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#78 地下探索

 数日後、僕と小子は魔法学校に戻って来ていた。やる事は多いが、とにかく僕自身の確信が欲しかったのだ。


「ほ、本当にいいんでしょうか?」

「ああ、許可はとってある」

「いえ、そうではなくて、ですね……」


 薄暗い地下への階段、二人の足音だけが己の存在を証明するこの空間を、彦星と小子はわずかに灯るランタンを掲げながら下った。


「本当にこんな所、調べてもいいんでしょうか。藪を突いて蛇どころかヤマタノオロチが出てきたりしませんかね?」

「大丈夫だろ。精々、ティアマトくらいじゃ無いか?」

「どのみち私たち生きていけませんよねぇ!?」

「ちょっと叫ばないでくれませんかね?耳がキンキンする」

「ご、ごめんなさい……」

「かわいいから許す」


 そんな惚気たバカ話をしながら歩みを進めること数分。ついに弱々しかったランタンの灯が消えた。


「な、何事ですか!?」

「落ち着け、このランタンは魔法式だ。魔素と反応して発光する魔石が組み込まれている。つまり、この辺りの濃度は上より更に薄いって事だ」

「……という事は、最深部が近いんですか?」

「あぁ、そうだ。もうすぐ目が慣れてくるな……っと、ちょうど見えて来たぞ」


 亀の歩みより更に遅く、ゆっくりとした速度で階段を下りきる。その先には巨大な扉が設置されており、確かな『日本語で』メッセージが刻まれていた。


「……私は魔王と戦い、勝利を収めた。だが巨大な力を持った魔王を完全に打ち倒すと世界の均衡が崩れるため、この施設で封印を施す。願わくば、私と同じ異世界の使者でありますように…」

「こ、これって……?」

「おそらく、この天島を作った張本人だな。僕たちの先輩らしい」


 魔素が薄いのは、この先に大量の魔力を消費する機械があるのかと思っていたが。どうやら現地人にこの場所を探られたくなかった意図もあるようだ。


「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか……」

「どっちも出ませんようにお願いします……っ!」


 重く閉ざされた扉に手を当て…当て……開…………?


「開かない」

「えっ?」

「ごめん、ビクともしない」

「ま、まさかそんなはずは……」

「っし、ちょっと本気出すか」


 重力を全て解放し、その上で縮地を流動術で拳へ。万年筆の補正とバフ効果も合わせ、彦星史上最大火力全力攻撃が閉ざした扉に直撃した。


「…………っ」

「ひ、彦星……さん?」

「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」


 その気になれば黒曜石すら砕けたであろう一撃を、目の前の扉先輩は真正面から受け止め、それでいて無傷で衝撃を跳ね返した。彦星の反応が、流動術による衝撃受け流しがあと一瞬遅ければ、跳ね返された反動で半身が大破していた事だろう。痛いどころの話では無い。


「ンッだよこの扉ァ!ビクともしねーじゃねぇかッ!」


 押してダメなら引いてみるとか、それでもダメなら横に引けとか、もはやそんな次元の話では無い。ビクともしないのだ、本当に。


「くそぉ……お?」


 真っ暗だった部屋が、突然明るく照らし出される。彦星が外へ逃がしたエネルギー内に含まれる魔力が魔素に一部分解された結果だろう、ランタンが再び光り輝いた。


「これが、部屋の全体像か……」

「思ったより広いですね。それに何だか壁一面に変な模様が描かれてますよ?」

「どれどれ……?」


 見れば確かに、開けるべき扉を囲むような形でぐるりと線が引かれている。その線は入ってきた階段を除き、僕の腰から胸元までの高さで横に伸びていて、所々無作為に打ち込まれた無数の小さな点以外には変わった所が無い。

 部屋は丸いドーム型で角が無く、中央の床石は丸く形どられていた。


「……よく見ると扉にも模様が続いてるな…」

「私、この形をどこかで見た事があるんですよね……」


 小子が小さな点にそっと触れると、微量に魔力の吸い出される感覚が走る。そのまま指を横に引くと、細い線が描けるようになっていた。


「点と……線?一体何が…」


 しばらくすると吸い出された魔力が無くなって線は消える。触れ続ける限りは書き続けられるようだった。


「……わかったぞ、小子。この部屋の形、見覚えのある模様、無作為に見えた点と引ける線、足元の丸い床石。答えは最初から、異世界人にしか解けないように作られていたんだ」


 そう言って彦星は壁の模様に手を当てて迷い無く点と点を結ぶ。正しく結び終えると、それらの点と線は赤く光り固定化された。


「あっ!私も分かりました!」

「じゃあそっちから反対に完成させて行ってくれ」


 二人で協力し合い、壁の模様を全て赤く光らせる。


「丸い床石は太陽、壁の線は黄道、無作為に見えた点は星。階段を北と仮定すると?小子」

「はい、自分を地球として丸石の方角…つまり階段に向かって右から左に回ります。繋がる点と線は一つの星座ですので、そこから逆算して四月と三月で割れています」

「その通りだ。で、黄道に並ぶ星座の並びとは?」

「牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座です」

「うん、惜しいな。それだとこの扉の星座が不明だろ?よく見てみろ、扉以外の星座は『十二』だ」

「え?でも黄道は十二星座では……」

「正しくは黄道『十三』星座だ。つまりこの扉の部分に入る星座は……」


 最後の点と線が繋がり、浮かび上がった星座は『蛇使い座』だった。全ての星座が完成し、赤かった光は青に変わる。すると、先程までビクともしなかった重い扉はゆっくりと動き出した。


「「これは…………」」


 扉の中の部屋を確認した二人は互いに同じ事を考え、今はゆっくりと扉を閉める。


「……当初の目的は達成した、よな?」

「…はい、あくまでも『学校の地下に存在する十二都市を丸ごと動かせる装置の確認』は」

「じゃあ今日は帰ろうか」

「アレ、放置するんですか?」

「何千年も放置され続けたんだ、今更数カ月延長されたって問題ねーよ」


 確かに存在した。古い文献にあった通り、十二都市を動かせる魔法の装置が。しかし長年にわたり手入れされていなかったのだろう、ツル性の植物に部屋を占領され、湿気で足元は(くるぶし)まで水が溜まっており、とてもでは無いが今すぐどうにかしようとは思えなかったのだ。

ご愛読ありがとうございます。

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