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辺境の獣医令嬢〜妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢ですが、次期辺境伯様に溺愛され辺境で獣医となって可愛い神獣たちと幸せに暮らしています〜  作者: 津ヶ谷
第3章

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10話 ベルベットの遺志

 クレインと共にラースは屋敷に戻る。


「お帰りなさいませ。お嬢様にお客様がお見えです」


 従者にそう伝えられた。


「応接間かしら?」

「左様でございます」

「分かったわ。ありがとう」


 ラースを訪ねてくる者が王都に王都の屋敷に来るのは珍しいことだ。

すぐに応接間へと向かった。


「お待たせしてすみません。って陛下!?」


 そこに居たのは間違いなく、ローラン国王陛下と父上であった。


「驚かせてすまんな」

「いえ、言って頂ければこちらから出向きましたのに」

「いや、気にするな。侯爵にも用があったしな」


 父に促され、ラースは陛下の対面へと座る。


「女神の加護を受けたそうだな」

「やはり、陛下には伝わったのですね」

「まあ、教会への呼び出しがあった時点で察してはいたが、気になってな」

「はい、聖女様から女神様の加護を受けました」


 教会から陛下には早急に伝えられたのだろう。


「さすがだな。地域動物医療ネットワークの方も順調に機能しているそうじゃないか」

「はい、獣医師会や陛下のお力添えあってのことです」

「謙遜もそこまで行くと嫌味だぞ」


 そう言って陛下は含んだ笑みを浮かべる。


「本当に私一人では限界がありますから。辺境伯やクレインさん、獣医師会の皆さんそして、陛下の力があったからこのシステムを構築できたんです」

「そういう事にしておこう。これから、ラースには多くの命が救われるのだろうからな」

「それで、私にも何かご用件があったのではないですか?」

「ああ、そうだった」


 陛下は思い出すようにして言った。


「ナイゲール家を侯爵家へと引き上げたが、ラースの功績を考えた時ラース自身にも何らかの褒賞を与えねば王家の名が折れると思ってな。何でもいい。望みを言ってはくれないか?」

「では、陛下に折り入ってお願いしたいことがございます」

「何だね?」


 ラースはこの機会をずっと伺っていた。

そして、ようやくその時がやって来たのだ。


「この王都に平民でもお金がなくても、医療を提供することができる病院を作っては頂けないでしょうか?」


 医療は平等である。

しかし、それをまだ実現できているかといえばそうでは無い面がある。


 治療を受けるには決して安くはない治療費がいる。

それを払えずに治療を断念する者もいる。


 そんな医療の不平等を無くしたい。

生前、お祖父様が言っていたことだった。


 しかし、それを実現できずにベルベットはこの世を去った。


「分かった」


 陛下は少し考えた後にそう言った。


「もう、構想は決まっているんだろう?」

「ええ、医療費の全額負担を廃止し、3割負担とします。残りは税金から負担するような制度を整えれば大丈夫かと」


 この世界では全額医療費を負担するのが一般的だ。

しかし、そこを税金で助け合えれば負担額を減らすことも可能であろう。


「なるほど。それならやれそうだな。よし、早急に財務官や宰相と相談して取り決めるとしよう」

「ありがとうございます」


 陛下はそう約束すると王宮に帰った。



 ♢


「ラースは頑張っていますよ父上。まるで、父上が叶えられなかった夢を代わりに叶えるように……」


 その日、ラースの父はベルベットの写真を見つめて言った。

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