#74 閉会式
後日談、と言うには少し早いが、その後の事。
騒然とした合同授業は、主に小子の活躍によって収束に向かった。生徒の安全を考え、途中で周囲の生徒を現実に送り返す事になった授業については、問題が発生してからの残り時間を合同授業と称して延長させた。が、結果はあまり変動が無かったと記しておく。
また、小子の捕まえた不審者および暴食の因子を持つ〈虎の使徒〉は、毎日腹が膨れる美味しい食事を与える事で管理し、投獄される運びとなった。
ちなみに、どうして結の煌めきが使えるのかと問いただしたが……一向に口を割らないので気にしない事にする。
それからは憲兵の仕事だ。侵入ルートや移動経緯、犯行の動機などエトセトラ、エトセトラ……。諸々の、およそ地球で言う警察官の現場検証とほとんど同じ様な取り調べや聞き込み等で、学校は一時休校。約一日、身動きが取れなくなった。
…………で。
『えー、本日はお日柄もよく……』
毎度毎度、それしかネタが無いのかと横槍を入れたくなる挨拶から始まり、合同授業は閉会式を迎えた。
概ねの流れとしては、校長先生の挨拶と労いの言葉。優勝クラスの発表、各クラス功労者の発表、優勝クラスの担任から締めの挨拶という事になっている。
『それでは今年の結果発表をいたします!総合三位は三年Aクラス、九五点!総合二位は一年Aクラス一二〇点!総合優勝は三年Bクラス一二二点でした!』
変動はあまり無かったが、動きはあった。だがまぁ概ね予定通りと言えるだろう。
その後もクラスの功労者が発表され、呼ばれた生徒は前方で表彰された。僕のクラスからはテルラムが呼ばれ、緊張しつつもしっかりと表彰を受ける。
最後に優勝したクラスの担任から締めの挨拶がされたが、テンプレに天丼を重ねて定石を置いたような挨拶だったので割愛。
それから、異例中の異例だが小子に勲章が与えられた。理由はもちろん魔王の使徒を捕縛した事に対してだ。数で言うならば僕の方が多く捉えているのだが、現在確認されている使徒を全て捕らえ終えた事を記念して、シンバ国王が世界に向けて大々的に発表するため、だそうだ。
『では、不躾ではあるが多忙な国王陛下の代役として、今この場で魔法学校校長の私が、ショウコ・ユーカワに勲章を授与する』
全校生徒の拍手と共に、小子には勲章が与えられた。もちろん、今回のは仮で後日改めて民衆の前にて授与式が行われる。
「国王陛下より、褒美が与えられるそうだ。ショウコ先生、希望があれば今の内に聞くよう言伝を頼まれたのだが……」
「褒美、ですか……」
なんだ?拡声魔道具から口を離して何か会話してる……?よく聞こえないな。口説いてるとかならあのハゲまじヌッコロ。
『ヒコボシ・ユーカワ、前へ!』
「……ん?僕?」
突然の事で思考が追いつかなかったが、どうやら聞き間違いでは無いらしい。よくわからんが、言われた通りに前へ。
「あ、彦星さん。こっちです」
「えっ、何?校長先生が呼んだんじゃねーの?」
聞けば勲章を授かった者の望みを、シンバ国王が一つだけ叶えてくれるらしい。なんでも、三代目国王が才ある者を鼓舞するために始めたとか。……信憑性は薄いけど。
「で、なんで僕が?」
「知る必要は無いですよ。何しろ、私の言った褒美はもう叶ってますし」
「……よくわからん」
「わからなくていいです。では改めて……」
こほん、と小さく可愛らしい咳払いをひとつして、小子はにっこりと笑った。
「彦星さん」
「あっはい」
「私、ついこの前までは彦星さんの言った意味を知っていました。でも、今日初めて、理解できたんです」
この前……?何の事だ?僕が小子に何か言ってたか?
「…本当は今回の事、一人で全部なんとかしようと思ってました。けれど、結局危ない目にあって……心配させて、ごめんなさい」
「ん……まぁ、生きていてくれたから、怒ってはいないが…」
「でもですよ?私を助けるにしても身包みはぐのは人としてどうなんですかね」
「…………ナンノコトカナ」
「…まぁ色々ありましたけど、腹も決まったので早く済ませてしまいます」
「…何を?」
「これは私が彦星さんに、貴方に送る精一杯の感謝とお礼と、少しばかりの報復です」
そう言って小子は精一杯背伸びをして、彦星の唇にキスをした。恥じらいとか照れとか、そんな物は虚空の彼方に放り投げたような、とびっきり深いディープなキスを、たっぷり三十秒はかけて。
「……!?!?!?!?」
「んっ、ちゅ……はむ、ちゅ…」
その場が凍りつくほど静かな時間が過ぎ、小子の「…っぷは、はぁ……」という呼吸を開始する声で世界は動き出した。
「なっ、ななななっ!?!?!?なんしよるんや!?!?!?」
「報復です」
「……は、はぁ!?」
「ふふっ、彦星さんでも恥ずかしがる事はあるんですね」
恥ずかしがるだって!?当たり前だろ!こういう、えっちなイタズラは二人きりの時にしかして無いじゃ無いか!……少なくとも好きになっている事を思い出してからは。
「まぁ、報復というのは建前でして。本当の目的はこっちです」
そう言って小子は、再び拡声魔道具を構える。その顔はいたって真面目だ。
『ご覧の通り、私は身も心も全てこの人と共にあります。ですので、引き込む際は二人一緒でお願いいたします』
……あぁくそっ!そういう事かっ!今ようやく理解した!
魔王の使徒を倒したとなれば、必ず時の権力者か大貴族の耳に情報が入る。すると不思議な事に、小子の周りにオイシイ話や少女漫画のようなイケメンとの出会いが発生したりするようになり、気がつけばスカウトや自陣に取り込もうと外堀を埋めてしまわれるのだ。
それくらいならまだいい、かわいい物だ。最悪なのは犯罪に手を染めて誘拐する場合。小子には前科があるからな、こういう表舞台でのアピールと、交渉する気がこちらにあるという姿勢を見せるのは有効な手だと思う。
「……それにしても非常識だがなっ」
「何か言いました?」
「何も言ってない」
その後、拍手と祝福を送ってくる生徒たちをなだめて、閉会式はようやく終わった。明日から通常授業だが……質問責めされるだろうなぁ。
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