#88 いまからほんきだす。
ぱちりと私を目を覚まし、上半身を起こします。ここは魔法学校のグラウンドに間違いないですね。そして、私は先ほどまで愛しのヒコボシ君と愛を注ぎあっていたはずですが。
「ようヤンデレガチホモノーナ。気分はどうだ?」
「すこぶる元気だよぉ?」
そう言ってヒコボシ君に触れようとしましたけれど、見えない壁に阻まれました。よくよくよぉく見れば…な、なんと!とんでも無く透明度の高い結界に包まれているではありませんか!
「あー、壊すなよ?僕が丹精込めて作ったヤンデレガチホモノーナ専用の結界だからな。僕の声は聞こえて、お前の声は聞こえない構造に……」
くんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんかくんか
「…………まぁ、壊さなきゃなんでもいいや」
「あぁっ!ヒコボシ君がァ!私の為にィ!愛を込めて作ったァ!私の、私だけの!特別な『オクリモノ』!」
「うん、きもい。何となく言ってる事が予想できるから、その上で、きもい」
「でりしゃすっ!」
さて。ヒコボシ君を感じるのは後にすると致しまして。あの後どうなって私はこうなっているのでしょうか?
「あー、その顔はあの後どうなったか気になってる顔だな。まぁ話してもいいが多分理解できないだろうよ」
「私がヒコボシ君をぉ、理解できないってぇ?最ッ高の冗談だよぉ」
「有り体に言えば、手加減抜きで殺しに行ったんだよ。自分の体質を利用して『雷化』したあと『身体強化』と『流動術』と『重力解放』と『魔力纏』で『時間を置き去り』に『未来のノーナ』を攻撃したんだ」
「なるほどわかったよぉ。つまりヒコボシ君はぁ、時間を超越したんだねぇ?」
「……お、おう。なんかすげぇな、理解力高すぎだろ」
当たり前じゃあぁないか。私がどれほどヒコボシ君を殺したくて、愛しているかを考えれば、君の言葉の意味を理解するのは造作もないんだよぉ?
「褒めても何も出ないよぉ」
「うん、褒めてない。言葉の裏をよく考えてみなよ、なぁ?」
「ところでぇ、私の相手をしていてもいいけどぉ、殺り合わないのぉ?」
グラウンドの大きな結界の中で、牛君が準備体操してるんだよねぇ。早く全力で戦いたいみたいでさぁ?
「もうちょっと休憩してからな。思ったより魔力を使っちまったし」
「早くヒコボシ君が血で染まるのを見せてよぉ!あぁでもやっぱり私がヒコボシ君を殺したいなぁああああああああああああ!!!!」
「よーしモードレッド今すぐやろう」
待ってよぉヒコボシくぅん!やっぱりもっとお話ししようよぉおおおおおおお!!!!ねぇええええええったらああああああああああ!!!!!!
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ぐいんぐいんと体をほぐしながら、魔力を全身にくまなく流す。ウォーミングアップには、ノーナ戦が物足りなかったからな。
「アレは放っておいていいのか?」
「あぁ、構わねぇよ」
「……最初はショウコ先生を犯すとか言っていたのになぁ」
「ノーナにとってそれは一つの手段だ。目的は依然として、僕を絶望の底に叩き落としつつ殺す事だよ。大方、小子をダシにしても大した効果が無いって気づいたんだろうな」
それは僕の弱さの一つでもあるけれど。逆に絶対の信頼を寄せているとも言える。だからまぁ、犯すじゃなくて殺すだったなら、全力で叩き潰しにかかったかもしれないな。
「だからユーヒコを直接襲うと…?」
「ま、そんなトコだろ」
準備体操が終わり、僕もモードレッドも戦闘準備に入った。そういえば、この感覚も随分と久しぶりな気がする。
「…くくく」
「何が可笑しいんだ?」
「いやぁ、こう思うと本気で戦いたいと思えるのは久しぶりだなって」
例えば剣撃の好敵手がヴォリスだとして。魔法の好敵手はきっとモードレッドなんだろうな。
「ふっ、ユーヒコの本気が引き出せるなら、それはそれで良いな」
「良いのか?本気の僕に勝てるとでも?」
「最初から敗北を想像する馬鹿がおるか!」
それもそうか。よく考えれば負けると思った時に戦いは終了している。何を言っているんだろうな、僕は。
「じゃあ、やるか」
「いつでも来い、叩きのめしてやろう」
「……なら、お言葉に甘えてっ!」
大地を蹴り飛ばし、いきなりモードレッドの懐に飛び……込まず。地と結界の中を高速で移動し続けた。そんな僕をモードレッドは最初から目で追うことはせず、逆に目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ始めた。
「流石だよ、モードレッド。だがな、コイツを防げるなら防いでみろっ!」
縮地で飛び回って足場にした箇所全てから、燃えた岩石が出現しモードレッドに襲いかかる。
「『縮地』と『魔力纏』で残した魔力残子を『溶岩石に変えた!不可避の一撃を食らいやがれ!〈流星群〉ッ!」
「……〈水、風、冷えろ、護れ〉」
モードレッドは氷塊を生成し、およそ無差別に発動させた溶岩石を的確に相殺していく。本当に、僕がいなければモードレッドは魔法の天才として後の世に語られたであろう。
「やっぱりな、モードレッドはこうじゃなきゃ戦い甲斐が無い!」
「褒め言葉と受け取っておくよ。褒められついでに、今度は私の番だ」
「おう、かかってきな!」
「…もう仕掛けている」
仕掛けている?一体何を……っあぁくそっ!霧が邪魔だっ!…溶岩と氷塊の副産物まで計算の内なのか?だが霧を作るには火と水の魔力が必要不可欠で……?
「…うわっとぉ!?」
刹那、霧の中から何かが飛び出してくる。考える余地すら与えてくれないらしい。
「……痛い?」
左肩のあたりに刺さるような痛みが走る。右手で触れてみれば、自分の血がべったりとこびりついていた。
「な…っ!?」
訳も分からないまま、とにかく警報だけが頭の中に鳴り響き、今すぐ逃げろと本能に訴えかける。理性が逃げちゃダメだと体を支配し、意識と体が別の動きをした所へ、また霧の中から何かが飛び出してくる気配を感じた。
「…っ!」
大きく横に避け、痛む左肩を抑えつつ飛んできた物体の正体を確認した。
「……砂?」
砂だって?一体どうして砂が僕の肩をえぐるって言うんだ?
「あっ」
そう、そうだよ!モードレッドには牛の力がある。小石ですら小子の結界を貫く威力だ、細かい砂になれば弾丸は散弾となり、当たった箇所を削り取る。人体なんて魔力纏しなきゃ一瞬で消えるほどに。
「あぁくそ、やっぱすげえよモードレッド。天才だよ、お前は」
僕には才能なんて無い。貰った力でいい気になって、過去の偉人を真似て、優秀な先輩の発想を丸パクリして。僕は全然強くないマガイモノなんだ。
「だから、マガイモノはマガイモノらしく。偽物は偽物らしく、泥臭く足掻いて足掻いて足掻きまくってやるよ!」
まずはこの霧が邪魔だ。邪魔な物はは全部吹き飛ばす!
「ようやく、本気を出すか」
「あったりめーよ!魔法縛りとか近接ナシだとか、ンな事言ってる暇はなさそうだもんな」
もう手加減はしねぇ。峰打ち?チート?上等だ、全部使ってギッタンギッタンにしてやる。
「魔力纏刀!重力全解放!身体強化!星域展開!煌めき発動!能力発動!」
「魔力纏、魔力製錬、身体強化、能力発動」
勝利とは、戦う前に確定している。昔のエライ人が言った戦術の基本だ。だが、あえて僕はその言葉に付け足そう。
「勝者は常に、相手の予想を外れる。モードレッドの才能を超えるには、それ以上の策を練らなきゃならねぇ。悪いがこの勝負、勝たせてもらう」
ご愛読ありがとうございます。
来週の本編はお休みして七夕イフストーリーを投稿します。




