表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅵ;厳戒 と 限界
173/300

Track.6-33「その言葉を信じたいと思います」

 そもそも、骸術(ネクロマンシー)とはその字義通りの、“死体”(ネクローシス)による“占い”(マンシー)であり、その源流(ルーツ)呪術(カースマンシー)同様、“霊的な接触・類似の概念を利用した人探し”とされている。

 探したい者の所有物や身につけていたものを通じて、その者がどこにいるかを探る魔術だったのが、失踪した者を探し出しそれが死んでいたという結果が多く見受けられると、やがてそれは“死者を探す魔術”として広く知られるようになった。無論、故人の遺失した遺品や隠された遺産を探すこともあったが、やはり“死者を探し出す”というイメージが先行して横行した。


 はるか遠い昔、魔術は全くと言っていいほど細分化されていなかった。

 死体探しを行う魔術士は同時に、傷ついた人を癒す療術士(ドクトマンサー)であったり、(まつりごと)にかかせない祭器――神器(インペリオ)契器(ロサリウム)霊器(レガリス)を昔は一緒くたにそう呼んでいた――を創り上げる器術士(ヴェセルマンサー)であったり、あるいは符術士(タオイスト)巫術士(シャーマン)呪術師(カースマンサー)言術士(ワードマンサー)幻術士(ミスティファイア)などであったりした。

 そして死体を探し出し、遺族が乞う見込みの無い治療のために療術士(ドクトマンサー)賦術士(オブラトマンサー)でもある骸術士(ネクロマンサー)が魔術によって死体に霊銀(ミスリル)を注ぎ込んだ結果、霊銀(ミスリル)汚染が起こり異骸(リビングデッド)が創られ、それにより骸術士(ネクロマンサー)は現代に想起される骸術士(ネクロマンサー)へと変貌していったのである。


 骸術士(ネクロマンサー)がやがて禁忌の魔術士として認知・指定されたのは、(ひとえ)に“死体を戦力とする”ことが出来るからであり、そしてそれはひどく冒涜的で、人間の尊厳を著しく奪う所業であった。

 しかしそれでも骸術士(ネクロマンサー)になる者が絶えなかったのは、人が何よりも死を恐れていたからであり。

 いつか死を覆すことを夢見、待ち望んでいたからだ。


 とは言うものの。

 骸術士(ネクロマンサー)は“死者を蘇生する”魔術士では決して無い。そもそも、死者とは蘇生されないものであり、死とは覆らないものだ。

 もし死が覆るのであれば、逆説的に生も覆らなければおかしい話となる。そして覆った生とは、つまり何者も生まれない無の地平に他ならない。


 骸術士(ネクロマンサー)が死体に魔術を施して異骸(リビングデッド)へと変貌させても。

 それは生前のソレの記憶の一部と僅かな性格・性質を受け継いだだけの異なる存在だ。

 剰え、死体の鮮度と骸術士(ネクロマンサー)の力量によりどれだけそれを受け継げるかは左右される。

 長い年月を経て物理的あるいは霊的に風化した死体は、霊銀(ミスリル)を注ぎ込んだとしても生前のソレとは似ても似つかないただの化物にしかならず。

 また、秒刻みで術を施したとしても、骸術士(ネクロマンサー)の術理が拙いものだとやはり同じ結果となる。


 それでも。

 悪しき骸術士(ネクロマンサー)にしてみれば、戦力となりうる化物を生み出せるだけで大したものだ。生前のソレと似通っているかどうかなどは二の次だ。

 無論、故人を生前の人となりに似せることに意味がないわけではない。裏社会に名を馳せる骸術士(ネクロマンサー)にはそのような依頼も入ってくるからだ。そしてそれらの依頼で使われる異骸(リビングデッド)が真っ当な目的で使われることは一切無いと言っていい。


 現代、魔術の系統が細分化された魔術業界においては。

 骸術士(ネクロマンサー)とはそうであるというだけで“悪”と見做(みな)され――しかし人間が根源から持つ飽くなき探究心により、“死者そのものを蘇生させる”という不可能な領域へと至るために研究と研鑽がなされ続けている。

 魔術学会(スコラ)は術を行使することを禁忌には指定しても、それを研究することは一切咎めない。何故なら悪道を抜けた先にこそある秘奥もまた、真理の一端に相違ないからであり、そして力や知識はそれ単体では悪ではなく、その使い方にこそ悪が宿ると考えるからだ。


 だから。


 骸術士(ネクロマンサー)であると土師はららが認めたところで。

 それはただそれだけのことであり――四方月航は、ただそれだけのことではららを、またそれを知っているか知らないでいたかに関わらず、彼女を擁するリーフ・アンド・ウッドを責めることは無かった。


「先程も言いましたが、問題なのは土師さんが骸術士(ネクロマンサー)であることではなく、それをひた隠していたということはRUBY(ルビ)を襲撃した敵陣営の仲間、つまり内通者なのではないか、ということです」

「それは――――有り得ません。私がRUBY(ルビ)を貶めるようなことは絶対に有り得ないです」


 その遣り取りの裏で、航は心に無音通信で瞳術を行使するよう指示していた。

 瞳術の名は【心眼】(マインドサイト)――生まれ持った洞察力を極限まで高め、人が何らかの動作に移る僅かなその()()()|を未来予知に近いレベルで知覚したり、またほんの些細な違和感を視認してそれにより虚偽や秘匿を見抜くものだ。

 瞳術士(キクロマンサー)として大成している魔術士の【心眼】(マインドサイト)はやはりずば抜けており、どんな名優やどんな詐欺師も一流の瞳術士(キクロマンサー)の前では嘘を突き通せず、真実を隠匿することすら出来ない。

 心もやはり付け焼刃ではあるが相当な精度の【心眼】(マインドサイト)を有しており、そしてその瞳術を宿した右目は、はららの言葉が()()()()()ことを示した。


『四方月さん、土師さんは嘘を吐いていません』

『そうか、分かった――――ありがとうございます。私共も、その言葉を()()()()()()()()()

昨晩は寝落ちしてしまいました。申し訳ない。


→次話 9/4 3:00公開


宜候。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ