#51 タマvsヴォリス 決着
ヴォリスさんマジカッケェっす!
「重力、全開放!」
音を置き去りにしかねない速度で立ち回り、ブラッドレイの後方で刀を振り抜く。
対してブラッドレイは事実を捻じ曲げ、立ち位置を変更した…が。
「移動する位置が分かってれば対処出来るんだぜっ!」
空中に出現したブラッドレイには既に彦星の炎弾と獣王の拳が飛翔する。当たればそれこそ大きな隙が生まれ、次の、その次の攻撃を受ける事になり、延いてはジリ貧を意味していて。
「舐、めるなァ!」
瞬間、とてつもない情報量が頭の中を駆け巡ったかと思えば、放ったハズの炎弾と拳は跡形もなく消え去り、同時にブラッドレイの姿も消え、僕がそれを認識する頃には世界の改変が行われた後のことで
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「打ッシャァァァアアア!!」
「星域、展開ッ!」
着地地点で待ち構えていた獣王の一撃を防ぎ、代わりに星力を打ち出した。
「何…っ!?」
「ぐ……くそ、書き換え過ぎた…」
自分の強みを完全に潰された獣王はブラッドレイと一度距離を置き、目線は外さず彦星に指示を仰ぐ。
「ユーヒコ、次はどうする?」
だが彦星は頭を抱えたまま返事をする事はなく、同じくブラッドレイも星域を固めて頭を抱えているので、視線だけを彦星へと向けた。
「…おい、ユーヒコ?」
「騒ぐなっ、少し黙ってくれ……っ!」
違う……この事実は違う!摂理が、摂理に従って、捻じ曲げられた事実を僕や獣王の記憶に刷り込もうとしている…っ!けれど、僕は正しい結果を知っているんだ。
「……書き換わる前の記憶の上に、書き換わった後の記憶が、雪崩みてぇに頭に入って来やがる…っ」
ぐぅ……自分の引き起こした事実と他人の引き起こした事実を捻じ曲げるとこんな事になんのか。そりゃあ、代償が無かったとしてもバカスカ発動したくねぇわ。というかこんなの、煌めきで繋いでなきゃわかんねぇよ。
「……ふぅ、はぁ…悪いな、もう大丈夫だ」
「そ、そうか…?ならいいんだが…」
「…んで、獣王……お前は思うままに攻撃してくれて構わねぇぜ。やり方は分かったからな、僕でも書き換えられそうだ」
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「ーー【地割】!」
「ちっ……くそがっ!」
以前と同じ、しかし威力も制度もケタ外れに成長したヴォリスの魔法は、そこらの魔法使いが使う地脈割をはるかに凌駕していた。だが、それもそろそろ打ち止めとなる。
「く、くそ…はぁ、はぁ、体力が……」
「は、ははは!これだから脳筋は!体力の続くだけ振り回して魔法ぶっ放して、有限のモノを使い果たしやがった!」
そう、どんなに優勢であったとしても、やはり生物である以上は、体力に限界があるのだ。無理をすれば体全体に支障が出てくる。
「くくく……まぁ、ワイの能力の裏を突いた良い作戦だったんだがなぁ。お前ら人間と獣人じゃあ、種族としての潜在能力が違うんだ、当たり前だよなぁ?」
「…う、うぜぇ……」
完全に勝ちを確信したタマはこれ以上無く煽り始めた。自信たっぷりに動きを止めて。
「まぁ、ワイの能力の制限に気付いたお前らに、ご褒美として種明かしをしてやるよ。ワイにはな、【猫の力】っていう時間を戻す能力がある。心臓が六十回鳴るくらいの時間を戻せるんだ。事前準備が必要なんだが、条件を満たせばお前らの攻撃を先に知って避けるなんて息をするより簡単な事なんだよ」
「……それを、明かしてしまっていいんですか?」
「構わないね。だってさ、今後もうあの作戦は通用しないんだぜ?アタッカーの彼が潰れちゃったんだ、当然だろ?ワイの仕事は時間まで足止めする事。お前らに勝ち目なんてこれっぽっちもねーんだからな!」
「……」
「あはははははっ!絶望した?絶望した?そぉだよねぇ?さっきからずっとずっとずぅっと制限魔法しかしないんだもの、お嬢ちゃんは攻撃者としてはからっきしなんだろうなぁ!」
ぷちり、と小子の血管がキレた。誰が聞いたわけでも無いが、後にヴォリスはこう語る………『女って怖いんだな』と。
「ちく…しょう……すまねえショウコちゃん…俺はもう、動けそうにも……」
「大丈夫ですよ、あとは私がやりますさかい」
「……ショウコ…ちゃん?」
ゆっくりと、静かに、しかしとてつもない威圧感を放ちながら、小子はヴォリスの前に立つ。女神の書をパラパラとめくり、目的のページを開いた。
「なんだ、お嬢ちゃんがワイとやるってのか?やめといた方がいいぜ?何しろワイには未来が見えて……」
「未来が見えてはりますんやろ?ほぅしたら、今から何が起こるのか分かってはるんとちゃいますか?」
人の口では発音不可能な音を小子が呟くと、女神の書が光り始め、そこから無数の小さな魔力弾が打ち出される。その数にして役十数弾。
「まぁ、見えてるけど。こんなん避けたら終わり……え?」
「何が見えてはるんです?」
再び女神の書が光ると、また十数弾の魔力弾が打ち出される。だが奇妙なのは、その数が『打ち出された量より多い』こと。
「な、なんだこれ?」
「何が見えてはるんです?」
更に女神の書が光ると、十数弾の魔力弾が打ち出される。そしてやはり、その数は『打ち出された量より多い』のだ。
「……おかしい、何かがおかしい」
「何が見えてはるんです?」
次も、その次も、更にその次も、たった十数弾の魔力弾が打ち出されるだけなのに、その数はどんどん増えていく。光って、打って、増えて、聞かれる。
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
「何が見えてはるんです?」
狂気に満ちたその問いの後には、もう数万弾に増えた小さな魔力弾。逃げても、打ち落としても、その全てをタマが避けるまで続き、避け終わると次の魔力弾が打ち出される。
「なんなんだよ、これ!」
「何が見えてはるんです?」
「もうそれも聞き飽きたよ!ってか怖えよ!何がしたいんだよお前はっ!」
そう怒鳴り散らすタマだが、その光景はヴォリスの目には全く違う物に映っていた。
「な、何してんだ?アイツ」
「さぁ?必死に逃げ続けてはるんとちゃいます?時間ループには同じループですから」
ヴォリスの目には、たった十数弾の魔力弾がタマの周りを飛ぶだけの光景が映っている。なのに、タマ自身は必死に走ったり飛んだりしながら動き続け、たまに当たりそうになる魔力弾を全力で避けているのだ。異様に映っても仕方がない。
「あと何回かでループを止めます。しっかり準備して下さいね」
「は?準備?」
「はい、トドメの準備です」
「いや、俺もう体力とか魔力とか限界で、見たらわかると思うけどもう動けないから」
「よろしくお願いします」
「いや、あの、ねぇ聞いて!?」
ヴォリスの意見などガン無視し、小子はタマのループの立ち位置に合わせる。もう一度人の口では発音不可能な音を呟き、ループを解いた。
「ぜぇ……はぁ……い、いい加減に…」
「何が見えてはるんです?」
「っ……!くそがああああああ!!!」
限界に達したタマは魔力弾に当たる事など考えもせず、小子に向かって地を蹴った。小子自身は分かっていたかのように女神の書を光らせ、自分の魔力だけで魔力弾を生成し、打ち出す。大した威力を誇らない魔力弾の雨に真正面から突っ込み、完全に捉えた位置で獣人ご自慢の潜在能力を振るった。
「死ねぇえええ!」
「そんな釣れない事言うなよ!また俺とヤリ合おうぜぇ!」
「なっ……!」
魔力弾の向こうにいたのは小子ではなく、大剣を振りかぶるヴォリスであり、タマにとっては『この先にいるのはお嬢ちゃん』という思い込みが招いた結果で、その思い込みが能力の未使用を呼んでいた。
「…っ、んにゃろ!」
「遅いわっ!」
猫獣人特有の運動神経で、振り抜かれる大剣を避ける。反撃に、自分の腕をヴォリスへと振り上げた。
「さ、せる、かぁっ!」
大剣を放り投げ、降る時に使った力を足に移し、タマの腕を蹴り飛ばす。
「ぐ、あぁ…っ!」
「ハンッ、変な方向に曲がってやがる。まぁ命は取らねえ、よっ!」
弾いたのとは反対の足で顎を蹴り上げ、残った体力を全て拳に集め、鳩尾を殴り飛ばした。
「ぶっ飛べぇええええ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
飛ばされたタマは何本か木を薙ぎ倒し、やがて打ち付けられて止まる。
「へ、へへ…もう一歩も動けねぇや」
「お見事です、ヴォリスさん。私には火力が無いのでこうはいきませんね」
「……よく、言うぜ…ショウコちゃん、のほうが…あんな猫より、恐ろしく、強えや……」
安心しきったその時、がさり、と茂みが音を立て、そこから満身創痍のタマが顔を出す。
「……あの、やろ…」
「こ、殺してやる……任務、とか…命令、とか……どうでも、いいわ…っ!」
「どうしましょう。私も魔力、ほとんど残ってないんですよね……」
「ガアアアアアッ!」
ボロボロの体から血を流しながら、タマはまっすぐヴォリスに迫っていた。この状態ならば、容易にヴォリスを殺せるだろう。
「……ショウコちゃん、どう、にか、なんねぇ?」
「……やってみます…【無重力】」
残った魔力を全部使って、タマの前に無重力地帯を作る……が、見えているのか野性的なカンか、的確にその地帯を避けて通っていた。
「……肝心な所で、失敗しました。もう私には打つ手なしです」
「……十分、だぜ…」
相手は直線的に狙ってきている。これ程当てやすい的もない。足が震える?剣もない?上等だ、やってやろうじゃねぇか。魔法ってのはな、媒体が無くたって発動するんだよっ!
「バカめ!テメエが今更何か出来るとでも思ってんのか!」
「……あぁ、出来るッ!」
「体力も星力も限界の人間がッ!ほざいてんじゃねぇっ!」
「限界ってのはなぁ、超える為にあるんだッ!んでもってその限界もッ!決めるのはッ!他の誰でもねぇ俺自身だッ!」
剣が無いなら拳に込めろっ!魔力が無いなら他から取ってこいっ!足り無いモンは無理やり埋めろっ!
「俺は今ッ!ここでッ!限界を超えるッ!!【龍脈割】!!!!!!」
拳を地に全力で打ち付け、大地のエネルギーそのものを断ち切り、湧き出た龍の形を成した魔力がタマに襲いかかる。音や光を全て置き去りにした速度の一撃は、当たったと言う認識すら与えずに、意識を刈り取った。
「燃え尽きたぜ……真っ白にな…」
「地面に寝そべってなきゃ、最高にカッコよかったんですけどねぇ」
「もう指先も動かねっす。助けてください」
「はぁ…肩、お貸ししますよ」
意識を失い、無重力地帯に漂っているタマを見ながら、小子はヴォリスを引きずって彦星の元に向かうのだった。
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