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辺境の獣医令嬢〜妹に婚約者を奪われた伯爵令嬢ですが、次期辺境伯様に溺愛され辺境で獣医となって可愛い神獣たちと幸せに暮らしています〜  作者: 津ヶ谷
第2章

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第13話 失われし伝説の術式

 《医療魔法・自己犠牲》

これは、自身の生命エネルギーを他者へと分け与えるという言わば、捨て身の術式なのである。

生命エネルギーを分け与えるということは、当然術者にもリスクが伴う。

ハイリスクハイリターンな魔法である。


 伝説に消えた名医、ベルベットがその生涯の最後に使った魔法と言われている。

ラースの祖父は瀕死状態であった大切な人のためにその魔法を使った。


 捨て身の魔法を使った祖父は、その三日後にこの世を去ったのである。


「お願い、これで助かって……」


 ラースはクレインに必死に魔法を掛ける。

通常の治癒系統の魔法では、回復が追い付かない。


 なので、ラースはこの最終手段に打って出たのである。


 幸いなことに、ラースの魔法は効果を表した。

治癒魔法では間に合わなかった傷が見事に塞がったのである。


「よかった……」


 呼吸も落ち着いているようである。

これで、もう安心できるだろう。


「何とか、助けられましたね……」


 ラースは傷が塞がったのを見届けると、その場に倒れた。

魔力だけではなく、生命エネルギーまで大量に使ってしまったのだ。

それも当然の代償だろう。


 意識の遠くで、ラースの名を呼ぶバーロンの声が聞こえたが、そこで完全に意識を失ってしまった。



 ♢


 どのくらい、眠っていたのだろう。

目覚めると、ラースは自室のベットの上に居た。


「よかった。目を覚ましたんですね」


 クレインが心配そうな視線を送っていた。

どうやら、クレインは回復したようである。


「クレインさん、回復したんですね。よかった」

「よくありませんよ。ラースさん、三日も目を覚まさなかったんですよ」

「そんなに、眠っていたんですね」


 生命エネルギーを消費しすぎた影響がかなり響いたようである。


「私は、誰かのために頑張るあなたが大好きです。でも、もうこんな無茶はしないでください!」

「分かりました。気をつけます」

「でも、私の命を救ってくれてありがとうございます。あなたが居なかったら、私はここに居なかったでしょう」

「いえ、あの時、クレインさんを死なせてはいけないと思ったんです」


 あの場で、クレインを死なせていたらラースは一生後悔していたことだろう。


「強いですね。あなたは」


 クレインが呟くように言った。


「最初から強い人間なんていませんよ。悩んで、足掻いて、戻って、進んで、そうやって人は強くなるんです。それに、何よりも患者さんの声が医者を強くしてくれますから」

「本当にあなたはすごい人ですよ。私なんかには勿体無いくらいだ」

「そんなことありません。クレインさんには私に出来ないことができます。そうやって、補い合えばいいんです」


残念ながら、人間は完璧には出来てはいないのだ。


「ラースさん、こんな時に言うことではないのかもしれません。でも言わせてください。私と正式に結婚してください。絶対に幸せにします」

「はい、喜んで」


 ラースは笑みを浮かべて言った。

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