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#96 因縁の相手

「おいヒコボシ!本当にこれで良いのか!?」

「何が?」


 僕たちは今、全力で上の階層へと走っていた。雑魚モンスターが追ってくるのを、しっかりと確認して。


「この作戦だよ!本当にこんな事で、モンスターはいなくなるのか?」

「多分、としか言えん。だが、あらかじめ設定された条件を満たしてしまえば、可能なはずだ」


 そうして、三階層の扉前に到着。すぐさま踵を返し、追ってきていた数匹の雑魚モンスターを殲滅する。


「さぁ、吉と出るか凶と出るか……タマ」

「……一分、問題無し」

「よし、戻るぞ。ただし、少しずつだ」


 彦星の立てた作戦というのはこうだ。

 まず、部屋に入った時点で次の階層まで全力疾走。これは、最初の段階では雑魚モンスターが湧き始めるため、比較的簡単に階段の上に到達できるという事。

 そして上までマッピングを済ませ、認識の主導権をもぎ取る。そもそもこの世界が生物の認識で構築されている以上、不完全かつ偽物の紙に出来るのは認識の外側に罠を張り巡らせる事だけ……それ故に、こちらが認識してしまえば、認知してしまえば、罠というプログラムが固定化される。固定化したならば、起動させなければ良いだけの事。


「一階で雑魚モンスターを殲滅し始めたのは失敗だった。その結果、タマの能力を先読みされて戦力を削られた。だが、同じ手は二度も通じない」


 上ってきた階段まで戻り、そっと顔を覗かせる。すると想定通り、雑魚モンスターは一匹も発生せずに、人影だけがポツンと佇んでいた。


「やっぱり、雑魚モンスターは囮だった」

「すげえ。一匹もいねえ……」


 雑魚モンスターはタマの能力を封じる囮。未来視は未来を見るのと同時に、未来を確定させてしまう。タマの見た未来を変えられるのはタマだけであり、確定した未来は必ず引き起こるのだ。


「能力模倣、未来視、確率操作……紙にとって脅威となる能力は、早めに潰しておきたいって寸法か。しかしあの後ろ姿…どこかで見たんだが、誰だったかな……?」


 身の丈はある大剣、変態的な半裸の大男、腰にぶら下がった水袋……うーん?


「あの男、僕たちの知り合いの影だと思うんだけど、誰だか知らない?」


 思った事をそのまま聞いて見ると、僕以外の全員が『マジかよ信じられない』という顔をする。だって仕方ないじゃないか、本当に分からないんだから。


「……あいつは、ワイがやる」

「知ってるのか、タマ?」

「あぁ、知ってる。よぉく知ってるさ……ヒコボシも、見覚えがあるだろう?ヴォリス・バレンタインを…」


 ヴォリス……あ、そうか。見覚えがあると思ったらそういう事か。


「…っ!避けろ!」

「えっ……」


 タマに引き戻され、僕はバランスを取れずにすっ転んだ。その瞬間、僕の立っていた場所に閃光が走り、大きな破壊音と共に両断される。


「……龍脈割(ドラゴンクエイク)

「あいつは影、偽物って言ってたな?」

「……あ、あぁ…」

「なら、やっぱりあいつは、ワイがやる」

「勝てるのか?」

「ナメんなよ。ヴォリスの事は、よく知ってるって言ったろ?ヴォリスの『つよみ』は、ワイがよく知ってる」

「それでも強いぞ、ヴォリスは。剣の腕だけなら、僕以上だ」

「いいからさっさと行け」

「……死ぬなよ」


 そう言い残して、彦星達は上の階層へと向かって走り出した。その後姿をしっかりと見届け、タマは階段の踊り場へと飛び出す。


「よぉ、ヴォリス・バレンタイン。久しぶりだなぁ」

「……」

「…ふっ、まさかお前と再び戦える日が来るとは、思っても見なかったぜ。って言っても、アンタは本物じゃないけどな」

「…………」


 唐突に偽ヴォリスの動きがブレると、次の瞬間には大剣の横薙ぎが背後より迫って来た。しかし、その攻撃を事前に知っていたタマは真剣白刃取りで受け止める。


「忘れたのか?ワイは未来を見れるんだぜ?」

「……っ」


 大剣を掴まれたヴォリスは、その大剣を軸に回し蹴りを繰り出した。普通に考えればそんな事する前に大剣が地に落ちるのだろうが、タマの星力により固定されて、いとも容易く体重を乗せられる。


「…甘いな」


 タマはいつかのように破掌で吹き飛ばしてやろうかと思ったが、今回は違う受け身を取った。繰り出される回し蹴りの足をしっかりと捕縛。その引き抜く形でヴォリスを振り回し、床に叩きつけた。


「その技はもう受けたよ。やっぱり、アンタは本物じゃない。本物を模倣した偽物だから、もっと強いのかと思ったけど」


 すぅ……ふぅ……と、気合を込める深呼吸をして、タマは武術の構えを取る。


「てめえに名乗る価値はねえな」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「うーん、これは計画通り…なのかな?」


 偽神はいくつも存在するのぞき窓を見ながらポツリと呟いた。


「…まぁいいか。厄介な能力者がいた所で、勝てる訳ないし」


 けらけらと笑いながら、偽神は次の階層を設定し始める。


「どうも時間稼ぎは意味が無くなったみたいだね。やっぱり因縁の相手っていうのは結構、効くらしいね」


 次は誰を引き抜こうか。捕食者(デーブ)先導者(ノーナ)は大した脅威では無いし、不死者(モードレッド)は心を壊せばこちらの手駒になる。自分の命と引き換えに世界を創り直すイカれ野郎のお陰で、幾度と無く戦う事になった能力者達……。

 時には全ての能力を持った彦星と。時には器を移し替えた能力者達と。

 記憶を引き継いだのが彼一人だと思ったかい?笑わせるなよ。


「この世界は全部『俺』の物だ。誰にも好きにさせないよ」

ご愛読ありがとうございます。


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