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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅵ;厳戒 と 限界
170/300

Track.6-30「ただ、もう少しだけ様子を見させてください」

 RUBY(ルビ)のクリスマスライブ映像の収録は一時中断となった。

 グループのスケジュールが()()に漏れていると判断した警護本部がリーフ・アンド・ウッドに対してそう進言したからだ。


 RUBY(ルビ)の運営スタッフもしくはクローマーク社内に内通者がいる――そう判断したのは航と奏汰だ。

 内通者がおり誰がそれであるかが判らない以上、次の襲撃が来ないとも言い切れない。


 内通者がいるとすれば――RUBY(ルビ)運営スタッフかクローマーク社のどちらかだろう、というのが航と奏汰の見解だ。そして航から指示を受けた、現在RUBY(ルビ)二期生の警護中である鹿取心は、しかしその指示の直後にこう告げた。


『――それが内通者である証左になるかはわかりませんが、普通とは異なる霊銀(ミスリル)の揺らぎを持つ方がいます』

「マジか?」

『はい……ただ、もう少しだけ様子を見させてください。退勤時に報告します』

「分かった」


 スケジュールが急遽大幅に変更になったRUBY(ルビ)。異界から離脱した一期生は現在まだクローマーク社内にて保護されているが、移送の手配が整い次第事務所へと戻る予定だ。

 そして二期生はすでに事務所へと移送を開始している。


 事務所に戻った彼女たちがこの後どのような動きになるかはこれから話し合われる。

 こういった話し合いは基本的に運営スタッフの間で行われるが、RUBY(ルビ)に関してはリーダーである土師はららが常に会議に参加する。はららはステージの構成や演出にも関わっており、アイドルとしての肩書に囚われず、出来ることは何でもやるという姿勢をリーダー襲名当時より貫いている。もはや彼女はRUBY(ルビ)の運営・決定にいなくてはならない存在となっており、彼女自身、グループ卒業後は裏方に回ることを現スタッフと話している。


 時刻は正午を回ったころだ。漸くクローマーク社の表に、2台の大型観光バスが到着した。

 このバスに二手に分かれて乗り込み、事務所へと向かうのだ。追加で、前後に乗用車を1台ずつつけ、そこにも警護員が乗り込む。


 周到な準備で事務所へと向かった4台の車両――しかし呆気ないほどに何も無く、一同はリーフ・アンド・ウッド合同会社を包括するソニック・エンターテイメント本社ビルへと到着した。

 ソニック・エンターテイメント本社ビルの地下駐車場、そこから社員等関係者用の改札を通って――警護員は事前にIDを借り受けている――事務所フロア内のレッスン室で二期生メンバーと合流を果した。


 すでに時刻は14時を回っている。取り急ぎの処置として、本日の収録に関しては日時未定だが後日に回し、全メンバーが揃っていることでクリスマスライブに向けたレッスンを執り行うこととした。

 無論、個人の仕事がある者もいる。この日は一期生の赤田屋(アカタヤ)智花(トモカ)と二期生の鵜去(ウサリ)汐南(シオナ)がラジオ収録のためこの後移動を開始する。

 本来であれば担当の田能(タノ)火群(ホムラ)臥雁(フシカリ)世陣(ヨジン)の2名が同行する手筈だが、襲撃の可能性を考えてそこに魔術学会(スコラ)からの助言・監視役の1人である(コダマ)葛乃(カツノ)が同行することになり、マネージャーを含めた6人が車での移動を開始した。


 広いレッスン室には残りの14人のメンバーが集まり、ダンスの講師陣主導の下でダンスレッスンを開始した。

 同室内にてそれを見守る警護員は4人。3人が広大なフロアの廊下を巡回し、社屋の表――正面玄関前と車両出入口にそれぞれ2人ずつ、地下駐車場の出入口に2人、屋上での周辺警戒要員に2人、警護員の配置も統括である冴玖からの指示でそのように変更された。


 同時に。

 レッスン室内に配置された心は、航から別途“遊撃要員”としての指示を受けていた。

 その指示は、逆に心から進言したものであり。

 その結果によって、()()()()()()がある程度判る筈だった。


(――フロア全体を巡回する(てい)で、右目でメンバーとスタッフ全員を見て回る)


 脳内で自ら課し・与えられた指示を反芻しながら、心はソニック・エンターテイメント社屋のリーフ・アンド・ウッド合同会社のフロアを歩き回る。

 何も、運営スタッフだけが注視対象ではない――――何故ならその目には、すでに異常は映っている。


 しかしすぐにそれを報告しないのは、心の中で揺るがない優先順位からだ。


(確認したら、まずは先輩だ)


 芽衣は夕方には事務所を訪れる予定になっている。

 二期生メンバーの(ホシ)藤花(トウカ)に、“スケアクロウ(芽衣)”の素性が露見したからだ。

 そのため、芽衣が今後素顔を晒して警護を行うかどうかについても現在はららの参加する会議の議題に上がっている。

 その結果はまだ報じられてはいないが、おそらくはメンバー内では藤花とはららのみがその事実を知り、芽衣は引き続き“スケアクロウ”として勤務を継続するだろうと思われた。


 インカムで通じているため直接話を聞く意味は大きくは無いが、しかし心は正面玄関や屋上にも足を運び、労いがてら見落としているスタッフがいないかを確かめた。

 リーフ・アンド・ウッド合同会社のフロアはひとつだ。それ以外のフロアはソニック・エンターテイメントであり、緊急時以外は警護員は立ち入れない。借り受けているID自体はそういった緊急時に備えて全てのフロアに入場できるものにはなっているが、万が一企業秘密や知的財産権等に係る情報を入手してしまった責任を問われないためにも他フロアへの入場は厳禁とされている。


(事前にもらった名簿と照らし合わせても、抜けは無い……)


 心は大きく溜め息を吐いた。

 あと1時間もすれば敬愛する先輩・森瀬芽衣と顔を合わせることになる。

 その時――この事実を、どう説明すればいいのか。どんな顔で説明すれば正しいのか、心には自信が無かった。


 それでも。


 その事実を伝えなければ、芽衣に対して後ろめたさを抱くことになる。

 それは、その言葉だけを聞けば軽いものかもしれない。

 しかし心が芽衣に対して負い目を作ることは心からすれば在り得ないことだった。


 自分は救われた人間なのだ。

 救ってくれた者に対し、どうやって裏切ることが出来るのか。


 レッスン室へと戻った頃には、揺らぐ胸中は固まっていた。

 だから心は、改めてRUBY(ルビ)メンバーを見渡す。


 その()()に映る“異常”を、もう一度確かめるために。

先日は申し訳ございませんでした。

おかげさまで充電できました。


→次話 9/1 3:00公開です。


引き続き、宜候。

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