第17話「神殿の静寂がくれたひとつの答え」②
「ずっとこの庭園を歩いてみたかったの!」
数えきれないほど歩いてきたはずの庭園。
けれど、陽光に照らされたリエルの横顔は花々よりも眩しく、今までのどの景色とも違って見えた。
何度ここで、彼女と手を繋ぎ歩く未来を夢見ただろう。
中央の噴水には虹がかかり、風に舞う花びらがリエルの髪にひらりと落ちる。
「気に入ったなら、昼食はここで摂ろうか?」
「そんなことできるの!?」
「あそこのガゼボに準備させよう」
頬を撫でる風に目を細め、陽の光を反射して靡く髪。
その一つ一つが愛おしく、目を離せない。
「本当に……キレイ!」
初めてこの庭園で出会った日のリエルを思い出す。
あの時こそが最も美しい光景だと思っていたのに、今日の彼女が軽々と記憶を塗り替えていく。
小さな屋根の下、白布を掛けたテーブルには彩り豊かな料理が並んでいた。
新鮮なサラダ、焼きたてのパン、香り高いスープ。
ケーキスタンドには果物やタルトが宝石のように盛りつけられている。
「どれから食べようかな……」
迷うように伸ばされた細い指先。
その薬指に光る揃いの指輪を見た瞬間、思わず手を取ってしまいたくなる衝動が湧いた。
どれを口にしても、美味しそうに笑うリエルと一緒に食べる食事は、本当に楽しい。
『結婚したらさ。なるべく食事は一緒に摂ろうよ』
彼女の申し出は、願ってもない言葉だった。
普段の食事は公務の合間に胃へ流し込むだけ。そこに意味を見出したことなどなかった。
きっと、リエルがいなかったからだ。
「私ばっかり見てないで、ちゃんと食べなって」
たしなめられ、思わず彼女の手を掴み、食べかけのタルトをそのまま口に運ぶ。
そして甘さを含んだ指先を、唇でそっとなぞった。
「……ちょっ……」
「甘いな」
頬を染めるリエルの瞳。
どんな果実よりも美味しそうな唇に引き寄せられ、自然に重ねてしまう。
絡めた腕はいつの間にか指を絡ませ、味わうように、舐めるように、何度も唇を重ねていた。
……王宮の図書館に足を踏み入れた瞬間、思わず息をのむ。
両脇に延々と続く二階建ての書架。白と金の装飾に縁取られ、革表紙の本がぎっしりと収められている。
まるで彼女を歓迎するかのように、静かに並ぶ書物たち。
「すご……!公爵邸の図書館もすごかったけど。ここ、別格すぎない!?」
天井いっぱいに描かれた鮮やかな壁画。きらめくシャンデリア。
整然と並ぶ年代記や学術書。荘厳さが空気ごと押し寄せる。
「王宮が誇る知の殿堂だ。ほとんどの学問や魔導の記録が収められている」
「そういうのもいいんだけどさ。私どうせ魔法使えないし……」
低い棚を覗き込みながら首を傾げる。
「うーん。もっとこう……冒険譚とか、騎士と姫の恋物語とか!そういう俗っぽいのないの!?」
「あぁ、君がいつも街の本屋で買うような物語のことか」
エドが笑いながら手を取って奥の書架へ導いた。
そこには戦記や魔導書に混じって、場違いなほど軽やかな装丁の冊子が押し込まれていた。
「……えっ」
派手な挿絵に煌めくタイトル。
『無職貴族~働いたら負けだと思っている~』
『中二病でも聖女になりたい!』
『あの日見た草の名前を私達はまだ知らない。』
「これ!こういうの!!」
ぱらぱらとめくりながら思わず歓声を上げてしまう。
誰からも読まれないせいか、埃をかぶっていた冊子たちが急に宝物のように見えてくる。
「……本当に好きなんだな」
「だって読んでると胸がきゅーってなるし、知らない世界に連れてってくれるんだよ!?こういうのこそ物語の醍醐味でしょ!」
両手いっぱいに本を抱え、夢中で熱弁するリエル。
脚立に腰かけてぱらぱらと本を捲る姿は、子どものように無邪気だった。
「リエル。君にはこれが似合う気がする」
エドが差し出したのは、革表紙に花の金箔が押された一冊。
『私の幸せな婚約』……王家の書庫にしては珍しい、甘やかで情熱的な恋愛譚だ。
「……わ、これ……」
装丁は少し擦れているのに、不思議と温もりを感じる。
「このヒーローに負ける気はしないけどね」
「ぷっ……!あははは!!確かに、エドの方が格好いいかも」
見上げた瞬間、本棚に肘をついたエドの顔が近づき、軽く唇が触れる。
視線が絡み合い、二人で笑いをこらえきれず吹き出してしまった。
「しっ……!」
慌てて人差し指を口に当てる。
けれど、物語の王子に張り合うエドの姿が可笑しくて、笑いが止まらない。
そのまま笑いをごまかすように、そっともう一度だけ唇を重ねた。
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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ
※本作には、この物語の前段階にあたるお話しがあります。
ご興味のある方はそちらもご覧いただけると嬉しいです。
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