#43 五色戦隊ジュウセイジャー第50話『覚醒!五人の戦士!』
←ここまでAパート、ここからBパート→
ガギィィン!と鈍い音が響き、刀が光の粒子へと還元される。数十本あった万年筆製の刀は、ついに二桁を下回った。
「よっし!どうだ、もう動きには慣れてきたぞ!」
「ちっ……だが、こちらも動かし方には慣れてきた。一本当たりの撃破時間が伸びているのが、証拠だ」
複製された刀を一振り持ち、他の刀をそれに合わせる。横に振れば横に振るわれ、縦に振れば縦に振るわれ、時間差のように狙いを済ませれば多段攻撃となり、格子のように並べれば防御壁ともなった。
「さぁ、早く続きを……」
「大丈夫か、レッド!」
ちっ、足止めの土人形は全部壊されたか。まぁいい、時間稼ぎにはなったからな。
「みんな……よぉし、ここから反撃だ!」
五色の煌めきは、単体ではそれほど強くなく、極めたところでたかが知れている。変異能力の方がよほど応用が利き、対処がしやすく理解もしやすい五色の煌めきは、不人気を通り越して没能力の評価がされるのだ。
だが、例外として。
「リーダー!」
「おうよブルー!発熱!」
ブルーの生成した水が、一瞬のうちに水蒸気と化す。何倍にも膨れ上がった蒸気は、いとも容易く彦星の視界を奪った。
「あああごめんなさい、ごめんなさい、死なないように殺してあげます、痛いですよね、ごめんなさい!」
イエローの電撃が水蒸気に伝わり、即席の雷雲と化す。
「アタシに任せな!」
仕上がった雷雲を風で動かし、活性化。強烈な落雷が至近距離で彦星を襲った。
「っぐ、うぅぅぅ!!!」
とっさに刀を繋げてアースにし、落雷を地面へと放電する。凄まじい衝撃波と爆音が彦星の五感を襲った。
「俺の存在を忘れられちゃあ困るぜ!」
すかさず、地下から強烈なアッパーカットが繰り出され、彦星の体はいとも容易く後方へと吹き飛ぶ。それでもなんとか持ちこたえ、揺れる脳と視界を犠牲に意識だけはなんとか保つ。震える足を放置し、幾度かの深呼吸で落ち着きを取り戻した。
このように、組み合わせる事で五色の煌めきはその真価を発揮する。まるで、神がそう仕向けたように。
「だ、大丈夫ですか、彦星さん」
「…大丈夫じゃない、大問題だ。ところで小子、一つ頼みがあるんだが………」
治癒魔法を施そうとした小子を止め、そっと耳打ちをする。指示を聞いた小子は驚いた顔をするが、コクリと頷きその場をすぐに離れた。
「……なんだ?」
「落ち着け、今は目の前の敵に集中するんだ」
「お、おう」
さらに本数の少なくなった刀を従え、彦星はなりふり構わず重力を全て解放する。
「……悪いが、全力でいかせてもらう。加減も出来ないから、先に謝っておこう」
「望むところだ!」
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
たんっ、と軽やかなステップで小子は屋根の上を駆けた。襲ってくる獣人には、女神の書に書かれている魔法を片っ端から使用し、その豊富な魔力と星域に物を言わせて強引に突き進んでいった。
「つ、着いた……」
息も切れ切れ、小子が足を運んだのは他ならない図書館。今日はお祭りという事で入場料も取られず、好きに閲覧する事が出来た……そもそも、こんな日に利用しようとするのも、小子一人のみなのだが。
そんな誰もいない図書館の中から、一冊の本を探す。その内容は女神の書に記載されるも一部秘匿され、あくまでも『人間には』使用不可能と書かれた内容だった。
「ほ……ほ……あった…『星の恵みと発生方法』…」
その本にはタイトルの通り、自然界に漂う星の恵みについての研究資料がまとめてあり、その恵みがどうして発生するかが書かれている。
「……星の恵みは本来、自然と共に在る物…それは霊魂の残骸とも、星が与えたエネルギーとも…」
ある程度の概要説明から、煌めきに対する私的考察まで幅広く解説し、数ページ後に人工的星の恵みに関した研究結果があった。
「………結論として、星の恵みを永久的に生成する事は叶わないが、一時的にその地点の星の恵みの濃度を上げる方法が…」
そこまで読んだ時、小子は自分の女神の書を開いて件のページを開く。摂理を記した女神の書の、作成者が施した秘匿情報を記すためだ。使用者が自力でその解に気付いた時、間違いが無ければその情報は開示される。
「…この研究が正しければ、女神の書が更新されるはず……!」
読めない文字がゆっくりと消え、女神の書には正しいやり方が記載され始めた。小子が真実を知ったために、秘匿する意味が無くなったのだ。
「…っ!…誰か来る!」
図書館に入るのを誰かに見られたのだろう。鈍重な扉が開く音が聞こえ、静かな図書館に乾いた足音が響いた。時折足音が止まるのは、本棚の間を覗くからだろうか。
「………早く、早く開示しないと…!」
女神の書を更新中に閉じてしまうと、その一切がリセットされてしまう。彦星がジュウセイジャーに負ける前に全てを終わらせなければならない小子にとって、たとえ一秒でも無駄に出来ないのだ。
……足音が近くまで来ている。もう四つは隣の本棚だろうか。
「…もう少し、もう少し……!」
残り、三つ。女神の書の更新完了まで、あと一ページ。
「まずいですよぉ、もう来ますよぉ…!」
停止、残り二つ。女神の書更新完了まで、あと三分の二。
「………っ!っ!!」
声にならない焦りが小子を襲う。残り一つ。女神の書更新完了まで、あと三分の……画像混入、時間にして二ページ分。
「…………あっ終わった…」
覚悟を決め、頭が真っ白になりそうな小子は、未だ更新の終わらない女神の書に力なく目線を落とした……刹那。かなり遠方で爆発音が響き、僅かではあるが図書館全体が揺れ動く。
追手の獣人は暫く音のした方角に視線を向け、数秒迷った後に図書館を退館した。
「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
これまでにない程の緊張を、止めていた呼吸と共に吐き出し、その場に座り込む。
あの爆発音は、きっと彦星さんですね。無理をしていないと良いのですが……。
「…ひとまず、更新は終わった様ですね」
小子は心を落ち着かせ、借りた本を本棚へと戻す。更新の終わった女神の書を閉じ、気づかれない様に最新の注意を払って図書館を出た。
「……次の段階に進まないと」
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「くっくっくっ、どうしたジュウセイジャー…先ほどまでの自信はどこに行ったのだ?」
最初とは打って変わって、扱いやすい刀の数と重力を全解放を使用した〈オンナスキー〉には手も足も出ず、リーダーであるレッドを含む五人の戦士が、地に伏せ虫の息と化していた。
「……ま…まだだ…」
それでもなお立ち上がり、フラフラになりながらも立ち向かうあたり、流石はリーダー格だと彦星も感心する。
「…もう、無理だラオガ……」
「そ、そうよ……シャロンの言う通りよ…」
「……リーダー、逃げよ」
「………うっ、持病の腹痛が…」
しかし他の四人は引け腰で、立つ気力すら無いらしく、戦略的撤退を希望しているようだ。
「……何、言ってるんだよ」
レッドは四人に背を向けたまま、身構える。
「ボクは、いつもの日常が好きだ」
例え変身が解けようともその目の火は揺らぎ続けていた。
「あのなんでも無い日常が、秘密じゃない秘密組織が好きだ。毎日ダラダラ集まって、指令を待ちながら地域に尽くして、子ども達にどうすれば人気になるかを考える、あのくだらない日常が好きだ」
けれど、とレッドは言葉を続ける。
「ボクは、時々考える。どうしてこんなヌルい集団が、国に大切にされるのか。その度に、ボクは思う」
不用意に後ろを振り返るが、レッドの意識は常に彦星へと向けられている。攻撃をしないのも、いつでも潰せるという慢心だろうか。
「ボク達はヒーローだ!子ども達の希望だ!没能力の五色でさえ、極めればこんなに強いって知らせるための、証なんだ!そんな希望が、こんな所で逃げる?圧倒的な力に屈する?出来るわけないだろ!だからこそボクは戦う!腕が千切れれば蹴飛ばし、足をもがれれば頭突きを浴びせ、首が飛べば噛み付いてでも戦う!こんな所で、負けてっ!たまるかああああああ!!」
揺らぐ火は炎へと、昇華する。彦星の目には、レッドの煌めきが光り輝いているのが映されていた。
「……ふ、そうだな。何を言っているんだろうな、俺は」
「ふ、ふん!ちょっと休憩したかっただけよ、もう問題ないわ」
「………準備、完了」
「よーしよく言った!それでこそ俺の見込んだ男だぜ!」
レッドから皆へ、輝きは伝染する。虫の息だった五人は、泥だらけになりながらもまっすぐと彦星を見つめた。
「行くぞ、皆!命を、燃やせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「「「「はぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」」」」
………面白い、ちょっと手助けしてみるかな。話的にもBパート中盤だろうし。
そう思い、彦星は自分の煌めきで五人の煌めきを繋ぐ。そして、彦星からジュウセイジャーに、魔力を均等に注いだ。
「な、なんだ!?」
「力が…みなぎって……!」
そりゃあ、そうだろう。自分で魔素を吸うのと他人に入れられるのとではワケが違う。おまけに、今は覚醒寸前で大量の魔素を必要としているのだから。
変身時と同様に、それぞれの色で体が覆われるとその光は膨張を始めてある程度膨らみ、やがて卵のようにひび割れ砕け散った。
「………す、すごい…なにこれ…」
「あ、あぁ……凄まじいパワーを感じる…っ!」
ふむ、どうやら覚醒は終了したようだな。それではご丁寧に名乗っていただくとしよう。
「な、何なんだその力はっ!」
「……ぁ…こ、これこそがっ!俺たちジュウセイジャーの真の力っ!火は爆ぜる、爆炎の獅子ジュウセイレッド!」
「ひ、氷結の海獣ジュウセイブルー!」
「暴風の空帝ジュウセイグリーン!」
「紫電の空王ジュウセイイエロー!」
「岩石の土竜ジュウセイブラウン!」
…何というか、面白いほどにス○パ○戦隊だな。煌めき戦において能力の秘匿は常識だってのに……。
「くらえ!爆裂拳!」
しかも今考えたみたいな技名、つまり当たれば多段ヒットの攻撃だろ?ンなもんまともに当たるか。
「……あれ、動かな…っ!」
避けようとしたその時、自分の足が思うように動かない。見下ろしてみれば、硬い石で地面とガッチリ固定されていた。
「言ったろ?俺を忘れるなって」
「ッチィ!」
今から砕いて…いや、間に合わない。こうなったら避けるのは諦めて、魔力で全身をコーティング。刀を全て魔力で覆い、ガードするっ!
「はぁあああ!!」
「ぐぅうううっっ!」
魔力と星力がぶつかり、その位置に強い衝撃波が生まれた。一見均衡に見えた迫合いは、爆音とともにレッドの優勢となる。
「く、ぐぬぅ………『破』っ!」
たまらず万年筆から文字を発動させ、足下の岩を自損覚悟で砕く。自由になった彦星は、そのまま後ろへと飛び退いた。
「と、とにかく戦線からの離脱を……!」
「させるわけねぇだろ、氷結弾!」
「先回りだとっ!?」
無数に放たれる氷の結晶を全て打ちはらい、逃走を図って『煙』を発動…が。
「それは一回見たわよっ!吹き飛べぇぇぇぇ!!」
突如、暴風に全ての煙を吹き飛ばされ、隠れる暇もなく無効化された。その、瞬間。
「紫電よ、彼の者を、撃ち殺せ。焼けて、焦げて、消し炭に。跡形もなく、消え失せろ」
「お、穏やかじゃない呪文だなぁおいっ!」
放たれる電撃は、最初に受けた一撃より遥かに重く、膜を纏っていなければ死んでいた可能性もあった。
「はぁ……はぁ……っくそ、小子はまだか…っ!」
つくづく、燃費の悪いこの体を恨みたくなる。せめて魔力さえ、充電できればこんなアホみたいな奴……っ!遊び始めた僕も悪いんだけどなぁ!
「これで終わりだっ!」
「な、なんじゃそりゃあ!?」
ジュウセイジャー五人が力を合わせて作った、巨大ランチャーの銃口がこちらを捉えており、発射準備はすでに完了しているようで。
「「「「「イグニッション!!ファイヤァァァ!!!」」」」」
「う、うわぁああああああああああああ!!!!」
放たれた超高速の岩石は刀のガードをぶっ壊し、固めた魔力膜を押し退け、ついでに天から光線を降り注がせ、派手な演出と共に彦星の体を吹き飛ばした。
「ふぅ……これでまた一つ、悪が滅びたな」
「あぁ、新しい力も手に入れて、喜ばしい限りだぜ」
「あーもークッタクタ、早く水浴びしたい」
「…お姉ちゃん、背中流すよ?」
そんな事を話しながら、ジュウセイジャーは変身を解いて戻りたかった日常へと帰っていった。
「…………なんか違和感を覚えてるの、俺だけ?」
「どうした、モグゾー?」
「……なんでもねーよ」
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
「ぁ、ぁあああ、彦星さん、彦星さんっ!」
「………お、おう…ナイスタイミングだ、小子…」
傷だらけのボロボロで路地の奥に吹き飛ばされた彦星は、直前に降り注いだ『恵みの集束』をその身に受けていた。
「……悪いんだけどよ、小子…早く治してくれるとありがたいかなぁ」
「うっ…ううっ……ぐすっ、私が、もっと早く、準備できていれば…こんな、事には……っ」
「…………まじで痛いんで早くしてくれると嬉しいかな」
ある特定の条件で周囲の恵み……つまり、魔素を一点に集束させる。その恩恵を受けた彦星は瞬間的超パワーを得てジュウセイジャーをボッコボコにタコ殴りする計画……だった。しかし舐めプに舐めプを重ねた彦星は見事に返り討ちとなり、あのランチャー攻撃を受けた直後に降り注いだ魔素の集合体を吸収、一命を取り留めていた。
「うっ…ううっ……ごめんなさい…ごめんなさいっ!」
「だからぁ!はよ治せってんですよぉ!」
「は、はいっ!」
い、いてて……大声出させるなよもう………。
彦星の体を小子の魔力で包み、優しい暖かさでゆっくりと傷を塞ぐ。緩和されていく痛みに耐えながら、彦星は明日の事を考え始めたのだった。
ご愛読ありがとうございます。
勝負に負けて試合に勝った彦星さんでした。
次回、五色戦隊ジュウセイジャー第51話『新たな戦士、シルバーゴールド!』
※次回のジュウセイジャーはお休みです。




