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辺境の獣医令嬢〜妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢ですが、次期辺境伯様に溺愛され辺境で獣医となって可愛い神獣たちと幸せに暮らしています〜  作者: 津ヶ谷
第3章

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第2話 命の選択

 オーランドのラースクリニック。

一週間ぶりの出勤である。


「私が居ない間ありがとうございました」

「いえ、代わりの先生が尽力してくれましたので問題ございませんでしたよ」


 事務長が言った。


「じゃあ、今日も患者さんを迎えますか」


 開院すると同時に患者さんがやって来る。

ここの所、近隣の街からは皆ここに大事なペットを連れてやって来てくれる。


 待合室はすでにいっぱいになった。


「今日も忙しそうですね」


 看護師と受付の子が待合室を見ながら呟いた。


「医者は暇な方がいいんですけどね」


 ラースたちが必要ということは、どこかしらの不調を訴えているということである。


「この子、最近ずっと調子が悪くてご飯もあんまり食べなくなったんです。それで不安になって」

「分かりました。ちょっと診ますね」


 ラースは小型犬を診察台の上に乗せた。


《医療魔法・スキャン》


 状態を確認して行く。


「これ、腫瘍っぽいものがありますね」


 スキャンで確認すると13ミリほどの腫瘍を確認することが出来た。


「じゃあ、癌ですかね?」

「まだ悪性かどうかわからないので検査しましょう」


 ラースは注射器で採血を行う。


《医療魔法・分析》


 血液状態を確認する。

その検査結果は残念なものであった。


「悪性腫瘍ですね。残念ながら」

「やっぱり……」

「ちょっと飼い主さんを呼んでもらってもいいですか?」

「分かりました」


 この状況をまずは飼い主さんに伝えなければならない。

ラースはこの瞬間が一番心が痛む。


 診察室でラースは飼い主さんと対峙する。


「単刀直入に言いますと、この子は癌に侵されています。進行の状況から手術での完治は難しいかと」


 医療魔法といえど万能ではない。

この状況では手術の負担には耐えられないだろう。


「そんな……」


 飼い主さんは涙ぐんだ。


「私から提案できることは二つです。抗がん剤で進行を遅らせて延命処置するか、鎮痛剤で余生を静かに送らせてあげるかです」


 これは、飼い主さんに命の選択を迫ることになる。

この瞬間は慣れないし、慣れてはいけないと思う。


「この子、食べることが大好きなんです。だから、この子には余生を静かに送らせてあげたいと思います」

「分かりました。その方針で行きましょう」


 飼い主さんが出した決断は延命処置はしないというものだった。

食べることが大好きだという所を尊重したのだ。


「私もこの子の苦しみが和らぐように全力を尽くします」


 ラースは鎮痛剤での治療を進めた。


 この日もラースは一日に60件ほどの対応に追われて居た。


「これは、人手を増やす必要がありそうですね……」


 いよいよ、この人数では回せなくなってきた。

帰ったら辺境伯に相談することにしよう。


 今日の病院の一日は終わろうとしていた。

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