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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅵ;厳戒 と 限界
172/300

Track.6-32「否定はしません。現に、私は骸術士ですから」

「リセ、どうしたの?」


 はららが訊ねる。それに、ごにょごにょと誤魔化して芽衣は会議の進行を促した。


「それでは、元メンバーである森瀬さんの素性が割れてしまった件についてですが」

「それは私からお話させていただきます」


 議題を掲げた煤島に、航が揚々と声を上げる。

 隣で芽衣は、直視しないまでも、目端ではららの様子を伺っていた。


 はらら自体からあの“死の片鱗”が漂っているのではなく――その()()が薄っすらと張り付いているのだ。

 まるでそれは魔術痕――魔術を行使した後の、霊銀(ミスリル)の揺らぎだ。


「きっかけは今朝方の襲撃において、二期生メンバーを警護するうちの森瀬が襲撃者に対し異術を行使した際に、二期生メンバーの1人、星藤花さんがそれを視認し、その後森瀬に直接連絡をし、確認したそうです」

「星が?」

「ええ――何でも、星さんは以前に、森瀬がその異術を行使するところを見たことがある、とのことでした。そうだったな、森瀬?」

「はい……あの、あたしがまだ在籍中に……土師さんは覚えているかもしれませんが、あたしが自主練中にトーカに付き合ってもらった時に、転んで……」

「あの、トーカが手を上げそうになった日?」


 はららの問いに芽衣は首肯する。


「あたしもよく覚えていなかったんですけど、どうやら鼻を床にぶつけて血を出したらしくて……」

「うん、すごかったよ、ドボドボ出てた。だから最初は、トーカが本当に手を上げちゃったんじゃないかって吃驚したもん」

「あ、いえ――トーカは、手を上げてません。それだけは絶対に、無いです」

「わかってるよ。それで、血を出して、どうしたの?」


 芽衣は口ごもり、隣席の航を見た。

 航はその目配せに一度頷き、彼女の言わんとしていることを代弁する。


「森瀬の異術は“自決廻廊”シークレット・スーサイドと言って、血液を介した非常に特殊なものです。掻い摘んで説明すると、森瀬は流した血を操作し、それを赤い蜉蝣に変えて指定した対象に飛ばすことが出来ます。対象に接触した蜉蝣は対象に浸透し、対象に森瀬に対する憎悪を植えつけることが出来る――(おおよ)そ、そんな術です」

「……だからあの日は、きっとあたしが無意識にその術を行使してしまって、それがトーカにかかっちゃったんだと思います。トーカは、だから、何も悪くない。悪いのは」

「その日誰が悪かったかなんて議題じゃねぇよ」


 芽衣の言葉を遮り、航が言い放った。

 ぐっと唇を噛んで、芽衣は口を噤む。


「話が逸れましたね、すみません」

「いえ……」


 気圧された煤島が、呟くように声を漏らした。


「森瀬は当時、自分が異術士である自覚はありませんでした。こいつがそれを自覚したのは今年の4月、そしてそれを制御(コントロール)できるようになったのは今年の5月の話です――星さんには、気の毒としか言いようがありませんが、つまりはそういうことです」

「そう、なんだ……」

「ええ、そうです、土師さん。森瀬は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――――えっ?」


 異口同音で、驚きを漏らす芽衣とはらら。煤島も、運営チーフの齋藤もまた、同様に驚愕を表情に灯していた。


「実を言うと、今回のこの会議をこの時間に設定させていただいたのは、私が忙しかったから、というわけではありません。いや、そう言うと語弊があるな……忙しくなってしまったのは確かなので……まぁ、いいでしょう。とにかく、時間が必要でした。RUBY(ルビ)メンバー全員に対して、その素性を調査するだけの時間が」


 告げ、航はインカムを通じて心を呼びつけた。

 すぐにドアをノックする音が響き、外套(コート)型の兵装に身を包んだ心が、合点がいかないといった表情で姿を現す。彼女自身、何故呼びつけられたのか解っていないのだ。


「うちの鹿取はひょんなことから高性能の瞳術を宿せる眼を手に入れまして……で、うちのオペレーションシステムはその眼と接続(リンク)することで、鹿取が見ているのと同じ景色を視ることが出来ます――――土師さん、あなた魔術士ですよね?それも、骸術士(ネクロマンサー)だ」


 その場にいる、航以外の者で目を見開かせない者はいなかった――いや、いた。

 土師はららはその言葉を飲み込むと、涼しげに目を伏せた。それまで纏っていた虚飾を、取り払ったのだ。


「鹿取、()()()()()()の件について後で話がある。退勤後、(つら)ぁ貸せ」

「……はい」

「ああ、下がるな。まだここにいろ」

「……わかりました」

「すみませんね――それで土師さん」

「あの、」


 どこか吹っ切れたような、涼しい顔で航を制したはららは、続けて疑問を投げかける。


「その、鹿取さんという方の瞳術で私が魔術士であることが露見したことは納得しました。四方月さんの仰る通り、私は魔術士です。でも、どうして私が骸術士(ネクロマンサー)だと、判ったのでしょうか」


 航は溜め息を吐いた。


「――それだと、肯定、ってことになりますけど?」

「否定はしません。現に、私は骸術士(ネクロマンサー)ですから」


 静まり返った会議室内に、ただただ航の吐いた溜め息の音だけが蔓延する。


「OK、判りました、説明しましょう――」


 そして航は、淡々と今朝の襲撃の後から現在までの間に進めてきた調査の概要を話した。

 それはごく単純な話で――航はその名を伏せたが、単に常盤(トキワ)美青(ミサオ)に協力を仰いだ、というだけの話だった。


 常盤美青――“羅針の魔女”(クロノス・ウィッチ)の異名を持つ異界創造者(魔女)にして、時を司る術師号(ワークス)を持つ“時空の魔術師”(クロックワークス)

 どれだけ切羽詰まった状況だろうが、彼女にしてみればいつだって十二分に猶予は残されている。


 スタッフ内、或いは社内に内通者がいると踏んだ奏汰と航は、当初はメンバー内には内通者がいるとは考えていなかった。

 しかし峠縁佐那(オペレーター)はOSの画面に表示された鹿取心の右目の視界を見て異変に気付く――星藤花の生命力が一切検知されないのだ。


 そしてクローマーク社のインカムは無音通信と呼ばれる、心の内での思念による通信を行うことが出来る優れものだ。その無音通信に強制傍受機能が備わっていることは社内の一部の人間しか知らない。


 情報源は鹿取心だった。彼女が想起したいくつかの藤花に対する疑問視はそのまま筒を抜けて統括本部に伝わった。

 それをその場で直ぐに心に確認を取らなかったのは、心から報告が無かったこともある。

 しかし最も大きな要因は、航には心がクローマーク社や警護対象よりも芽衣を優先するだろうと予測していたことにある。

 その予測が間違っていれば。心から報告があれば。もっとスマートなやり方はあったかもしれない。

 しかし現実はそうでなかったのだ。

 賢い心は、その解をすでに手に入れている。だから落ち着いているし、落ち着かなければならないと自分に言い聞かせる。

 航は、職務にただ忠実なのだと。


「調査した結果、RUBY(ルビ)に魔術士を根源(ルーツ)に持つメンバーはあなたしか見受けられませんでした。日本の魔術士業界において、土師家と言えば有名だ。勿論、あなたがそうだとは全く思ってませんでしたが」


 土師。

 その名は古く、4世紀頃の歴史に登場する。


 相撲の神、とも呼ばれる野見宿禰(のみのすくね)を祖とする氏族であり、古来より天皇に仕え葬儀を取り仕切る要職を担っていた――というのが歴史書から垣間見える土師一族の根源(ルーツ)であり、そして魔術士としての土師一族の根源(ルーツ)も、彼らが取り仕切っていた葬儀である。


 当時の天皇である垂仁天皇の皇后である日葉酢媛命(ひばすひめのみこと)が亡くなった際、仕える者の殉死を禁じていた天皇の悩みに対し、殉死者の代わりとなる“埴輪(はにわ)”を考案し創り上げたのが野見宿禰だ。


 しかし実際には、魔術を修めていた野見宿禰は、その埴輪に仮初の命――生命力に転換された霊銀(ミスリル)を注ぎ込んで自在に動かし、殉死者の依り代としたのだ。

 葬儀を取り仕切ることになった土師一族は埴輪を考案・創作したことで買われたのではなく、まるで神のように命を無生物に吹き込んで動かす、骸術(ネクロマンシー)の遣い手だったからこそ天皇の傍に置かれたのだ。

一応明記しておきますが、この物語はフィクションであり、

物語中に登場する人物・団体は架空のものであり、実在の人物・団体と関りは一切ありません。

なのでこの物語に出て来る野見宿禰とか土師氏とか天皇も、現実のそれと一切別物なのですよ。


→次話 9/3 3:00→12:00公開です。(寝落ちしました)


宜候。

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