第四十八回 餓鬼
今回も若干少なめの文字数です。
やっぱり世界はひどいことに……。
客観的に見れば、愚かな戦争は続いていた。
【史実】のSF映画に、こんなシーンがある。
暗い夜空の下、無数の人骨が重なる中を戦車やロボットが無慈悲に進んでいく。
核戦争によって世界が破滅したというストーリーである。
これと、似たような光景が中国の大地に広がっていた。
無数の弾薬と爆弾が降り注ぎ、空では戦闘機が飛び交う。
人類という種が誕生して以来幾度も起こっている大量殺戮。
それが技術の飛躍によって最大級のものとなっていた。
広大な土地と人口を誇っていたはずの中華。
だが、その多くは今や人が住める場所ではなくなっていた。
あまりにも。
あまりにも長く無軌道な戦争が続いた結果である。
それでも生き延びる者は生き延びて、命をつなごうとしていたが――
国外への脱出は絶望的だった。
海は遠く、山は険しい。
陸地を進めば、国境線から他国の軍が容赦ない攻撃を浴びせた。
非戦闘員であろうが、なんであろうが区別はなかった。
他国にとって、中国から来る者は全て暴徒かテロリストでしかない。
この認識。
あながち、間違いでもないところが救いがなかった。
せっぱつまり、水や食料を求める難民の群れは理性を失い、奪うことしか頭にない。
そんなものを優しく受け入れるような世界ではなかった。
白人国家においては――
有色人種は管理すべき家畜か、駆除すべき害獣の2種しかいない。
非人道的と言う言葉は当たらなかった。
人間とは、白人のキリスト教徒のみに該当するものだからだ。
アメリカは量産に成功したサイボーグ兵士を前線に投入していた。
ばらまかれた放射性物質などに対処するため。
そして、次の開拓民の為に除染作業や現地人(害獣)の駆除を行うため。
ソ連はこれに妨害を続けているが、戦局は思わしくない。
元から、ソ連もアジア人のことなど考慮していないのだ。
必要なのはあくまで土地と資源のみである。
状況は――
もはや、講和だの降伏などでは解決できないものとなっていた。
そうなると、これはもう戦争とさえ呼べないのかもしれない。
しかし。
他のアジア諸国も、これを他人事とはとらえていなかった。
幸いなことに?
火星人に拒絶された中華と違い、まだ多くは交流ができている。
中には兵器を購入している国もあった。
火星人のような圧倒的技術力や戦力など望むべくもない。
しかし、欧米列強への対抗手段は持ち得ていた。
50年後、100年後には。
いや努力次第では、もっと早く。
自分たちも宇宙進出できるかもしれない。
そのような希望を抱いて、アジアは富国と強兵に励んでいた。
もっとも、それはつまるところ欧米からの独立でもある。
じりじりと。
多くの国が蠢動している。
これに対して、欧米は圧力を加え続け、それを支援――少なくともそのように見える火星人への抗議も繰り返した。
しかし、火星人・日本は欧米のほとんどと断交状態である。
まったくもっと無意味な行動だった。
火星人はあくまで、日本と日本人の管理・統治が基本なのだ。
最悪、地球全体が、人類がどうなろうと無関心なのだった。
ただ。
それを理解している人間は、驚くほどに少なかったが。
あるいは、理解したくなかったのかもしれない。
そして。
欧州ではドイツとソ連が激しい戦闘を繰り返していた。
ドイツの放ったサイボーグ兵士――人狼は驚くほどの戦果を挙げた。
ソ連の防御を食い破り、敵陣に侵入して破壊をもたらす。
だが、ソ連のほうもやられっぱなしではない。
人体改造は、ドイツやアメリカの専売特許ではないのだ。
人工臓器や筋肉に加え、薬物投与で強化された兵士を、対抗手段として投入した。
さらに、人間の脳髄を埋め込んだ半自動操縦戦車を開発。
戦場は、人間同士ではなく人間であった者同士の戦いとなった。
皮肉なことだが。
この悲惨な事態によって、医学が爆発的に向上することになった。
とはいえ、それまた後で語られることである。
戦況はソ連の体力をそぎ続けていた。
元々、中国でアメリカと戦っていたようなものだ。
そこにきて、ドイツが自国領へと攻めてきた。
東西で戦局を維持するほど、ソ連は豊かではない。
だが、アジアと違い自国の領土で気安く核攻撃などできなかった。
それはむしろ、自国を汚染する悪手でもあるからだ。
物資は嫌でも不足してくる。
無理が出てきたというべきか。
いくら広い土地があり、人がいると言っても。
人口の多さはすなわち、食料の必要量も大きいのだ。
あちこちで、飢えと貧困が蔓延していた。
この事態をいかにすべきか。
国民を軍隊で押さえつけても、その軍でさえ兵士も飢え出している。
そして。
ある提案によって、【画期的な食糧開発】が実行されることとなった。
しばらくして。
ソ連の各地で、新型の食料品が配給され始めた。
緑色をした大豆類から合成されたというもので、形は乾パンに似ている。
いずれにしろ、飢えた国民はそれで糊口をしのぐことを余儀なくされた。
この少し前から、ソ連各地で身体障害者や老人などが国家の施設に集められ出した。
発育不全の子供なども同様である。
家族の抵抗など、無意味だった。
その後、彼らがどうなったのか。
家族にも誰にも知らされることはなかった。
こうして、四苦八苦で物資調達をしながらソ連は戦争を続けていくこととなる。
だが、国内だけでどうにかするにも限界はある。
ならば。
共産主義勢力下の国から輸入する。
そういうことは真っ先に考えられた。
しかし、アメリカをはじめ多くの国は共産主義を敵と認識していた。
特に多くのスパイから情報を奪われたアメリカは、【史実】の真っ青の赤狩りが吹き荒れている。
あちこちで、小競り合いというには血生臭い戦いが頻発していた。
これでは埒が明かない。
慢性的な飢えの中で、最低でも食料を十全にするためにソ連はある箇所に着目した。
それは、火星人があまり注視していないアフリカだった。
すでにアフリカ大陸には、欧米の各国が進出している。
いや、むしろ?
ある意味で中国にも負けないほど悲惨な状態になっていた。
何しろ多くの資源を持つ大陸である。
各国が進出して、土地を掘り返し資源を搾取していた。
さらに、長期となった戦争によって【大量消費】された黒人。
サイボーグをはじめとする技術開発のため必要な実験体として、黒人は利用価値が多くあった。
アジアで、白人国家の支配力が落ちた結果でもある。
また広大な土地は農業や牧畜にも有用であった。
だが、ソ連には悠長に作物や家畜を育てている時間は惜しかったのだ。
そのため。
豊富にいる野生動物を無差別に狩り、食料として本国へ送るという計画であった。
とはいえ、アフリカの気候は過酷でもある。
寒さに慣れ親しんだソ連兵からすれば、なおさらに。
そこでドイツとは逆に、暑さに適応させたサイボーグ兵士が大量に送られていった。
目的は戦争ではなく、食料確保だったが。
だが。
早い段階から、ソ連はすぐに気づいた。
野生動物を狩る、それも大量にというのは容易ではない。
大型のものとなれば、危険も伴う。
しかし、現地にはもっとも数が多く、狩ることも集めることも容易な獲物がいるではないか――と。
つまりは、そういうわけで。
計画は若干の変更を行いつつも、速やかにつつがなく進められた。
これによって、ソ連兵は飢えからどうにか免れるわけである。
ただ。
これもまた後年の話にはなるのだが――
ソ連ではある病気が国内で蔓延して、国力を著しく低下させてしまうことになる。
それは、脳に異常をきたす、クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれるものだった。
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