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第十四話 大切な一時とシオンの覚悟


「ちょっと座って休憩しようかな」


 長い距離を歩いてきたので、少し休憩をしようと思った華奈は、できるだけ人がこなさそうな場所を探しました。見つけたのは、公園の入り口。そこには大きな木があり、その木陰には花壇がありました。


「きれいなパンジーがたくさん!」


 ここならパンジーの花と葉の影もあるし、横には背の低い木の茂みもあって、何かあったらそこにも隠れることができそう。そう華奈は思いました。

 周りを確認しながら、華奈はシオンを筆箱から外に出してあげました。そして小さな声で話しかけます。


「大丈夫? 今日もだいぶ暑いから、中にいて苦しかったらすぐ教えてね?」

「おぅ、ありがとうな! でも、もう少ししたら、余裕ができそうだ。そうしたら姿を見えなくする力も使えるから、こうやってコソコソしないですむぞ!」


 そうシオンは言いました。けれど、少しでも早く課題をクリアさせてあげたいと思っている華奈は言います。


「コソコソでも良いじゃない? その分早く、力が貯まるのなら」


 小さなあなたと一緒にいるのも私は幸せだし、と心の中でこっそり付け加えながら。

 すると、シオンは何故か頬をふくらませ、不満そうな顔をしています。やっぱり、自分の目で色んなものが見たいのでしょう。


 見せてはあげたいけれど、姿が見えなくなることが悲しいな、と華奈はシオンを見て思いました。そしてふと、力がだいぶ貯まったというペンダントを見ます。その輝きはずいぶんと増しているように見えました。


「シオン、ペンダントを持って見てもいい?」

「あぁ!」


 手に取って、空に向けてかざしてみると、虹色に輝く欠片の数がずいぶんと増えているのがわかりました。


「もしかしてこの虹色のものが、集まった力?」


 虹色の欠片が増えたからか、シオンが力を使っているわけではないのに、ペンダントは淡く光っているように見えます。そして、見ているだけなのに、なぜだか華奈の心はだんだんと温かくなってきました。


「そうだ。キレイだろ?」

「うん……すごくキレイ…………」


 嬉しそうに言うシオンに、華奈は素直に答えます。

 手のひらの上で輝いて見えるペンダント。華奈はそれを、しばらく柔らかい笑顔で見つめていました。


 するとその時、公園の中の方から小さな子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきました。見ると、小学校に上がる前くらいの小さな子供たちが、ボールで遊びながらこちらへやってきます。


「あの子たちが離れていくまで、ここで休憩していこうか」

「そうだな、花もキレイで気持ちいいし、ちょうど木陰で涼しいし、な」


 華奈の言葉にシオンは同意しました。


「見つかりそうになったら、ほら、こうやって隠れればいいだろう?」


 そう言って、並ぶパンジーの葉の影に、潜り込んでみせました。ですが、葉のすき間から、シオンの美しい金色の髪がのぞいています。


「ふふふっ、隠れきれてないよ、キレイな髪がのぞいているよ!」


 風でそよそよと、流れるように輝いている髪を見て、華奈は幸せそうに笑って言いました。


 シオンの力は早く戻って欲しいけれど、もっとシオンと一緒にいたい。このままゆっくりと時間が流れたらいいのに……。そう思ってしまう気持ちをおさえながら、華奈はペンダントを筆箱に戻そうとします。


 その時です、突然ボールが道路の方へと転がっていきました。ふと目で追うと、信号は赤で、向こうからトラックが近づいてきています。


「あぁん、ボールぅー!」


 そこへなんと、男の子がボールを追いかけて、道路に飛び出してしまいました。


「君! 危ない!」


 すかさず華奈が、男の子を助けようとかけよります。


「──華奈‼︎」


 走って行く華奈を見たシオンには、まるでスローモーションのようにその様子が見えていました。

 そして全身が、心臓までもが冷たく凍るような感覚におそわれます。


 このままでは華奈も男の子も、トラックに跳ねられてしまう、と──


「力全部使ってもいい! 俺自身が消えたってかまわない! だから──」


 そう叫んだシオンは、力を使って元の大きさに戻りました。そして、空間を移動してトラックがぶつかる直前に、華奈と男の子を抱きしめて、横断歩道の反対側、安全な歩道の真ん中へと飛びました。


 トラックは、急ブレーキをかけ、横断歩道を少し過ぎた所で止まりました。悲痛な叫び声を上げた親たちが駆け寄ろうと走り出したその瞬間、天から光が降り注ぎ、辺り一帯を包みます。すると不思議なことに、叫び声も、鳥の鳴き声も、風の音さえもが聞こえなくなりました。


「華奈……大丈夫か……?」


 しゃがみ込んだ状態で華奈と小さな少年を抱えたまま、シオンが肩で息をしながら聞きました。


「……し……シオン……」


 シオンの腕の中で、華奈は小さな男の子を抱きしめたまま震えていました。トラックにひかれたと思っていたからです。


 華奈が大丈夫そうだとわかったシオンは、抱きしめる力をゆるめて、華奈の顔が見えるくらいに離れて言いました。


「なんで……こんな危ないことしたんだ!」

「ご……ごめんなさい……!」


 恐怖で青ざめていた華奈の顔に赤みがさし、その頬には涙が流れてきました。


「助けてくれてありがとう……」


 その時「ん……」という声が聞こえて、華奈は抱きしめていた男の子のことを思いだしました。


「その子も無事みたいだな、気は失ってるけど」


 男の子からはスゥスゥという寝息が聞こえてきます。


 腰が抜けてしまって立てない様子の華奈の代わりに、シオンはその少年を歩道横にあるベンチに寝かせました。そして座り込んでいる華奈に手を差し出します。


「立てそうか?」

「うん、なんとか……ありがとう」


 華奈はシオンの手を取り、なんとか立ち上がりました。


「ところで、大きくなったままで、力は……大丈夫? 私を助けたことで、また減っちゃったんじゃない……?」


 頑張って良いことをして力をためてきていたのに、華奈を助けるためにシオンは力を使ってくれました。それは、決して簡単なことではなく、きっと沢山の力を使ってしまっただろうと華奈は心配しました。


「それは……」


 シオンは不思議そうな顔をしながら自分の両手を握ったり開いたりして、何かを確認します。ですが、シオン自身にも何がどうなっているのかわかりませんでした。

 空間を飛ぶのに、しかも二人を連れての移動で、とても沢山の力を使ったはずなのに。小さくなるどころか、コレまでよりも、ずっと強いエネルギーを自分の中に感じていました。


「俺にもよくわからないんだ……」


 その時のことです。華奈が手に持っていたペンダントからパキンという音が――――


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