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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅶ;幽玄 と 夢幻
203/300

Track.7-28「何やってんだよ」

「怯むな!相手は巨獣だが手負いだ、散開っ!」

(おう)っっっ!!!」


 先頭に立つ銀髪の男が()え、8人の騎士達は各々の武器を構えながら足早に魔獣を取り囲む立ち位置へと急ぐ。

 鈍い月明かりを浴びて、ぎゃらりと照り返る長剣(ロングソード)板金鎧(プレートアーマー)――魔獣を正面に見据える銀髪の男はさながら“銀色の騎士”だ。

 彼だけでない――他の7人もまた、銀髪ではないもののその装備は濁りの無い清廉な銀光を帯びており、彼同様に“銀色の騎士”と称されていたとしてもおかしくは無い。


 しかし、彼らは“銀色の騎士”と()ばれたことは無い――彼らを総称する、それよりも相応しい名称がすでにあるからだ。

 彼らの名は、“聖天騎士団”――――大陸全土に流布する強大な一神教の教団が抱える騎士団だ。今その戦場にて魔獣と相対する8人はその小隊のひとつに過ぎないが、聖天騎士団の多くは大陸全土に法皇からの命を受け巡礼と救済の旅を続けており、しかしそれらが全て集結すれば終息させ得ない戦争は無いと言われるほどだ。

 団を構成する騎士の一人一人が武芸に秀で、また洗練された“聖蹟”(スティグマ)――教団では霊銀(ミスリル)を操って行使される魔術のことをこう称している――の使い手だ。


 彼らは“煉躰の聖蹟”(スティグマ・ソーマ)――魔術士で言うところの躰術――を駆使しながら迅速に陣形に位置すると同時に、それぞれが構える武器――剣や盾、斧槍や戦鎚、弓をも“屠竜の聖蹟”スティグマ・スファーギにより強化した。

 元より彼らが身に纏う鎧も、その手に構える武器も、そのどれもが魔を祓い魔を弾く聖別された兵装だ。聖蹟(スティグマ)による強化が無かったとしても特に魔獣に対しては強力無比な対抗手段になり得る。


 取り囲まれた邪眼の魔獣(バジリスク)はだからこそそれまで敵対していた(トリ)の検索を止め、周囲の8人を()めつけた――新たに出現した敵だと認識したのだ。

 そして、開いた上眼に霊銀(ミスリル)を集中させると、辺り一帯に迸る雷条を放出する。荒れ果て渇き切った荒野の土を雷電が焼き焦がし、閃光と雷鳴とが周囲を白ませ・黙らせた。


 しかし聖天騎士団の8人はその雷撃をそれぞれで躱し――――長剣(ロングソード)を構える銀色の騎士は空を舞っていた。


「おおおおおおおおおお――――――――ッ!!」


 聖蹟(スティグマ)により尖鋭強固となった刃はいとも容易く魔獣の岩壁のような鱗を両断し、肉を裂いて骨を割った。

 それに続くように双剣を構える黒髪の女が反対方向から右肢を回転する剣舞で以て撫で斬ると、魔獣の反撃をいち早く察知した単発の巨漢が重厚な斧槍の薙ぎ払いで顎先の骨を砕く。

 見開いた左目には赤髪の女が放った三本の矢が次々と刺さり。その刺さった矢ごと、小柄な娘の振り下ろした戦鎚の一撃は魔獣の邪眼を叩き潰す。


 (たま)らず蹈鞴(たたら)を踏む魔獣のよろめきを逃がさず、銀色の騎士は長剣(ロングソード)が纏う霊銀(ミスリル)の輝きをさらに強めると、(かが)めた膝を伸ばし地から天へと伸び上がる斬撃の波濤(はとう)を見舞う。

 その白銀色の斬痕は刃渡りをゆうに超えて魔獣の巨体を通過しなおも空へと伸びる――当然、斬撃なのだから魔獣の左腹部は背中にかけて巨大な裂創を負い、土煙を上げてその巨体が地に膝を着く。


“清き風の福音よ”カサリスモス・アネーモウ!」


 陣形の奥、無手の娘が両手を胸の前で組む祈りの姿勢(ポーズ)(うた)うと、荒野の戦場に一陣の風が吹き、魔獣の巨体の至る所から溢れ出す血煙毒は瞬く間に浄化されていく。


 半ば伏している魔獣の未だ立つ右側を、回転する剣舞の黒髪女騎士とともに闘士のような異色の剃髪騎士が白く輝く拳を叩き込み。


 赤髪の女同様に、黒く縮れた長髪の騎士は両掌から霊銀(ミスリル)を収束させて創り上げた戦輪(チャクラム)五月雨(さみだれ)のように投じる。


「ゲギァ、ギョルオオオォォォオオオオオオ!!!」


 駆逐されていく。

 遥かに(おお)きく、強靭で、堅固で、(あまつさ)え四つの邪眼と血煙毒を持つ魔獣が。

 矮小で弱者な筈の人間に、(ほとん)ど何も出来ないも同然の如く駆逐されていく。

 その様子を、(トリ)はただ静かに見つめていた。


 違う。

 あれは、そうじゃないと。

 矮小な弱者等では無く、殺戮と蹂躙に洗練・特化された化け物たちだと。

 それが徒党を組んで手に入れた数と言う名の暴力を殺意のままに振り回しているのだと。


 ひどく落ち着いた思考でただ、(トリ)はそれを見ていることしか出来なかった。



    ◆


 ()()()()へと向かいながら、「成程な」とオレは独り言ちた。

 確かにそれなら、何もかもに合点がいく。


 どうして(アキラ)は行方を(くら)ましたのか————表に出られない姿形になってしまったからだ。

 常盤さんの話が真実かどうか、それを確かめる(すべ)はオレには無いし、それが嘘だったらどんなにいいかって今でさえ思わずにはいられない。

 それでもその話は多分本当のことで、暁は体内に埋め込まれた霊珠(オーブ)のせいで霊銀(ミスリル)汚染とやらに侵されて異獣化(アダプタイズ)とやらが始まっているんだろう。

 常盤さんの話によれば、魔術士の総本山――という言い方をすると多分に語弊があるらしいけど――である“魔術学会”(スコラ)には、“異端審問官”(インクィジター)という魔術を悪用する輩を断罪する役割を帯びる者がおり、そして学会(スコラ)は世界中の魔術士に対して目を光らせている。だから、そんな状態にある暁の姿が露見してしまうと、彼らによって処断されてしまう。つまり、暁が一切姿を見せなくなったのはそれを怖れているからだ。


 どうして征英学苑の生徒ばかりが狙われたのか————同じく通う征英学苑の生徒の情報を、より容易く入手できたためだろう。

 オレでさえ、被害に遭った生徒たちのごくごく簡単な情報は掴めたくらいだ。おかげで、(アイツ)が何をしたくて、何をしたのか。それは大体解っているつもりだ。

 また、表に姿を現わせない(アイツ)でも、征英学苑なら身を隠しながら犯行に及べる――――つまり、(アイツ)の潜伏先はオレたちの通う学校、ってワケだ。 


 そこまで話が繋がると、一番最後の謎も勝手に紐解かれていく。

 姿を消した生徒たちの情報を追っているうちに気付いた、ただひとつの違和感。


 最初に消えた小薗井(おぞのい)レオ。

 二番目に消えた於保沼(おほぬま)晁生(あきお)

 三番目に消えた元木(もとき)真主良(ますら)

 四番目に消えた(もり)生弥(なれや)


 共通点なんて何一つ無いと思っていたけれど、でもこいつらは所謂“ヤンキー上がり”で、それぞれに面識なんか無かったけれど、それぞれが中学時代に素行の悪さや虐めなんかで名を知られていた奴らだ。

 今では大人しくなった奴もいれば、一応クラスメイトの小薗井みたいに、過去の栄光を振り翳すように悪ぶって振舞っている奴もいた。


 でも、五番目と六番目に消えた馬坂(うまさか)倫子(のりこ)濱堂(ひんどう)エリカは違う。

 彼女たちは“ヤンキー上がり”なんかじゃなく、寧ろその正反対の、真面目で大人しい優等生で。

 そして、暁が入部した“天文部”に同じく所属していた。


 そう。


 天文部だった。

 それまでに消えた四人とは全く違う、ただ星空が好きな、ただの女子高生二人だった。


 天文部はその部活内容の一環に“天体観測”を含む。

 そのため、一般生徒は立ち入りできない屋上のドアの鍵を貸与され、管理している――昼休みは解放されているため、ぶっちゃけそれってどうなの、とはよく言われているけど。


 (アイツ)は――――きっと、奪ったのだ。

 一番目から四番目までに共通していた、“悪を討つ”という最低だけど最低限の(こころざし)すら忘れるほど、(アキラ)とは違う()()()に成り果てた。


 ああ――


 ――――頭が痛くて、


 ――――――――眩暈がする。



 だから。


 残る謎は、あとひとつくらいだ。多分、もっと他に解き明かさないといけないことはあるんだろうけど、頭痛に塗れたオレの脳味噌で訊けることはあとひとつくらいしか無い。


 そしてオレは、階段を上り切ってドアノブに手をかけた。鍵はかかっていなくて、何となく(アイツ)とよくここに来ていた昼休みを夢想した。

 開け放たれた屋上の天蓋は暗い闇色をしていた。当たり前だ、今何時だと思ってるんだ、零時(てっぺん)回ってんだぞ――心の中で独り言ちたのは、きっと目の前の()()をあまり意識したくなかったからだ。


 それも、でも、やっぱ無理だな。

 どれだけ変わり果てていようと、()()(アイツ)だって判ってしまう。

 判った途端に、撃鉄が落ちるように涙が零れる――――再び会えた喜びか、それともその姿を見ての絶望かは知らない、知りたくもない。


「……茜、」

「馬鹿野郎っ、お前――――何やってんだよ」


 あの小さく可愛らしい少女のような様相の少年はいない。

 ただ、熊のように(おお)きく直立した猛禽類のような化け物が、(アイツ)の声音で呟いた。

この章めっちゃ長いです。まだ終わりが見えません。


→次話 2/12 0:00公開です!


宜候。

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