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#65 Aクラスの奮闘 その1

「おいおい、どうするよ。全員バラバラで一班の奴らがどこにいるのかわかりゃしない」

「でもさぁ、他のクラスもぉ、最初はぁ、大体そうだよぉ?」

「ひとまず、先生の言った通りの事をしよう。大丈夫、現状まともに動ける人は少ない。でも、油断はしないで」


 Aクラス第二班のルキ、アグラヴァ、テルラムは転移直前に円陣を組んでいた。そのおかげか、転移後はまとまって同じ位置に飛ばされたのだ。その後少し移動し、現在は旧校舎三階の教室に身を潜めている。


「んじゃ、俺たちはどう動く?やっぱ一班が動くまで待機か?」

「いや、その逆。校庭で派手に暴れて存在感を出すんだ。ただし、深追いはしない。去年も同じような授業なら、二年生以上は、前半を体力温存に使うだろうから、やるなら今この時しかない」

「とりあえずぅ、切ってもぉ、いいのぉ?」

「ほどほどに、ね。さぁ、行こう!」


 テルラム達は一斉に教室の窓から飛び降りる。その直後、三人のいた部屋は魔法で吹き飛ばされた。


「ひゅーっ!危ねぇ!」

「殺るきぃ、満々、素人ぉ」

「身体強化、発動してる?」

「あたりめーよ!っと、チャンス!」


 落ちながら、ルキは自前の剣を抜いて空に放り投げる。直後、吹き飛ばした犯人らしき他クラスの班が、落ちるルキ達を見下ろそうと窓から顔を出した瞬間、放物線を描いた剣がその生徒の首を切断、転移。


「わぁお、ルキすごぉい」

「へへん!もっと褒め、ぶふぅ!?ぐほっ!」


 だがルキは着地に失敗し、硬い地面に背中をしこたま打ち付けた。追い討ちとばかりに、剣の柄が鳩尾に炸裂。


「……馬鹿なんですか?」

「……ルキぃ、かっこ悪ぅ」

「……う、うるせえ…」

「あ、一点獲得ですよ。今のは他クラスの班長だったんですね」

「…嬉しいんだが、素直に喜べねぇよ……」


 ルキは自分の剣を鞘に収め、三人は校庭を目指した。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 こちらはAクラス第一班。その内の一人、アイリ。


「あぁもうっ!なんで班長なんて引き受けちゃったかなぁ私ぃ!」

「待てゴルァァァァ!!!」

「ひぃぃい!?」


 転移された最初の位置は、校庭の隅だった。そして繰り広げられる、乱戦に次ぐ乱戦。もしかしたら他クラスの友人や、同じクラスの仲間がその中にいたのかも知らない。けれど自分がAクラスの回復役である事、班長である事、目の前に見知った顔が無かった事、本校舎の入り口がすぐ後ろにあった事。

 後付けの理由はいくらでも思いつくが、とにかく今はペリノアとモトドと合流する事を第一に考えて、その場を逃げ出したのだ。運悪く、その場を他人に見られたが。


「はぁ、はぁ、はぁ……や、やっと追いつい、追い詰めたぞ…三階まで上がるの、キツイんだからな…」

「や、やめてください!私を倒しても一点しか取れないですよ!」

「ぐへへへ、手こずらせやがって。わざわざ一点の為にここまで追いかけるかよ」

「ま、まさか……」


 ヒコボシ先生から聞いた事があります。世の中には女騎士がオークに『クッコロ』される『ドウジンシ』という物があると。男子生徒には教えてないそうですが、私たちのような非力な女子を混戦時に襲う、およそ下半身で生きているような下衆野郎が存在すると。


「っ……あぁ、そのまさかだよ」

「や、やめてください!今はそういう時じゃないでしょう!」

「今じゃなきゃいつ、やるんだよ!」


 もうダメです!こんな人気の無い本校舎に隠れようとか思ったあの時の私を呪いたい!私は今から名前も知らないこの男子に嬲られ、孕みのもにされるんですね!エロドウジンみたいに!

 いや、けれど経験のない私が心のどこかでシテみたいと思うのも事実……!


「く、くっころー!」

「俺と付き合ってくれっ!」


 ………………はれ?……んん?


「あの、今なんと?」

「だ、だからぁっ!……あぁちくしょう!」


 なんですかこの人。突然身悶えし始めましたよ?


「俺はっ!お前が好きだ!」

「……は、はぁ…」


 スキ?スキ……隙?あぁ、隙だらけ?いやいや、絶対違う。これはアレです。いわゆる愛の告白という、ヒコボシ先生的に言うなら死亡フラグという奴です……!?!?!?!?


「はぁあああああああ!?!?!?」

「いやっ!突然何を言ってるんだコイツと思うのも分かるし、多分アイリさんは俺の事なんて覚えてないだろうけどでも今この時しかきっと言えないし何より俺のいわゆるケジメというかなんというかっ!」

「えっえっえっえっ、あの、ちょっと待ってください今思い出しますから……」


 えっと?こちらの男子は、どこで会いました?額当ては無いですからクラスはわかりませんけれど、他クラスと交流するなら魔戦学の授業ですよね?どこで……?


「…いや、多分覚えてないな。というよりは、一方的に見てただけだし」

「それ、なんて『すとーかー』ですか?」

「すと…?よくわからんが一目惚れというやつだ。だからその……つまりだな…」

「別に良いですよ?」

「ほ、本当か!」

「ただし、条件があります。まず貴方が私より強い事。家名は明かせませんが、私はとある貴族の娘です。それもゴリゴリの武闘派の」


 呼吸が整い、冷静な判断が出来るようになりますと、これはチャンスです。今後の人生と、この授業の。


「我が家の家訓に伴侶は自分より強くある事と明記されているので、すみませんが今、私と戦っていただきます」

「いやしかし、女性に手を出すなど……それに、先程から見ていたが、アイリさんは剣も魔法も使えないのでは?それではとても勝負には…」

「行きます!」


 勝てればこの場を切り抜け、負ければ婚約者が決まります。よく見れば顔は良いですし、話していて気配りも出来そうな方です。卒業して、数百人の候補者と見合いして試合する労力に比べれば、なんて楽な事でしょうか。


「ちょ、待って……っ!」


 縮地で肉薄し、魔力で硬質化させた正拳突きを一発。相手もその動きに合わせて、身体強化と抜き身の剣の腹で防ぎます。


「……その身体強化の速さ、貴方もヒコボシ先生の授業を?」

「あ、あぁ。そう言うアイリさんも、今のは縮地だろ?でも、今の一撃は一体……それに、アイリさんは回復魔法使いなんだろ?」

「知りたければ、私に勝ってからにしてください!」


 再び縮地、のエネルギーを今度は相手に。ですが相手もそのエネルギーを地に返し、衝撃で床は大破して陥没。そういえばここ、三階でしたね。


「く、くそ……っ!」

「手加減なんてしてたら、私とお付き合い出来ませんよ!」

「……っ、ごめんっ!」


 ここで初めて、名前も知らない彼は抜剣。しかし切るのを躊躇ったのか、振るわれたのはショートソードの切先ではなく腹。そんなもの、例え魔力で覆われていたとしても脅威では無い。


「……っ、ふ!」

「なっ……」


 たんっ、とショートソードの上を跳躍し、絡め取るように相手の首を足でガッチリ固定。そのまま、二階の床に叩きつけます。


「っかは……!」

「まだです!」


 怯んだ隙にショートソードを持つ手を取り、寝たままの姿勢でこちらの体制を整えます。固定する箇所を首から腕に移動、流動術は本当に便利です。

 腕を私の両手でしっかりと抱え、右足は肩に高さをつけさせ、左足では首を押さえつけます。えっと確か……『腕ひしぎ逆十字固め』という護身術の一つだったような?


「痛たたたたたた!痛い痛い痛い!折れるっ!」

「問答無用です!」

「というか、恥ずかしく無いのか!先ほどもそうだが今もなお胸に当たってるじゃ無いか!」

「当ててるんです!武器はなんでも使わないと!」

「その使い方間違って無いかぁああああっ!」


 ふんっ!と肩の骨を外し、戦闘不能にさせました。そりゃそうですよ、今の私に人を殺める度胸も理由も無いんですから。


「…魔力操作」

「……はっ!……はっ!」

「骨は外したままにしてあります。今は神経から骨を離してありますので痛くは無いかと。あと反対の肩も外しておきました」

「……はぁ…はぁ…とんでもないな……アイリさんは…」

「味方の誰かに助けてもらうまで、そこで寝転がっておいてください。それから……」


 そっと、私は彼の額に口づけをしました。


「顔は悪くないですし、戦っている最中も私の身を案じて手加減してくれていましたし、根はいい人なのだと思います。個人的には嫌いではないので、強くなって出直してくださいな」

「…………お、おう…」


 それでは、と言い残して、アイリは二階の教室を退室する。暴れすぎたので、他クラスの人が弱った勝者を討ち取ろうと様子を見に来ると考えたからだ。


「……とりあえず、有望株は一人キープ。あーあ、どこかにヒコボシ先生みたいな強くてかっこいい人いないかなぁ…」


 ……ちなみに。アイリの得意魔法は回復である。しかし、他の魔法が使えないのではなく、むしろ『魔法以上に回復が使える』という事になるのだ。もっとも、アイリの得意とするのは回復である事に変わりはなく、次いで身体強化と縮地と流動術を身につけているというだけなのだが。


「…………あ、今の人の名前聞くの、忘れた」


 …………ま、いいか。早く皆と合流しよ。

ご愛読ありがとうございます。

……思ったけど、アイリさんもしかしてサディストなんですかね。


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