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#71 苦戦

 合同授業が始まってから実に、二時間が経過した。得点は以下の通りとなっている。


 一年Aクラス一二九点

 一年Bクラス三六点

 一年Cクラス一八点

 一年Dクラス三〇点


 二年Aクラス三四点

 二年Bクラス五〇点

 二年Cクラス〇点

 二年Dクラス五二点


 三年Aクラス九十点

 三年Bクラス九一点

 三年Cクラス九十点

 三年Dクラス九十点


 やはり今年の一年は異様に強いらしい。それに、Aクラスの奇襲作戦は概ね成功を収め、中でも流動術や無詠唱、魔力圧縮といった彦星の授業を受けていない二年Cクラスは全滅してしまった。

 作戦結果としては目標の「二年生全員フルボッコ」には届かず苦い結果となり、一年Aクラスは得点を保有した班長を連れて行かないという案が功を奏して減点しなかったのが一番大きい。


「というわけで、三年生の奇襲作戦に賛成する人!」


 ……またもAクラス秘密の作戦会議だ。

 懲りずに奇襲作戦を発案してみたが、二度めに手が上がることはない。


「…まぁ知ってたけどね。リスク高いもんね」


 一度めの奇襲が成功したのは、二年生が完全に下級生を甘くみていたからだ。事実、好調だったのは最初だけで、中盤から終盤にかけては勝率がガタ落ちし、加えて旧校舎外に復活した二年生が班長を狙って襲いかかってきている。それらを防ぐためには同班の生徒の合流が不可欠であり、補給無しで特攻を仕掛けた旧校舎の中はまさに地獄絵図とも言える。


「さて、どうしようか?」

「それなんだけどよ、三年生は全員無視でも構わない気がするぜ」


 フェリオの問い掛けそのものを覆すように、キュロは自分の意見を言った。


「どうして?」

「俺のツレの兄貴が魔法学校卒業生らしいんだけどよ、ツレが兄貴に聞いた限りじゃあ『合同授業はもはや記念授業。勝とうが負けようが卒業後の進路は決まっているし、ムキになって得点を稼ぐ奴なんかいない。徘徊してる三年生は面白い発想の魔法を探しているか戦闘狂のどちらかだ』ってんだぜ」


 キュロの姓は『キュロ・ヴェン』と言い、彦星の塩を売り歩く『オットー』の縁戚に当たる。とはいえ、商人貴族の称号である『ディートリッヒ』の名は無く、彼の実家は平民より少し暮らしが豊かである程度の商家だが。それでも、彼の持つ横の繋がりは中々に侮れないところだ。


「……確かにそれなら、今保有している得点を手放さないようにする方が無難ね。その情報は確かなの?」

「あぁ。けど、襲われたら殺す気で反撃して来るから、見かけたらなるべく関わらねぇ方がいいぜ」

「……なら、このクラスの方針は決まったわ。残りの授業時間四十分は死なずに生き残る事を優先しましょう。作戦名は『いのちだいじに』ね!」


 そう言った瞬間、凄まじい地響きが本校舎全体に響き渡った。


『!?!?』


 突然の事態に驚きはしたものの、生徒全員はほとんど無意識に魔力防御を展開。おかげで、天井が抜けて降り注ぐ瓦礫の中でも無事に無傷でいる事が出来た。


「い、一体何が……敵襲?」

「敵襲にしては狙いが雑すぎる。上の方で誰かが戦っているんじゃ……あ?」


 Aクラスの全員は、イマイチ状況が掴めないでいる。目の前に降って来たのは二人の大人で、一人は見知らぬ太った男。もう一人は良く知った小子だったからだ。


「あれ?どうして皆さんここに?」

「いや、それはこっちのセリフですショウコ先生……」

「…待って。どう言う事?私は確かに転移で本校舎の屋上に……まさか、同時に地下魔法陣が起動したの?いや、でもだとしたら…」


 ぶつぶつ独り言を言う小子は推論を重ねている。その間に、瓦礫に埋もれた太った男が這い出て来た。


「……痛いんだナ。魔法が掴めないんだナ」

「…とにかく、ここは危険です。早く離れてください」

「よそ見するなんて余裕なんだナ!」

「早くっ!」

『は、ハイッ!!』


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 数分前、本校舎の屋上に転移して来た小子は、この太った男の……仮にデブと名付ける……得体の知れなさに困惑していた。


「っ……!この…!」

「美味しいんだナ、旨いんだナ」


 放つ魔法の全てが、デブのお腹に収まっていきます。触れられると魔力そのものを抜き取られますので、迂闊に近づくこともできません。


「もっと欲しいんだナ!」

「……っ!」


 食べた魔力を足元から放出したのでしょうか。彦星さんの使う流動術や縮地とは違った歩法で間合いを詰めて来ます。


「しつこい……っ」


 一瞬だけ重力を無くし、彦星さんから教わった縮地と流動術で高く飛び上がります。まだ実戦では試したことはありませんでしたが、やってみると意外と簡単に出来ます。

 飛び上がった小子は、少し頭の中を整理し始める。一体何が有効打なのか?食べられる上限は?デブの狙いは何なのか?


「……ひとまず有効打なのは罠などの設置型魔法。それから物理的な攻撃……は、あの手に触れなければ大丈夫ですね。支援系の魔法は、発動中の無重力を感じるあたり、有効打と思っておきましょう。それから煌めきも使えますね……あるものは全部使わないと」


 ひとまず発動中の無重力を解除し、小子は煌めきを発動させる。着地と同時に踏み込み、瞬発力で地を蹴って、落ちながら考えた作戦を実行に移した。


「お?」

「……っ、失敗。次!」


 再び踏み込み、煌めきを発動。今度はちゃんと踏み込みのエネルギーを手に移動させる事に成功する。だが威力の上乗せには上手く出来なかった。


「失敗、次!」


 踏み込み、移動させ、上乗せした攻撃は、デブに命中。しかし今度は煌めきが途中で解け、ただエネルギーを受け渡しただけになった。


「失敗、次っ!」

「一体何がしたいんだナ?おデは美味しいから止めずに受けるんだナ」


 もう一度、煌めきを発動させ、踏み込み、移動して上乗せし、そのエネルギーを食べようと手を差し出したわかりやすい的に目掛けて、ただ全力で小子は正拳突きを入れる。


「……っ、だめ…」


 色々な事に集中を掻きすぎて、エネルギーが変な箇所に飛んでいきそうです。その流れを戻そうとすると、今度は煌めきが解除されてまたデブのお腹に収まってしまいます。そんなの、ダメに決まってるじゃないですか!


「と、ど、けえええええええ!!!!」

「本当に何がしたいン…………!?!?」


 小子のふるった拳は、デブにそのエネルギーを取られる事なく命中する。ようやく、煌めきを発動させつつ魔法を発動する事が出来たのだ。


「は、あ、あああああああっ!」


 振り抜いた拳を無駄にするまいと、小子は拳のエネルギーを足に戻す。くるりと一回転し、かかと落としを決めた。

 本校舎の天井は衝撃で砕け散り、デブと小子は下の階まで落ちて行く。その先に生徒がいるとも思わずに。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「おいどうなっている!」

「わかりません!」


 その頃、外の世界では大変な事になっていた。原因は、夢世界の中を覗く事が出来る魔法道具に映し出されている。


「とにかく、ショウコ先生とあのデブの体を探せ!」

「じ、授業はどうされますか…?」

「中止に決まっているだろう、そんなもの!!」


 この魔法学校に侵入者が来たというのは、学校の警備網に問題があると言っているようなもの。生徒の親御さんの信頼を、裏切る事になる。


「いいか、絶対にヒコボシ先生には悟られるなよ?何をするかわかったものでは……」

「僕が、どうしたって?」


 ……遅かった。もう少し侵入者に気付くのが早ければ、対処出来たのかもしれない。

 事情の説明を受けた彦星は、話を聞きつつもどんどんと激情にかられて、ついに最後まで話を聞かずに飛び出した。


「何やってんだよ、アイツは!」


 嫌な予感がした。何度も何度も何度も繰り返した、忘れてしまいたくなるほどに辛い、未来の記憶。

 僕が小子から離れてしまったがために、失う事になった命。それを守るために、救うために、僕は何度も世界をやり直して来たというのに。


「無事でいてくれ、小子…!」

ご愛読ありがとうございます。


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