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#85 能力全開

 翌日の夜。場所は同じく学校のグラウンドにて。


「さぁ、説明してもらうぞ!」

「な、何のことかなぁ?」


 モードレッドは神が来ると途端に胸ぐらをひっつかみ、鬼の形相で問い詰め始める。


「昨日は少し興奮してさほどでもないが、使うたびに死にかけるとは残念すぎるにも程がある!!」

「うん、そうだね」

「一晩考え、ユーカワ先生にも訳を聞き、他の能力について教えられたが、七つに分割した割にはちっともバランスが取れておらんではないか!」

「それについては自分で気づいて……」

「納得する訳なかろうが!!」

「あっうん、ハイ」


 あ、折れた。さすがのカミサマでもあの気迫には逆らえないって事か。それでもニヤニヤは止めないあたり、それすらも楽しんでいるのかもしれない。


「さて……何から知りたい?」

「頭から全てだ」

「そうかい。なら、そうだね……うん。まずキミが表現した『二種類の時間停止』は概ね同意しよう。正しくは少し違うが、些細な問題だ」


 そう、たしかに些細な問題なのだ。生と死を同時に行う……と言ったところで、伝わるとも思えないし。


「ヒコボシから聞いたと言ったね?何を聞いた?」

「戦った人達の、能力の正体」

「ふむ。ならば理解したのだろう?彼らには何かしらの制限に縛られていると」

「はい。猫の彼は両足を一定時間ごとに地に付けなければ能力を行使出来ず、狐の彼女は姿を真似て知識を深めなければ技を盗めず、片腕の彼はそもそも本来の能力の一割も出来ていない……と」

「その通りさ。そもそも、この世界は『犠牲無くして力を得られない』んだよ。強い力を何の代償も無く行使は出来ないのさ。けど、それは本人の技量や才能でカバー出来る……それは、生物が平等に持つ『不完全』が『完全へと至りたいが故』の結果なのだよ」


 生物は等しく平等に欠落している。だからこそ、僕たちは助け合って生きてきたし、これからもずっとそうだ。何事もバランスが大事なんだよ。


「…話が逸れたね。つまり君の、牛の力は強力すぎるのさ。だから、能力の使用中は心臓の鼓動を止めさせてもらっている。摂理に反することは世界への冒涜だからね。で、そのままじゃあ能力が弱くなりすぎだから、救済処置が施された。能力の、『牛』の元になった『怠惰』という欲望の性質を利用して『生きる事すら他人任せ』にしてしまうのさ」

「……つまり?」

「君の第一の能力は『二種類の時間停止』……そして第二の能力は『生命活動の譲渡』だ」


 生命活動の譲渡、つまり他人に心臓を預けて共鳴させる。この場合、押し付けると言ってもいい。

 ……まぁ、僕はこの条件を知らないんだけど。ちょっと気になるのは、隠せない。


「その、譲渡方法は……?」

「うむ、譲渡方法は……」


 たっぷり十秒は溜め、神様は答えを出し渋る。言うのをためらっているのか、面白がっているのか……やがて神様は口を開いた。


「……方法は、キスだ」

「「「「「きっ……!?」」」」」


 驚きのあまり、僕と小子、ノーナやデーブまで息を飲む。


「しかも同性に限る」

「「「「「ど……っ!?!?」」」」」


 更に衝撃の事実ッ!同性とキスしなければならないのか!?初耳だぞおい!


「嘘だ」

「「「「「嘘ッ!」」」」」


 茶目っ気が過ぎやしませんかね神様ァ!?


「いやなに、真面目な話は苦手な上にジンマシンが出るものでな。許してくれ」

「……本当の事を言えば」

「正しい譲渡方法はいくつかの段階に分けて行う。そうだなぁ……蝙蝠君、ちょっと」

「僕…?」


 人体実験に僕を指名ですか。泣けて来ますね、ホント。頼むから痛いのは遠慮願いたい。


「じゃあ、まずは牛の君から蝙蝠の彼に、魔力を流し込んでもらおうかな」

「……失礼する」


 モードレッドは僕の手を取り、そこから魔力を流してくる。あたたかい生命力は腕から全身に流し込まれ、やがて温もりは心臓まで達した。


「次に、牛の君から蝙蝠の彼に、なんでも構わないから問いかけを行う。蝙蝠の君は問いかけに言葉を返したまえ」

「ふむ…では問おう。貴方の名はヒコボシ・ユーカワだな?」

「そうだ」


 答えた瞬間、腕に残留していた魔力と全身に散りつつあったモードレッドの魔力が収束し、僕の胸の中で定位置に固定される。しばらく違和感が残っていたが、やがてその違和感は希釈していった。


「これで終了だ。牛の彼の鼓動は蝙蝠の君と共鳴し、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、両者の命は共にあり、どちらかが死を迎えるその時まで繋がり続けるのです。永遠にね」

「「気色悪いわっ!!!!!」」


 なんっつーおそろしいコトを言いやがんですか神様ァ!?冗談キツイぜおい!?


「モードレッド、今すぐ解除しろ」

「当たり前だ!寒気を通り越して恐怖すら感じる!」

「無理だよ。言ったよね、永遠にって?さぁ、どんな戦いを見せてくれるのかなぁ?」

「「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」


 …………かくして。僕は僕史上最も仲良くなりたくない相手と永遠に結ばれた。…能力的に……ッ!能力的にッ!!


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「…………はぁ」

「まぁまぁまぁ、落ち込むのはぁ、仕方ないけどぉ」

「……ノーナ、と言ったな。お前はヒコボシと仲が良いのか?」

「どぉして?」

「いや……いつもニヤつきながら話しているから…」

「んーん?ダイッキライ!でもねぇ、殺したいくらいにダイスキでもあるかなぁ。世界を救ったらぁ、殺されてくれるんだってぇ!楽しみだねぇ」

「…そういう友情もある……のか?」


 ねぇよ。頭沸いてんのか詠唱バーカレッド。勝つか負けるかしてサッサと結界から出やがれ。


「……それでは、始めようか」

「そぉだねぇ、私も早くやってみたくってぇ、ウズウズしてるんだよねぇ!」


 自身を身体強化し、ノーナはモードレッドに襲いかかる。最初は小手調べだ。


「あははははは!!!」

「………」


 小手調べ……だよな?アレはどう見ても殺す気で殴りかかっているように見えるけど。対してモードレッドは動くことすらせずに、全てをその身で受け続けていた。


「聞いたよぉ!牛の力は無敵の矛と盾なんだってぇ!じゃあさぁ『能力を解除しろ』」

「……っ!」

「はっはぁ!」


 頭が壊れても能力は健在か。最後の一撃を当てる直前、牛の力を解除させやがった。ノーナの一撃をマトモに受けつつも、モードレッドは器用に一撃を流動術で霧散させている。


「やっぱりぃ、君もヒコボシ君とぉ、似てるよねぇ」

「どこが!?」

「紙一重でどうにかするぅ、要領の良いところとかぁ?」

「……不覚にもちょっとそれは思い当たる節がある」


 そう駄弁りながらも、ノーナは攻撃の手を休めない。一度は牛の力を解除してしまったモードレッドも再度能力を発動させていた。


「んー、火力不足ってぇ、手応えじゃあ無いよねぇ?強すぎないぃ?」

「私もそう思う」

「……あっそうだぁ!」


 ノーナは攻撃の手を止め、くるりと外に向かって走り出す。一体何を考えて……いや、なんだか楽しい事を思いついたのか…?というか、なんだか真っ直ぐ僕を目指してきているようなっていうかまさにその通りじゃねぇか!?


「こんなに早く殺す機会が来るとはねぇぇぇぇぇ!!!!」

「…あっ!……くそっ!」


 狙いは僕の心臓だ!モードレッドを倒すには僕を殺すしか方法が無い!結界の外はダメだ、色々と問題がある!


「小子!僕を結界に入れろ!」

「えっ、でも……」

「ヒィィィコボシくぅぅぅぅぅぅぅんッッッッッ!!!!」

「早く!また洗脳されたいのか!?」

「わ、わかりました!」


 入り口を開けて、僕は中に入る。外に出させるのは本当にマズイ。何をしでかすか分かったもんじゃ無い。


「モードレッド!」

「何しに来たのだ、お前は。ルール違反では無いのか?」

「いや、二人一組で戦っちゃダメなんて言ってない。セーフはセーフだ、限りなくアウトに近いがな」

「いや、もうそれアウトだろう」

「確かに『個々の実力を図る』って言う趣旨からは大分ズレるけど、そうも言ってられない。こっからは共闘だ」

「……分かった」


 そうこうするうち、ノーナは結界の端からこの場所までゆっくりと戻って来た。快楽殺人者のような笑みを浮かべて。


「ははぁ、ようやくだよぉ……ようやく、私は因縁を晴らせるんだぁ!今ぁっ!ここでぇっ!ヒコボシ君を殺してぇっ!途中だった彼女の姦通式を完遂させるんだぁっ!」

「……悪ぃな、もう小子は姦通済みだ」

「…知ってるよぉ……でも、だからこそ価値があるのさぁ。ヒコボシ君…君は殺す。でも彼女は……殺すだけでは気が済まないのさぁっ!」


 ……来る。ノーナのお遊びはここまでだ。ここからは本気で来る。


「懐かしいねぇ、ヒコボシ君……この力を使うのは本当に懐かしいよぉ……」

「…気を付けろよ、モードレッド。あいつの能力は洗脳。己の意思とは全く無関係に、他人と自己を洗脳する」

「そうさぁ!兎の力ぁ、見せてあげるよぉ……『誰にも負けず、彼にも負けず、罪にも、多夫の欲にも負けぬ、強大な力を持ち、欲深く、決して呑まれず、いつも静かに嗤っている。そういう人が、私だ』」


 一言、一言言い終わる度に、ノーナの肉体は変化を始めた。ひょろひょろのモヤシだった肉体は筋骨隆々となり、体躯は元の倍以上。万年筆も無い今この状況で、果たして勝てるのだろうか。


「……さぁ、始めようよぉ…コロシアイをぉ!!」

ご愛読ありがとうございます。


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