第三章 第二話
「……このままじゃ、死ぬ」
たったの二日間……四十八時間程度の間に生死の境を何十回も彷徨った速人は、机に突っ伏したままその結論に達していた。
流石に土曜日・日曜日は警戒が強く……というかお嬢様のお屋敷に軟禁されて特訓され続けていたので、逃げるどころじゃなかったのだが、今日は月曜日。
あの悪魔のような二人も、何故か学校へ行くことは許してくれたのだ。
……言い出した速人自身はただの逃げ口上のつもりだったのに、だ。
「……体力は、回復したな」
午前中の授業中・休み時間の全てを睡眠に費やすことで、最低限の体力は回復した。
──逃げようという気力も十分である。
そして、昼休み直後の授業が終わった今、速人の取るべき行動は決まっていた。
「じゃあな、環。
俺、早退するわ」
「ちょっと、速人!
まだ授業が残ってるわよ!」
違うクラスだというのに毎時間彼の様子を見に来ていた従妹のそんな叫びを無視し、速人は廊下を走る。
多分、あの悪魔どもは放課後になったら迎えに来るだろう。
……冥府へ引きずり込むべく、あの真っ黒な車で。
……地獄の死者のような黒服の連中を使って。
──そして、またあの地獄が始まるのだ。
……それは何としても避けたかった。
確かに速人は授業も学校もつまらないと感じていたし、刺激が欲しかったのも事実である。
だけど、ここまで極端な……世界一辛いという唐辛子を使ったスナック菓子を鼻で食べるみたいな、そこまでの刺激は求めていなかったのだ。
だから、さっさと逃げる。
……彼女達が放課後迎えに来る前に。
「よしっ!」
裏門から抜け出した速人は思わずガッツポーズを取っていた。
周囲を見渡してみるものの、黒服の男たちもお嬢様の迎えの車もいやしない。
やはり、放課後になる直前……昼休みでもなければ午前中の授業中でもない。
五時限目の途中という、実に中途半端な時間帯に逃げ出すこの作戦は、見事あの二人の意表を突けたらしい。
「さて、これからどうするかな?」
周囲を確認して少しだけ気を抜いた速人は、大きく一つ伸びをする。
──やっと自由になれた。
ゲーセンにファーストフード、スナック菓子に漫画喫茶。
土曜日曜が潰れた分、やりたいことが幾つも頭に浮かんでは消えていく。
速人はそれらを満喫している自分を頭に思え浮かべながら、実際に何をするかは決めかねたまま、取りあえず商店街に足を向けたのだった。




