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#29 接触

前話の通りです。

 さて、道中の彼らは特に特筆はおろか語るべき問題もなく、そして彼らにしては珍しい旅が二週間ほど経った。


「いやいやいやいや、狼に襲われたり食料が切れかかったり変なキノコで三日三晩笑いが止まらなくなったりしたんですけど?」

「小子、誰に向かって言ってるんだ?」

「なんでもありません」


 まぁ、特筆することは無い。狼は彦星がさっさと食料に変えてしまうのが目に浮かぶし、変なキノコで三日三晩は笑うだけで死にはしないし、そもそもそんな程度の困難を彦星がまともに困難として受け取るわけがないのだ。

 だがあえて、特筆すべき事を挙げるとするならば。


「いやぁ、見ろよ小子。越えるべき山がもうあんなに近いぞ」

「ええそうでしょうね。何しろ彦星さんが正攻法で移動しないわけですし」

「よし、溜まったな。んじゃあもう一回」


 彦星は溜まった自分の魔力を織り交ぜ、万年筆で『短縮』と書いた。すると「ベロ」の前に丸い穴が出現する。


「ぎゅおーん!」

「「「わおーん!」」」


 穴をくぐれば、そこは山の中腹辺りだった。つまり、山のふもとから中腹までの距離を『短縮』したわけだ。


「っはー!!しんどっ!」

「下から見ても殆ど岩山かと思ってましたけど、短い草が生えているぶん歩きやすそうですね」

「ベロ、大変、違う?」

「なぁに、冥府の番犬だぜ?これくらいじゃあベロは倒れねぇよ。な?」

「「「わんっ!」」」


 ちなみに、先程からベロと呼んでいるのはケルベロスの名前だ。リメを舐め回す所からベロと名付けた。本人ならぬ本犬も、自分がベロだと理解しているらしく、しっかりと返事を返してくれている。


「それにしても、最初に比べて短縮出来る距離が伸びてるな」

「そうですね。最初が十メートルくらいだったのを思えば、先程の短縮は二十キロメートルは縮まりましたからね」

「ま、おかげで僕の魔力はすかんぴんなんだけどね」


 事実、めまいと倦怠感と呼吸が荒い。心臓も全力疾走の後みたいにバクバク鳴り響いているし、自家製リヤカーが無ければとっくに死んでいたかもしれない。


「……さて、と。茶番はこれくらいにするかな」

「どうしました?彦星さん」

「え?小子は分かってて僕の茶番に付き合ってくれてたんじゃ無いの?」


 驚いたな。この半年でかなりの死線を乗り越えて来て危機管理能力が培われたかと思ってたけど、全然成長してないとは。


「顔はそのまま、意識を上に持っていってみ?何か飛んでるだろ?」

「えぇと………あぁ、はい、飛んでますね。鳥ですか?」

「ただの鳥なら良いがな。違うらしい。短縮で振り切ってもすぐに追いついて来やがる。後ろの岩陰に三人、右前奥の斜面に一人、見えないけどもう一人。向こうも転移に近い魔法を使って、さらに一人は潜伏か隠密か……姿を隠す魔法を使ってる」

「見えないのに、分かるんですか?」

「ちょっと前に『探知』したからな。いるとわかれば視線の数を数えるくらいは訳ないよ」


 いい加減に腹が立って来た。今度は物理的に引き離してやろうか?僕の魔力も少し回復して、二文字はあと二回なら発動出来る。


「てってれー。久々のクイズターイム」

「え?」

「今の僕の魔力で二文字が二回書けます。振り切るために一番最初に書くべき単語は?」

「えぇ……ちょっと待ってください」


 急に始まったクイズに、小子は真面目な顔をして考える。経験から言って、間違えればオシオキがあると思っているからだ。あるけど。


「……こちらも隠密をつかう?」

「はい、ペチ」

「ぺ、ペチ……」

「正解はリヤカーに『飛行』でした」


 言いながら、僕はリヤカーを浮かせる。これで、悪路を気にせず引いてもらえる訳だ。


「次の問題。二回目につかうべき魔法は?」

「えぇと…………ベロに…」

「ほほう!」

「ベロに、飛行?」

「ペチ。リヤカーとベロを浮かせてどうするんだよ。答えは『神速』だ。本当は韋駄天とかしたかったけどね。あれは三文字だし、もうちょっと修行してからな」


 と言いながら僕はまたも魔法を使う。これで僕の魔力は再びすかんぴんだ。


「では、行こうか」

「ど、どこにでしょう?」

「全速力だ、ベロ!お前の好きなように走り抜けろっ!」

「「「わんっ!」」」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 僕の言った通り、ベロは全力で山の頂上に向かう。背中に乗せたリメを落とさないようにするあたり、器用な奴だ。


「ふふふ……さて、小子」

「は、はい?なんでしょうかね」

「目を逸らしたってダメだ。オシオキがあるんだぞ?」

「そ、それはその……ほら、リメちゃんもいますし、教育上よろしくないと思うんです」

「だめだね。ねっとりじっくり弱火でコトコト煮詰めてやろうぐへへへへ」


 悪い顔を浮かべながら、彦星はいやらしく手を動かした。ビクつく小子がたまらず目をつむると、嫌に鮮明に動く手が感じられる。

 ………………っ、………、……………?……はて?そこで動く手は感じられるのに、一向に体のどこかが触られる感触が無い。

 そう思いながら小子がうっすらと目を開けた時、オシオキは執行される。


「っえーい」

「わっ、たっ!」


 額に走るわずかな痛み。押された、というより小突かれたような感触。そして、この感触には覚えがあって。


「……で、デコピン…」

「どうだ?ねっとりじっくり弱火でコトコト煮詰めてしまわれた気分は」


 彦星の顔が、悪い顔に代わってニヤニヤ気持ち悪い顔になっていた。


「あっれれー?かおをまっかにしてどぉーしたのかなぁー?あー、まさかえっちなコトされるとおもってたのぉ?けっがれってるぅー!ぷーくすくすぅー」

「くっ………!こ、このっ………!〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


 顔から火が出る勢いですけど、そう疑ったのは事実ですし、否定のしようがありません。………腹の立つ言い方ですけどねっ!

 そう思った瞬間、リヤカーが上下に激しく揺れた。ベロが高台に飛び移ったのだ。


「「………」」


 そして間の悪いことに、小子は図らずしも彦星に押し倒される。そこには、先程の気持ち悪い顔も勝ち誇った態度も無い、純粋な彦星がいて。


「……あ、あの…見ないで、ください」

「わ、悪い……今、退くから…」


 しばらく気まずい雰囲気が流れたが、手を叩く乾いた音が聞こえ、彦星が半ば無理矢理空気を変えた。


「…さ、て。相変わらず人様の空域を侵犯する鳥は引き離せないが……」


 隠密をつかう暇もないほどの速さで逃げられているんだ、流石に追いかけて来る奴等の姿は見える。


「あの方達が隠れていた……人?でしょうか?」

「人、じゃあないな。リメと同じ獣人だろ」


 予想通り五人、鳥を含めるなら六人。他に気配も無いし、あいつらが全員だろうな。

 普通に話しかけて来るなら、警戒はしつつも応じただろうが……コソコソ跡を付けられて逃げたら全力で追いかけて来る奴等と、誰が好き好んで「やあ、いい天気だね」なんて話せる?常識的に考えような?


「ぱー。リメ、あの人、見る、何度か」

「こら、子どもは危ないからジッとしてなさい」

「……リメ、子ども、違う。大人」


 しかし、リメが見たことのある獣人か。という事は有名人なのか?名誉ある地位か勲章を授与されたとか?

 とすると、あの一番前で指揮をとる兎の獣人がその人なのか?愛嬌があって話し合うなら尚更、最初の接触が悪かったな。


「ーーーーーーー!ーー!」

「何か言ってますよ、彦星さん」

「聞き取れないし聞いた事のない言葉だし聞きたくないし」

「でも、敵かどうかも分からないんですよね?」

「…コソコソ隠れる奴が味方のわけ無いだろ」

「攻撃されてもいないのに、ですか?」

「……」

「彦星さん」


 とても、怖いものを見る目で、小子は言う。


「何に、怯えているんですか?」


 怯えて?僕が?何を言っているんだよ。獣人は敵だろ。当たり前の事だ。排除すべき敵なんだよ。この世界に存在してはいけない奴等だ。

 ……リメは?獣人だぞ?

 なら敵だ。刀を抜けよ、さっさと殺せ。取り返しがつかなくなる前に『俺』の思う通りにしろよ。


「ぱー、どうする、した?」


 そうだ、刀を抜け。ほんの一刀、一突きでもいい。それで全部救われる。

 さぁ、左手で柄を外せ。右手で握りしめろ。そのままーーー。


「彦星さんっ!」

「っ……!」


 気がつけば、小子がリメを後ろに隠し、自分を盾にしていて。


「彦星さん…ですね?良かった。何かに操られるみたいにリメちゃんを切ろうとしてましたから……」

「…あ、あぁ……悪い。悪かった。ごめんな、怖がらせて。もう、大丈夫だから」


 操られて。確かに、僕は操られていたように見えたかもしれない。でも、違った。僕とは違う『俺』と名乗った僕は、他ならない僕の意思で話を進めようとしていたような……?


「それで、どうするんですか?」

「……ん?何が?」

「ですから、後ろの方達と話し合うかどうかです」

「あぁ、そうだな、そうだった」


 分からない事を考えていても仕方ない。まずは目の前の、追跡者をどうにかしなきゃいけない。


「……確かに、小子の言う事も一理ある」

「でしたら……」

「だからと言って、今更あの獣人達の前に出て『ハロー、調子はどう?』なんて言える状況でもないわな」

「そ、それは…そうですけど……」

「ま、やり方はいくらでもある。結局は想像力の問題だよ」


 話すにしろ殺りあうにしろ、どちらにしても逃げていては始まらない。小子の言う通り、明確に敵対行動を取られたわけじゃ無いしな。

 そう思って、ベロに止まるよう指示を出し……かけた時。


「あっ……」


 小子が、小さく呟いた。

 兎の隣、気の短そうな猫の獣人が三段跳躍を始めると、三段目に空中で一回転して、かかと落としを地面に……っ!


「やばいっ!」


 慌てて『防』の文字を書いて発動。と同時に猫から見覚えのある衝撃波が襲ってくる。以前、武闘試合で見た〈アースクエイク〉や〈グランドクエイク〉だ。その地を這う衝撃波が『防』の文字に衝突。鈍い音が盛大に鳴り響き、文字に亀裂が走る。


「ーー【神の名に置いて不可侵の盾となれ】」


 小子がそう唱えた瞬間、亀裂の入った文字が砕けて衝撃波が再び迫ってくる。だがしかし、衝撃波が実際に僕たちに届く事は無く、小子の張った障壁が防ぎきったのだ。


「…助かったぜ、小子」

「私だってやれば出来るんです」

「……いや!それより攻撃されたんですけど!敵認定でいいよな!」

「あっ……いえ、あの、一発だけなら誤射かも…」

「僕の魔法が一文字とはいえ簡単に突破されたんだぞ!殺す気の一撃だよな!」


 やっぱり逃げの一択だな!僕は間違ってなかった!


「よっし!ベロ、三十六計逃げるに如かずだ!振り切っちまえ!」

「「「わん!」」」


 その直後、ベロとリヤカーは空を飛んだ。文字通り、飛んだ。


「「「え?」」」

「「「わう?」」」


 後ろを振り返れば、ハリボテのような山の崖があり、僕たちは深い森の上に投げ出されていて。

 そして気付く。獣人は僕たちを殺すつもりもなく、むしろ崖だから行っちゃいけないと止めるつもりだったのだと。しかし止まらず逃げるので、止む無く乗り物を破壊しようと攻撃したのだと。


「しかしそれだとコソコソ隠れる理由が説明出来ないんだがひとまずそれは後で考えるとし、て、えぇぇぇぇ!!!」


 飛んだ所で羽があるわけでもなく自由落下するだけなので、上向きに飛んだ物体はそのまま山なりの弧を描きつつ落ちる。


「ぇぇぇぇえ、っと、ここは万能の万年筆様に……」


 慌てず騒がず『飛翔』の文字を書こうとした時、リヤカーはガクリとその速度を止めた。


「ふぅ、流石ですね彦星さん」

「…いや、僕はまだ何もしてないよ……」


 そう言って、僕は後ろの……


「?убёиад」


 ……後ろの、無許可で人の空域を侵犯していた獣人が、足の爪でリヤカーを掴んでいたのを確認する。


「…何言ってるか全然分からないけど、礼を言う。助かった」


 こちらが感謝しているのが伝わったのか、獣人は笑ってそのまま山の上まで運んでくれた。そこには心配そうな顔で待つ五人の獣人が待っていて。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「!ёанекашёсуоМ」

「あ、ちょっと待ってくれ」


 そろそろ僕の耳が限界だった。所々ロシア語のような発音が聞こえるものの、意味はわからないし意思疎通が全然出来ない。そんなわけで、今度こそ万年筆様に頼らせてもらう。


「…『翻訳』……っと。さ、何から話す?」

「……もう一度、謝らせてほしい。申し訳ない」


 兎の団長(仮)が猫(仮)の若い獣人の頭を押さえつけて頭を下げた。

 あ、仮って言ったのは団長かどうかわからないし猫は近くで見ると猫科の動物でよくわからないからだ。

 それにしても言語翻訳がうまく言って良かった。ちょっとでも言葉を聞きなれてないと出来ないからな。


「まぁ、別に怒りはしないけどな。そっちも殺す気ならわざわざ助けたりしないし、僕もちょっと疑心暗鬼になってたから」

「ちょっと?」

「……横槍入れるなよ小子、わかった。わかった、ちょっとじゃない。かなり、だ」


 はぁ、と溜息を吐き正直な感想を述べる。ついでに、こちらの疑問も伝える。


「んで、僕が疑心暗鬼になってたのは、コソコソ跡を付けられたからなんだが?その辺、説明してくれる?」

「我々も、その結果に至った疑問を提示させてほしい。何故、其方は観測時と姿形が違うのだ?内燃する魔力は同質だと言うのに」


 あぁ、そういう事。それで、僕の疑問も解ける。

 万年筆を取り出し、僕は変身を解く。猫や鳥は驚いた顔をしたが、兎はさも当然のような顔をする。やっぱりこの兎が団長で確定かな。


「まぁ、変身してたから、わからないのも無理は無い。人の国を出る時にあの姿じゃないと出られなかったからな」

「ふむ、我々はやはり間違っていなかった。其方の疑問の解だが、我々は人に隠れて生きているため、無闇に接触を避けねばならなかった。人違いを起こす事が出来ないのだよ」

「ま、そうだろうな」


 どこの世界だろうと写真と顔が違えば戸惑うわな。整形無しに昔はデブだったモデルの人とか週刊誌でガセ報道された女優とか。……たまに事実だったりするけど。


「で?僕は目的のご本人様で間違い無い?」

「違い無い」

「じゃあ、ご用件は」

「その前に、一つ失礼する」


 そう言って目線を僕からつい、と離して僕の後ろを見る。僕も釣られて後ろを振り返ろうとして、続けて聞こえた兎の言葉に思考を止めた。


「お迎えにあがりました、オリヒメ王女様」

「…ひ、人違いなのです。リメはリメなのです」

「半日ほど前より王女様の煌めきは覚醒しております。私ほどの者でなくとも、感じる事は出来ます」

「嫌なのです!リメは、帰りたく無いのです!」

「…一体何があったというのですか。あの日、王女様が王城を飛び出した姿を見た者は多数おりますが、誰も理由を知らないのです」

「あれはとと様が悪いのです!リメはもうオトナなのです!」


 ………リメが流暢に話してんですがこれは一体どういう…翻訳の効果かな?あと王女様とか面倒そうな単語が出てきたんですけどねぇ?

 そんな事を考えながらしばらく成り行きを見ていると、服の袖口を軽く引っ張られる感覚を覚えた。他ならぬ小子だ。かわいい。


「…あの、皆さんの言っている言葉がわからないんです」

「あぁ、悪いな。翻訳するのを忘れてた」


 小子にも、翻訳の文字を付与する。その間に聞いた言語のおかげか、小子も問題なく翻訳されたようだった。さすがは、元文学少女と言ったところかな。あの頃は少女っていう年齢でも無かったけど。


「とと様はリメをいつまでも子ども扱いするのです!アレはダメ、コレはダメ、ソレもダメ、全部ダメ……部屋に閉じ込めてずっと可愛がられるだけの毎日にはもう戻りたく無いのです!」

「しかし王女様、それが国王様の愛情なのですよ?我々は人に比べ少数の部族、さらに外に目を向ければ世界人口の十分の一にも満たない数……心配して当然かと」

「そんなの分かってるのです!だからリメは、自由に世界を見てみたいのです!リメを、リメとして、見てくれる『旦那様』とです!」


 ざわり。と、周囲の空気が動いた気がした。否、気のせいでは無かった。兎、猫、鳥を始め、後ろの犬が二人と……何だろう、カメレオンかな?……の気配のような物が強まった。あと目線が集中してますですよ、皆さん?


「……王女様、旦那様…というのは」

「言葉の通りなのです」

「…失礼、其方……名は?」

「ん?僕か?彦星だ」

「なん…!?……ひ、ヒコボシ、というのか…そうか……」


 誰が見ても明らかだが、獣人達は驚きと畏怖の目を浮かべる。そして、全てを委ねるように獣人達は兎の団長を気にし始めた。もう兎が団長で間違い無いな。


「そんなに驚いてどうしたんだ?」

「……いや、こちらの話だ。それより、我々にはヒコボシ殿を迎え入れる準備がある。共に来てもらいたい」

「まぁ、僕は別に構わないけど……」


 拒否したがるリメを見て、僕はその頭を撫でた。


「……この通り、リメが嫌がってるから、一緒には行かない。道だけ教えてくれ」

「しかしだな……」

「じゃあ、これでどうだ?僕は最初の攻撃を怒らないとは言ったが許すとは言ってない」

「なっ……!」

「まぁ聞けよ。で、その件を今度こそ許して水に流してやるから、たかが数週間くらいの旅に目を瞑れ」

「む……ぬぅ…」

「リメも、一生帰らないなんて言ってないし、その証拠に帰り道を僕と一緒に辿っていただろ?」

「………」

「あんた達は僕を迎えに来た、でも見つからずにすれ違った、山のふもとの泉まで行ったがそこで本国に引き返した、僕達は心優しい通りすがりの獣人から正しくて安全な道を教えてもらって獣人の国に入った。どうだ?」

「…………山の中腹、龍の岩の口の中から一本道だ」

「団長!」


 やったぜ。やっぱり何を言っていても人と関わるのは苦手らしいな。あと団長が確定しました。


「お前達、撤収だ」

「良いんですか、団長?」

「構わん、我々は何も見なかったし助けなかった」


 そう言って、兎の団長は一部不満を漏らす団員を連れて山を降りたのだった。


「……僕らも行くか」

「ですね」

「………」

「「「くぅん?」」」


 ちょうど付与も切れて、ベロはゆっくりと下山する。リメの事情は、道すがら聞くとするか。

ご愛読ありがとうございます。

まだ、続きます。

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