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ネコのお食事

作者: 中谷美月

「痛いにゃん!」

 ぼくはコタツの中で目を覚ました。 

コタツから出ると、ご主人様がコタツの中に足を入れて寝ていた。

どうやら、テレビを見ていたときに、

うっかり寝てしまったらしまったらしい。

寝返りを打ったときに、足も動いてしまいぼくに当たってしまったようだ。

「コタツの中でうたた寝をしちゃだめにゃん。風邪を引くにゃん」

 ぼくはご主人様を起こそうと、ご主人様の顔の上に乗ろうとした。

こうすると、ぼくは重いから大抵ご主人様は起きる。

自慢じゃないけど、

ぼくの重さは大きな米袋一袋分に相当するらしいからね。


ご主人様に乗ろう近づいたときに、

テレビはニュースを放送されていて、こんなことを言い始めた。

「またもや偽装発覚! 外国産の牛肉を、日本産と表示!」

 ぼくは足を止めた。最近、この手の産地偽装事件が多いらしい。


 今のニュースを見て思ったけど、

お肉の偽装があるのなら、キャットフードの偽装もあったりして……。

時計をチラリと見た。時計の針は十時だった。

「これはヤバイにゃん! 他のネコたちも危ないにゃん!! 急がなきゃにゃ!!」

 ぼくは、ご主人様の顔を踏みつけてお外へ出て行った。


 この時間は、三軒隣に住んでいるミーコの食事の時間。

ミーコのご主人様はおっとりしているから、騙されやすそう。うっかり、義産地偽装のキャットフードをミーコに食べさせてしまうかもしれない。


 ミーコのおうちの前に着くと、今日はお天気がよいせいもあって、

お庭にミーコがいた。ミーコの目の前には、キャットフードが入っているお皿が置いてある。

「待って、ミーコ!」

 ぼくはミーコに駆け寄った。

「何? 肉まん」

「そのキャットフードは危ないかもしれないにゃん。ぼくが毒見するにゃん」

 ぼくは、キャットフードが入っているお皿に近づいた。

「毒見!?」

 ミーコは不思議そうな顔をしてぼくを見たが、

「ガツガツガツガツ」

 ぼくは気にせずキャットフードを食べ始めた。

「ちょっと、肉まん!」

 ミーコは、ビックリした顔をしてぼくを呼びとめたが、

ぼくの食べっぷりを見てそれ以上、何も言えなかったらしい。


 キャットフードを半分以上食べたところで、

ぼくは食べるのを止めた

「おいしかったにゃん。ミーコ。このキャットフードは安全にゃん。

偽装はされてないよ。安心してめしあがれ」


「……」

 ミーコは茫然としていた。

「じゃあね。ミーコ。よいお食事を~」

ミーコのおうちに来る前にごはんを食べたせいもあって、

すでに、お腹は満たされていたけど、さっきのは別腹。


 ミーコは裕福なおうちのネコだから、

おうちも立派だし、お庭も広い。

だから、さっき食べたキャットフードも格別においしかった。

ミーコのご主人様は、

ミーコの為に超高級キャットフードを

わざわざお取り寄せしているらしい。

キャットフードが特売の日にまとめ買いをしている

ぼくのご主人様とは違って。


お腹がいっぱいになったぼくは、おうちに戻り、

「スピピ~。スピピ~」

グッスリと眠った。


 次の日、

ぼくは、お天気がよいのでお外でひなたぼっこをしていた。

お天気がいい日は、お外にご主人様がごはんを運んでくれる。

目の前にはお皿に乗せたサンマが運ばれてきた。

ご主人様のお友たちに漁師さんがいて、その人がたまにお魚をくれる。

くれるお魚は獲れたての新鮮なものばかりだからいつもおいしい。

しかも今日のお魚は、ぼくの大好きなサンマだった。

「頭から食べようか、しっぽから食べようか悩んでしまうにゃん」

と悩みながら

「いっただっきまーす」

 と食べようとしたそのとき、

「おい、肉まん!」

 後ろからハリーの声が聞こえてきた。振り返るとそこには、

ハリーとミーコがいた。

「お前、ミーコのキャットフードを横取りしたんだってなぁ」

 ハリーの声はいつになく低く、怖かった。

どうやら、ミーコは昨日のことをハリーにチクったらしい。


「違うにゃん。横取りしたんじゃないにゃん。毒見にゃん。

最近、産地偽装事件が多いから、ミーコのキャットフードも怪しいと思って確かめただけにゃん!」

 ぼくはハッキリと言った。

「偽装って外国産の食べ物を、日本産と表示するってことだろ? 

偽装も何も、ミーコのキャトフードは外国産じゃないか! メイドイン外国!!」


あ、そうだった。ミーコのキャトフードはお取り寄せしているものだけど、外国からお取り寄せしているものだった。ってことは元から外国産だ。

「にゃん……」

 ぼくは言葉に詰まった。

「にゃん。じゃないだろ? ミーコに謝れ!」

 ぼくはミーコに近づき、

「ごめんにゃん」

 と謝った。

「わかったわ。じゃあ許してあげる」

 そうミーコが言うと、ぼくはホッとした。

「その代わりに、肉まんの魚を私にちょうだい!」

 ミーコはニッコリと笑って言った。

「えっ!」

 ぼくはビックリした。

「当然だろ? ミーコのキャットフード食べたんだから! 

ミーコも肉まんの魚を毒見してやれよ」

 ハリーは言った。


「え、ぼくのお魚が~」

 ミーコはぼくに構わず、お魚が入っているお皿に近づき、

「ムシャムシャムシャムシャ」

と食べ始めた。


「あ~。ぼくのサンマが~!」

サンマはどんどん食べられていった。


「ごちそうさま。このお魚はメイドイン日本に違いないわ。だって、新鮮でおいしかったし。用件はすんだから、帰るわね」

 お腹がいっぱいにいなったミーコは満足そうな笑みを浮かべて

ハリーと帰って行った。


 ぼくは急いで、お魚が入っていたお皿にかけ寄った。

すると……。


「からっぽにゃん!!」

 キレイに何もなくなっていた。

ミーコは全部平らげてしまった。ぼくはちゃんと残したのに!


「グ~」

のどかな昼下がり、ぼくのお腹の音だけが鳴り響いていた。



《終わり》




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