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第十一話 誰かのためを思って、行動するということ

 翌朝、雨音で目を覚ました華奈は、眠たそうに目をこすりながら起き上がりました。ふとシオンが寝ているはずの人形用ベッドの方を見ると、三十センチくらいになったシオンがベッドから転がり落ちて眠っています。


「シオン、起きて! 大きくなってるよ!」


 小声だけれど、興奮気味な華奈の声が届いたようで、シオンも目をこすりながら起き上がりました。そして周りを見たり、華奈を見つめたりして自分の大きさを確認すると、うれしそうに言います。


「昨日の出来事で、結構力が戻ったみたいだな」


 それでもまだ三十センチ。華奈と同じくらいの身長だというシオンが元の大きさにに戻るには、まだあと八十センチ分くらいの『良い行い』をしなければならないということになります。


「『良い行い』って、ものすごく大変なのね……」


 昨日のできごとを思い出しながらつぶやいた華奈に、シオンは言います。


「当然だ。だからこそ、それができる者はすごいし、俺の力にもなるんだ」

「私は……逆にエネルギーをたくさん使って、疲れた気がするわ……」


 華奈は苦笑しました。


「人間には……そういうものなのかもな。だけど、悪くはなかったろ?」

「……そうね……」


 うたがっていた子、うたがわれていた子、なかなか言い出せずにいた子。みんなが帰る時の表情を思い出して、華奈はじんわりと心が温かくなるのを感じます。


 ふと机の上を見ると、昨日絢音からもらったウサギの消しゴムが華奈の目に入りました。

 シオンがいたから勇気を出して声を上げることができたのに。自分だけの力で出来たことじゃないのに。こんなかわいい物をもらってしまってはいけない気がして、華奈は少し考えました。


「あ、そうだ」


そう言って華奈は、机の上に並べてある半透明のケースから、ある物を取り出します。そして、学校に持っていく筆箱に入れると、それをカバンにしまいました。


 登校した華奈は、授業が始まる前に絢音の所へ行きました。そして、自分の大切なコレクションの中から持ってきた、シールのようになっているラインストーンを一粒差し出します。


「おはよう絢音ちゃん、これあげる。昨日のウサギのお礼よ」


 すると絢音は、驚いた顔をして手を出し、受け取りました。


「多分好きな色だと思うんだけど……」

「あ、ありがとう」


 よかった。当たっていたみたい。華奈は、彩音の顔をみてそう思いました。


「それなら好きなところにつけることができるし、筆箱の内側にも貼れるよ。一個だけじゃ物足りないかもしれないけど……」


 それは、先生の言う事を守りながら、絢音の気持ちも少しは明るくなれるかもしれない。そう華奈が思いついた方法でした。気に入ってくれるかな、とドキドキしながら華奈は絢音の様子をうかがいます。


「へぇ……こういうのがあるんだ……!」


 手に乗せられたそれを、まじまじと見つめながら絢音は言いました。


「ねぇ、どうして私がこの色を好きだってわかったの?」


 そのラインストーンは深い青色で、キラキラと輝いています。


「え、だって、鏡のラインストーンも青が一番綺麗だったから……」


 華奈は鏡を思い出しながら言いました。


「……よく気づいたわね」


 絢音は、一瞬驚いた顔で華奈を見ます。そして再びラインストーンをじっと見つめて言いました。


「ありがとう、大事にするわ」



 その日は、朝からずっと雨が降り続けていました。そのせいで校舎から外に出る生徒はほとんどいません。短い十分の休み時間中は、どこに行っても誰かがいて、華奈は一人になれる場所を見つけることができませんでした。


 お昼休みも同じで、教室も図書室も人がいっぱいです。華奈は心の中でシオンに話しかけ続けていました。


『シオン、ごめん……人のいない場所が全然見つからないの……』

『そういう日もあるさ……気にするな!』

『もうちょっと探してみる……!』


 華奈はスケッチブックと筆箱をかかえ、校舎の端から端まで、急ぎ足で人のいない場所を探しました。けれども見つからず、体育館の方まで行ってみると、そこではサッカーやバスケットを遊んでいる子達が沢山いました。


「やっぱりここも人でいっぱい……」


 体育館の中を入り口からのぞいた華奈はつぶやきます。舞台の袖なら一人になれるかもしれませんが、様々な機材の置かれたそこは、入ることを禁じられています。


「どうしよう……」


 少しながめて考えた後、華奈は教室の方へ戻ることにしました。くるりと振り向き校舎の方を見ると、絢音たち、グループの子たちが、わたり廊下を体育館の方に向かってきています。華奈は、笑顔で手を振りながら話しかけました。


「絢音ちゃんたち! 体育館で遊ぶの?」


 絢音が華奈をじっと見つめ、手を軽く振ってから言います。


「少しでも人の少ない所を探しているだけよ。教室も他の所も人が多いし雨のせいでジメジメしているし」


 その様子を見ていたグループの子たちが、絢音の頭をグリグリとなで回したり、背中をポンポンと叩いたりしています。絢音は「やめてよ、もう」といいながらも、本気で嫌がってはいないようでした。そして、


「華奈さんは?」


 と、聞いてきます。そんな彼女たちの様子を、なぜだかうれしい気持ちで華奈は見ていました。そして、私もよ、と答えようとしたその時──


「──‼──」


 華奈の後ろ、体育館の中からバスケットボールが飛んできて、なんと華奈の背中に当たってしまいました。

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