第9話 助かる希望
ラースは治療室へと戻る。
「詳しい検査をしてみましょう」
さらに詳細な検査をすることにした。
《医療魔法・核磁気共鳴》
ラースは、状態を詳しく見る。
先ほどのスキャンの魔法よりも優れているものである。
「よかった。壊死はまだしていないようですね」
「それなら、なんとかなるかもですね」
最悪の事態は逃れた。
少しだが、助かる希望が見えてきたのだ。
「全身麻酔以外のものから試してみましょう」
とはいえ、全身麻酔はリスクが大きい。
「分かりました」
《医療魔法・調剤》
ラースは吐きたくなる薬を生成する。
それを注射して、飲み込んだ肥料を吐き出すように促す。
腸に溜まったものは、下剤によって排出するように試みてみた。
「うーん、これはだめかもしれませんね」
数回試してみたが、出るのは少量のみである。
このままでは、何時間かかっても完全に出し切ることは出来ないだろう。
「もう一回、飼い主さんと話します。胃洗浄をやりたいと思います」
ラースは、全身麻酔のリスクよりこのまま時間が経過して、消化器官が壊死してしまうリスクの方が大きいと判断した。
胃洗浄をするには、飼い主さんの許可が必要なのである。
ラースは再び、飼い主さんと向かい合う。
「今、薬での治療を試みたんですが、正直これ以上このままという状態の方が危険かと思います。本当に注意しながら、麻酔かけて胃洗浄した方がいいのかなとは思うんですが、よろしいですか?」
「分かりました。ラース先生にお任せしたいと思います」
「かしこまりました。万全な体制でやらせて貰います」
飼い主の承諾はもらった。
「よし、胃洗浄しましょう」
全身麻酔のリスクよりも、症状の悪化の方が危険である。
《医療魔法・調剤》
医療魔法によって、麻酔薬を生成する。
それを慎重に注射していく。
麻酔が効いたタイミングで、新たな魔法を展開する。
《医療魔法・洗浄》
一粒でも多く洗浄することを意識する。
そして、処置を続けることおよそ1時間が経過した。
大量の土や肥料を洗浄することに成功した。
まだ、腸や胃に残っている土は、食事療法ということになるだろう。
懸念していた全身麻酔からも無事に覚めてくれた。
「院長、この子助かりますかね?」
「そうですね。あんまり楽観的なことは言えないですけど、五分五分って感じですかね」
できるだけのことはやった。
しかし、体力の消耗があまりにも激しい。
まだ、予断を許さない状態だ。
今日は入院ということになるだろう。
♢
数日後、消化器官が壊死寸前だったワンちゃんは無事に回復し、退院することになった。
「先生、本当にありがとうございました」
「いえ、元気になってよかったです。お大事になさってください」
この時、ラースの頭の中には新たな計画が出来上がっていたのであった。
お待たせ致しました
第二章完結まで一気に更新します




