#57 全校集会
長すぎたのでワンシーンカット。
カット分は次回に回ります。
生徒、先生、その他よくわからない使い魔の様な生物が校庭に集まってから、もう数十分経った。僕は時折下を見ながら、不思議な事に気がつく。
「……なぁ小子、会議とか朝礼が遅れる理由ってなんだとおもう?」
「そうですね……議長が来ないとか参加者が揃わないとかですかね?」
「そうだよなぁ……あ、ここが偉い人の部屋じゃね?」
そんな事を聞きながら探検を続けていると、ようやく理事長室らしき部屋を見つけた。僅かに話し声が聞き取れるから誰かいるのだろう。僕は就職面接よろしく深呼吸をして扉をノックする。
「誰だね、今は取り込み中だ……って本当に誰だね」
中に入ると、貫禄のある校長先生らしき人と教頭先生らしき人が真剣な表情で話し合っていて、僕は背筋をピンと伸ばした。
「お初にお目にかかります、ジュゴスより転移してきました、優川彦星です」
「同じく、優川小子と申します」
校長先生らしき人物は教頭先生らしき人とアイコンタクトで会話し、恐る恐ると言った感じで問いかけてくる。
「…もしや貴方が、死の泉を開拓し帝国を改心させ、ありとあらゆる魔法を習得し、魔の王の眷属すら打ち倒し、彼の剣聖ヴァレンタイン様と互角の勝負を繰り広げたと言う……ヒコボシ様か?」
「あー………まぁ、間違っちゃいないか?」
確かに僕は死の泉を開拓して一大産業を起業したし、魔王の七分の一を倒す…と言うか手なづけて、ヴォリスとは魔法抜きだといい勝負になるとは思うが。
それにしたって死の泉は自分の為だし、魔王は成り行きで、ヴォリスは魔法込みだと負ける気はしない。帝国ってのもビースティアで、成り行き任せに解決したし……ほとんど運命みたいな物だけど……そもそも剣聖って誰だよ。アイツはそんな貫禄ねえだろ。
「す、すると貴女が、魔法の最高峰とも言われる重力魔法の発明者で、死人すら生き返らせるという回復魔法の使い手ショウコ様……なのでしょうか?」
「発明…?死人……?よくわかりませんが、多分そうです。名前は合ってますよ」
まぁ、小子は考えるの苦手だからな。発明と言うよりは先人達の技を体現したに過ぎない。偉大なる先輩達に感謝。
「やはりそうでしたか……申し訳ありません、こちらの手違いで転移魔法陣の転移先を誤って設定しておりました。お迎えに上がれずまことに申し訳ありません」
「固い固い固い!そんな、尊敬とかされる様な真っ当な人間じゃないんで!こう見えて昔はもっとトガっててブイブイ言わせてたんだぜ?」
黒歴史とか拗らせたりとかグレたりとか。人には中々言えない過去とか。
「だから、さ。ほら、一応は役職があるじゃん?実力主義なのかもしれないけど、そこはもう、役職通りで良いのではないのでしょうか」
「むむぅ……ヒコボシ様がそう仰るなら」
コホンと咳払いを一つ。校長先生らしき人はそれだけで心の構えを切り替える。
「さて、先ずは自己紹介を。私はこの学校の校長である。名を〈マーリン〉と言う」
「私は教頭です。名前は〈ランスロット〉と言いまして、こう見えて剣術に少々覚えがあります。以後、お見知り置きを」
校長先生らしき人は校長先生に、教頭先生らしき人は教頭先生に僕の中で確定させ、名前も聞いたことがある様な名ですぐに覚えられた。というか、魔法学校なのに剣術にってアリなのか?あ、ヴォリスも魔法というかそれっぽいことが出来るし、セーフなんだろうな。
「ではこちらも改めて。僕は彦星、魔法も剣術もそこそこ出来ると思ってますが大したことはありませんので、期待しないでください。それからこっちが僕の妻の小子です」
「小子です、よろしくお願いします。剣は振れません、魔法だけです」
一通り挨拶をようやく済ませて、話は本題に入る。つまりは教師としての僕達の振る舞いだ。ふかふかのソファに座り、教頭先生が座卓の上へ数冊の本を置く。
「こちらが、教師全員にお配りしている教材です。全てを覚える必要はありませんが、目は通しておいてください」
話を聞きながら、僕は差し出された教材をパラパラと流し読みをした。初心者向けの本なのか、魔力の練り方や強化の仕方、属性や相性などの解説が記載されている。まぁ、この程度なら覚える必要は無いだろう。
「次に、お二人の配属ですが、ショウコさんは保健の先生と回復魔法の教師を。ヒコボシさんには魔法理論と体育の科目を担当してもらいます」
ふむ、二つか。人手が足りないのは異世界でも変わらないんだな。
「また、当校では家名の名乗りを原則禁止しております。基本的に実力主義、地上の法はある程度適用されておりますが、身分による不正を防ぐためにこの様な規則を設けさせております。勿論、年に数回行われる社交の場を除きますが……ここまで、何か質問はございますか?」
そう言われて、僕が質問をしようとすると、先に小子が手を挙げる。
「……あの、保健の先生というのは?」
「保健室の臨時医ですね。授業の無い時は保健室勤務になります」
「そ、そうですか……よかった…」
……これはアレだな、保健体育の先生と勘違いしそうになってたな。心配しなくても、小子が勤務し始めたら保健室はいつも満員だ。
「僕も質問だ。体育の先生はわかるが……魔法理論とは?」
「…理事長……いえ、国王陛下からのお達しで、その多彩な魔法構築の技術を伝授してほしいとの事です。魔法理論の授業は開校時よりございましたが、その当時に比べれば衰退の一途を辿り続けておりまして……」
「…技術が中々伸びないから、助けてくださいって事か?」
「…………はい」
そう言って、校長先生と教頭先生は揃って頭を下げる。下げすぎて、頭頂部の激しい衰退がくっきりと見える程に。
「魔法使いにとって、自分の魔法理論の提示は自殺行為に等しい事も重々承知しております!しかしながら我々だけでは、もうどうしようも無いのです!勿論、ヒコボシ様の理論を受けた生徒には誰から教わったかを秘匿させるように強く言って聞かせますので!何卒、何卒……っ!」
「そんなに頭を下げなくてもいいです。別に教えた所で扱えるかはその人の力量次第ですからね。それに、魔法理論が露見した所で僕には頼りになる仲間が沢山いますから、面倒事は仲間が何とかしてくれますよアハハ」
何とかしてもらう、の間違いだけどね!強制に決まってんだろ、そんなの。
「ありがとうございます!それでは魔法理論と体育教師、よろしくお願いします!」
「おう任せとけ!男に二言はないってな!……所で体育教師は何をするんだ?」
「はい!体術、剣術、柔術、弓術、戦術などなどの解説、指導、更には実践的な戦闘訓練ですね!」
すいませんやっぱりナシで。と言いたいが今しがた『男に二言はない』と言ってしまったので取り消しもできず、ぐっと出かかった言葉を飲み込んだ。
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校庭では、もうそろそろ足が痺れてきて立つのが辛くなった頃。ようやく、と言った形で全校集会は開始された。
全員が袖の長い冬服なのを見ると、どうやら今は夏休みが終わった直後らしい。そういえば、日本ほど気候の変化が無く気づかなかったが、太陽の沈みが早くなった様な気がする。逆算すると、異世界にやってきたのは春先になるのだろうか。
「……どうでもいいけど、校長先生の話はどの世界でも長いなぁ」
僕はずっと休めの姿勢で壇上に上がった校長先生を見ていた。お決まりなのか『本日もお日柄が良く……かくかくしかじか……うんぬんかんぬん……』という記憶にも留まらない長い話が十分ほど続き、ようやく新任教師の紹介が始まる。最初は小子からだ。
「……た、高い…よいしょ、う…ん……と、届かない……」
校長先生の後、事前に段取りを聞いていた僕たちは、同じく壇上に上がって一言だけご挨拶をする事になっている。のだが、身長の低い小子がどれだけ背伸びをしても、一五五センチの彼女には高さ調節のツマミでさえギリギリ届かない。
「ほっ!……ほいっ!…もうちょっ、届い、痛っ!」
飛び跳ねる事でどうにかツマミを弄り、固定されていた力を緩めた。その結果、最上部にある拡声器の機能を搭載した魔道具が脳天に直撃。更にはスタンドが倒れ、あの甲高い音が響き渡る始末。最終的には魔法具をスタンドから取り外して使用する。
「…倒せば良かった……あ、こほん。えー、お初にお目にかかります。お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げるが小子さん。飛んだり跳ねたりすると胸板の脂肪がぷるんぷるんたゆんたゆん揺れに揺れて男子高生は前かがみに下半身を、一部女子は絶望した目で己が胸を凝視してましたが、気づいてますかね?気づいてないでしょうね。
「校則で禁じられてはいますが、今回は家名も込みで名乗らせていただきます。私は〈優川小子〉と言います。担当教科は回復魔法、それから保健室の臨時医をさせて頂きます、よろしくお願いします」
再び小子が頭を下げれば、盛大な拍手が送られてきた。これは、明日からは人気者だな。っと、次は僕か。
小子から魔法具を受け取り、壇上へ。スタンドに挿し直して、考えていた挨拶を述べる。
「ギルドランクはA、担当教科は体育と魔法理論、名は〈優川彦星〉、基本的に何でも出来る。あと後ろの超絶天使小子の旦那、手ェ出した奴全員ブッ殺、よろしく」
殺伐とした挨拶だが、これでいい。殺気はビンビンにしてあるからな、変な輩が来るのはほぼ無いだろう。拍手も無く唖然としている人しかいない、当たり前だろうな。
その後も、大した話は無く今日は終わる。最後に、教師生活を送るに当たっての寝床なのだが、なんと学校内にあった。生徒は学校外に住む事が多いらしいが、それでも学生寮が設けられていて、半数近くはこの学生寮から通う。先生たちは学校の上層、空いた部屋に手を加えて住んでいるというのだから本当に驚いた。
「はぁ…一人部屋か……」
小子とは別の部屋になってしまったが、それは男性寮女性寮と分かれているため。それに、分かれていると言っても日中はお互いの寮に行っても咎められないので、そこまで縛りがキツイ訳でもない。
そうそう、この学校の全体像なのだが、途方も無く広かった。ジュゴスの王城よりは一回り小さいが、部屋数、敷地面積、その他諸々張り合えるほどに。それから地下も存在していて、立ち入り禁止ではあったが相当広そうだ。
「……寝る前に、教本でも読んでおくか…」
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