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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅵ;厳戒 と 限界
150/300

Track.6-10「今に見ていろ――――」

(――灘ちゃんズが2人とも離脱、あっち側は勝手に1人が自爆で離脱……1対2、かぁ)


 ゴボゴボと泡を巻き上げながら濁流に沈む玲冴は、しかし冷静に戦況を読んでいた。

 液体寄りの流術士(リクィドマンサー)である彼女にしてみれば、流水の中に身を落ち着けることは寧ろ救いである。

 隕石の如くその右肩と鳩尾とに衝突した火球も、土砂降りと濁流で見た目ほどの損傷(ダメージ)は無い。

 濁流に沈んではいるものの、飲まれているわけでも無い――そこは流術士(リクィドマンサー)の真骨頂だ。水を分解して空気を創り出すことで水中であっても呼吸は出来るし、水流を操って移動した方が走るよりも遥かに速い。


 だから、玲冴にとっての問題は、双子を戦線離脱させたあの最年少宝術士をどうやって水の中に引き摺り込むか、だった。

 おそらく、芽衣を相手にすればそれは幾分か楽だろう。玲冴にとって彼女の異術は多少なりともそうだが、彼女自身は脅威ではない。

 水の中に引き摺り込んでしまえば十中八九どころか十中十、玲冴に勝機がある。

 異界で強敵と遭遇した時は、兄が呼び出した水に引き摺り込んでの乱戦・混戦――それが元チームFOWLのお得意パターンだった。


 天術士の異名を持つ灘姉弟は、その真価を発揮しないままに退界したが、しかし玲冴にとってはすでに十分すぎる戦功を齎してくれていた。

 氾濫と濁流、そして土砂降り。

 戦闘とは自軍と敵軍との戦力差だけで決まるものではない。例え格上を相手取ったとしても、天候や地形効果を利用すればその差は縮まるどころか追い抜けさえする。


(冴玖、見ててよね――)


 自身の眼前に巨大な水泡を創り上げた玲冴は、その中に閉じ込められた新鮮な空気を胸いっぱいに吸い上げると、身体全身に霊銀(ミスリル)を行き渡らせ霊脈(レイライン)を築き上げる。


 彼女の左耳で揺れる、巻貝をあしらったピアスが鈍く輝きを放つ。

 共鳴し、特殊な振動係数の宿った霊銀(ミスリル)はやがて、彼女の下半身の輪郭を大きく歪めていく。


(これやるとパンツ脱げちゃうけど――――舐められるよりはマシだ)


 ミチ――ミチミチ――――下腹部が大きく膨れ上がると同時に、腰で留められていたベルトのバックルが弾け飛んだ。

 下肢を覆っていたズボンでさえも大腿と下腿の膨らみに耐え切れず破れ去り、履いていた靴も同様だ。

 二股に分かれていた下肢は融合し、両足それぞれの五指ですらも――


(どうせ、WOLF-4thの2人を預かったら戦力が劣るとでも思ってんでしょうけど――そもそも、私の方が年上だし歴も長いし)


 肉を包む柔肌は水に馴染むようなつるりとした分厚い皮膚へと置き換わり、大きく膨れ上がった流線型の下半身のあちこちから肉が伸び、(ヒレ)を形作る。


(つまりつまり、こっちの方が、全然格上なんだからねっ!)


 融合した足先も、横に大きく長く拡がって三日月状の尾鰭となった。


(本当は、あのコたちの方がFLOW-2ndなんだっ!)


 腹部から下を巨大化させるのと同時に、玲冴の胸中に渦巻いていたその感情が、明確な矛先を鋭く光らせて向けられた。


(今に見ていろ――――イマニミテイロ――――ッ!)


 融け消えたように見えていたが――そもそも、蜉蝣の多くの幼生は水棲である。川面に衝突した瞬間に霊銀(ミスリル)に分解されたように見えた芽衣の【自決廻廊】シークレット・スーサイドは、その実卵を水中に生み散らかして霧散したのだ。

 そして非常に小さな卵たちは水中で孵化すると、魔術により変貌を遂げつつある玲冴の身体に少しずつ取り込まれていった――彼女の胸中の悔しさを憎悪へと変貌させ、剰え増徴し、その行く先を芽衣に固定した。


 芽衣は――心も、茜も、望七海も、そして玲冴自身も――気付いていない。【自決廻廊】シークレット・スーサイドが、成功していたことを。


(――――“変身(シェイプシフト)――冥界より海魔来たれり(オルシヌス・オルカ)”!!)


 その憤慨と、憎悪とともに。

 巨大な()()が、濁流の中に姿を現した。



   ◆



「使うのか――」


 同時刻――大会議室にて異界の様子を観覧していた冴玖は、自身の右耳に揺れる巻貝のピアスの共鳴により玲冴の行動を把握した。


「冴玖、どうした?」

「いや――案外うちの妹は、怒ってるようだな」

「は?」


 睨みを利かすも、航の問いに対する冴玖の返答は意味不明だ。おそらく、彼らにしか分からない何かがあるのだろうと考えついた航は、再び壁に映る映像に見入る。

 異界では、今まさに巨獣が川面から姿を現したところだ。


(いいよ、玲冴。思い切り、全身全霊ありったけをぶつけて来い――!)



   ◆



『!?――水中に高純度霊銀(ミスリル)反応っ!気を付けて、巨大な何かが来るっ!』


 劈くほどに突き付けられた望七海(オペレーター)からの警告(アラート)に、芽衣と心は身構えた。

 心の【命を視る眸】(ジウスドラ)は生体反応を領分する。しかしその右目で視たのは、たった1人の人間とは思えない巨躯だ。何かを召喚したとしか思えない。


(大きすぎる――概念存在の具象化?でも海崎さんは器質寄りの魔術士……まさか、契器(ロサリウム)?)


 炎術士や氷術士、流術士、光術士と言った、物理法則を司る魔術士は大きく“器質寄り”と括られる。

 それに対して方術士や呪術士、言術士と言った、概念法則を操る魔術士を“霊質寄り”と称する。

 概念存在の具象化――所謂“召喚”とは、多くの場合“霊質寄り”の魔術士が得意とする分野だ。物理法則に囚われてしまう“器質寄り”の魔術士はそれを不得意とすることが多い。

 無論、器質寄りの魔術士であっても概念存在の具象化を用いる者もいるが、しかしその多くは超越者(インペラトル)と邂逅を果し、その力の一端を譲り受ける契約を成してその証となる契器(ロサリウム)を齎された魔術士だ。


 そして、海崎兄妹もまた、ある超越者(インペラトル)と巡り逢い、巻貝のモチーフが垂れ下がる一対のピアスを契器として譲り受けていた。海崎兄妹は本来1人の魔術士が両耳に装着するそれを、2人で分けて装った。


 右耳のピアスは――その超越者が住まう大海原(オケアノス)と装着者の固有座標域(ボックス)を繋げる効果を持ち。


 左耳のピアスは――その超越者の身体・能力の半分を、一時的に装着者に借り渡す効果を持つ。



 変身(シェイプシフト)――それは霊銀(ミスリル)を一時的に大量に取り込み、自主的に霊銀(ミスリル)汚染を引き起こすも、定められた輪郭(かたち)色彩(いろ)、そして能力(ちから)に限定するという、超越者から力を借り受ける契約者(コンストラクタ)特有の(わざ)である。


 それは言わば、人為的な異獣化(アダプタイズ)だ。しかし超越者の力を借り受けているため、本当の異獣(アダプテッド)へと陥ることは無く、本来の面影すらも意識とともに色濃く残す半人半異となる。


 屋根付き橋より20メートルほど離れた地点に跳び上がった玲冴もまた、見るからに半人半異そのものだった。

 上半身は彼女そのものであり、しかし下半身は、まるで巨大な(オルカ)

 ちょうど、体躯を二回りも大きくさせた(オルカ)の鼻先に玲冴の上半身を船首のようにくっつけた、と言った方が解り易いだろう。凡そ、変身(シェイプシフト)した彼女はそのような姿形となっていた。


『うっわ、やっべー……あれ何?めっちゃ戦いたいっ』


 退界し転移門(ポータル)の傍で閲覧(モニタリング)していた茜は暢気にそんなことを口走り。


『だったら勝手に自爆しないでほしかったなっ』


 望七海(オペレーター)に叱られた。


『へいへい。玉屋さんちなみに、アレがどういう状態かとか解る?』

「安芸さん、それだったら私の方が多分詳しく見抜けますよ――損傷(ダメージ)は一切無さそうです。でも、先輩の異術がちょっと効果出てるかな、ってところです」


 本来、オペレーターとは現場の人間の代わりに地形・地理的情報の把握と戦力の分析・戦況の判断を行う役割ではあるが、優れた魔術士が現場にいると役割が混線することもある。

 分析・把握という点では、優れた解析士である望七海よりも幾多の瞳術を修めてしまった心の方に()があり、また戦術眼にしても現場経験の無い望七海よりも茜や心の方が多少は長けていると言える。


 しかしだからと言ってオペレーターがこの場合要らないかと言えばそうではない。

 戦況の分析・戦術の判断を現場サイドでやるということは、その分のリソースを支援に割けると言うことだ。

 だから望七海は画面(ディスプレイ)にいくつもの支援コマンドを並べ、状況に応じて素早く操作できるよう準備をしていた。

 物理防壁、霊的防壁、移動支援、攻性支援、視覚支援――――装備が無事である限り、絶えない支援が飛んでくると言うのは現場の人間にとって大いに助かるものだ。

 それを航に叩き込まれたからこそ、望七海は自分のオペレーターとしての役割を見失わない。

 そしてそれは――紫藤早緒莉(敵のオペレーター)も同じだった。

はー、もっとサブキャラを盛り上げたい。


→次話 8/11 0:00公開です。


宜候。

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