第百十二話 掃討
隆重が北東に船を走らせていると、遠くに船が居ると部下から伝えられた。
船首の方に行き、望遠鏡を使ってみると、確かに船が航行しているのが分かった。
「あれは、海賊か」
船の形状から、倭寇の船ではなく、南蛮が使う船と分かった。
「船数は、三隻ほどか」
「話しでは海賊連中は十数隻ほどだったはずで、それを考えるとかなり潰したようですね」
「そんなに弱いはずないと思うが……、まあ、沈めたより、航行できないようになった船が多かったかもしれないな」
「そうですな、昔と違って、乗り込んで斬りはせずに、砲撃だけでしょうな」
「そちらの方が被害が少ないからな、さて、きっちり始末するか」
そう隆季が良い、合図をすると、風を受けれるように帆をさらに広げ、海賊の残党に向かって速度を上げた。
「斬り合う必要はない、砲撃で仕留めるぞ」
「提督!猿共の船が!」
隆重たちと違い、距離がかなり近づいてから海賊たちは気が付いた。
「ちっ、何していた!針路をもっと北に向けろ!」
「東に戻ることは」
「無理だ、食料はそこまで積んでない」
部下の言葉に、提督は吐き捨てるように答えた。
食料は切り詰めれば、呂宋に戻れるとは思っている。
しかし、先の戦いで、船の速度の違いと、大砲の精度を考えた場合、逃げ切れないと思っていた。
従来の性能より高いとはいえ、隆季の船よりは遅い。
海賊の船と比べたら多少性能が上なだけで、逃げ切れる可能性はあるが、振り切ることが難しい。
呂宋周辺の海域を考えれば、海賊の方が有利ではあったが、先の戦いの衝撃で判断が鈍っていた。
「砲撃戦では負ける」
隠したと見下していた相手に対して、負けると言う言葉は使いたくはなかった。
しかし、自尊心より命が大事であり、生き延びる事が重用であった。
「あいつらは追ってくるはずだ。船の損傷が酷くなろうが、相手の船にぶち当てて、乗り込んでしまうしかない。他の船にも突撃の指示を出せ、船が接触していれば、相手は砲撃も難しいだろう。船が沈んでも、あいつらの船を奪えば良い」
「へい」
指示を出しながら、船に乗り込むための準備を始めた。
「坊、あいつら逃げると思わせて、こちらに向かってきましたぜ!」
「後続の船を敵左舷に」
隆重の指示により船団が二手に分かれて、三隻の海賊船を挟むように針路をとった。
「提督やつら、二手に分かれて俺たちを砲撃で挟撃する気だ!」
提督も部下に言われるまでもなく、相手の動きを見て理解していた。
「なら、そのまま、わき目もふらずすれ違って、南に逃げるぞ!いくら奴らが早くても反転して、追いつくにも時間がかかるだろう」
言いながら、速度を上げるように指示を出した。
「すれ違って逃げる気か」
海賊の帆の広がりを見ながら、隆重は呟いた。
「なら、それぞれの後尾の船を反転させろ。二隻ほど回り込ませれば逃げ切れないだろう」
「へい」
敵左舷に向かった船にも指示を出して、後尾の一隻ずつ、計二隻を反転させた。
一隻だけ脱落したが、二隻は被害を受けながらも海賊達は、隆重の攻撃を抜けて遁走に成功したと思われた。
「よし、多少、壊れたが航行に問題はない、このまま南に逃げるぞ」
「しかし、南にはあの船が待ってるんじゃないですかい」
「そうかもしれんが、あの海域にとどまっているとは思わん。なら南に逃げつつ」
提督が言葉をつづけようと知ると、進先に二隻ほどの船影が見えた。
「まさか!?」
そうつぶやいた時、すれ違う前に、日本の船が反転していったことを思い出した。
あれは、何か支障があって離脱したものと思い、自らの幸運に喜んだ提督だった。
まさか、回り込む為に離脱したとは思わなかった。
「ええい、二隻ならば振り切れる!」
そう言って、部下を励まして、相手の船から逃れるように針路を西に向けるように指示した。
しかし、距離を詰められて、二隻とも船の側面に船首をぶつけられて、捕捉されてしまう。
「くそっ、奴らの船に乗り込め!こっちの船は、もう駄目だ!」
提督の言葉に、部下たちは武器を手に取り、船首から日本の船に乗り込もうとしたが、弓の攻撃を受けて出鼻をくじかれる。
衝突の衝撃で、すぐさま動くことができるものが少なく、回復して突撃する人数もまばらで、弓の攻撃の的になっていた。
「こちらも弓で援護しろ!無闇に行けば、的になるだけだぞ!」
提督も指示をするが、日本の船からは鉄砲の攻撃も開始されて、こちらの反撃を封じられていた。
何とか乗り込めばと焦ってしまう。
鉄砲はこちらもあるが、準備しておらず、反撃もまばらになり、被害だけが増えていった。
「個別に分けた火薬を持ってこい!導火線に火をつけてあいつらに投げろ!」
炮烙のようなものを海賊も持っており、すぐさま持ってくるように命じた。
持ってきたもの達は、すぐさま火を導火線に付けて、日本の船に投げ込んでいった。
相手の甲板で爆発して、相手に被害をあたえたが、直ぐに対処され盾のようなもので防がれて被害が思うように広がらなかった。
「木ならば被害が出るはずだぞ!」
「鉄の盾で防いでいるようで、こちらの投げたものも大して大きくないので防がれる!」
常備しているものは投げれる程度の大きさで、威力が小さくても相手を怯ませて、そのすきに乗り込めればと思っていたが、うまくいかなくて悔しがった。
「ぐっ!?」
提督の胸に弾丸が撃ち込まれた。
「て、提督!」
「くそっ、この距離で撃ちこんでくるのか……」
そう言いながら、提督は前に倒れた。
周囲は提督が倒れるのを見て、抵抗を諦めた。
そうして、降伏をした。
「どうします」
「どうも、南に逃げている船もあるようだけど、あれは無理だな」
「そうですね」
久隆は望遠鏡を見ながら、こちらに向かってくる倭寇の船と、その奥で南に進んでいる船を確認した。
「こちらの船の数を考えても、無理は出来ないか」
「無理しても仕方ないですし、南に逃げるならば、高山国へ向かうのも難しくなるはずだから、今は放置しても良いだろう」
「ならこちらに向かってくる船を潰しますか。乗り込みますか」
「いや、大砲で沈める、相手の船を分捕っても邪魔だし、被害が出るのも抑えたい。船は二手に分かれて、先手が攻撃した後、次段で止めを刺す」
「我らは、先手ですか、次段ですか」
「先手で行く」
「分かりました」
指示を聞いて、後続の船に伝え、船を二手に分けた。
「頭目!敵ですぜ!」
「ちっ!この大海原で見つかるか!」
「そんなこと言っても、敵は見逃してくれませんぜ!」
「あっちに逃げた連中は、放置するか、針路を考えればそうなるか……」
機嫌を悪くしながら頭目は南に逃げた連中の幸運を呪った。
「仕方ない、皆バラバラに逃げろ!」
「それしかないですな」
「やつらは砲撃で攻撃してくるだろうからな。まとまれば的になるだけだ。ならバラバラで逃げれば、逃げきれる可能性が高い」
「高山国へ向かうんですかい」
「いや……」
顔を左右に頭目は振った。
「この状況じゃ、やつら高山国にも対策取ってるに違いない。それなら杭州へ行く方が生き残れる可能性が高いし、隠れ家もある」
「わかりやした」
そう言いながら部下は、周囲の船に逃げるように指示を出した。
倭寇の船が統一性のない動きをするのを、久隆は望遠鏡で見た。
「これは……」
「あれは、倭寇らしいですな」
「そうなのか」
「ええ、奴らは勝てないと思えば、直ぐ逃げますよ。そして、逃げ方は蜘蛛の子を散らすように逃げる事も多いです。そちらの方が攻撃対象がばらけますしね」
ため息をつきながら、久隆は指示を出した。
「各船で対応させる」
「そうするしかないですな」
「一隻でも多く沈めるぞ!」
久隆の船団は各船で動き出し、倭寇の船を攻撃を行った。
頭目の乗った船は、かろうじて攻撃を逃れて、杭州に落ち延びていった。
それ以外の船は砲撃によって沈められていった。
「爺様にぐちぐち言われるだろうな……」
「ま、頑張ってください」
前方に大船団が向かってくる姿を見て、嘉隆は口を緩めていた。
「何笑ってるんですか、明らかにこちらの数倍いますぞ」
「良いじゃねぇか、外れても敵に弾があたるだろう。乗り込めば、斬る相手には困らんだろう」
「その前に、こちらがやられますぜ」
「船数はこちらが完全に負けているが、大砲の性能はこちらが上だ」
「地上の戦も、海の戦も数で決まりませんぜ」
「それにこちらの方が早く動ける、貞隆とで搔きまわせば、守隆や隆季らが来るだろうよ」
「まあ、そうですが、貞隆様はどう動くので」
「俺たちが突撃して、その後ろについてくる。動きは奴に任せてる」
嘉隆の言葉に深いため息をついて、肩をすくめた。




