#47 その頃の彼ら
戦闘シーン無しです。
人によってはツマラナイかも……?
「ふしゅー……ふしゅー……」
「……………見事ッ!」
残る一体の戦士が魔素……恵みへと還元されるのをしっかり見届けて、俺は獣化を解いた。
俺が師匠……いや、ガオウ教官の所で修行して、どれくらい経ったやろ?そろそろ二ヶ月くらいやろか?
「もはや貴様は半人前ではない。おめでとう、タイガ……お前は一人前だ」
「き、教官……!」
「よしたまえ、私はもう教官では無い。それに、さらなる高みを目指すならば、私ではなく己で学び取らなければならない」
「イエッサー!私は、これからも日々の鍛錬を怠らずに続けるでありますッ!」
体に染み付いた最敬礼をガオウ教官に向け、俺は鍛錬を誓うた。
「うむ………ところで、何故レオナがそこにいるのだ?」
「あ、はい、あの……街で今行われているお祭りに、タイガ君と行きますので…その………」
「まぁデートやわな。最終日らしいけど、まだ出店とかやっとるやろし、行こかな…と」
「ま、まさか……付き合っておるのか?」
「「はい」」
「…………ゆ、許さんぞぉ!おじいちゃんは許さんからなぁ!そんな、孫が誰かに貰われて行くなど………うぅ…」
な、なんや一人で勝手に泣き崩れとるけど、修行は終わったんやし、遊びに行ってもバチは当たらんやろ。
「ほな、行こか」
「はい、末長くよろしくお願いします」
「末長くお願いしちゃならんぞぉぉ…」
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「ほぉー……結構、賑やかにやっとんなぁ…あ、オッチャンこの串焼き二本くれ」
「まいどあり。百Mな」
「はいよ」
賑やかな街に一時間でたどり着き、少し小腹がすいたから適当な物を買う。
路銀に関しては問題なんかあらへん、修行の合間に害獣を討伐してちょくちょく換金しとったからな。二千Mくらいあるわ。
「やるよ」
「えっでも……」
「かまへん、レオナと違ごうてビースティアにはあんまり来れへんやろし」
「で、でしたら……いただきます」
買うた串焼きを食べながら、配られとったビラに目を通す。それによれば今日は三日目で全獣人は花婿の捕獲を禁止、見つけた物には五百M贈呈、獣王が花婿を捕獲し、武舞台で決着を付けるらしい。
「えー……『嫁取り鬼ごっこ』?なぁレオナ、この嫁取り鬼ごっこってなんや?」
「もぐ……はい、ビースティアの伝統です。本当は、複数の婿候補が逃げる花嫁を捕まえて、正式な花婿を決める行事ですね。一族ご近所さん総出で妨害したり協力したりして、ちょっとした騒ぎを起こすんですよ」
「はぁ?なんで嫁一人に複数も婿候補がおるねん。おかしいやろ」
「今はそんな事……それこそ認められない結婚などを認めさせる為にする程度ですけど、昔はもっとあったそうですよ?我が名家と彼の名家の間に幼馴染とか……美談ですよねぇ…」
美談でもなんでもないやん?ドロドロのヒルドラやん?あ、ヒルドラ言うんはヒコボシから教えてもろた言葉で、『ドロドロの恋愛活劇』っちゅう意味や。なんでも、昼食時に毎日連続でそう言う舞台があるそうやわ。
「……しかし、この婿候補の特徴、見れば見るほどヒコボシにそっくりやなぁ」
「お知り合いですか?」
「そっくりさんと、はな。この婿候補は知らんで?だって知り合いはもう所帯持って嫁はんいとるし」
「…せっかくですから見に行きますか?まだ間に合うと思いますよ?」
「……せやな、行こか。立ち見席くらい空いとるやろ」
そう言うて、俺とレオナは串焼きを頬張りながら、武舞台のある王城へと向うた。
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「ヒューッ!いい風だぜぇ!」
ビースティア南方、シャフモン山、その、遥か上空雲の上。手綱で拘束された小竜の上に、その男……【酔剣】ことヴォリス・ヴァレンタインはいた。小竜は嫌がる素振りもなく、黙って……そもそも話はしないが……鳴き声ひとつ上げずにビースティアを目指している。
「しっかしこの小竜、本当に誰に落とされたんだろうな。突然降ってきたと思ったら忠誠を誓ってるし、俺のした事なんて傷の手当てと保護くらいなのに……」
この世界の小竜は戦いで負けた相手に忠誠を誓う習性があり、そして件の小竜は根回しを怠らない〈ザンキ〉が一撃で地に落とし、小竜自身は落とされた相手を視認もできずに気絶し、目覚めた先にいたヴォリスを負かした相手と刷り込ませたのだが……。
「日頃の行いが良いおかげだな!わはははは!」
そんな事は微塵も疑わず乗りこなす。
ちなみに、この時点でヴォリスが謎の空飛ぶ三人と出くわして死ぬ未来があるのだが、それは三人の下をヴォリスが通過する事で発生し、今回は幸いにも小竜は三人の上を通過したので、事なきを得ている。
「お、着いた着いた。ここが帝国だな……」
小竜に合図を送り、旋回しながらビースティアの南口に付ける。
「!адономйнан」
「ちょ、待ってくれ!俺は別に怪しい者じゃ……いやいや、異国でわけわかんねぇ言葉を話す俺の方が怪しいか……」
到着と同時に二人の兵士が、矛先をこちらに向け、にじり寄ってくる。この兵士をどうしたものか、とうろたえていると、耐えきれなくなった小竜がヴォリスと兵士の間に割り入った。
「ギャッ!ギャア!」
「お、お前……」
双方の意識が別の方へ向いた事で、ヴォリスは冷静に頭を回す。きっとさっき言っていたのは『貴様、何者だ!』と同じような意味だろう。でなければ敵意をこちらに向けないし、構えて威嚇をする事もない。要するに身分と目的を伝えればいいわけだ。
…ならば、ひとつ賭けてみるか?
『何者だ、お前は!』
元の言葉を聞いたってわからねぇから、勝手に脳内変換させてもらう。こちらの言葉には身振り手振りを付けて、なんとか伝えるしかないな。
「あー、わたし、人間。怪しい者、違う。これ、身分、確認、どうぞ」
両手を上げて膝を付き、目線を離さずにそっと懐からギルドカードを出す。床にカードを置いたら、ゆっくりと十歩下がって静止した。
相手は、言葉は通じずとも意図は伝わったようで、しかし矛先をこちらに向けたままギルドカードを拾った。躊躇いなく拾うあたり、帝国にも似たような機関があると推測される。
『………よし、なぜこの国に来た?』
「わたし、友達、助ける。人間、国、連れて戻る」
この意思もある程度伝わったのだろう。兵士はひとまず矛先を外し、しかして意識はこちらに向けつつ、もう一人の兵士と相談していた。そして、こちらに話しかけて来た言葉の中に気になる単語が出てくる。
『お前の友達とは「ヒコボシ」と言う名前か?』
「ですです!『ヒコボシ』俺、友達!人間、国、追われる、俺、助ける、連れ戻す!」
しばらく二人の兵士が相談した結果、ひとまず門を通してくれるらしい。会釈して門を通ろうとすると、少し待てと手で止められた。
『この服を着て、顔を隠せ。バレると色々ややこしい』
『それから、あの小竜は国に入れられない。悪いが放してやってくれ』
兵士の一人はもう黙って古びた服を押し付けて、顔の前で指を交差させる。
もう一人は小竜を指差し、門を通る動線にそってなぞると、やはり首を横に振った。
……意味は間違ってないはずだ、多分。
「わかった。そうする、ありがとう」
拒否する理由も無いのでその通り従い、ヴォリスはやっとの思いで帝国……ビースティアの門をくぐった。
ご愛読ありがとうございます。
作者的に休息回ですかねぇ?




