#3 適性検査
再び、傍観席。五回戦を見ながら桂さんと当たり障りの無い話をする。
「桂さんはもうギルドに入った?」
「ええ、魔法使いで入りました」
「適性検査ってどんなことした?」
「回復速度を計ったり、色々な系統魔法を使ったり…」
「それ、意味あった?」
「適性検査ですから」
「いや、そうじゃ無くて」
例えば、今僕が次の試合に出るのを拒否したとして、それでも僕はギルドに入れるのだ。このまま勝ち進んでも、メリットが見当たらない。
「このままこの試合を続けて意味あるのかなって思って」
「あぁ、そういうことですか。率直に言いますと、あります。ギルドランクを進められますし」
「ランク?聞いてないぞ」
「ぇえとですね、これは私の場合ですけど…適性検査ノルマ二つクリアでワンランク上に進めるみたいでした。一番上のランクがSランクとして、そこからA・B・C・Dとあります。今の時点ですと先生はDランクですので…次の試合でCランク、優勝すればBランクです」
なるほどな。昇格システムか…RPGでありがちな設定のままだと、Sランクはおとぎ話の勇者レベルで、Aは教官、BはベテランでCが一般レベル。Dは見習いと言った所か。
「それで、桂さんのランクは?」
「私はBです。ちなみに、マキさんはAランクなんですよ?」
「え、マキさんってそんなに強かったのか!?」
桂さんの隣で、僕たちと一緒に観戦しているマキさんは照れ隠しをする。
「やめてくれ。あたしは薬草を採りに行ったりしていたらそうなっただけだ」
「それだけでAランクはかなり難しいはず。何か大きな事を成し遂げたからこそのAランクなんでしょ?」
「ヒコボシ、あたしがそんな風に見えるのか?」
「見えます」
「マキさん、隠さないで教えてあげて下さい。私が言いますよ?」
首の後ろを欠いて、少し口ごもるマキさん。
「いくつか、新種の植物を見つけたんだ。回復薬や、解毒薬の効果を飛躍的に高める植物とか」
「最近ですと、品種改良もしているんですよね。成功すれば、食糧問題が解決するような」
「そんな大袈裟なものじゃない。トムトの根にジャガポットが出来るかもしれないだけだ」
トムト…トマトの事かな?するとジャガポットはジャガイモか。元の世界にポマトと言う植物があるくらいだから、マキさんならきっと出来るかもしれない。
「も、もういいだろう。ほら、そろそろヒコボシの試合の番じゃないのか?」
見ると、五回戦はとっくに終わり、六回戦も、もう終わりそうだった。次の試合は相手がおらず不戦勝となり、代わりに一人余った人と試合する事になっていた。
「さあ、行ってこい。嫁がBランクなのに旦那がそれ以下なのは、示しがつかないだろう?」
「嫁…あ、はい。そうですね…」
気の無い返事を返し、下に降りる。
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この世界にマトモな人間はいないのか。
「どーや!なかなか、かっこええ剣やろ?」
そう言って、相手は自分の武器を見せびらかす。剣には炎の刻印が刻まれており、離れた位置からでも熱量を感じ取ることが出来る。
「俺も一獲千金狙うて、美人な嫁はんと結婚するんや!」
「…フラグ建築乙」
「フラグ?なんや知らんけど、この炎の剣に負けは無しや!武器店のおっちゃんがゆーてたしな!」
「…あっそ」
宙に“ 水 ”と描き、その文字を相手にぶつける。しかし当たる前にその剣で斬られてしまった。
「はい、しゅーりょー…」
「なんやなんや!今ので勝ったつもりかいな?この剣が折れない限り、俺は負けへんで!」
「…もう折れるよ」
「え…うわ、ほんまや!バッキバキにひび割れとる!っわあぁ!?折れよった!」
あほくさ。やってられんわ…呆れ過ぎて口調が写ってもーたやないの。あー、ゲフンゲフン…よし、戻った。
魔法の刻印された剣に、相対魔法をぶつければ消滅するのは、ファンタジーの基本である。刻印から察するに、さっきの剣は火魔法が付与されているようだった。そこに水魔法をぶつければ、魔法式は壊れて剣も一緒に砕けるのだ。
「…こ、こんなんチートや!チーt(ry」
「言わせねぇよ!それ以上はバッシングの元種になる!」
「…だからってぐーパンはあかんで…」
危うく著作権とか、そういうものに引っかかるところだった。とりあえず黙らせたから、これでしばらくは大丈夫だろう。
「本当、この世界にマトモな人間はいないのか…?」
あっけなく勝敗が付き、桂さん達の元に戻る。
「おかえりなさい。本当に大丈夫ですね」
「おかえり。強いんだな、ヒコボシは」
「…えぇ、鍛えてましたから」
「筋トレだけであそこまで強くなるものですかね?」
「そこは、ほら。魔法とかの所為にしよう。肉体が魔力で強化されている、とか」
その方がファンタジックで良いじゃない?
「この調子でしたら、先生が負けることは無さそうですね…では、私はこの後用事がありますので」
「あれ、どこか行くのか?」
「はい、マキさんと一緒に依頼を受けまして。薬草採りです」
「ふぅん、旦那は嫁の動向が気になりますですか?」
なんか、マキさんがニヤニヤしてますけど、桂さんとはそういう事は一切無いわけで。そもそも僕独身ですし、嫁とか全然わからない。
それでも、面倒な事は避けたいので、とりあえず愛想笑いを浮かべておいた。
「…ま、あたしとしてはどうでもいいからな。適性検査がんばれよ」
「あっハイ」
そう言って、桂さんとマキさんは付属闘技場から姿を消した。
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七回戦、準決勝。もうここまで来ると、剣速に目が慣れ始めて、試合の流れがよく見える。
「…お、あいつはいかにもな剣士だな」
そいつは、名前こそわからないが白い甲冑を着ており、唯一盾を装備していた。あの格好で神殿とかに立っていそうな身なりで、正直言って強そうだった。
「…強そうだったとか言ってられないな。あいつ本当に強いぞ」
敵側は、パワーとスピードを兼ね備えたなかなかの実力者だろうが、それらを見極め的確な防御を展開している。まるで実戦を経験した事があるようだった。
「…ダメだな。相手側がムキになりすぎている…あれだと体力を消耗するだけだ。と言っても、一呼吸入れる前に技を受けて呼吸出来ないだろうけど」
それほどまでに、彼は強いのだ。見ている分にはいいだろうが、後であの人と戦うと考えると…身震いが止まらない。
そうこうするうち、決着がついた。案の定、彼が勝利を収める形となったのだ。
とは言っても、双方既にギルド会員としては採用されるだろうし、ここでの敗北は己の限界点に過ぎないだろう。
「いやいや、そんな冷静に分析している場合じゃない。次は僕があの人の相手じゃないか」
しばらくの休憩を挟んで、ついに決勝戦。
がっしりとした体格の彼を前に、独身もやし男が対峙するとは、誰も思うまい?
「貴殿が、儂の相手か。よろしく頼む」
「え、あ、はい。こちらこそ…?」
意外と礼儀正しい人のようだ。遠巻きに見ていて気づかなかったが、今回の年長者だろう。鋭い眼光で、早くもこちらの動きを読み始めている。
「では、始めよう。老いぼれだとて、手加減は無用だ」
「いや、そんなに歳食ってるようには見えないけど…まぁ、そう言うなら」
戦闘開始。まずは、宙に“ 剣 ”と描き、それを出現させる。彼は、剣と盾を構え、きっちりとした戦術スタイルをとって見せた。
とりあえず、斬り込んでみるも、手に持った盾に阻まれ体まで届かない。再び斬り込み、連撃を当てるも全て弾かれる。
「鉄壁の守り、か。難攻不落だな」
「お世辞の上手いことだ」
「いやいや…」
一度、剣を消滅させる。武器を変えるのだ。
次の武器として選んだのは、卑怯としか言えない“ 銃 ”だ。ファンタジーの世界にこの手の武器がないとも考えられないが、この速さについてこれるはずがない。
相手から目を離さず、距離を取り発砲。
しかし当たる寸前に、銃弾は弾かれてしまった。
「…うそん」
「どのような仕組みかは知らぬが、そのような攻撃は儂には当たらぬぞ」
「…あんた強いなぁ…怖くて近づけやしない」
「そうか?ならば、こちらから行くとしよう」
開戦から彼が一歩も動いていなかった事に驚きを覚え、更に数歩後ずさりする。
「騎士として、相手に背中は見せてはならん」
「騎士、か。まぁ、いいさ。どのみち逃げ場なんかないだろ?」
再度宙に文字を描く。だがそれは今まで描いた“ 剣 ”でも、せこい“ 銃 ”でもなく。日本人なら誰でも知っている、独特の刃…その名も“ 刀 ”である。
数ある剣の歴史の中で、抜刀と同時に切り裂く速さは世界一を誇り、ブレないその切っ先は西洋より伝わるどの剣より鋭い切れ味を持つ。
「なかなか異様な剣ですな」
「僕の故郷に伝わる剣です。刀っていうんですよ」
「カタナ…良い響きだ。しかし、そんなに細くては切れるものも切れまい」
「さて、どうでしょう」
最初と同じく、切り込む。相手はそれを防御するように盾を構え、余裕の表情を浮かべていた。しかし一転、僕が刀を振りきるとその顔を驚きの表情に変えた。
「素晴らしい剣だ。儂の盾を切り裂くとは…」
「あなた達の剣は叩き斬るには強いでしょうが、僕の刀は切ることに特化しているのですよ」
音を立てて崩れる盾。真っ二つに切られた防御壁は、脆くも崩れ去った。持ち手の位置からは少し血が出ている。どうやら少し、手を切ったようだ。
彼は、不敵な笑みを浮かべてニヤついている。
「人と同様、見てくれに騙されるとひどい目にあいますな」
「そうですね、例えば老いたおじさんが凄い手練れだったとか」
「はっはっは、これは一本取られましたの。いやはや、最近の若いモンに一発やるつもりが、よもやこの様な才ある者と出会うとは。ならばこの〈タト・ゲンブ〉直々に鍛えてしんぜよう」
そう、名乗った刹那。彼から放たれる気配と、周囲の空気が一変する。他の観戦者はどよめき、タトさんからは殺気が飛んでくる。本能的に、僕は死を覚悟したワケだけど。そうはいかないのが主人公補正とか言うやつでして。
でもまぁ、おかげで猛スピードで突っ込んでくるタトさんの剣撃を、刀を地に突き立て防ぐ事が出来たので、良しとします。補正、大事、ゼッタイ。
「ふむ、見事な防御の型ですな。儂の本気の一撃でしたのに」
「あ、やっぱり?補正が無かったら即死でした」
「…補正?」
「あ、いや、こっちの話です」
とは言え、非常にまずい。体格から見ても、僕とタトさんの実力差は明らかで、正直言ってこの万年筆が無ければ互角 (?)に渡り合えてすらいないだろう。もちろん、僕自身の機転の良さも多少は関わっているだろうが。
兎にも角にも。もっと、何か決定的な何かを起こさないと僕はタトさんに勝てない。何か、何か……そうだ。
タトさんに気付かれないように、地面に文字を描く。
「どうした?反撃は無しかな?」
「いえ、もう僕の反撃は始まっています。あとは、時間の問題です」
「…ふぅむ、儂が察するに罠か何か仕掛けたのかの?」
「さぁ、どうでしょう」
「ふふふ、言わずとも分かりますぞ。貴殿は先の攻撃で防御を取る際に体制を低くなされた。その時に罠を仕掛けたとなると…」
大きく、見上げるほどにタトさんは飛んだ。
やはりタトさんに、こういう罠は通用しなかったか…。
「良くて落とし穴程度が、貴殿の仕掛けられる罠。さすれば、飛んで攻撃すればよろしかろう?」
空から振り下ろされる剣。背後に逃げ道は無く、前方には自身が仕掛けた落とし穴を意味する“ 落 ”の文字が。逃げ場は、無い。
タトさんは剣を逆手に持ち、落下地点に僕を見定める。
「避けねば、死ぬぞ」
「そうですね…ですが」
タトさんの剣は地に刺さり、僕は姿を消した…そこに、自分の“ 声 ”を残して。
ーーまだ、浅いです。あなたが、タトさんがそう考える事を、僕もまた予測出来たのです。
「なんですと!?」
ーーそして予測通りでした。タトさんは、僕が罠を仕掛けたと考え、対策を瞬時に試行錯誤し、実行した。ですが僕もまた、罠を二重三重と仕掛けたのですよ。
「……まさか、ここまで貴殿の手の平の上だとは」
ーーさぁ、最後の罠を発動させましょう。
…あぁ、イタイ。すっごくイタイ。なにこれ、なんの後悔処刑?僕は自分で仕掛けた罠に飛び込んでやり過ごしただけですよ?あとは適当に辻褄が合うように誤魔化そうと思ったのに…くっ、僕のバカめ。なんてイタイ子なんだ…っ!
そんな彦星の思惑は全て無視して、作者は物語を進めて行く。でないと、いつまでたっても話が進まないからね。
…なんだろう。今、僕とは違う誰かがナレーションをした様な気がしたんだけど…?
まぁ、いいか。とりあえず、今は目の前の事に集中しよう。宣言通り、罠を発動させる。地に開いた落とし穴を“ 隠 ”していた文字を“ 消 ”した。
突然現れた穴から飛び出し、僕は一閃を振るった。しかし、タトさんはそれに見事対応したようで。
「この状況で奇襲とは、考えたものよのう。だが所詮は若造、まだまだ青いの」
「……」
「この勝負、儂の勝ちじゃ」
…………。
…………。…………。
………………………。
「…どこを、見ているんです?」
「ぬ?」
防いだハズの一閃が、タトさんの首の後ろでかすめる感覚が走った。
「影武者です」
飛び出した僕の“ 影 ”武者は、ノイズの走ったように溶けて消える。後に残ったのは、影武者の媒体に使ったこぶし程度の岩の欠片だった。
最後に、振り切った刀を鞘に収め、消滅させて、僕の勝ちは決まる。これが実践なら、タトさんは間違い無くギロチンにされていただろうし、それ以前に騎士とか、そういうのにこだわるタトさんなら、背後を取られた時点で負けを宣言するだろう。
「タトさん。僕の勝ちで、よろしいですか?」
「………ふ、ふふ…ふはは!なるほど、これはしてやられましたな!貴殿には素直に負けを認めましょうぞ!」
なんだか、パッとしない戦闘シーンを展開してしまった気がしてならないけど。もう既に随分と文字数を稼いでしまっているようなので、この後の下りは総カットといたしますかね……お許し下さい。
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総カットと言えど、ダイジェストでお伝えする義務位はあるので、大まかに説明します。
まず、僕のランク判定は申し分なくBランクを貰いました。
そしてタトさんについて、ですが。タトさんは本当に神殿の護衛をしているAランク騎士で、この辺りではかなり有名な方だそうです。今回の適性検査はギルドからの正式な依頼を受け、いわゆるサクラをお願いされたのだとか。タトさんも、昔の血気盛んな時期が懐かしく思って面白半分で参加したそうです。
「えっ、えっ、えっ、えっ!そ、それで、先生にお怪我はっ!?」
「無いよ。本当に奇跡だと思う」
「うっ…うぅ…」
「なぜ泣く!?」
「だ、だって先生が大怪我したら私が困りますぅ…」
その日の、夕暮れ時。場所は、僕が目覚めたあの部屋で。なんてこと無い僕と桂さんの雑談の時間。それは、異世界でも元の世界でも変わらない。
「あーあ、嫁を泣かす最低の旦那だなァおい」
「なんで、あなたが、ここにいるんですか」
「ぞ、ぞればごごがマギざんのやどでずがら」
「ちょ、桂さん!大号泣じゃないですか!あぁもう!ほら、ハンカチ!」
「あ、ありがどゔござびばず。ヂーン」
「涙拭くつもりで渡したんだがな…」
そんなこんなで、とりあえず桂さんをなだめる。いろいろと聞きたい事もあるし、な。
「あー…ありがとうございます」
「いや、もういいよ…それで?依頼ってどんなだった?」
「あぁ、そうですね。そういう話でしたよね。えぇと…みなさん優しい方でしたよ?」
「だろうな。そんな無駄脂肪ぶら下げてれば、男はみんな優しくするだろうな。ってそうじゃねーよ。依頼内容とか、町の外の事を聞いてるんだ」
もういっその事、逆元気玉みたいにこの無駄脂肪がえぐられるのを期待する。
「町の外、ですか?えぇと…なんてことない草原でいっぱいでしたよ?小動物とかもいて、まさに天国って感じでした」
…あぁ…桂さん小動物好きだからなぁ…この分だと周辺の景色とか見てない可能性があるな。最悪の場合、記憶のねつ造がされているかもしれん。
「ヒコボシ。なんかよく分からんけど、町の外が気になるなら明日行けばいい。Bランク判定貰ったんだろ?探せば、この周辺の探索依頼に適した依頼があると思う」
「そうですね。そうします。桂さんを一応連れて行きますけど、問題無いですか?明日行く予定の依頼とか」
「いや、特に無いかな。今日は疲れただろ?ゆっくり休め。あ、そうそう…夕飯は日が沈んでからだからな」
「はい、ありがとうございます」
そう言い残して、マキさんは僕の部屋を後にした。
「ほら、桂さんも。自分の部屋があるだろ?」
「ぇ、あぁ。そうでした。マキさんのはからいで、今日から私もこの部屋です」
「…マキさん……余計なことを…」
「頼んだのは私です」
「お前かぁぁぁ!」
全ての元凶に正義の鉄槌を下したい気持ちを抑え、と言うか呆れて、いつの間にかシングルベッドがダブルに変わっている事に今更ながら気付き、何も言わずに突っ伏した。
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とっぷりと日も暮れて、夕飯の時間になる。しかし、出された料理はお世辞にも美味しいとは言えず、味が薄かった。それでも、出された料理にケチをつけるのは料理長に失礼なので、文句を言わずに完食する。
さらに場面を切り替えて、再び僕と桂さんの部屋。
「あんまし美味くなかった…」
「私はもう慣れました。流石に三回目ですからね」
「あぁ、そう言えば桂さんは僕より一日長いんでしたっけ。異世界生活」
「どうやら、砂糖とか塩とか。調味料が乏しいらしいです」
「あぁ…なるほど。それで味が薄かったのか」
だとしても、野菜や果物なんかは結構充実している様に思えるのは、おそらくマキさんのおかげだろう。だからこそ、新種の植物を発見したりするだけで、Aランクに昇格されたのだ。戦闘技能も、半分は関わっているだろうが。
「異世界と言えば、どうして私達は飛ばされたのでしょう?」
「は?何が?」
「いえ、私も職業柄、いろいろなファンタジーを読みましたけど。大抵は魔王倒して帰ると言うのがテンプレなのに、この世界は別段魔王が復活した様子も見られないんです」
「…あー……」
確かにな。僕達が選ばれたのは、あの神様の気まぐれで説明するとして。呼び出した理由がわからない。直接聞けるなら、話は簡単なのだが。
「女神の書には、何か書いてないのか?」
「えぇと、ちょっと待ってください………」
女神の書を取り出し、パラパラとページをめくっていく。しかし、目的の内容は書かれていなかったそうで。
「…女神の書には何も書かれていませんね」
「そうか…だとすると、尚更わからん」
「あ、でも」
「ん?」
「…女神様達に会う事は、出来るそうです」
「……………は?」
ご愛読ありがとうございます。




