第1話「逃げ道のない王宮のサロンへ」④
……コン、コン、コン。
静かなサロンに、やけに早口なノックが響く。
「どうぞ」
扉が開くと同時に、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「母上!」
形式上の礼を取りながらも、その視線は王妃であるわたくしにではなく、まっすぐ目の前の少女に。
その目が驚きと安堵で揺れることに、驚いてしまう。
普段は冷静沈着、王太子の仮面を決して外さない、そのように教育したし、実際そのように成長した我が子が公務を放ってやってくるなんて……。
「……やはりここに」
「あら、もうばれちゃったのね」
最初に見せた動揺を隠すようにまっすぐこちらへ歩み寄ってくる。
「アリエル、大丈夫か?」
「え……うん。別に心配されるようなことは」
心配そうに目の前に座る少女の肩に手を添える姿。
その視線は、わたくしなど眼中にないかのように真剣。
「もう、邪魔をして。告げ口したのはコンラートかしら?」
「……彼は優秀な側近ですからね」
この表情は、一刻も早くこの場からアリエル嬢を連れ出したいのかしら。
どんな令嬢を候補に挙げても見せなかった顔。
けれど、彼が追い求め続けた少女を前にすると、こんなにも余裕を失うなんて。
「それで?何かあったのかしら?」
「……そろそろ、アリエルをお返しいただけませんか」
「あら。アリエル嬢は、わたくしの娘でもあるのではなくて?」
からかうような響きに、我が子の表情がますます曇る。
母としてはつい茶化したくなるけれど、王太子としてでなく『一人の青年』としての顔を見せてくれたことが、少し嬉しくもあり、寂しくもあった。
「仕方ないわね……また、いらしてね、アリエル嬢」
「ありがとうございます」
立ち上がり、手を取り合う若い二人。
その微笑ましい姿は、母として今日一番見たかった光景だった。
二人の背を見送りながら、胸の奥がほんのり熱くなるのを感じた。
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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ
※本作には、この物語の前段階にあたるお話しがあります。
ご興味のある方はそちらもご覧いただけると嬉しいです。
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