Interlude.01「ナニカが始まる」
創造。維持。破壊。――三位一体。
零から始まり、全へと至り、しかし再び零へと削られていく。
もしも永遠というものが存在するのなら、それはその輪廻とも呼ぶべき流転に他ならない。
全ては変わりゆくし、失われゆく。
終わらないものなどどこにも無く、しかしだからこそ新しく始まるものがある。
それでも。
それでも――。
変わることの無い。
終わることの無い。
壊れることの無い“永遠”を、私は求める――。
◆
げ ん と げ ん
幕 間 ; Genocide to Generate.
◆
思えば幼い頃から、私は風変わりな子供だった。
子供と言うのはある程度の残虐性を持って育ち、そしてそれは大概、少年から青年に変わる頃には失われていくものだ。
喪失の原因はいくつもある。
家族からの躾。
学校等での道徳の強要。
好きな人が好まないから。
自分がされたら嫌だから。
精神性と社会性とを備えていくにつれ、捕まえた飛蝗の肢を引き千切るような、或いは蝶の翅を捥ぎ取るような、はたまた蛙の口内に爆竹を詰め込むような、そういった残虐性は忌避されていく。
私が風変わりだったのは、いずれ失われるその残虐性を、失われないままに成長していったことであり、そして私自身、それが一般的には異常であることを重々理解したまま大きくなった。
第二次性徴を迎える頃もまだ、私は隙あらば自由自在にぐちゃぐちゃに出来るナニカを探していたし、しかしどういうわけかそんな私は動物にひどく好かれた。
道行く誰のものでもない野良猫は私の最良の遊び道具だったし、真夜中の歓楽街で遭遇する家出少女はいつだって私の埋まらない空虚を慰めてくれる嗜好品だった。
しかし足りない。
満たされたことなど一度たりともありはしない。
壊しても壊しても。
潰しても潰しても。
崩しても崩しても。
殺しても殺しても。
一度たりとも満足したことは無く、そして一度たりとも後悔したことも無い。
だから私は、埋まらないのではなく、拡がり続けているのだと確信した。
私の心にぽっかりと空いた虚無感は、まるで世界を擁す宇宙のように拡張を続けている。
行為に及ぶ度に新しい方法論が脳裏に芽生え、決して絶頂することの無い高邁な興奮が私を苛んだ。
焦燥は無い。不安も無い。恐怖など論外だ。
ただただ、私の心には愉悦と、そして希望が満ち溢れている。
ああ、何と素晴らしいのだろうか。
飽きることの無い無尽の欲求が私にはあり、そしてそれを阻まれること無く愉しみ果てるだけの知能と行動力が私にはあった。
しかし私は、はた、と気付く。
いくらなんでもやりすぎたと。
ひとつの事件なら見過ごしてしまうような小さな綻びも、いくつもの事件に跨って積み重なれば劇的な物証となる。
私の年齢はすでに、法を犯せば責任能力があると断罪される14歳を迎えていた。
だから私は逃げた。
逃げた先で、私が逃げたことにより私の家族が私の手によって私の作品にされたことが露見されたことを私はニュースで知った。
私は当初、被害者かもしれない一人として紹介されていたが、報道はいつの間にか犯人と思わしき有力な一人として目撃証言を集うものに代わっていた。
逃げた。
逃げた先でも作品を創った。
首から上を切り取り、腸を抉り出してその腹腔にそっと詰めてやった。
両手両足を、その左右と上下全てを入れ替えてやった。
共依存の親子はその身体同士を縫い付けてやった。
残念で仕方が無かったのは、私は創るばかりで、それがその後どうなったのかを眺めることが出来なかったことだ。
私による私のための私だけの美術館をもし創れたのなら――10年以上もの歳月を、その想いとともに過ごした。
渡航の果てに未踏の行先を無くしたこの国では足りないと、私は新天地を求めて海を渡る。
想いは潰えず、思想は聖家族贖罪教会のように次々と継ぎ足されるばかりだ。
絶えない。終わらない。されど不変では無い。
例えるなら菌が増殖していくようだ。私の内側に巣食う欲動は、もはやこの世界では足らないのではないかとさえ思えた。
海外に渡っても度々私は作品を創り上げた。
日本にいた時と違ったのは、なかなか追手が差し向けられずにまったりのんびりと過ごせたことだろうか。
日本から渡ってきたバックパッカーを装うと、私を食い物にしようと頭の良からぬ輩がよく近寄ってくる。創作の材料に事欠くことは無かったが、そういった輩で創る芸術は飽きが早かった。
私の足がアフリカの未開の地へと踏み入った時、私は25歳になっていた。
部族の者たちは完全な余所者でしかない私を受け入れることは無く、しかしそれが当然だろうと私は思った。
だから彼らが私の隙を衝いて私を捕らえ、天へと捧げる供物としようとしたのも当然だろうと思った。
部族は疫病に冒されているようにも見えたが、結局のところ真相は解らない。
とにかく彼らは何かを遠ざけるために、何かを捧げて救いを求めようとした。本来であればそれは部族の中から誰かが選ばれた筈だろうが、その時偶々私がいただけだ。
儀式。
私はこれから自身が殺されるだろうと言うのに、その儀式の在り方に興奮し、気が気でなかった。
目の細かく赤黒い砂で描かれた、荒れ地の上の幾何学模様。いくつも焚かれた篝火の中心で、私はその模様の上に転がされていた。
目の前には、その部族の酋長だろうか、いかにもといった衣装に身を包んだ老齢の男が、草や枝を束ねたものを振り回して何かを叫び上げていた。
黒く分厚い雲に覆われた空は篝火に染まって朱く見え――しかしそれは唐突に、円く切り裂かれた。
虹色に輝く光の粒子のようなものがその穴から降り注いで、私を含む、その儀式に参加していた全員を濡らした。
雨のように思えたが、それは雨では無かった。
いよいよだという直感は実感めいて私に確信を齎す。
ナニカが始まる。私の知らない、ナニカが。
しかし私の脳裏には、これでもう新たな創作を出来なくなるのだな、という懺悔に近い想いが渦巻き。
いつか建ててやろうと誰にでも無く誓った美術館の夢が、やけに具体的に具象的に想起されていた。
幕間。嘘のように字数が少ない。
(少ないと感じるのは病気でしょうか?
書き始めた頃はこれくらいでも多かった筈なのに)
→次話 7/28 0:00公開です。
宜候。




