第四十五回 火雨
ようやく投稿できましたです。
日本はあいかわらず蚊帳の外……。
「巨獣が本格的に動き出した、というところでしょうかな?」
端末で世界ニュースを見ていた某紳士は飲みかけのカップを置いて、つぶやく。
宇宙都市の一つにある、喫茶店。
「戦争、ですか」
カウンターの中で皿をふいていた八太郎は、ため息をつく。
今現在、彼は本土に、いや地球そのものに嫌気がさしていた。
そして逃げるがごとく宇宙都市へ籍を移したのだ。
ここでは、コーヒー豆など南国の農作物栽培が大々的に行われている。
街のつくりも、どこか南の島を思わせるものだった。
そのためか、街の雰囲気もどことなくのんびりしている。
かといって生産性が低いわけではない。
火星人の技術を投入して、常に大量の農作物を出荷中だ。
常に安定して食料を生産できる宇宙都市は、本土のみならず、世界規模で食料を供給できるわけだから――しかも安価に。
欧州も、そしてソ連も第三国を介してそれを購入していた。
「正確には、戦火の拡大ですな。大陸で連日爆弾の雨が降っておるようです」
渋い顔で紳士は語る。
「じゃ、バカげた死人兵士はやめたんですかね?」
「とんでもない。今まで以上に出兵……といっていいんですかね? しとるようです」
「そりゃあまた……」
「アメリカさんの方針が変わって、今じゃ人も家屋も根こそぎぶっ壊しとります。略奪も何もありゃしない。ただただ壊して燃やし尽くす。残るのは瓦礫と灰だけだ」
「そら、無茶苦茶だ……。よく他の国がだまってますね?」
「欧州は満洲を吹っ飛ばした原子爆弾で軒並みトサカにきとるようです。応援こそすれ、今や漢人をかばう者はおりませんわ。表立ってはね」
アメリカは、今までの大陸における占領地を放棄し始めていた。
代わりに、現地人は全て殺す。
まさにジェノサイドが行われていた。
当然抵抗は必至。
中共軍やソ連から流された武器で現地人も応戦しているが――
痛みも恐怖も感じないゾンビ兵に苦戦の連続。
ある程度敵兵を減らしても、その後絨毯爆撃で全てが粉砕されていった。
防空壕に逃げ込んでも、その上を地中貫通爆弾が投下される。
逃げ場はどこにもなかった。
仮に他国へ逃げても、迎え入れるところはない。
そもそも、逃げ切れる者が少数だった。
アメリカでは全州で武器弾薬が製造され、中国へと運ばれていく。
「オール・デストロイ」
これがアメリカのたてた新方針だった。
もはや中国人を飼いならすことも、屈服させることも考えていなかった。
その文化も遺産も不要。
「この凶悪で、歪んだ種族に、我々は鉄槌をくださねばならない!!」
大統領は声高く呼びかけ、軍が大々的に動き出す。
その結果の連続空襲と、ゾンビ兵の大動員だった。
「しかし、果たして中国人だけですみますかね……」
「すまんでしょうなあ」
八太郎の言葉に、紳士は首を振った。
他アジアでも、きな臭い風が吹きつつある。
中国大陸を粉砕した後、アメリカのアジア人への不信と嫌悪、憎悪はどうなるのか。
答えは明瞭かもしれない。
しかし、簡単でもなかった。
火星人の影響下にある国々への軍事介入。
つまりそれは、火星人との戦争を意味するのだ。
考えなしに行うことは、さすがになかった。今のところは。
「アメリカさんは、水面下で火星人にラブコールを送っとるらしいですな」
協力や同盟関係は無理でも、せめて静観を求めたい。
中国への攻撃に関しては、
「こちらに被害がない限り、一切関与しない」
直接ではないけれど、他国人を通じてそれとなく伝えてはいるようだ。
台湾など、交流のある国には技術や武装を提供していた。
侵攻ではなく、いずれも防衛重視のものではあるが。
一方でソビエト連邦はというと。
「やはり大陸でアメさんが好き勝手やるのは、面白くないようですな」
ソ連からしても、中国大陸は獲物である。
それを刈り取る前に破壊されてはたまらない。
ある意味先手を打った側なだけに、中国に対する被害者意識とそれから来る根深い憎しみはないのだが。
しかし、こちらにしても所詮アジア人など道具にすぎなかった。
将来の労働力と考える中国人に、絶滅されて少々困るというだけだ。
そして、ソ連もまた水面下で火星人に接触しようとしている。
どれだけすげなくされようが、向こうには諦めるという選択肢はない。
アメリカと異なり、宇宙都市産の食糧は命綱になっている。
「しかし……」
仕事の手を止めて、八太郎は天井を見上げた。
「アメリカとソ連は互いに喧嘩するのではなく、協力し合うかもしれませんね」
可能性は低いが、ないとも言えない。
一応、共通の『敵』である火星人がアジアで大きな顔をしているからだ。
そうなったところで、火星人にすればミミズが2匹になったレベルだろうが。
「どっちにしろ、国をゲーム盤にされた漢人からすればとんだ災難ですな」
「まあ、それは確かに……」
こういった会話が交わされている間に――
アメリカから、ある情報がソ連へと送られていた。
それは、米軍の誇る大型輸送機の設計図である。
空海ともに機動力という点でアメリカに後れを取っていたソ連にとって、それは長年欲していたものだった。
アメリカ内部では、共産思想への取り締まりが激化しており、多くのプロパガンダが反共を煽り、恐怖と憎悪を煽っていたが。
共産主義へシンパシーを抱くものは、決してゼロではなかった。
むしろ、厳しくなった分より深部へと潜り込み、その素顔を隠して。
「アメリカの同志はよくやってくれたようだね」
「はい。これでようやく、本格的な支援が可能です」
「ふむ。しかし、現地では空爆が激しいようだ。それへの対抗手段も必要だな」
「ご安心を。対アメリカを想定した対空兵器も配備できます」
「それは幸いだ。一方的に爆弾をまかれてはかなわんからね」
「はっ。それとですが……」
「うむ。待っていたよ、核ミサイルのことだね?」
「はい。まだ少数ですが、実戦で使用できるかと――」
「ふむふむ……。なるほど、なるほど」
「――で、ありますから。……でして」
「やはり優秀な同士諸君のおかげだな。あー、時に中国から迎え入れた同志たちは?」
「はっ。優秀な者は戦闘機パイロットにも適性がありまして」
「さすがは2千年の歴史を持つ民族だ。いや、3千年だったかな?」
「4千年だそうです、同志」
「はははは。それはすごい。きっと大いに活躍してくれるだろう」
そして。
いくらかの時間が過ぎて――
大陸で空爆が完全に日常化していった頃だった。
低めに飛んだ米軍爆撃機が、撃ち落される事例が起こり出す。
ソ連製の空爆兵器によるものだった。
これを機会に、またもあちこちでゲリラが蠢き始める。
シラミ潰しに破壊される町や村から、わかりにくい山岳や森林にアジトを変えて。
無論、アメリカもすぐさま森を焼き払い、山に貫通弾を投下した。
しかし、広大な中国大陸の中で場所を選ばなければ、隠れ場所は無数にある。
移動を繰り返し、米軍機を撃ち落して、時に輸送機を襲ったりもした。
群がるゾンビ兵に対しては、容赦なく大型火器で反撃。
機関銃やバズーカで容赦なく撃ち殺していく。
そうなると、いかにゾンビでもただの的だった。
「死人は土にかえれ!!」
「ひゃっはーー!! 僵尸は殲滅だーーーー!!!」
立場は逆転し始めたわけである。
さらにアメリカを驚かせたのは、自走式対空砲だった。
第一次大戦時の飛行機ではない。ジェット機に対しての、だ。
まるきり想定していなかった攻撃に、多くの輸送機のみならず、戦闘機まで墜ちた。
「どういうことだ、これは!?」
軍の報告に、大統領は青筋を立てて叫ぶ。
「どうやら、ソ連から供与された兵器のようです」
「銃火器やバズーカはまだわかる!? しかし、戦車や自走砲だと!?」
「……どうやら、コミュニストたちも大型輸送機を開発したようです」
「………………………………………………」
「向こうは武器や物資を送るのに専念し、自国の兵はほぼ……」
「っち。サルどもをうまく使っているというわけだな」
「そのようで……」
「ならば、さっさと輸送機を撃墜したまえ! 軍の誇る最新鋭機はオモチャなのか!」
かくして、戦闘機が大量に導入されることとなったのだが――
今度はソ連製の戦闘機によって、米軍は大いに苦汁をなめる事態となる。
そして、戦いはさらに……。
さて、今後の展開をどうしたものか……。
たりない能力でなおわからない昨今……。




