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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第百三十八話 政宗

鬱蒼とした森林の中に入ると、汗がしたたり落ちた。

政宗は、流石の蒸し暑さに嫌気をさした。


「ここは暑いな」

「そうですね」


政宗は、秀永から聞いた勢力を見ようと南下していた。

陸地での移動は難所も多く、また、虫や動物など危険が高いため、船での移動を行った。

南部の地域はスペインが侵攻しており、現地人はその支配下でひどい扱いを受けていると秀永から説明を受けていた。

戦乱を経験している政宗からしたら苛政は理解できるものであった。

しかし、スペイン人が持ち込んだ病気により、数百万の人が亡くなったと聞いた時に流石に恐怖を感じた。

日本でもはやり病はあり、それで村々が消滅したことは聞き及んでもいるが、流石に、亡くなった人の数が多すぎて絶句した事を思い出す。

一応、天然痘の予防接種を受け、各種病気の薬草などは常備はしているし、船内でも作れるものは作っている。

しかし、それにも限度があるし、栽培する土地の確保は必須で、支配している地域では既に作れるものは作り始めていた。

優先されているのは、除虫菊として虫よけの花で、蚊が病気を運ぶと聞いて、首を傾げるものが多かった。

ただ、平清盛が亡くなった原因とされているおこりも蚊を介してと聞き、一時期、蚊の音に恐怖を感じるものが多数出た。

除虫菊を原材料に作った虫よけが広がると、おこりの話も少しずつ減っていき、蚊の話を信じるものも増えていった。

そして、この東の大陸の南北地域には、蚊が多く日本以上におこりやそれ以外の病も起きる可能性があると注意を受けていて、急いで除虫菊の生産を行っていた。

後は、ドクダミ、ハッカなどを使った虫よけも作られ、体や服にしみ込ませているが、暑さと汗で何度か塗りなおす必要があり、手間だと政宗は感じていた。


「さて、ここにいれば、現地の者たちが来るのか」

「はい、忍びの話では、逃れ山間部などに隠れているものもいるとか、ただ、スペイン人の追及も厳しく、年々、殺害されるか捕縛されるかだと聞いています」

「ふむ、こちらからの支援は」

「火縄銃や弓、槍、食料を支援していますが、やはり、場所が場所なので限度があります」

「スペインはどれぐらいか」

「一般人も数万はいると思われます。こちら以外にも、支配している地域もあるため、ある程度の兵はいるかと」

「一気に追い落とすのは難しいか」

「はい、こちらに比べ、あちらの方がこの大陸は近いですし、スペイン以外の国も介入する可能性があります」

「そうなると、武具をもってか…大筒もこのような森林では移動しにくし、錆びて使い物にならないものがでそうだな」

「北の支配地域で生産が軌道に乗れば良いのですが」

「海上封鎖するにも、西側は対応できても、東側が難しいか」

「運河の開削か、陸上の移動を考えないのであれば、北側の東部を支配して、船を建造する方が良いと思いますが、そうなると…」

「数年では難しいな。現地の者たちを多く取り込めれば良いが…、だか、その間にもあちらの者たちが押し寄せてくるだろうな」

「はい」

「遠いな、ここは」


そう言いながら政宗は、森を見渡した。


「殿下が風によらない船を研究していると言っているが、いつになるか」

「小さいものであれば、既に作り終わっていて、今、沿岸部で運行して、改善をしているようですが」

「そうか…」

「また、大筒も改良を重ねているようですので、いずれは」


重長と話していると、成実が近づいてきた。


「現地の者たちが来たぞ」

「そうか」


成実の後ろには数人の者たちがついてきていた。

顔の形は日本人に近く、スペインの者たちとは違っていた。


「ふむ、殿下の言ってた、はるか遠い昔に分かれた同族という話は信じれるかもしれな」

「ええ、眉唾物と思いましたが」

「スペインの連中と比べたら、我々に近い顔つきだ」


近づいてきた者たちは、成実の指示に従い膝をついて頭を下げた。


「言葉は通じぬか、仲介する者はいるのか」

「はい」


成実が即すと、一人のものが膝をついて頭を下げた。


「現地に入っている忍びです」


そう言って、成実が説明した。


「なるほど、では頼むぞ」

「はっ」

「お前たちは、どのような立場か」

『我々は、王の血を引くものだ』

「ふむ、王か…では、こちらが頭を下げなければならんか」

『いや、いい』


そういって、頭を左右に振った。


『我々はあくまで血を引くものであり、既に祖国は滅ぼされている。まして、我はアステカの民であり、こっちはマヤの民である、あっちはインカの民であったか』

「そうか」


国が亡びる。

政宗も滅ぼした氏族もあるし、その後の状況も知っている為、同情的な気持ちになった。


「何を望んでいるのか」

『我々は祖国、同胞の開放を願っているが、相手は強大であり、お前たちは勝てるのか』

「ふむ」


その言葉に、政宗は顎に手を当てて首を傾げる。


「勝てるかと言われれば、勝てるだろう」


その言葉に、三者は眼を細めた。


「しかし、我々だけでは厳しいであろうな。スペインらは人員も物資も増やしているだろう。上陸当初であれば勝つことも余裕ではあったろうが、それから数十年、奴らも地盤を固めている。すぐさま排除は難しいであろうな」

『そうであろう』


政宗の言葉に、三者は頷いた。

その反応に政宗は肩眉を挙げた。


『お前たちを馬鹿にしているわけではない。ただ、現状をしっかり理解していることに納得し安心しただけだ。ここで簡単に排除できると言えば、信用することはできなかっただろう』

『そうだ、お前たちの本拠地ははるか遠い海のかなた。こちらから近い所にある拠点も作り始めたばかりの状況で、簡単に勝てると言われれば、正気を疑っていた』

『我々やアステカは西側にあるため、援助を受けやすいがマヤは少し東にあるから難しいだろうが』

「そうか、確かに西側なら我々の船団で物資の輸送や、艦砲射撃で支援はできる。こちら西側に要塞を作る事を考えるか。重長」

「はっ、可能と思いますが、物資を集めるのが難しいかもしれません」

「殿下が作られた固い漆喰を使えば良いのではないか」

「…確か、インカの地にもあると殿下からは聞いています。場所も大体把握しています」

「よし、技術者を北から何人か連れてきて、採掘させてるか」

「分かりました」

「あとは、火縄銃、大砲を運び込んで、防衛も構築しておく必要があるな。まあ、スペインもそこまで人は送り込めないだろうから、こちらで、西側の奴らの港や拠点を潰して回るか」

「潰すのではなく、攻め奪えば良いのでは?」

「それが良いが、人がいない…が、殿下に増員を要請するか」

「…それは」

「構わない、要請しておいて、来るまでに準備を整えればよいだろう。ここ数年の平和と米の増産で人も増えているからな。孤児や貧しい者たちも減ってはいるが、こちらに呼び込むことは可能だろう」

「殿下は、海軍の増備を優先的にしていると聞いていますが…」

「海に慣れている者たちばかりではないだろう。山の民の中にも、平地で生活したいものもいるはずだ」

「分かりました」

「武具、兵器、食料はこちらから提供しよう。そちらはこちらが入れる拠点の提供…土地の提供をお願いしたい」

『それは、やつらと同じことをする気か』


土地の話が出た時に、三者は険しい表情を浮かべた。


「何を言っているんだ、こちらもただで支援する気はないぞ。お前たちもまさか、何も渡さず援助してもらえると思っていないだろうな」

『いやそうではないが…』

『インカの地に、提供できるものがあるのか』

「ある、城を…まあ、頑丈な家を作る材料がある。その材料を作る場所と、食料の備蓄そしてそれらを守る場所が必要になる」

『分かった、提供しよう…と、言ってもスペイン人がでかい面でいるがな』

「ははは、その通りだな。そいつらを排除して手に入れるので心配をしないでもらおう」

『ははは、分かった』

「それで、採掘などの協力をお願いしたい。当然、食料、道具は提供する。人を提供するなら技術も教えよう。それで採掘、栽培、建築、武具を作る協力をしてもらいたい。土地の脱会の時は、こちらも当然協力しよう」

『分かった、協力させてもらう』

「ただ、インカは王が亡くなっていると聞いているが、誰が代表となるのか。おぬしか」

『いや、我々はバラバラになっているし、スペイン人の奴隷となっているものもいる』

「交渉するものが居ないと難しいな」

『数百人ほどが私の元にいるが、すべての民を纏めているわけではないし、王となる気もない』

「ふむ、まあ、細かいことはおいおい決めるとして、声をかけれる者たちには声をかけてくれ」

『分かったが、すぐには無理だぞ』

「分かっているし、大勢来られてもすぐにこちらも対応できんよ。だから、拠点を作りつつ規模を広げていく」

『理解した』

「おぬしたちはどうする」


アステカ、マヤのものは悩んだ表情を浮かべた。


「決断はできぬか」

『ああ、我々は、スペイン人に騙された。ならば…と』

「まあ、それはそうか。ああ、我が主がな、面白いことを言っていた」

『面白いことだと』

「そうだ」

『なんだ、それは』

「我々は、はるか昔に枝分かれした同族らしいぞ」


政宗の言葉に、三人は何を言っているんだという表情を浮かべた。


「顔かたちを見てみろ、確かに差異はあるがどうだ、スペインの連中と比べたら似たような顔つきをしていないか?」


その言葉に、三人は政宗や周囲の日本人の顔を見て、お互いの顔を見た。


『確かに、スペイン人と比べれば似ているが…』

『そうだ、似てはいるが同じとは思えない』

「それはそうだ、わしも聞いた時は意味が分からなかった」

『そうであろう』

「だが、わが国でも顔の違いがある。同族であってもだ」

『…』

「そして、枝分かれしたの遥か、はるか昔の遠い遠い先祖だ。顔かたちが変わるのは当たり前だろう。陽が数千、数万登って沈んだぐらいの前のことだと聞いているからな」

『…』

「おぬしらの信仰による伝承もあるだろうから、納得はできぬだろうがな。わが国では、海を隔てた地から逃げてきた者たちが来ることがあるから、住みやすい土地に逃げることはあり得るという事は分かっている。ほれ、スペインの連中が来ることを考えれば、わたってくることも可能であろう?」

『確かにな』

『にわかには信じられんが…』

『だが、それが何だというのだ』

「ん?まあ、同じ同族でも争う事があると言われると苦しいが、スペインの連中より近い同族の話を少しだけ信じてくれんか」

『…分かった、信じよう』

『我らも』

「そうか、それは良かった」


政宗としては、どちらでも良かったし、邪魔なら始末して、協力するものを立てれば良いと考えていた。

だが、それを見つけて、話を付けるのも時間がかかるので、穏便に解決することを期待していた。


「まずは、拠点を作ることを第一とし、そちらの拠点を作っていこうか。もし、奴らに隙が出来れば方針は変わるが」

『分かった』


三人は頷いた。


「そちらで、移動できる者たちを連れてきてくれ、インカの方には船を向かわすから、そちらに乗せてくれ」

『何をするんだ?』

「まず、北の拠点で、兵を動かす訓練と教育、あと、鍛冶の技術を学ぶことか。最低で一年ほどは必要だ。代わりにこちらに技術者と兵を置く。そちらが使う拠点が出来れば、呼び戻して、守備と武具の生産を担ってもらう」

『分かった』

「こちらも、そちらに人を送ろう。言葉の教育と、兵の訓練、武具の生産を指揮させる」

『ならば、北に送る必要がないのではないか』

「まあ、疑うな」

『…』

「一番の理由は、食料を一気に送ることが出来ないのと、人が集まると消費が多くて食料不足になりえる」

『そうか』

「まあ、今のように各地に隠れるなら問題ないだろうが、集まるとしたらそれなりの農地が必要になるが、作物が出来るまで時間がかかるからな、最低一年は」

『確かに言われたらそうだな』

「なので、比較的余裕のある北に人を送り、そこで教育し、こちらには少数の我らの者たちを置けば、厳しくてもやり過ごせるだろしこちらも我らの一族のものを送ろう」


政宗の言葉に、三人はそれが人質であると理解した。


『分かった』

『理解した』

『了承しよう』

「では、一月後にまた、こちらに来るのでその時までに話を進めてくれ、ああ、アステカにも漆喰の出る場所があるので、よろしく頼む。マヤもあるが…スペインに気が付かれるかもしれんのでな。そっちはスペインの排除が終われば、採掘しよう」


その言葉に三人は頷いた。


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