Track.7-45「……いいぜ、手を組もう」
とまぁ、前置きがすこぶる長くなってしまったけれど。
ぶっちゃけて言えば、オレはもう森瀬の物語についてはそこまで興味が無い。
そんなことよりもオレが心底腸を煮えくり返すべき大問題が起きてしまったからだ。
「知ってたら教えてくれよ――実果乃は何であんなことになってんだ?」
騒めき立つ駅のホームを離れ、元いた駅ビルの喫茶店に腰を落ち着け直したオレたち――オレと、そして糸遊愛詩。
オレは目の前のテーブルに置かれたトレイの上の珈琲が、まるで自分の感情のように思えて自分で頼んだにも関わらず手をつけることが出来なかった。
糸遊さんも同様に、頼んだもののアールグレイは透き通った琥珀色をしているままだ。
「……比奈村さんは殺害され、……その遺体を、私たちの仲間の一人が蘇生させました」
「蘇生じゃねえだろ」
黒い感情が言葉に載る。どうにか叫び上げることを耐えたとして、そればかりはどうにも出来なかった。
「あれは――異骸だった」
「……そうです」
テーブルの対面に座る可愛らしい顔は今にも泣きそうだった。それを見てさえ、今のオレはこの顔をぐちゃぐちゃのぼこぼこにしてやりたいくらいには憤っていた。勿論、そうしたとしても何の意味も為さなければ、憂さ晴らしにすらならないってことも知っていた。
「何で殺害されたんだ?」
「……事の経緯は、10月頭のRUBYの握手会です」
「小火騒ぎがあったってやつか」
「はい――――そこで彼女は、……比奈村さんは、二期生メンバーの星さんのレーンに並んでいたんです」
その時点で、何となくその事件の結末は予想が出来た。本来であればその対象は、森瀬の筈だったのだから。
しかし森瀬は今はRUBYにいない。だから実果乃は、その矛先を最も森瀬と仲の良かった星に向けたんだろう。
でも問題はそこからだ。
じゃあ、誰が比奈村を殺したんだ――
「……リーダーの、土師さんです」
「……どうやって?」
「炎術です。事態を察知した土師さんが、収束した熱線を放って……」
「小火はそれが原因か」
「……はい」
次の問題。
じゃあ何故その報道はされなかったのか――
「オレも偶々ニュース見てたけどさ。でも比奈村が殺して殺されたって報道も、星さんが殺されたってニュースも無かったよな?」
「……それは、夷ちゃんがやりました」
「どうやって?」
「その場にいた全員の記憶から、その部分だけを抹消したんです」
次の問題。
どうして星さんと実果乃が動いている――
「二人を異骸化したのも、リーダーの土師さんです。土師さんは骸術士で……」
「なるほど。オレたちが次に戦うのが土師はららってことか」
「え?」
半人半馬の王――――これは9月の異界攻略で森瀬とヨモさんの2人がやった。
巨人――――これは10月の異界攻略。
そして。
死霊魔術師と亡者の軍勢――――これが、オレたちが次に挑む敵だ。
「……きっちぃな」
押し黙ってしまった糸遊さんを他所に、オレは頭を抱えて嘆息した。
あの物語に描かれていた“亡者の軍勢”が何を指すかは現時点では解らない。
ただ、それが間違ってもRUBYメンバーじゃないことを祈るばかりだ。
「あの、」
「何だよ」
「……ごめんなさい」
「何でお前が謝んだよ。お前が謝ったら実果乃が戻ってくんのか?」
我ながら最低の物言いだ。
こいつが悪いわけじゃないことは知っている。オレの目で視るこいつは、自ら進んで悪事に手を染めるようなやつじゃない――それは、こいつの体内を巡る霊銀の淀みの無い流れが証明している。
でも、だからこそオレは疑問だった。
そんな奴が何で、実果乃をあんな風にした奴を“仲間”だと言い張り、そして四月朔日夷の凶行を幇助する?
と、そこまで考えて、唐突に降って湧いた解にオレは目を丸くした。
「――ああ、そうか。お前、だから犠牲を出したくないのか」
単純な話――――糸遊愛詩という魔術師は、友達の正しい殴り方を知らないのだ。
◆
げ ん と げ ん
Ⅶ ; 幽 玄 と 夢 幻 ―――――Episode out.
next Episode in ――――― Ⅷ ; 幻 滅 と 元 凶
◆
「お前、“結実の魔術師”だって言ってたよな」
「え?あ、――はい」
「“結実の魔術師”ってのは、……あー、うろ覚えだから間違ってたらごめんな。願いの叶え方を知れる魔術師、ってことでいいんだっけか?」
民間魔術業務を始める際に受けた研修の中で聞いたことがある。
現在その存在が確認されている3種の魔術師号――不遇の三ゲンと呼ばれる、言術士・弦術士・幻術士から成る“神言の魔術師”・“結実の魔術師”・“無幻の魔術師”。
“神言の魔術師”は100%の相互理解を。
“結実の魔術師”は願いの叶え方に対する理解を。
“無幻の魔術師”は無から有を生み、また有を無に帰す力を。
それを可能とし、そしてそれぞれがそれぞれの真理の一端に到達するのだと言う。
いや、逆か――真理の一端に到達したのだからこそ、その力を得るのだとか。
「つまりさ、――――それしか、方法が無いってことなんだな?」
糸遊さんは力無く、だけれど確りと頷いた。
彼女にとって、四月朔日夷の願いを叶えるには比奈村実果乃を犠牲に――異骸にするしかなく、そしてオレたちが死霊魔術師と亡者の軍勢を討ち倒すしか解が無いのだ。
「……いいぜ、手を組もう。ただしオレが手を組むのはお前だけだ。お前の仲間は知らないし、四月朔日夷は論外だ。あと、うちの内通者も」
「……ご存じ、だったんですね」
「そりゃあそうだろう。RUBY側とクローマーク側のどっちにも内通者がいなけりゃ襲撃の用意周到さが説明つかない。まぁそれも、何となくは目星つけてるけどさ」
糸遊さんの目尻が赤くなっていく。体内の霊銀も、彼女の感情の揺らぎを受けて振動を強めている。
感極まっているんだろうが、多分感謝じゃなくて申し訳なさだ。そういう霊銀の揺れ方だ。
「ただし、ひとつだけ条件がある」
だからそれをつきつける。厚意から出た約束なんかじゃないって示すために。
「条件、ですか?私に出来ることなら……」
「ああ、それはもうお前にしか出来ないことだ。“結実の魔術師”なんだろ?」
あくまでオレはオレだ。
オレの今の最大の目的は、実果乃を救うこと。その延長線上に森瀬や四月朔日夷の物語が展開されているんならそこまでは付き合ってやっていい。
そしてそのためには、オレはオレの物語を読み解かなければならない。
“空の王”を、正しく読まなければならない。
第7章、完!
第8章の始まりまで、少しお時間をいただきます。
⇒次話 更新日時未定とさせてください。
宜候。




