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#61 IFストーリー:大晦日

年末という事で特別編を作成。

別に本編が進まないとかでは無い、決して。

(本当は夜中に上げたかった……)

 はぁっ、と僕は乾いた夜空に息を吐く。吐いた息は蒸気となって、すぐに北風に飛ばされた。


「……桂学生、遅いな…」


 事の始まりは一週間前、和尚も走る師走の二四日。聖者キリスト生誕祭たるクリスマスに遡る。

 僕はクリスマスという恋人が性夜を迎える忌まわしき日を桂学生と一緒に過ごしていた。いや、決して、邪な理由とか恋人になったとかではなく、仕事で。


「なー優彦センセ」

「なんだ桂学生」

「……だからその呼び方…ハァ、もういいや。あのさ、年末空いてるか?」

「……彼女いない年イコール年齢の僕に喧嘩売ってる?」

「いやぁ、そーいうんじゃなくてな?つか、彼女がいたらこんな時間(午後十時)にJKと夜更かししないだろ」

「黙って手を動かせ。大学受験、落ちるぞ」

「へっ、アタシが学校でなんて呼ばれてるか言ってやろうか?遅咲ガリ勉だとよ。先公にも監視の目で見られなくなってきたし、模試の結果も上がってきたしな」


 桂学生よ、その先生は監視の目じゃなく性的な目だと思うぞ。主にその、身長に使われる栄養を吸い取っている脂肪に。


「……そういや、その先公も最近見かけねーな…どこに行ったんだろ」

「消されたか……」

「あん?何?」

「なーんでもありませーん」


 というか、話の本題から逸れてる。年末が空いてるかどうか、だったろ?


「それで?年末が空いてたらなんだってんだ?」

「あ、あぁ、その……初詣…とか、その……」

「一緒に行きたいって?僕は構わないけど、ご両親は?」

「オヤジは何も言わねーよ。アタシの事なんて政略的な道具にしか見てねーんだから。純潔さえ守ってりゃ何処でナニしたって気にも止めねーよ」

「ふぅん……」


 オヤジは、ね。つまり桂学生の母親は少なくとも心配してるって事か。後で電話しておこう。掃除屋に始末されるのも嫌だし。


「じゃあ、大晦日に来るから、頼むぞ」

「えっ、アタシが手配すんの?」

「そりゃそうだろ。誘ってんのは桂学生だぜ?」

「うっ……ま、まぁそうだけど…」

「頼むぞ」


 あぁ、今年の年末のアニメイベントは全部流さなきゃな。チケットあるけど、どうしよう……ネットで売るか、定価で。


「と、ところでよぉ、聖なる夜にJKの家って興奮しない?」

「……は?」

「今、両親いないんだぁ……なんて」

「知ってるよ。家の繋がりで接待したりされたりだろ?」

「…………」

「なんだよ、ゴミを見るような目をして」

「なんでもねーよっ!ここわかんねーから教えやがれ!」


 ……なんで桂学生は怒ってんの?意味がわからん。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 再び僕は乾いた夜空に息を吐く。今夜は快晴で星がよく見える。


「……何してんだよ、桂学生は。もう一時間だぞ」


 ケータイのメールには『もうちょいだから!』とだけ書かれており、何かしらの準備に手間取っていると思われる。


「……電話かけてみるか?いやいや、流石にもう出て来るだろ。だが出てこないとも……うーん」


 そう考えていると、桂学生の家の門が自動で開いた。すると中から黒塗りの高級車が出てきて、疲れからか、僕はその車に衝突……。


「……おまたせ」

「…誰だお前っ!」


 出てきた黒塗りの高級車。その後ろの窓が開くと、これまた高価そうな振袖を着た清楚な美少女が。


「誰だって事はねーだろ……あ、違う、無いでしょう?私ですよ」

「……いや本当に誰だ。僕の知ってる桂学生はもっと濁った目で世の中を蔑み、金髪でカラコン入れてパンクな私服を好むヤンキー女子だぞ」

「わかってんじゃねーか!」


 そりゃね、振袖で厚みを増してますけど無駄脂肪双丘は隠しきれてませんもの。というか変わりすぎだろ、一瞬誰かわかんなかったっての。


「で?僕はどうすりゃいいんですかね」

「とりあえず乗れ……乗って下さい。急がないと間に合いません」

「お、おう……」


 おそらく人生で一度も乗る事のないだろう、タイヤが六本着いた高級リムジンに乗り込む。無邪気にはしゃぐとか、友達と一緒ならやりそうなバカも、今この時だけは悲鳴をあげる胃を抑えるのに精一杯だ。


「何処に向かってるんだ、この車は。外の様子が全然見えないけど?」

「ヘリポートです」

「へ?」

「ヘリポートです」

「聞こえてるよ。じゃなくて、年越しの瞬間を神社で過ごすんじゃないのか?」

「はい、その通りですよ?」

「……ヘリポートから、何処に行くって?」

「出雲大社ですね。オヤジ……お父様にお願いしましたら、どうせ行くなら出雲大社総本山に行けと」

「……じゃあ何か、島根県まで?」

「はい、こう……空をびゅーんと」

「ここ、近畿圏内だったような……」


 いや、もう、考えるのはやめよう。まさか人生初空の旅がこんな年越しなんて思いもしなかったが、現実を受け入れよう。

 ……そうして、しばらく車に揺られる事数十分。車を止められると、僕は目隠しを要求され、見知らぬ人の手を握らされる。感触からして、まず日本人ですらないが、気にしない事にした。


「……はい、もう目隠しは取っていいですよ」

「………えっと、ごめん桂学生。これに乗るの?」

「はい、これです」


 目の前に用意されたのは、よく見るヘリコプター……ではなく。


「戦闘機じゃねぇかっ!しかもVTOL機V22(オスプレイ)かよっ!ツッコミ所満載じゃねーかッ!!」


 しかもなんか同意書を書かされた。僕の英語読解力で見る限りは『今日の事を一切口外しない』『万が一墜落しても一切の責任を持たない』『トイレは事前に済ませる』という事が書いてあり、とりあえずもう、頭を抱えながらサインした。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 一切口外しないという約束を守るため、どのルートで飛行し、何処に着陸し、何時に現地に着いたという事は伏せつつ、とりあえず今言える事は日付けが変わるより早く島根県出雲市に到着したという事をお知らせする。


「……はぁ…」

「お疲れですか?」

「初めての飛行体験が戦闘機で疲れない方がおかしいんだよ」

「私、かれこれ数十回は乗ってますよ?」

「喋ったら口封じされるような乗り物を、さもタクシーかバスみたいな扱いにするのはやめていただけませんかねぇ!?」

「へい、タクシー」

「マジでやめて!?」

「ぷっ……あは、あははははっ!」


 何がおかしいのか桂学生は見た目と不釣り合いな笑い方をする。だがそれは『お嬢様の仮面』をした桂学生でもなく『心を閉ざした少女』の桂学生でもない『素直で可愛らしい少女』という桂小子本人だった。


「あはは、はーおかしい」

「僕は眉間にシワが出来て老けた気分だ」

「あ、そろそろ敷地内に入るよ。足元に気をつけてね『お爺ちゃん』」

「……いつか絶対ぎゃふんと言わせてやる…」


 そう思いつつ、僕と桂学生は鳥居の前で服装と心を鎮めて一礼。鳥居の中央ではなく端を通って参道へ。ちなみに、鳥居から本堂までの道のうち、中央は神様の通り道だそうで。人が通る時は左右どちらかの端を歩くそうだ。


手水舎(ちょうずや)は……っと、あった。ええと、清めるのは…」

「手と口ですね。まず右手で柄杓を持ち、左手を清め、次に左に持ち替えて右手を清めます。そして、再び右手に持ち替えて、左の掌で水を受け、口をすすぎます。柄杓に口をつけてはいけませんよ?もう一度、左手に水をかけたら、両手で柄杓を立てて柄の部分に水を流し、元の場所にふせて置くんです」

「……詳しいな」

「小さい頃から仕込まれてましたから」


 桂学生の真似をして、ぎこちないだろうが何とか作法に則る事が出来た。それから本堂に向かい、参拝の列に並ぶ。


「……アレは何をしてるんだ?」

「どれですか?……あぁ、アレは昇殿参拝の列ですね」

「ショウデンサンパイ?」

「ネットやニュースで見たことありませんか?神主さんが祝詞(のりと)を読み上げている姿を」

「あぁ、見たことあるな」

「アレは昇殿参拝と言って、神職の神事を受けながらお祓いしてもらったり、お神酒をいただいたり……簡単に言うと、一般的にされる参拝より格式高い参拝ですね。まぁ、優彦先生に言っても仕方のない事ですが」

「失敬な!」

「じゃあ、分かるんですか?」

「全然わからん」

「はい、素直でよろしい」


 そんな事をするうちに、僕達の順番が回ってきた。ここからは僕でも知っている。鈴を思いっきり鳴らして、お賽銭を丁寧に入れる。その後二礼二拍手一礼したら、神様に会釈してその場を去る……だ。多分。あ、出雲大社だけは特例で四拍手だっけ。

 鈴を思いっきり鳴らすのは、その音によって邪気を払い、神様を呼ぶとされているからで、鈴の音を神様に奉納する意味もあるらしく、できる限り鳴らす方がいいそうだ。他にも、お賽銭は神様に真心のしるしとして奉納するとか、なんとか。よく見る投げ入れ行為は、実はマナー違反だそうだ。


「……今年の願い事は済んだか?」

「言ったら願いが言霊になって逃げるそうですよ。それに、願い事ではなく今年一年の感謝と、来年の福を願うものですよ?自分の願いは自分で叶えるものです」

「…それもそうか」


 むむぅ……言いくるめられてしまった。しかし事実なのだから仕方ない、無病息災、一攫千金を願ったが叶いそうにないな。あ、自分ではどうしようもない願いなら異世界転移はどうだ?うん、そうしよう。


「……じゃあ、行くか」

「……はい、そうですね。あ、最後に占って行きませんか?おみくじがありますよ」

「いいな。一つ買おう」


 最後に僕と桂学生はおみくじを引いた。来年一年がいい年になりますように。


「……うへぇ、凶か」

「私は大吉です。恋愛運は……」


 ……大人びていても、やっぱり子どもか。恋愛運なんて見なくなったの、いつだっけ。


「えー……凶。願望、叶う。悦び事、無し。交友、無し。恋愛、無し。結婚、もうすぐ…………はぁ、ロクなのが無い」

「そ、そんな事ないと思うけど……あ、凶のおみくじを吉に変える方法があります。おみくじを御神木に結ぶ時、利き手と逆の手だけで結ぶんです」

「へぇ、試してみるか」


 試してみるかと言ったものの、意外とコレが難しい。何度か右手を使いそうになったのをグッと堪えて、かなり不恰好だが結ぶ事が出来た。


「さて、帰るか」

「そうですね」


 行きと同じように参道の端を通って鳥居をくぐり、神界から人間界に戻って来て所で再び神様に一礼。これで、今年の初詣は終了だ。


 今年も一年、良い年でありますように。


ご愛読ありがとうございます。


今日で2017年も終わりですね。


来年もよろしくお願いします。

では皆様、良いお年を。

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