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【完結】転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜  作者: 木風


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第22話「娘の幸福と、国の安寧と」

「……動かないね」

「だね……」


公務を終え、リエルの部屋に戻るなり……


「エド!お腹!!触ってみて!」


いきなり腕を引っ張られ、半ば強引にリエルのお腹へと手を当てさせられる。


「あれ~?昼間は確かに動いたのにな~」

「きっと居心地が良くて、寝ているんだろうね」


そう言って笑うけれど、どこか残念そうな顔。

それでも、悪阻が終わったらしいというのは、侍女からの報告で知っていた。

久しぶりにベッドから出て、頬に血色を戻し、軽口を叩くリエルを見て、胸の奥で張り詰めていたものがふっと緩む。

匂いに苦しみ、まともに食事も摂れず、ベッドに伏せていた彼女を見てきた。

あの時間は、なぜ自分が変わってやれないのかと無力さを突きつけられるばかりだった。


その笑顔が嬉しいほど、胸の奥の棘が痛んだ。


だからこそ、今なら……話さねばならないことがある。


「リエル。謝らなければならないことがあるんだ」

「?え!?お前何したんだよ?」


思わず眉をひそめるリエル。

あの時の会話が、胸に蘇る。


『結婚を早めれば……セシルを助けられるの?』

『……結果的には、そうなる』


あの答えは、真実をすべて告げた言葉ではなかった。

不確定な要素が多すぎて、『結果的に』という曖昧な言葉でごまかしたのだ。


同君連合(パーソナルユニオン)……帝国とアストリア、二つの王家の血筋が、一人の子へと収束する未来。

それは国の独立を揺るがす最悪の事態だった。


もしセシルが帝国皇女との間に子を成せば、その子は両国の正統な継承権を持つことになる。

結婚を早めただけでは、その可能性を潰せない。


セシルを守るには、結婚を早めるだけでは足りなかった。


ユリオスが提案してきたのは婚姻の前倒し。

それともう一つ……


「アリエルの懐妊です」

「なっ……!」

「それによって、アストリア王国の王位継承権は、アリエルと殿下の子が上位にきます」

「ダメだ。アリエルを政治の道具にするなど論外だ」


ユリオスが身を乗り出す。

その表情は、先ほどまでの外交官としての表情ではなく、俺とアリエルの身を案じているのがわかる。


「エドガー。俺はアリエルの兄であり、お前のことも友だと思っている」


そんなのは俺もだ。

同じ学び舎で寝食を共にし、時には喧嘩すらした。

リエルの三人の兄たちは、俺が名で呼ぶのを許す数少ない友人であり、コンラートと同じくらい、信頼しているつもりだ。

特にユリオスは外交官となった今も、俺の助けになろうとしてくれている。


「外交官として、これ以外に穏便に国を守る手段は無いと断言する」

「しかし!もし授からなかったら!!!アリエルを苦しめるだけではないか!!」

「お前がアリエルを王太子妃にすると決めた時点で、アリエルは既に巻き込まれているのを自覚しろ!!」


そのとき、制止するように、クローバー公爵閣下の低い声が割って入る。


「まだ、二国の王冠が一つに収束する筋書きが定まったわけではあるまい」


馬車の中の空気が一瞬にして引き締まる。


「殿下。まず娘の身を案じてくださるお気持ちには、父として深く感謝いたします。

ですが、覚えておかねばなりません。王は家族だけのものではなく、国民と同盟と歴史を背負う存在です」


その声音は叱責でもなく、しかし揺るぎない重さを帯びていた。


同君連合(パーソナルユニオン)の危険は確かに現実のもの。

しかし感情に任せて突き進めば、多くの命を巻き込むことになる。

殿下は何を優先なさるのですか。

娘の幸福か、国の安寧か、あるいは、その両方を同時に守る覚悟を持たれるのか」


問いかけは鋭く、返答を迫るものだった。


「……公爵閣下、声を荒げてすまない」


ユリオスの言葉が胸の奥に刺さったまま、視線が揺れる。

もし、帝国皇女とセシルの子が生まれたなら。


その子は、両国の王冠を受け継ぐ『架け橋』として担ぎ上げられるだろう。

俺とリエルの子が後に産まれたとしても、帝国の後ろ盾を持つ弟の子に政争の中で継承権さえ覆される。


その瞬間、俺は『余所者』になる。

王太子であっても、廃される口実には十分だ。


……そしてリエルも。

『帝国の皇女の方が外交に有利』と囁かれ、孤立させられる。

彼女の手を取ったはずが、逆に奈落へと引きずり込んでしまうのか。

最悪、俺とリエル、そしてのちに生まれるであろう子まで政争の波に飲まれて消える。

国を守るための婚姻が、国を滅ぼす火種になるなど……。


正統は守れても、政治は守れない——だから先に『旗』が要る。


国民と同盟と歴史を背負う存在……この場で、その覚悟を持ててないのは自分だったのかもしれない。


「ユリオスも……先ほどはすまない」

「俺のことは気にするな。お前はアリエルのことだけを考えてくれ」


リエルのことだけ……か。

ユリオスは最初からわかっていたんだな。

リエルのことを優先することが、結果的にリエルだけではなく、国の利益になると。

その光景はまだ未来にすぎないはずなのに、背筋を冷たく撫でる現実味を帯びて迫ってきた。


ユリオスとクローバー公爵閣下の見立てでは、セシルの婚約内定までは一年はかかるだろう。

その前に、俺とリエルの立場を盤石にすれば、セシルを利用する余地を削げるはずだ。

セシルと帝国皇女が結婚したとて、セシルはまだ十二歳。


婚姻を早めることで、懐妊までの時間はこちらに分があることになる。


本当なら結婚を早めた時点で、セシルと帝国皇女との婚約を諦めていてくれるのが一番だった。

しかし、婚約内定が強行されてしまい、同君連合(パーソナルユニオン)を防げる方法は、リエルの懐妊ただ一つになってしまった。


アストリアの正統な後継者がリエルとの間に生まれれば、継承権がセシルの子へ流れることはない。


けれど、それは『授かりもの』だ。

人の意志で確実に得られるものではない。

もし望みが叶わなければ、リエルを追い詰めることになる。

だから口にはできなかった。

ブックマーク、☆☆☆☆☆、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ


※本作には、この物語の前段階にあたるお話しがあります。

ご興味のある方はそちらもご覧いただけると嬉しいです。

https://book1.adouzi.eu.org/s6427j/

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