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第四章 第一話



 ゴルフ場での戦いから数日が経過した。

 戦いの疲れを癒すことに専念しようと、ここ数日を寝て過ごしていた速人は、完全に準備を怠った状態で『今までの人生で最も恐ろしいと感じていた強敵』と対決する羽目に陥っていた。

 早い話、学校がテスト期間に差し掛かったのだ。

 ……だけど。


(今まで、何をやってたんだろうな、俺)


 速人は、目の前に並んでいる数字と記号の羅列を見て、ふとため息を吐いた。


 ──実際、今回のテストは準備不足もいいところだった。


 ここ二週間ほどは、化け物に襲われたり、ひもに襲われたり、火の玉に襲われたり、メイドに襲われたり……

 ついでに怪我を治すための入院だったり、疲労回復のための睡眠だったりと、勉強するような余裕は微塵も存在していなかったのだ。

 だからこそ、もう補習覚悟で試験に臨んだ速人だったのだが……


「ん。これは二次関数だから……」


 ──意外に分かるのだ。


 勉強時間は今までより少なく、テストにかける真剣さすら今までと比べると明らかに足りない筈なのだが。


「XとYが3と7……っと、終わりか」


 まだ数学のテストを解く時間として与えられた時間の半分しか過ぎていないのに、既にテストは完了してしまった。

 勿論、正解率はそれほど高くない。

 どんなに頑張ったところで、授業を聞いてもいない、教科書を読んでもいないような数式が解ける筈も無いのだから。

 さっと見て……分かる場所だけはそれなりに考えて、それ以外は適当に埋めただけだし。

 ……だけど。


「……間違えても死ぬ訳じゃないからな……」


 速人がそう思った途端、テストは嫌な存在ではなくなったのだ。

 どうせテスト時間は拘束されるのだ。


 ──ちょっとくらい問題を解くのを頑張っても損は無い。

 ──嫌だ嫌だと嘆くよりも、暇つぶしに頭を使うくらいは許容しても問題ないだろう。


 そう考えた速人は、出された問題を嫌々解くのではなく、自発的に問題に取り組むことにしてみたのだ。

 そうすると、意外に出来る出来る。


(早い話、今まで嫌々やり過ぎていたんだろうな)


 暇つぶし目的のテストが終わってしまったことで出来た暇な時間で、速人は自分をそう分析していた。

 そんなことを考えながらも、周囲を眺める余裕さえある。

 みんな必死な顔をして、目の前の紙切れ一枚に四苦八苦して……隣の教室では、あの環すらも必死な顔をして紙切れ一枚に齧りついているのだろう。


「……平和だな~」


 何となしに呟く速人。

 ……もう七月も半ば。

 窓の外は「ちょっとくらいサボタージュしても良いんじゃないか?」って説教したいほどに太陽が燦々と輝き。


 開け放した窓の外から、蝉がやかましいほどの大合唱を聞かせてくれていた。


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