Interlude.03「“惨劇の魔女”、孔澤流憧」
魔術を得てからの日々は驚嘆と、そして興奮の連続だった。
私には異界から舞い降りた幻獣――あの黒い存在のことだ――を喰らって得た、霊銀に関する知識と、そしてそれを操る魔術の知識があった。
その知識によれば、私が目覚めたのはどうやら“異界創造”に関する魔術らしい。
魔術は基本的に“何を用いるのか”という、霊銀が干渉する客体の種別によって細かく分類され、その分類は“系統”と呼ばれる。
干渉客体の種別ではなく“何を成そうとするか”という用途・目的によって分類される、例えば斬術や療術、賦術のような系統もありはするが、そのような系統魔術は比較的新参であり、連綿と歴史を紡いできた古い魔術はやはり干渉客体の種別によって分類されているものが殆どだ。
私が目覚めた“異界創造”――しかしこれについては、どの系統にも当てはまらない、固有であり特有のひとつの系統魔術とされる。
異世界を創造し運営するのだ。何となく、空間を支配し制御する方術に該当するかと思ったが、実際はそうでは無かった。
異界創造とは、どの系統魔術を修める魔術士でも、それが異術士であっても、はたまた、私のように魔術士では無いただの凡夫であっても。
目覚めれば修得する、凡そそのような系統魔術だと言える。
そして、その系統魔術に目覚めた者は魔術士ではなく、“魔女”と称ばれる。
古来より魔女とは、忌み嫌われ、迫害と殺害とをされてきた者たちだ。
だから私が目覚めたことにより昂りを抑えられなくなった創作意欲の儘に創作活動――異界を創り上げ、人々を喰らって芸術作品へと昇華させる至高の文化・表現活動だ――を繰り返していると、やがて私の前に魔術士たちが追手・刺客として立ちはだかったのは当然とも言えた。
加えて。
そんな彼らに対して私が自身に有利な異界に誘い込み・或いは異界に飲み込んで迎撃したことも当然だと言えたし、そして魔術士という素材は実に上質な作品を私に創らせた。
魔術士は魔術の訓練をしている分、一般市民に比べ体内に保有する霊銀の量が多く、無論それは個体差もあるが、一般市民を“10”とするなら魔術士の平均はおよそ“100”だ。
異界は霊銀で創られ、構成する霊銀の量が多ければ多いほど大きな規模と複雑な構造を持ちうる。
一般市民を10人喰らうのと魔術士を1人喰らうのは同義だ。そして魔術士は大抵、複数で群れだって襲来する。
世界は私にとって、最良の餌場だった。
「“惨劇の魔女”、孔澤流憧――覚悟っ!!」
その日もまた、懲りずに都合8人の魔術士が徒党を組んで私を強襲した。
私が私であることを知らしめるための白いスーツと白いハット、杖は私に対する追跡を容易にさせた。
魔術士は格好の餌だったが、流石に連日来られると私も疲れてしまう。いや、疲れると言うよりは辟易としてしまう。
だから私は基本的には自らの拠り所である異界の中に身を隠し、創作活動のために真界へと降り立つ規則を課した。
そうすることで、必要な時に必要な量だけ餌を得られる循環が得られるのだ。
しかし魔術士、特に“魔術学会”という組織に所属する者は厄介だった。
こいつらのように、勝手に人の異界を探り当てて踏み込んでくるのだ。これはもう堪らなかった。
「煩い――」
「ぐっ――っ!」
「はぁっ――ぁぁあああっ!」
私の、肉色の世界に雷鳴が轟き、束ねられた幾つもの電流が私の召喚した腐肉竜を消し炭へと変える。
「――アリサ!!」
「きゃぁぁぁぁああああああ!!」
しかしその間隙を衝き、泥から湧き出る幾つもの触手が女方術士の四肢を絡め捕り、乱雑に引き千切った。
最後にとりわけ強大な触手で以てその腹部から背中に突き抜けさせると、途端にその女方術士の表情は冷え、対照的にその仲間たちは激昂を表した。
「貴様ぁあ――――ああああっ!!」
力任せに斧の形をした兵装で私を頭頂から両断した青年は、それが私の異界が創り上げた疑似餌であることを知らず、或いは見抜けずに、切断面から射出された夥しい量の強酸を浴びて泥の地面をのたうち回った。
しばらくその様子を見守っていたかったが、後にも控えているため、残念で仕方が無い気持ちをどうにか抑えて、異骸へと変貌させた最近殺した魔術士たちを喚び寄せ喰らわせた。
ぐちゃぐちゃと音を立てて咀嚼する、魔術士の面影を残した異骸の群れに調査団の面々は表情を失い、しかし直後、これまでの戦意が嘘のような殺気を迸らせる。
いい。実に善い。最高の創作意欲を私は孕む。
「“崩熱空間”!!」
一面が朱く染まり、灼熱の波濤が押し寄せた。指定した領域内を高熱で満たし、瞬時に延焼させる炎術。遣い手には方術の才覚も問われる、なかなか珍しい魔術だ。私も、これまでに一度しか味わったことが無い。
「――“白銀世界”」
しかし味わっているのだから、その対処法も勿論理解しているし、用意できている。
その遣い手こそ、酸によって死んだ魔術士を喰らう異骸術士の1人であり、炎熱と氷結の相反する双極のエネルギーを操る双術士にして、方術士でもあった。
その異骸術士と彼とで、力量の差がどちらにあるかなど一目瞭然だ。
「――ッ、ぁ――」
熱の波濤は逆ベクトルを持つ熱の波濤に掻き消され、しかし氷結の波は衰えずに炎術士の動きを停滞させた。
黒かった髪は白く霜に染まり、吐息も白く靄がかっている。
「ンア――」
凍り付いた炎術士に新たな異骸術士が足元から沸き出し、耳元まで避けた大きな口を大きく開いて頭から齧りつこうとしている。
「サ、サマンサ――」
変貌しきったかつての同僚を前に、炎術士の闘争心までもが凍り付いてしまったようだ。
しかし炎術士の後ろから放たれた合計3つの戦輪が、死角から異骸術士の頭部を三つに分断した。
シュララララ――尚も勢いを落とさずに蛇行しながら次々と異骸術士たちを切り刻む戦輪を、私は新たに指示を下して赤黒い泥の水面から腐肉の触手群を突出させて弾き落とす。
しかし戦輪は導かれるように遣い手の元に戻り、衛星のように旋回する――おそらく、動術士か器術士だろう。弦術士の操作はもっと直線的なものが多い。
動術士ならば運動エネルギーそのものを操ることが出来るし、器術士ならば自らの霊銀で創った兵装を自在に操ることが出来る。
「――ぐぶっ」
しかしそのどちらであるか、或いは全く予想のつかなかった別の系統か、を確かめる前に、私が出現させた触手群は泥の中を潜行して戦輪の遣い手を屠り去ってしまった。
異界は時折、私の細やかな心情の機微というものを解さないことがある。与えた指示・命令が悪いのか、所謂“遊び”や“余裕”に欠けるのだ。
しかしいずれ私の創り上げた異界は私のように、実に享楽的で残虐的になるだろう。そのためにも私は、もっともっと糧を喰らって成長しなければならない。
しばらくバトル展開無いので、バトル溜めときます。
→次話 7/30 0:00公開です。
宜候。




