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ハイファンタジー

「規約違反だからクビ!」「どの行為が該当したのでしょうか……?」

作者: 高井 想生

 ロイドは優秀な宮廷魔術師だった。平民の生まれながら幼い頃から魔法の才に恵まれ、十歳という異例の若さで宮廷に迎え入れられた。


 勉強熱心な彼は政治にも通じており、時折議会に出席しては様々な提案を行っていた。


 しかし、ある日のこと──。


「……え、宮廷魔術師としての契約解除……ですか?」


 議会に呼び出されたロイドの耳に飛び込んできたのは、信じがたい解雇通告だった。評議会の議員十名が、彼の正面に並んで座っている。


「ああ」


 議長デニーレはそっけなく答える。


「なぜ……ですか?」


 ロイドはかろうじて声を絞り出し、理由を尋ねた。


「重大な規約違反があったからだ」


「一体、何が規約違反だったのでしょうか?」


「ふん、そんなことも分からんのか! だから規約違反を犯すのだ! そんな者に説明する必要はない。とにかく貴様はクビだ。今すぐ王宮を出ていけ!」


 デニーレがそう怒鳴りつけると、議員たちと共に席を立ち、会議室から出て行った。


「ちょっと待ってください!」


 ロイドは必死に呼び止めようとしたが、誰一人として振り返らなかった。


 その日のうちに、王都の広場には号外が貼り出される。


『重大な規約違反により、宮廷魔術師ロイドとの契約を解除する』


 こうしてロイドは宮廷魔術師としての地位を奪われ、理由も告げられぬまま、悪い噂だけが広められていった。



 悪い噂が広まったことで王都に居づらくなったロイドは、ひっそりと田舎へ移り住んでいた。


 ──あの日から、一週間後。


 かつての同僚であるマートンとジョエルが、ロイドの家を訪ねてきた。


「……あの後、俺とジョエルで議長に聞きに行ったんだ。規約違反って、一体何のことなんだって」


 マートンが口を開く。


「でも、あのジーさん、“答えられない”の一点張りで……全然教えてくれなかったんですよ」


 ジョエルも不満げに言った。


「なあ、ロイド。お前、本当に心当たりはないのか?」


 マートンが真剣な目で問いかける。


「それが……まったくないんだ。せめて理由さえ説明してくれれば、納得もできるし、反省だってできる。なのに……何の説明もなく、一方的に契約を解除されて……」


 ロイドは悔しさをこらえるように拳を握りしめた。


「この十五年間、俺は王宮のため、王国のために働いてきた。人生の大半を……宮廷魔術師として捧げてきたんだ。それなのに……」


 その言葉に、マートンとジョエルも胸の奥に熱いものが込み上げてきた。



 ロイドの家を後にした帰り道。


「マートンさん……僕、ほんと悔しいです。あんなに優秀で、みんなのために頑張ってきたロイドさんを、あんな簡単にクビだなんて……!」


「ああ、俺も同じ気持ちだ。……それに、どう考えても何か裏がある」


「“裏”って……?」


「あくまで推測だがな。本当は重大な規約違反なんてなくて、何らかの陰謀でロイドが追い出されたんじゃないかと思ってる」


「はぁ!? 一体、誰がそんなことを……」


「可能性があるとしたら……議長か、評議会の誰かだろう。利権のために、ロイドが邪魔だった……そう考える方が自然だ」


「ま、マジですか!? やっぱりあのジジイ、やってやがったのか!!」


「落ち着け、ジョエル。あくまでも推測だ」


「でも、ロイドさんが何らかの陰謀に巻き込まれたのは、ほぼ間違いないですよ……。くっそ〜、あのジジイども……! 絶対に後悔させてやる!」


 ジョエルの怒号が、夕暮れの空に響いた。



 王宮内・議会場。


 十名の評議会議員たちが集まり、密やかに声を交わしていた。


「ふん……ロイドという邪魔者が消えたと思ったら、今度は宮廷魔術師が二人来やがった。“規約違反とは何か?”だと」


 議長デニーレの言葉に、場がざわつく。


「だ、大丈夫なのでしょうか……? 何か察しているのでは……?」


「心配無用だ!」


 デニーレが断言する。


「やつらは何も気づいていない。予定通り、明日から“北の森”の開発を始める」


「おお……陛下のご許可は?」


「ああ、許可はとれている。“北の森”には希少な鉱石、木材、薬草……がある。価値を知っているのは我々だけだ。すべて金に変えてやる」


「陛下には、何と?」


「“モンスターが集まりやすいから伐採が必要”──そう伝えておいた」


 デニーレは不気味に笑う。


「ロイドめ、北の森の開発に反対しなければクビにならずに済んだものを」


「ふっ。逆らわなければ、濡れ衣を着せられ、悪い噂を流されることもなかったでしょうに」


「ああ、実に残念だ。だが利権のためには、邪魔者は排除する。巨万の富は、我々のものだ! ふははは!」


 ――バンッ!


 議会場の扉が乱暴に開いた。


 ロイド、マートン、ジョエルが姿を現す。


「デニーレさん……今の話は、一体どういうことですか?」


 ロイドが静かに問う。


「今の話? 何のことだ?」


 デニーレはとぼけた。


「とぼけないでください! あなたたちの利権のために、俺をクビにしたと言ったでしょう!」


「ほう……それは言いがかりだな。そんな話は、していない。お前たちの聞き間違いだ!」


「いいえ。俺たちははっきりこの耳で聞きました。“利権のために邪魔者は排除する”と!」


 マートンが前に出る。


「ふ……聞かれたか。だが、それがどうした?」


「開きなおりですか?」


 ジョエルが冷ややかに言う。


「開きなおり? ああ、そうだな。お前たちが何を言おうが構わんさ。誰が信じるんだ? 特にロイド! お前の評判は地に落ちている。クビにされた腹いせだと思われるだけだ! ふははは!」


 嘲笑するデニーレ。しかしロイドたちは落ち着いていた。


 ――なぜなら。


「残念でしたね、デニーレさん。今のやり取りも、全部そのまま配信してました!」


 ジョエルが告げる。


「……は?」


 デニーレの顔が凍りつく。


「議会場には、撮影用魔道具を十個ほど仕掛けてあります。今までの話は、王宮や王都のあちこちでリアルタイム配信中ですよ」


 その映像は、王都の広場、学校、酒場……人の集まる場所すべてに流されていた。

 そして――謁見の間にも。


「すべて聞かせてもらった!」


 重々しい声と共に、国王が議会場へ姿を見せた。


「国民が議会の腐敗を知った以上、王として黙っているわけにはいかぬ。この場をもって議会は解散。評議会議員十名は、偽証罪により投獄する!」


「ひ、ひぃっ……! お待ちください陛下! 我々は国のために尽くしてきました。そんな我々を捕らえるのですか……?」


「自分の行いを棚に上げ、何を言うか。そなたが、ロイドに何をしたのか覚えているであろう!」


 国王が手を上げると、衛兵たちが一斉に議員らを拘束する。


「や、やめろ! 我々はこの国を動かす者だぞ! 離せ!」


 デニーレは最後まで醜くあがいたが、連れ去られた。


 静まり返る議会場。


「……すまなかった」


 国王が深く頭を下げる。


「へ、陛下!? そんなことをされては……!」


「この国のために尽くしてきたそなたを、理不尽な目に遭わせてしまった。本当にすまぬ」


「いえ、陛下が謝ることでは……」


「そなたさえ良ければ、再び宮廷魔術師として戻ってきてはくれぬか」


「もちろんです。全力で働かせていただきます!」


 ロイドが笑顔で答えると、ジョエルとマートンも、胸を張って静かに微笑んだ。


 二人のその表情は──


 “全部うまくいったな”


 そんな気持ちを物語っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


長年の功労者たちに対して、せめて納得のいく形になって欲しいと願ってます。


誤字・脱字、誤用などあれば、誤字報告いただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
実際に盗聴器や隠しカメラで証拠を押さえても、違法に入手した証拠は裁判では適応されないので解雇を覆すのは至難なんですよね。
これは例のメンバーの時事ネタのオマージュ? “答え合わせ”が必要ですね~。 (*´ω`*)
これはすっきりしますね。言いがかりのような理由で解雇される話は現実世界でもよく耳にしますから、このお話の国王がまともな人物で良かったと思いました。
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