃こそが、【空の王】(アクロリクス)の全てを解き放ち無敵となった茜の、唯一の急所だからだ。


「――“唐菖蒲(グラジオラス)、咲き誇れ”!」


 攻めあぐねる航と茜。その苦悶を切り裂くように、地面を伝搬し放たれた拡張斬撃。それは航と真言、茜と実果乃の間を縫うように舞い上がり、航と茜は花道へと、真言と実果乃はセンターステージへと後退した。


 その中間地点に降り立ったのは、“スケアクロウ”――防毒面(ガスマスク)型丙種兵装“嘴”(クチバシ)にて顔を隠した芽衣だ。

 風を集めて噴出することで推進力を得られる新型の外套(コート)型乙種兵装“戦”(ソヨギ)に身を包み現れた彼女の姿は、寧ろ敵と認識してもいいほど奇怪だ。

 しかしメインステージを背に、縮み上がったRUBY(ルビ)を護ろうと前に立つその姿は観客(ファン)たちの目には敵として映っていない。

 観客(ファン)はいまいちこの状況がどういう状況か、理解できていない。ただ、RUBYB(ルビ)のメンバーたちの様子から、サプライズ演出などではなく、本当に予期せぬ出来事が起きてしまっているのだと固唾を呑んで動けないでいた。


 一方で。

 それぞれのスクリーンに映し出されたそれぞれの場所でも。

 それぞれの調査チームがそれぞれの敵と対峙していた。


「どうやら跳ばされたな」

「冗談きッついぜェ」

「キェエエエエエ!!」

「グゲェ、グゲェッ!」


 WOLF(ウルフ)FOWL(フォゥル)1st(ファースト)チーム八人に加え、霧崎鈴芽を含む魔術士集団十一人の計十九人は十二月頭の襲撃同様に異界の森の中にて複数体の幻獣と。


「御機嫌よう」


 二階の渡り廊下ではWOLF-2nd(ウルフ・セカンド)FOWL-2nd(フォゥル・セカンド)の八人が、アリフおよびリニと。


(跳ばされた――私だけ?)

陣形(フォーメーション)を崩すな、敵は一人だ、必ずやれるっ」

「「「はいっ」」」


 屋上では、WOLF-3rd(ウルフ・サード)FOWL-3rd(フォゥル・サード)に強制的に転移された心を加えた九人が、たった一人の愛詩と。


「ここでお前かよ」

「……正直僕も、まさかあなたたちとやり合うことになるとは思ってませんでしたよ」


 メインエントランスへと続く、赤い鉄骨の真下の正面玄関では、奏汰率いる四人の調査チームが()()()()の真言と。


「準備は整ったようだし――ちょっと先走り(フライング)はあったけどまぁいいよ」


 交戦が。いや、抗戦が始まる。


「さぁ――やろ?」


 合図とでも言わんばかりに現れたのは、しゅるりと回転して浮かび上がる、極彩色の毬。

 それは乱回転を見せながら夷の周囲を旋回して頭上へと舞うと、その周囲に夥しい数の投擲剣(ダガー)を現出させた。


「――護り切って見せてよ」

「させるかっ!」


 紫陽花を握らない左手を突き出し、親指と中指とを擦り合わせた航は即座に体内に霊脈(レイライン)を築き上げ、指を弾くと同時に解放する。

 唱える術式は単音節のいつものそれだ。


「――“爆震”(ブラスト)ォォォオオオッ!」


 毬を中心に衝撃が爆ぜ、幻想の投擲剣(ダガー)は全てが(ひしゃ)げ、塵となった傍から霊銀(ミスリル)に還元されて霧消した。

 そこで漸く眼前で繰り広げられているのはごく小規模の戦争であることを認識した観客は絶叫して各々が我先にと出口を目指して遁走する。


「あーあ、やっちゃったっ」


 避難誘導を敢行しようとする施設警備員やイベントスタッフを押し退けホールの出口に跳び付くも開かない事実に打ちのめされ、会場は喧騒に包まれる。

 しかし次の瞬間、凪いだ水面のように静けさを取り戻したのは、夷が拡散させた“無”の力で以て逃げようとする意思を打ち消したからだ。


「護る側ならさぁ、もうちょっと考えて行動してもいいんじゃない?」


 歯噛みする航をじとりと睨み、しかし夷の顔はすぐに微笑みを取り戻す。


観客(みんな)観客(みんな)だよ。これからRUBY(ルビ)のみんなも知らないサプライズな発表があるんだから、耳かっぽじってよぉく聴いておかないと――」


 意地の悪い視線はそして、メインステージに立ち尽くすはららに向けられた。


「ああ、ごめんごめん――一人は知ってたや」

「やめて」


 察したスケアクロウが制止の声を上げ前に踏み出る。しかし瞬時に接近した物言わぬ真言の振り抜かれた一閃を避けるために後退し、結局夷に近付くことは出来ない。


「わたしからすれば何で秘密にしてんだか解んないんだけどさ――リーダーの土師はららってコ、魔術士なんだって。しかも、死霊を操る骸術士(ネクロマンサー)なんだってさ」

あと一話書きたい……書きたい……


→次話 4/23 7:00公開です。


宜候。

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