Track.6-26「恐ろしく察しが悪いですね」
「問題は、襲撃されたのが撮影場所だった、ってことだな」
一期生は横浜赤レンガ倉庫にて異界が開くという手段で。
二期生は埼玉紅陽大学キャンパス内で1体の異骸を差し向けるという手段で。
そのどちらも、魔術警護の人員が夜勤から日勤に引き継がれる朝の8時というタイミングで撮影が予定されており、そのタイミングでそこにスタンバイしたとほぼ同時に襲撃は行われた。
航はその日は夜勤の担当だ。それでも基本的に彼はほぼ毎日、朝から出社して魔術警護の状況把握に努めている。警護員たちの体調管理や万が一のスケジュール変更についても自分の仕事だと張り切り、自分の時間を最大限切り詰めているのだ。
無論、このRUBYの魔術警護が彼の勤めるクローマーク社にとって重要な依頼であることもその要因ではあるが、寧ろ彼にとってはその活動力の源は奏汰と似たようなものだった。
森瀬芽衣と四月朔日夷。
世界、と言ってしまうと語弊があるように思えるが、しかし彼の知る狭い範囲での世界ならば、確実に今、世界はその2人を中心に回っていた。
RUBYは森瀬芽衣がかつて在籍していたアイドルグループであり、やはり関連性がある。
今朝の襲撃も、恐らくは四月朔日夷が差し向けたものだろう――確証は無いが、航はそう独り言ちながら考えていた。
「では、やはり内通者がいると考えるのがセオリーですね」
「だろうな……」
クローマーク社2階の小会議室で航は合流したばかりの奏汰と長机を挟んで向かい合っていた。
間瀬チームが駆けつけたことにより、魔術学会による助言・監視役はそれまでの初1人から奏汰・葛乃・雀・リリィが加わった5人体制となる。そしてこの助言・監視役というのは、その名とは裏腹に“請負先が自由に使える戦力としてカウントして良い”という不文律がある。無論それを問い合わせたところで建前上突っ撥ねられるが、その裏の役割はちゃんと学会所属の魔術士が推奨してくるものだ。
方術士であるリリィは直接の攻撃手段が無いため統括支援として本部に置くため、現場に出せるのは奏汰・葛乃・初・雀の4人だ。
奏汰と航は、その4人の使い道についてを打ち合わせている中で、今朝の襲撃についてを話し合う流れに舵を切ったのだ。
「内通者がいるものとして――その内通者の所属がどこなのか。それも問題になりますね」
「どこ、というと――まずうちだろ?」
「ええ。次に、RUBYメンバー内ないしは運営スタッフのいずれか」
「そっちのが確率高そうだな」
「そうでしょうか?魔術士同士の契約は殆ど何でもアリですからね。脅しかけて頷かせれば、半ば強制的に命じられる雑兵も作れますよ?」
「知ってるさ。ただ、契約を交わすのも魔術だろ?だったら術具に行使履歴が残るだろ」
航のその言葉を聞いて奏汰はこれ見よがしに溜め息を吐く。呆れたその表情に、対する航はムッと眉根を寄せる。
「何だよ」
「術具の行使履歴なんてどうにでも出来ますよ――そもそも、異術士は術具を使わないので残りませんし、忘れましたか?相手は何術士ですか?」
「相手って――四月朔日夷か?」
「そうです」
「あー、確か……幻術士だったか?」
「そうです、幻術士です。一流の幻術士にとって、その程度の情報操作なんて朝飯前ですよ。特に四月朔日家は隠匿の幻術、負幻の使い手です。現すより消すことが得意な一族ですから――術具の行使履歴も見えなくすることが出来るでしょう」
感嘆した航の弛緩した顔に改めて溜め息を吐いた奏汰は続ける。
「しかし内通者が誰か、どこに所属している者か、という問題は直ぐに解決すると思いますよ」
「はぁ?何でよ?」
「鹿取心さんがいるからです」
「鹿取が?」
「PSY-CROPSの異界攻略の際、その最後に彼女は異界の核によって瞳術士に変貌させられたじゃないですか」
「ああ」
「あの構造を徹底的に調べてみました――PSY-CROPSの幹部連中もそうですが、あれはよほど魔術の才能に恵まれていなければ異獣化する代物です。しかも、恵まれて瞳術士に生まれ変わったとしても、定期的にあの異界の核の力を摂取しなければやはり異獣化してしまう」
「はぁ?マジかよ――」
ガタン、とけたたましく音を立てて航は立ち上がる。飛び出して行きそうなその勢いを奏汰は制止する。
「落ち着いて下さい。結論から言えば鹿取さんは大丈夫です。彼女が瞳術士に変化して1ヶ月が経ちますが、異獣化の兆候は見られませんよね?」
「ああ、問題は無いって聞いているぞ」
「ええ――そこがもう、彼女がどれだけ魔術士として恵まれて生まれてきたか、ってことなんです。常磐総合医院での診察結果も拝見させていただきましたが、彼女はあの異界の核の力が無くとも、それが原因で異獣化することはありません。彼女の魔力が強すぎて、彼女に流れ込んだあの異界の力――新たに増設された霊基配列はその支配権を全て彼女に奪われています」
「……お、おう」
「あなた、どれだけそれが凄いことか解っていませんね?」
「煩ぇな、で、それと内通者が判る話がどう繋がんだよ」
「恐ろしく察しが悪いですね――瞳術で判るって話ですよ」
「瞳術で?そうなの?」
瞳術――それは基本的には、人間の持つ視覚を極端に増強する魔術だ。
それには本来はそのような機能など無いはずの事象さえ、起こしてしまえるように視覚の構造を一時的・限定的な霊銀汚染によって作り替えてしまうものも含まれる。
例えば“アイコンタクト”や“蛇に睨まれた蛙”という言葉があるように、受像機である筈の目は時に意志を伝える。
それを極端に再現したのが今朝方心が使い損ねた【邪眼・蛇髪の女王】の瞳術であったり、他にも様々な“目から何かを発する”瞳術が存在し、そしてその多くは禁忌の術として指定されている。
しかし奏汰が話に出したのはそれらの禁忌の術では無く、本来人間の持つ視力を増強させる、通常の瞳術の話だ。
例えば洞察力を向上させることで対象が隠している秘密の存在を看破することが瞳術士には出来るし、つまりはそう言うことだった。
「それなら話が早いな――」
「はい?」
「いや、間瀬さ、うちの安芸が四月朔日夷のことで打ち合わせをしたいっつってんだよ。うちのチームFLOWと、できればそっちのチーム全員で。その時に話して、鹿取には内通者発見機になってもらおうぜ」
「そうですね――でも、もしかするともう見つけているかもしれないですが。彼女、たまに抜けてますけど、基本的には恐ろしく切れるヒトなので」
言うて、内通者バレバレですよね。
あの人とあの人でーす。
→次話 8/27 3:00公開です。
宜候。




