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#68 IFストーリー:バレンタイン

作者はチョコなんてもらった事ないんです。誰かくださいお願いしますなんでも(ry

 二月某日。桂邸のキッチン……いや、もはや厨房と呼ぶのに相応しい一室に、桂小子はシェフと専属使用人の見守る中エプロン姿で食材とにらみ合いをしていた。


「……硬え」

「あ、あの、お嬢様?そのような物でしたら私どもにおっしゃって頂けましたら、お作りしますよ…?」

「黙って見てろっていったろ!アタシが造らねぇと意味ねぇんだよ!」

「……ニュアンスの違いですかね、いささか語弊が…」

「あぁん!?」

「な、なんでもありません!」


 小子は、初めての料理を作っているのだが……まず包丁を両手で持つ事から分かる通り、およそ料理と呼ばれる行為を見てこなかったのが伺える。


「……あぁくそっ!おい、誰かノコギリ持ってこい!このチョコ細切れにしてやる!」


 そんな物使えばまな板まで細切れにされそうで怖い。誰でもいいから正しい料理を教えてやってくれ。


「お嬢様。少し時間を開ければ溶けて柔らかくなりますよ」

「お?そうなのか?」


 シェフには強く当たった小子だが、専属使用人の意見は素直に聞くらしい。そこはやはり信頼度の違いだろう。


「……そろそろよろしいのでは?」

「…おお、切りやすいな!」


 冷蔵庫より出したてのチョコレートを五分ほど放置し、包丁を入れると最初よりは切り刻めるようになった。


「よし、次はこれを溶かして……」


 刻んだチョコレートを溶かす。その発想は良かったが、あろうことか沸騰した鍋に直接入れようとし始める。これには、さすがのシェフも止めに入った。


「お嬢様!?溶かすのはお湯ではないですよ!?」

「あ?」

「いえ、あの…チョコレートをボウルに入れて、そのボウルをお湯で温めるのです」

「……あぁ、そうか。水が混ざってココアになるもんな」


 ココアにはならないが再びチョコレートにする事は出来なくなる。正しくはないが間違っていないので、シェフはそれ以外の事は何も言わなかった。


「溶かしたチョコを型に入れて……模様とかはどうすんだ?」

「お任せを」


 小子の扱いをよくわかっている専属使用人は、シェフ顔負けの手さばきで綺麗な模様を施した。


「あとは冷やして固めるだけにございます」

「おう、さんきゅー」


 もう期日まで残り日数が少ない上に、小子が何かと多忙なので、今日中に仕上がってホッと一息つく。


「……ところでお嬢様?このチョコレートは誰に差し上げるのですか?」

「…………ナイショ」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 さて、お待ちかねの日。勉強机に向かいながら、休憩時間が告げられるのを今か今かと待つ。


「……気分でも悪いのか、桂学生」

「ほへっ!?」

「いや、脅かすつもりは無かったんだ。落ち着かない様子だったからどうかしたのかってな」

「いやっ、えっと、あの……」

「……はぁ、わかった。ちょっと早いが休憩にしよう。だからさっさと行ってこい」

「ん?行く?どこに?」

「トイレだろ?だからそんなにソワソワと……」

「ちっげぇよ!アホか!」


 違うのか?僕はてっきり女の子の日かと。


「……はぁ、まぁいいや。ちょっと待ってろ」


 そう言うと、桂学生は一度部屋を出る。やはりトイレかと思ったが、すぐに戻って来た。


「……ん」

「…なんだこれ」


 渡されたのは、綺麗にラッピングされた小さな袋。少し甘い香りがする。


「……チョコか?」

「それ以外に何があるんだよ!今日は何日だ!?」

「…バレンタインか!」


 自分にはもう関係の無いイベントすぎて、記憶から抹消してたぜ!


「いやぁ、まさかこの歳でもらえるとはなぁ。食べていいか?」

「…どうぞ」

「甘いものは好きなんだ」


 さっそく袋を開けて、綺麗に模様が描かれた小粒のチョコを頬張る。しかししばらくして、優彦は首を傾げる。


「……」

「ど、どうした?」

「…まずい」

「……え?」

「なんて言うのかな……舌触りが悪い。だいぶ苦い」

「そ、そんなはずは!」


 まずいと言われて気になり、小子は優彦の持つ袋からチョコを一つ取り出して食べてみる。


「…………」

「な?まずいだろ?」

「…うん。なんでだ?」

「桂学生、湯煎した時間はどれくらいだ?」

「えっと、よくわからないけど十分くらい?」

「熱しすぎた。それじゃあチョコの成分が変質しちまう」

「そうなのか!?よく溶かしたほうが良いかと思っていたんだが……」


 こんな事なら、シェフの言う事も聞けば良かったと後悔するが、もう遅い。今から作り直しても時間が無いし、そもそも厨房を借りるのにも色々と準備が必要で、この前借りたのも使いたいと言ってから二ヶ月はかかった。


「…すまん。これはアタシのミスだ。そのチョコはアタシが捨てておく」


 小子は袋をもらおうと手を出すが、優彦がその手から袋を遠ざける。それどころか、まずいと言ったチョコをさらに口に放り込む。


「んなもったいねぇ事できるか。桂学生が作ったんだろ?」

「えっ…あぁ、うん……」

「だったら黙って食われてろ。お前の気持ち、ちゃんと受け止めるから」

「…………え……ええええええっ!?!?」


 気持ちを受け取る!?そそそそそれはつまりアタシがセンセーのお、お、お嫁……


「こんな事して感謝しなくても、僕が絶対に大学受験合格させてやる。安心しろ」

「…………お、おう!頼んだぜ!」


 ですよねぇ。アタシの気持ちに気づくほど察し良くねえよなぁ。なんかわかってた。うん。


「さっ!休憩は終わりだ!続きをするか!」


 ……はたして小子の気持ちはいつこの朴念仁に届くのか。それは『あなた』しか知らない事なのだ。

ご愛読ありがとうございます。


あ、オカンとばーちゃんからのチョコはノーカンです。

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