#80 宣戦布告
気がつくと、僕は檻の中にいた。服もボーダー柄の囚人服に変わり、なんの影響か魔法の類も使用が出来ない。
「……思い出せ、昨日は何をしていた…?」
…そう……そうだ、仲間を集め終わってから、天島の中を綺麗にしようと学校に行ったんだ。それで、朝早くから作業を開始して、ようやく終わる頃には太陽が沈みきっていて…それから?
「……部屋に行った記憶は薄ぼんやり…ある。となると、まさか玄関で寝落ちした?それがどうしてまた檻の中に…」
そう考えていると、やがて一つの考察にたどり着く。すなわち、これは現実ではないと。
「……とすると、いずれ来ると思っていたアレか」
あまりにも順調すぎた…これで勘付かれないハズが無い。大方、僕が万年筆を持ったまま眠るのを待っていたんだろう。
「おい、いるんだろ?クソ紙」
「……あぁ、もちろん」
虚空から、陽炎のようにゆらゆら揺れて紙が姿を現わす。その表情はよく見えないが、声質から不機嫌であることは理解出来た。
「やっぱりな。しかしよぉ、よく僕が万年筆を持って眠るまで待ったな?途中で強制的に呼ぶことも出来ただろうに」
「確かにね。けどさ、そのうち来るのは知ってたから」
「……ほざけよ」
つまり、今回は偶然。けれど都合がいいから捕まえてみた……という感じだろうな。
「さぁ、どうやって邪魔してやろうかなぁ?」
「はぁン?する気もねぇくせに?」
「するかもしれないよ?」
「ヤる気なら今すぐ殺してるだろうが。自分は絶対安全だと思ってんだからなぁ?たかが人間が、自力で神の寝床はもちろん、その門の前にすら立つ事が出来ないと」
「……まぁ、そうだね。間違っちゃいないよ。でも、可能性がある限り芽は潰しておかなきゃ」
そういうと、紙は何かを引き抜く動作をする。そうすると、僕の中から万年筆が引き抜かれて紙の手中に収まった。
「とりあえず、さ。世界を書き換えたり摂理に干渉したりする力は返してもらおうかな……」
とりあえずにしては、かなりの痛手だ。一文字はもちろん重力制御の増加が出来なくなる。付与魔法系統も全て打ち止めだ。
「本当はアイツの能力も引っこ抜きたいんだけどね…それじゃあツマラナイだろ?」
「ずいぶん余裕じゃねぇか」
「…そろそろ時間だね。まぁ頑張ってよ、無駄だろうけど」
「おう、絶対に僕はお前から神格を剥奪してやるよ。あまり、人間を甘くみない方がいいぜ」
「善処するよ」
そう言い残して紙は姿を消す。気づけば檻も無くなり服も戻って、世界が暗転する頃には目を覚まし現実世界に戻ってきていたのだった。
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「………ん………さん」
……誰だ、誰か僕を呼んでいるのか…?
「彦星さん!」
「うぁい!?」
「あぁ、やっと起きてくれましたね。全くもう、こんな所で寝たら風邪を引きますよ」
「こんな所……?」
寝ぼけ眼をこすりながら自分の立ち位置を確認すると、どうやら部屋の入り口付近で倒れていたらしい。首とか背中とか、とにかく全身が痛かった。
「……あぁ、やっぱりな」
「やっぱり?」
「そうだ小子、ちょっと紙に会って宣戦布告してきたぞ」
「宣戦……はぁ…」
「呆れたか?」
「いつか絶対やると思ってましたから、呆れはしませんけど。なにも今このタイミングじゃなくてもいいですよね?」
「まぁな。でも、先にするか後にするかの違いだろ?大して変わらねぇよ」
軋む体を起こし、小子を抱き寄せる。それだけで僕は安心するあたり、すこし怖かったんだと思う。
「ひ、彦星さん!?」
「……しばらく、このままでいさせてくれ」
「…っ……」
小子は突然の事に驚きはしたが、彦星がわずかに震えているのを確認し、そっと頭を撫でた。
「もう大丈夫です、大丈夫ですから」
優しく呪文を唱え、彦星の疲労と全身の痛みを取り払う。すると彦星の腕から抱きしめる力が抜け落ち、静かな寝息を小子の胸の中で立て始めた。
「……おやすみなさい、彦星さん」
マイナス五十倍重力魔法をかけ、彦星の体をベッドの上に乗せます。今日くらい、昼まで寝過ごしてもいいでしょう。あとは私がなんとか……。
「……あらら…」
意地でも離してくれないそうです。彦星さんは服の裾をぎゅっと握りしめて眠っていました。
「仕方ありません、私も後で一緒に怒られてあげますよ」
結局、僕達が再び起きたのは昼過ぎで。小子も一緒に寝ていた事に驚いた。もちろん、昨日の続きである大掃除には大遅刻で、手伝ってもらっている生徒には鬼の形相で怒られたのだった。
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